魔法騎士レイナース   作:たっち・みー

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#003

 act 3 

 

 レイナースの様子を見ながらイビルアイ達はそれぞれ次への対策の為に一休みする。

 精神を落ち着けてから改めて周りの世界を見回す。

 ここは知らない世界。

 知らないモンスターの背の上。

 三人共に裸で魔法は使える。

 魔力系。信仰系。騎士。

 バランスの取れたパーティに思える。

 

「これから我々は何所へ向かえばいいのやら」

「手ごろな地面にまず降りるしかないっすね」

 

 この魚のねぐらに連れて行かれて餌にされるか、逆に餌にするか。

 空中を飛行する巨大な魚は凶悪なモンスターというわけではないようだが、しばらくは乗っていようと思った。

 周りに似た種が居ないようだ。

 現在位置は分からないが地表まで、わずかという所まで下がってきていた。

 呼吸も楽になってきたようでレイナースが程なく目覚める。

 イビルアイは呼吸に関しては全く問題ないけれどレイナースは色々と大変な筈だ。

 

「しばらく休んでいるといいっす。急に動くと脳に悪いっすよ」

「………」

 

 今のレイナースは喋りたくても出来ない状態だった。

 言い知れない頭痛が襲っているので。

 低温による身体の震えが止まらない。

 凍傷で末端神経が死滅し、手足の先端部分は黒く変色してきた。

 数分後に落ち着いたルプスレギナによって凍傷していた肉体の治癒を施されて完治していく。

 方法は乱暴ではあるけれど。

 

        

 

 食いちぎられたレイナースの手足が魚の背中からコロコロと落ちて消えていく頃には目的地の大地が近づいてきた。

 無駄な動きを取らず魔力の回復に努めたので大きな混乱は起きていない。

 特にレイナースは始終冷静だった。さすがは歴戦の戦士だとイビルアイは感心する。

 大地に近づき魚は動きを止める。つまりここで降りろ、という意思表示なのかもしれない。

 無駄口を叩かずにイビルアイとレイナースを担いだルプスレギナが軽々と大地に降りる。

 三人が離れたのを見届けた魚は飛び立っていった。

 

「せっかく送ってくれたから見逃してあげるっすよ」

 

 その声が聞こえたのかは分からない。

 空飛ぶ巨大な魚が居なくなった後、新たな気配が生まれる。

 

「無事にたどり着いたか」

 

 と、野太い声には聞き覚えがあった。

 三人の裸の女性の前に現れたのは筋骨隆々の戦士だった。

 立派な鎧を身にまとい、厳つい顔を向けるのはどう見てもリ・エスティーゼ王国の戦士長『ガゼフ・ストロノーフ』にしか見えない。

 

「私は闘士(グル)ガゼフ。まずは無事に召喚された事を」

「メエエエェェェ!」

 

 と、ガゼフの声を遮る様に羊か山羊の鳴き声が聞こえた。ただし、それはイビルアイ達にとって()()()()()()()不安を振りまくモンスターのものにしか聞こえなかった。二人に対してルプスレギナは口元をゆがめていた。

 案の定、ドスドスと何かを踏み砕くような突進する音を響かせていた。

 

「話しの前に君たちの姿をどうにかしないと」

「メエエエェェェ!」

 

 声は更に大きくなり、ガゼフの声はかき消される。だが、彼は鳴き声に構わず喋っている様で続きが全く聞こえない。

 ルプスレギナは頭の耳を押さえていた。

 何かを言っているようだが三人共に聞き取れなかった。

 

「メエエエェェェ!」

 

 ガセフは懐から黄色くて丸い宝石を取り出し、何か言っているようだが聞こえない。

 鳴き声の主がイビルアイ達の近くに現れた。

 頭頂部から無数の触手を生やし、身体は黒くて丸く、山羊の脚に似たものが五本、激しく動いている。

 丸い身体のあちこちに大きな口があり、全体の大きさは十メートルはありそうだ。かなり巨大で醜悪な鳴き声を発するおぞましいモンスターだった。

 そんなモンスターなど存在しないかのように喋り続ける闘士ガゼフ。

 宝石が光り、三人に照らし出される。

 

        

 

