俺たちの冒険の書No.001〜ロトの血を引きし者〜   作:アドライデ

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No.07:妖精の笛。

 

「そうだ、私が作った」

 湖の町リムルダール、古来より湖の島に町を設けることで、外敵から身を守ったと言われている町。

そこの宿屋の特別室に住んでいるのは、よしりーん、妖精の笛のありかを教えてくれた老人。

「あのゴーレムは人が作り出したのか?」

「そう、あの竜王よりはるか前にもこの世界は脅威に晒されておった。勇者によって倒されたが、その時、力持たぬ人間は魔法の力でそれに対抗する手段を模索していた結果があのゴーレム」

 この人は要塞都市メルキドの元研究者だったと言う。ゴーレムは完成することなく再び竜王の脅威に晒されてしまい、焦って不完全なまま起動し、制御不能の殺戮兵ができてしまった。

「不完全なもの程、脅威なものはない。この眠りを誘うこの笛は、魔力の供給を一時的に止める作用があった。しかし、ゴーレムを完全に制御するすべではない」

 唯一の対抗手段である妖精の笛は、長年入り口で暴走を続ける失敗作(ゴーレム)の対応を麻痺させる。町を襲わないゴーレムは安全と誤認して、心のゆとりを生むのに十分だったのだろう。そして、直そうと躍起になってた人々も研究に興味を失い散りじりになった。

「だから、俺が倒しても町の人は無関心だったのか」

「恐らくは面倒ごとが一つ減った程度の認識だろう」

 『勇者』によって倒されたことにより、町の人は対抗心を燃やすのを諦めることにも繋がったと言える。そのことに少し複雑な気持ちになった。

 

「貴方は勇者ロトをご存知か?」

「知らん。口伝にのみ知る存在。ゴーレムの製作を引き継いだときに『世界が再び恐怖に陥ることを予期していた』とも言われている」

 だからこそ、世代を超えて長年ゴーレムの研究に明け暮れた。今目の前にいる老人はその成れの果てとも言えるだろう。

 

「一人の壮絶な人生を垣間見たような気分だ」

 空気に飲み込まれたため、外に出たとき思わず溜息が出た。

「誰も彼もまた、竜王という脅威に振り回されていたのでしょう」

 凛と前を向き、その現状を受け止める姿は王女として、相応しいものなのかもしれない。

「そのお孫さんは彼女とすれ違いつつ、デートに勤しんでるみたいですよ」

 毎回、待ち合わせ場所を町の角にしている理由は不明だが、今回は以前見た位置と互いに逆だったので、この二人はある意味、気があっているのだろうと思う。

「まぁ!」

 少し頬を赤く染めたローラ姫は、自分たちも負けていないというように己の腕に手を回した。勿論、歩きにくかろうが拒否権はない。

 

「ここに居たのか」

「おぉ! 久し振りだなー!」

 リムルダールの宿屋にいなかった戦士は、相変わらず、元気がいい。

「ここで何を?」

 なぜか魔法の鍵屋で粘っている。

「お前のお陰で、魔物の数が減っただろ? 宿代が稼げなくなってきたから、ここのじーさんに弟子入りして、鍵の研究しようと思ってな!」

 奥で『認めておらん』という声を聞きつつ、やはりこの男はヘタレだが逞しいなと思う。

 

「ロトか。この鍵はロトが持っていた物の模造品と聞く。元は半永久的に使えたそうだ」

 消耗品のおかげで儲けさせてもらっていると薄ら寒くなる笑みを浮かべた。それでもここの値段が一番良心的だったことは記憶に新しい。

「よくは知らん。ロトは我々が用いない技術を持っており、その存在は異質だったそうだ」

「俺はその鍵を復活させることを人生の使命にするつもりだぜ!」

 叶うといいなと心の中で思う。声に出すと長くなりそうな予感がしたから。

 

 No.07、研究の成果。


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