俺たちの冒険の書No.001〜ロトの血を引きし者〜 作:アドライデ
「ガライはなぜあそこに町を作ったのだろう」
当時の記録は残っていないらしい。初歩的な疑問が湧いた。
海沿いの町で他国との交流は取りやすいかもしれないが、山を隔てる為、南東にあるラダトーム城や北東にあるマイラの村とは交流がやや取りにくい場所である。
「音楽の町にしたいと、銀の竪琴に選ばれたときに移動したと言われていますわ」
己の疑問に素早く答えたのはゆっくりと優雅に歩むローラ姫である。歩きにくい引きづるようなロングドレスを避け、踝までの丈のスカートに、踵のあまり高くないブーツ、ティアラは外しており髪を緩く纏めている。
己としては普段のドレスよりマシだが、十分機能的でない服装だと思ってしまう。しかし、過去のように抱きかかえての旅ではなく、共に徒歩であるので十分進歩かもしれない。
いつもの三倍かけて、目的地のガライの町に到着した。
『銀の竪琴に選ばれた少年は、襲い来る魔物の恐怖から逃れるために町を築いた。彼の墓の奥深くに眠るそれは、彼の亡き後も未だに魔物を呼ぶ音色を奏で続けている』
これが竪琴に関する口伝である。
音楽の町だけあって、弾き語りが主な伝達でその内容は脚色もあり、真実が曖昧になっている。
「知っていることは、魔物を呼ぶ竪琴に魅入られたが故に、ドムドーラを追い出され理想を夢見てこの町を作った。今はもう娯楽で破滅へと向かう町よ」
ガライの墓入り口で番をしている老人は寂しそうに語る。人の醜さが露見した出来事。大陸の外れにある理由が悲しいものであった。
なぜか昔語りの町ガライに関わらず、ガライ本人の口伝は乏しく一番詳しいのが墓守の老人という。既に忘れ去られ行く存在。
「ガライの故郷は、嘗て商人の町と言われたドムドーラの町じゃったとか」
ドムドーラの町が襲われ後、魔王に恐怖したメルキドは守りを固め、この大陸の王は勇者を求めた。
「なぜドムドーラが襲われたかは分からぬ。もし寄ることがあれば彼奴にこの琴を返してやってくれぬか? ここにはもう必要がない」
死人に口なしだが、琴は未だに亡き主人を求める。ガライの魂はガライの墓ではなくドムドーラの町にいると言うのだろうか。
「…ガライは勇者ロトにあったことはありますか?」
語りの最後に尋ねる。
「触れてはおらなんだな。しかし生きた時代は同じはずだ」
伝説の勇者に会っていたら残っていそうだが、ないというのは接触がなかったと言えるのではないかと思う。しかし、この老人は明言を避けた。一応ガライの子孫は居るようだが、それを自慢することなくヒッソリと暮らしているらしい。
「そう選ばれし者は共通かもしれんな」
最後に言われた言葉が心に残った。
結局は全てが分かるわけでもなく、真実はとても曖昧なものになっているのだろう。
「夢から誘い、行く末待たずに、空を見る。人から人へと希望は渡り、夢を再び追い求める」
「それは?」
歌う姫に尋ねる。
「ここの人たちが歌っていた歌ですわ」
綺麗な歌だったので思わず口ずさんだと恥ずかしそうに返され、なぜかこちらまで恥ずかしくなった。
No.3、夢の語り部。