 光を受けた後で裸体を包む風が巻き起こり、それが実体を伴い服というか鎧のようなものを形作った。

 

「メエエエェェェ!」

 

 ドドドっと豪快な音を立てて駆け抜けていく巨大モンスター。

 

「ってくれ」

 

 ガゼフがいきなり頭を下げたが何を言っていたかは分からなかった。

 

「メエエエェェェ!」

 

 だいぶ鳴き声が小さくなった頃に改めて尋ねた。

 というか、あの鳴き声の中で相手に言葉が伝わると思っているガゼフは凄いなとイビルアイは思った。

 それとも耳が悪いのか、と。

 

「要約すると伝説の『魔法騎士(マジックナイト)』となってセフィーロを救ってくれ、と言ったのだ」

「あんな大きな鳴き声の中で聞こえるわけがないだろう」

 

 と、憤慨しながらイビルアイは言った。

 

「……みんなマジックナイトになる余裕ってあるっすか? 余計な職業(クラス)を取るのはちょっと勘弁願いたいんすよね」

「私は呪われた騎士(カースドナイト)なのだが……。マジックナイトになれるのか?」

「騎士職か……」

 

 それぞれ悩みだした。

 

「三人共、鎧を装備した時点でその職を取ったかもしれないっすね。……勝手に余計なことして……。後で怒られるの嫌っすよ」

 

 厳つい男の話しを裸のままで聞きたくなかったが、今となっては仕方がない。

 なし崩し的に騙されたような気はするけれど。

 セフィーロという世界に突如呼ばれたレイナース。イビルアイ。ルプスレギナ。

 訳も分からず窮地を乗り越えたと思ったら厳ついおっさんの登場と謎の巨大モンスターのせいで説明が全く聞き取れず。

 改めて聞きなおす事になった。

 要約とはいえ世界を救ってほしいと言われても困る。

 話しを聞くに目の前の闘士(グル)ガゼフは自分達の知るガゼフ・ストロノーフとは別人らしい。だが、そっくりだ。というか、本人としか思えない。

 

「旅の共に……」

「待て。勝手に話しを進めるな」

「むっ。こうしている間にもセフィーロは闇に包まれていく。悠長に構えている時間は無い」

「そもそもどうしてセフィーロを救わねばならない」

「それはセフィーロの『(はしら)』である『ジルクニフ』姫が悪の神官(ソル)『アインズ』にさらわれたからだ」

 

 聞き覚えのある名前が妙な事になっている。それはイビルアイとレイナースには理解出来た。

 ジルクニフ、姫と言ったのか、このおっさんと。

 想像した通りの姿が拝めそうな気がした。

 

「この世界の危機に際して姫は召喚魔法を使い、お前たちをこの世界に呼んだのだ」

「なるほどっす。というか、その悪のソルとやらは骸骨っすね」

「よく分かったな。元々はジルクニフ姫つきの神官(ソル)だったのだが……。ある時に姫をさらいどこかに幽閉してしまったのだ」

 

 始終厳ついガゼフ。

 

        

 

 姫は『柱』と呼ばれ、平和を祈る事でセフィーロという世界を安定させてきた。それをある時、神官(ソル)アインズが姫を幽閉してしまった。その理由はガゼフにも分からない。

 姫が幽閉された事で祈りが途絶え、セフィーロに暗雲が立ち込め始めた。

 祈りを怠るとセフィーロは大地を削られ、滅びていく定めにあるという。

 その影響で各地に魔物が出現し、人や村を襲っているという。

 

「では、あのモンスターも魔物とやらか」

「あれは元々居る家畜だ。どこかの村から逃げ出してきたのだろう」

 

 家畜と聞いてイビルアイは嘘だ、と疑った。

 どこをどう見たらあのおぞましい外見のモンスターが平和な村の家畜として存在するのか。むしろ、世界を滅ぼすモンスターにしか見えない。

 聞けば食用だとか。

 名前は想像通り『黒い仔山羊(ダーク・ヤング)』でその肉はうまいと評判らしい。

 涎は飲料として愛されているという。

 聞けば聞くほど吐き気を催すのだが、この世界では不思議な事ではないらしい。とても信じられないけれど。

 

「姫を救えるのは伝説の魔法騎士(マジックナイト)だけだ。重ねて頼む。姫を救ってくれ」

 

