俺たちの冒険の書No.001〜ロトの血を引きし者〜   作:アドライデ

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No.05:ロトの印。

 

「そうですか、祖父は今までずっと伝説の鎧を守り続けていたのですね」

 要塞都市メルギドの南西の隅にゆきのふの孫にあたる人が住んでいる家がある。

「私の親はやっとの思いでここまで逃れて来たそうです。幸い店は儲かっていて蓄えもあったので、私は楽な生活をしてますけどね」

 事後ではあるが報告がてら、ゆきのふの孫に話をすると、既に防具には興味なく、今の生活を満喫していた。無断拝借を追求されずに済んだのは有難い。

「私はよく覚えていないのです。物心付いたときにはここに移り住んでましたので」

 いつの時期に襲われたのか素朴な疑問が湧いて質問したが正確な解答は得られなかった。全て後から聞いた話だという。

「竜王はそんな前から動いていたのか」

 確かに言われてみれば、己自身も王に呼ばれるまで竜王の存在を認識していなかった。ただ生態系の狂いは無意識のうちに小さな違和感として気にしていた。最も実際に戦っていたわけではないので、大人の話の受け売りでしかなかったが。

「正確なのは分かりませんが、竜王は長年父を苦しめておりましたわ。動かぬ不気味さがあったとか」

 ローラが捕捉した言葉に竜王は何を求めていたのか、新たな疑問が浮かんだ。唯の悪の根源と思っていたのだが果たして、その真相は…。

 

「ロトの印がなんなのか知っておるか?」

 答えの出ない疑問は置いておいて、メルキドにはもう一人訪ねたい人がいた。ロトの印の管理者である。

彼曰く、自分は使うことは無理だが、人を見定めて、印を託す役目を負っているとのこと。

「使う? これは何かに使えるのか?」

 毒沼に放置するようにおいてあったそれが、虹の雫をくれる老人(おそらく賢者の一人)への証明書という意味だけだと思っていた。

「ロトの装備を主に定着させるものよ。その印を扱える事こそ、お主がロトの血を引きしものの証明。そして…」

 老人は咳払いをして、一旦間を置く。

「残りの装備の道標になるじゃろう」

 ちょっと待て、軽く衝撃的なことを言われた気がする。逸る気持ちを宥めて細かく聞く。

現在、己が持っているものは印の他に鎧と剣である。更に兜と盾がこの世界のどこかにあるという。

「これだけではなかったのか」

 しかし、このアレフガルドは隅々まで探索したはずである。と言うことは外の世界、海を越えた別の大陸にそれは存在しているということか。

手に持った何気ない印を回転させて、想定外の役割を持つ不思議なメダルを眺める。もう脅威がいなくなった今、無理に集める必要はないだろうが、まだ見ぬ残された装備に心が揺らぐ。

 

「まさかの新事実ですわね」

 道すがら、先程攻撃から身を守る際に使用した左手に持つ水鏡の盾を見つめていると、姫はそう答えた。

確かにロトの鎧とその剣は青色で統一されており、金の鳥を象った紋章がその鎧が間違いなくロトの装備であることを物語っていた。

対する水鏡の盾は装飾が綺麗に施されているが、主の色は水色で、装飾は銀縁であり、言われてみると少し統一感がないとも言える。

実際は性能重視であったため、特に気にはしていなかったが。

「勇者ロトはもしかして、見栄っ張りだったのだろうか?」

 その考えに行き着いたとき、ローラが再びクスクスと笑う。

「疑問解決のとっかかりが得られましたわね」

「成る程、アレフガルドから姿を消した勇者ロトは外の世界つまり、海を越えたと言うことか」

 己の知らない場所がまだあると言うことを知らされた気がする。

『空から舞い降りた』と言われているがもしかしたら、比喩か、それらしく物語調に語り継がれてしまっていたのかもしれない。

「年月に風化は避けられないか」

「それは人の定めかもしれませんわ」

 つい考えを整理するために出た独り言が全て拾われたことに今更ハッとなる。

同行者がいることは戦闘になれば直ぐに認識できたが、一人旅が長いあまり、ついその相手と談笑することを忘れてしまう。

「姫、すみません。考えに耽っておりました」

「ローラはそんなアレフ様も素敵だと思いますわ」

「あ、はい」

 にこやかに笑顔で返されるとどうにも話が続かなくなってしまう。

真っ直ぐ見つめられては視線を合わすのが気まずく感じる。難しいものだ。

 

 No.5、沈黙の微笑。


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