俺たちの冒険の書No.001〜ロトの血を引きし者〜   作:アドライデ

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No.04:ロトの鎧。

 

「ここがドムドーラの町」

 姫は無残に廃墟となっている町に呆然と佇む。強い魔物の闊歩は既にもう無いが、荒れ果てた家々は、何も手を加えられずに放置されている。

平和になったから再びこの町を復活させようと言う気力は、もう無いのだろう。

 

「あれは…」

 人…いやまさか。輪郭がハッキリしない人型のそれは既にこの世のものとは思えない。己の目で見えるとは…。なんとも言えない複雑な思いがする。

「おや? あなたには私の姿が見えるようですね。私の名はガライ。嘗てこの地を旅していた吟遊詩人です」

 ゆっくりとこちらを向き直り、にっこりと微笑む。その表情は周りに安らぎを与えているように感じた。

預かった銀の竪琴がガライの元へ行きたいと反応する。それにガライが対応しスッと手を差し出す。竪琴を渡すと宙に浮いた竪琴が光り輝きガライと同化する。

ポロンと鳴る音。そして語るように呟く。

「嘗て、ここドムドーラも、それはそれは賑やかな町でした。ほら、こうして目を閉じると、あの頃の情景が浮かび上がってきました」

 歌うように語る。彼にはその情景が目に浮かんでいるのだろう。残念ながら実質の世界では見ることは叶わない。しかし、奏でられるメロディがその頃の賑やかであっただろう想像を掻き立てる。

「人はなぜ疑うのでしょう。人はなぜ大切なものを守れないのでしょう。なぜに平穏は奪われるのでしょう」

 ここにあったのはロトの鎧だ。

「魔物にとって脅威の防具がそこにあったからではないか?」

「琴に選ばれたばかりに私は魔物の子として追い出された。その気持ちはわからないでもない」

 彼は静かに自分の生い立ちを語る。歌が好きだった少年は禁断の竪琴に触れてしまう。その後、呪われたかのように琴に魅了され、幾度と魔物に襲われる。人々の不信の視線に耐えかねて町を飛び出し、新たな町を作ろうとも、琴はガライを惹きつける。死してもなお、御霊は解放されていない。

「偉大な力は恐怖を生む。人々の不安を呼び起こす。あの時はそれが必要だった。しかしその強さは封印せねばなりません」

 人が人として生活して行くために…人が人以上の強さなんて、平和な世の中にはいらない。

歌うガライの言葉の裏にある人物が思い浮かんだ。

「ガライお前は勇者ロトを知っているのか?」

 優しい笑みを浮かべたガライは、ポロンとのどかな町のメロディを残して空気へと溶け込んだ。

 

「………」

「アレフ様ここに何があったのですか?」

 答えが得られぬままに消えた場所を見つめる。そして、その延長にある建物の隙間から見える木に視線を移す。

「確かなことはないです。俺が知っているのはゆきのふと言う男がこのロトの鎧をドムドーラが襲われるまで、所持していたということだけです」

 見つけた場所、当時の武器と防具の店の裏手にある木まで歩む。立派な木は今もなお平然と立っていた。

ガシャンと音がして、振り返ると【あくまのきし】が襲い来る。姫を即座に後ろに囲い、振り下ろされる斧を盾で防ぐ。執念の意思か、他の【あくまのきし】より重い一撃が来る。

来るなら倒すまでと剣を構えた。

 

「もう大丈夫です。渡るべき人の手に渡っていますわ。ローラの愛する勇者様に…」

 背後から有無を言わせない口調でローラがゆっくりとそう告げると光が【あくまのきし】の鎧を貫き、そして動かなくなった。

「今のは…」

「ゆきのふの信念でしょう。恐らく『ロトの鎧を後世まで残す』と言う使命を、全うするために魔物となってしまったのですわ」

 想定していた問いの答えでは無かった。直ぐに姫の意図している答えに思考を切り替える。

既に取られていると気付かずにその場を守り続けていたというのだろうか。倒すだけ倒して、持ち主の想いを考えて来なかった己を恥じた。

「せめて安らかな眠りを…」

「もう竜王の残滓はありませんから大丈夫ですわ。それに今の持ち主が勇者アレフ様と分かってくださったようですので、今後はこのようなことは起こらないと思います」

 ニッコリと笑い断言する姫に少し背筋に冷たい汗が流れたのは内緒である。竜王は人を魔物化させることができる。もしかしたら、ゆきのふもまた魔物化され、人に鎧が渡らぬように仕組んでいたと言うことか。

結局、姫が何をしたのか分からず仕舞いだ。胸元に彼女が掲げたローラの愛がキラリと光り輝くだけである。

 

 No.4、破魔の呪文。


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