 平身低頭で闘士(グル)ガゼフはイビルアイ達に頼んできた。

 

「ふっふっふ。こんなところに居たのか」

 

 と、言いながら現れたのはどう見ても『ブレイン・アングラウス』だ。

 

剣士(イル)ブレイン!? もう見つかったか。だが、やらせはしない!」

 

 ガゼフは説明を切り上げて腰に括りつけていた剣を抜き放つ。

 

「お前たちは『エテルナの泉』に向かえ! 案内はハムスケに任せる」

 

 口に指を当てて器用に音を鳴らすとどこからともなく、走りこんでくるものが居た。

 つぶらな瞳に鱗で覆われた尻尾を持つ可愛いハムスター。だが、体長は二メートルほど。

 聖獣ハムスケ、というらしい。

 

「呼んだでござるか?」

 

 と、暢気な声を上げる巨大ハムスター。

 

「その三人を連れて創師(ファル)の元に向かえ!」

「了解したでござる」

 

 ガゼフはブレインと剣を打ち合わせる。

 

「うおおぉぉ! 〈六光連斬〉!」

「ふっ、〈神域〉、〈虎落笛〉」

 

 互いに強烈な一撃を入れていく。

 

「さすがは闘士ガゼフ。だが、もう俺は昔の弱かったブレインではない。〈四光連斬〉!」

 

 剣と剣がぶつかり合うのを呆然と眺めていた三人の元にハムスケがやってきた。

 

殿(との)に任せて、拙者(せっしゃ)たちも移動するでござるよ」

「……状況が全く理解できないのだが……」

「あははは」

「………」

「まあ、とにかくじっとしているのは不味い、という事でござろう」

 

 危機感の全く無い暢気なハムスケの言葉では世界はまだ平気なのではないか、と思う。

 とにかく、勝手に死闘を繰り広げる二人の相手は疲れそうなので話しの分かりそうな人を探す方が良い。

 魔法騎士(マジックナイト)にならないと姫を救えない、らしい。言葉からはそういう感じだった。

 それほどアインズは強大な敵という事か。というか、アインズは自分達の想像する通りならそもそも勝てない気がする。

 おそらく強大な魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)、だと思う。

 

「ここに居ても話しが進まない気がするから、移動した方がいいっすね」

「……それでいいのか?」

「あのガゼフ殿も相当強いようだな」

 

 話しが出来る状況ではないようだが、相手を倒せばいいのに、と少し思った。

 数分ほど見ていたが勝負がなかなかつかない。

 

「何をしている! 早く行け!」

「我々が……。ああ、武器が無いか」

 

 それならば、とイビルアイは手をブレインに向ける。

 

「〈龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉!」

 

 うねる雷撃の魔法はブレインの近くまで行った後で防御魔法によって防がれる。

 おそらく装備品の中に雷系を無効化する効果があるのかもしれない。

 

「ならばっ〈月の矢(ムーン・アロー)〉!」

 

 先の魔法と同じく第五位階の魔法だが、これは武技らしきものによって避けられてしまった。

 

「〈水晶騎士槍(クリスタルランス)〉!」

 

 意地になって唱えた魔法は武器で砕かれた。

 見た目以上に手ごわいようだ。

 奥の手として超位魔法でも使おうかな、とこっそり思うイビルアイ。

 戦争後に『ぱわーれべりんぐ』で強化し。様々な魔法と念願の第十一位階。つまり超位魔法を会得するまでに至った。

 脳裏に浮かぶ褐色の肌で銀髪碧眼の『ご主人(●●●●)』に敬意を表す。

 

「イビルアイ殿、ここは引こう。……なんとなく我々はガゼフ殿の足を引っ張っているような気がする」

「し、しかし……」

「俺が足止めしていればお前達の追っ手もすぐには来られない筈だ。いいから、行け」

 

 行かないと話しが進まない、という雰囲気を感じ取ったレイナース。

 ルプスレギナは黙ってイビルアイを持ち上げてハムスケに乗る。

 

「………。分かった。ガゼフ殿。ご武運を」

「ありがとう。見事、セフィーロを……。姫を頼む!」

 

 半ば諦めたイビルアイ。

 


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