魔法騎士レイナース   作:たっち・みー

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#008

 act 8 

 

 上空から辺りを見回す。

 意外と広大な森が先ほどまで疾走していた沈黙の森だ。ハムスケに乗っていたとはいえ数時間で走破出来るような小さな範囲ではなかった事に驚いた。

 黒い仔山羊(ダーク・ヤング)の軌跡は遥か彼方(かなた)まで続いていた。だが、巨体は発見できなかった。

 村落らしきものは山と海と森の多い世界では見つけにくいようで、煙などは確認できなかった。

 上空から見るセフィーロは間違いなく自分の知らない世界だったことは確認出来た。

 地上に戻ろうとした時に水溜りが見えた。それはレイナース達の近くにあった。ただ、先ほどまでは岩ばかりで水気など無かった。

 疑問に思いつつ下がっていくとルプスレギナが水溜りを通り過ぎて行った。全く気付いていないような感じだった。

 地面に降りて水溜りを探そうとしたら何所にも無い。

 

「?」

 

 上空からは確認出来たのに地上に何も無いのはおかしい。

 

「ルプスレギナ。お前の近くに水溜りが見えたのだが……、気付かなかったか?」

「本当っすか? 周りには何も……。水の匂いも感じないっすね」

「上から見ると近くに確かに水溜りがあったのだがな……」

 

 イビルアイはルプスレギナの周りを調べていく。まだ現場からそれ程離れていないはずなので手がかりくらいは見つけたいと思っている。

 もう一度、空に浮きつつ確認する。下から覗いたり、上から地面を覗いたりしてみたが見つからない。だが、一定距離の高さになると見えてくるものがあった。

 それは確かに水溜りだ。

 この水溜りは他には無いようだった。

 

「たぶん、それが『エテルナの泉』でござろう」

「そうか。それで、この泉を見つけた後はどうすればいいんだ?」

「中に入るのではござらんか? 確か伝説の鉱物『エスクード』とやらがあるらしいでござる」

 

 曖昧な説明ばかりだが、他に目的が無いのも事実。

 空中にある妙な泉に入る、と言っても(はい)れるものなのか。ルプスレギナの身体を素通りしたはずなのだが。

 

「あれじゃないっかす。魔法的な泉で飛び込むと異空間に転移するという……」

「……そんなものが現実にあるのか?」

「あろうが無かろうが、入れって言うなら飛び込むしかないと思うっすよ」

 

 と、ルプスレギナが正論を言う。確かに他に方法や説明があるとも思えない。

 もう少し分かり易い説明が出来る者が欲しかった、とイビルアイは残念に思う。

 不毛な議論では埒が明かないと判断したルプスレギナが軽い動作で飛び上がり、頭から泉に飛び込んだ。するとボチャン、と水しぶきが上がり姿が消えた。

 

「……ハムスケ」

「はいでござる」

「入るのはいいが……、出られるのか?」

「さあ? それがしにはうかがい知れぬ事ゆえ……」

 

 暢気なハムスケに怒りが湧くが仕方が無い。

 珍妙な獣が何を考えているかなど分かりはしない。

 『エテルナの泉』に入り『エスクード』を手に入れる。とするならば入るしかない。

 というか、エスクードを手に入れた後はどうするのか。

 鉱物と言っていたので我々用の武器を作る為だと思われる。そして、それを作るのが創師ガガーランというわけだ。

 イビルアイはレイナースに顔を向けて軽く両手を広げて肩をすくめる。対するレイナースは苦笑した。

 

「イビルアイ殿。郷に入っては郷に従えといいます。他に目的も手段も無さそうですし」

「……知らない世界で無謀な挑戦はしたくないぞ……」

「それには同意します」

 

 軽く呼吸を整えた後『飛行(フライ)』を使い、レイナースを抱えてエテルナの泉と思われる水溜りに飛び込んだ。

 


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