魔法騎士レイナース   作:たっち・みー

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#013

 act 13 

 

 強行軍とはいえ激しい運動の後なのでルプスレギナは動きたくない状態だった。

 

「魔法は使えるっすから互いに食い合わないっすか? 治すから」

 

 代わりに尻尾を食べてもいいと進言してくる。

 おぞましい意見なのだが殺しあうよりは同意した者同士であれば問題の無い提案に思えてしまう。

 空腹時は判断力も衰えるらしい。

 

「お二人は休まれよ。私が色々と探ってこよう」

「いや……、イビルアイ殿は精神的な疲労が取れていないはすだ。無理は……」

「恩には報いたい。一時間だけ時間を貰いたい」

 

 平和的な提案に対し、ルプスレギナは手を振りながら従う事にした。

 あまり待ちすぎると動けなくなるのではないかと思って、時間厳守をイビルアイに言いつける。

 

「了解した」

 

 イビルアイは空を飛び、村が無いか辺りを確認する。

 

        

 

 平地はとても広く、森も多くあった。

 獣道はいくつかあるのに村が見えないのが不思議だった。

 世界の崩壊も魔物も今のところ視認できないが、本当にこの世界は危機的状況なのか。

 

「森を抜けなければならないか……」

 

 人の営みの無い地域なのは理解した。

 創師の家も隠れ工房のような扱いだったようだ。

 一旦、下に降りるとルプスレギナは既に眠っていた。

 

「やはり、移動しない事には村などは見えてこないかもしれない」

「そうですか」

「ハムスケ。移動できるか?」

 

 というか、動く気があるのか心配になってきた。

 

「もちろんでござる。次の村まで走れるでござるよ」

「なら移動だ。ルプスレギナは私が背負っておこう」

 

 小さな身体ではルプスレギナを担いでも足を引きずってしまう。

 寝返りを打つ場合は困るが、それまではしっかりと掴んでおこうと思った。

 ハムスケに移動を命じてしばらく経つ。見える景色が代わり映えしない。まるで動いていないかのようだった。

 近くの森がそれだけ遠いのか、村というものはあまり存在しない世界なのか。

 

「おかしいでござる。全然、次の目的地が見えないでござるよ」

「う~ん。このままではお前を焼く羽目になるな」

「いやでござる」

 

 食料となりそうな小動物も見えない。

 水も補給できないとなると生物の生き血くらいしか無い。

 魔法を駆使して食料調達は気分的には(おこな)いたくない。

 巨大モンスター以外の魔物というものは今のところ視認出来ないのだが、現れたりするのか。

 ハムスケに聞いても仕方がない気がしたし、無駄な体力を消耗させては困るので黙っていた。

 それからしばらくイビルアイは周りに注意を向けていると、レイナースが力尽きたのか、眠ってしまった。

 ハムスケに尻尾で押さえるように命じて行ける所まで進んでもらった。

 睡眠不要の身体が今は役に立つようで自然と笑みがこぼれる。

 エテルナの泉で自分はどんな事を体験したのか。

 思い出さない方がいいと思うけれど、つい考えてしまう。

 予想は出来る。

 それはきっと超ど級モンスターに関連したことなんだ、と。

 よっぽど酷い目に遭ったようだ。

 情けないけれど、どうしようもない。苦手なものは苦手なのだから。

 静かな時間を過ごしていると浮遊感を感じた。

 

「わっ、おわっ! なんでござるか!」

 

 慌てて暴れ始めるハムスケ。

 大声で目覚めるレイナースとルプスレギナ。

 空腹の為に二人共、顔は険しかった。

 

「身体が浮き始めたでござる」

「そうか。……とにかく、落ち着け。暴れると落ちる」

 

 二メートル近い巨体に人間三人分を乗せているハムスケを浮かせるのは本当に魔法なのか。

 浮遊させる魔法は『飛行(フライ)』と『浮遊(レビテーション)』ともう一つ。魔法の板が出ていれば『浮遊板(フローティング・ボード)』くらいしか知らない。

 ハムスケの様子だと横移動をしているので『浮遊(レビテーション)』は有り得ない。この魔法は少なくとも水平移動はできないから。

 残りは『飛行(フライ)』なのだが、遠距離から魔法をかけるものではない。この魔法は『接触』が基本だ。

 ならば、最後の予想は未知の魔法となる。それが無難な答えだ。

 高度もそれほど高くないし、どこかに連れて行かれるような感じで移動している。

 この世界に来て色々と驚かされるのだが、ゆっくりと調査したいなとイビルアイは思った。

 

        

 

 進む先は湖。いや、もっと広大な海だった。

 大体の予想が付くのだが、島か海底に運ばれると考えるのが一般的か。

 考察していると左右に控えているレイナースとルプスレギナも大人しく景色を見つめていた。

 沈着冷静で慌てない分、気が楽だった。

 ティアとティナならもう少し賑やかになっているかもしれない。

 

「イビルアイ殿……」

「んっ?」

「気分というか具合はどうなんだ? 先ほどから大人しいのだが……」

 

 レイナースの心配そうな顔にイビルアイは微笑みで返す。

 

「思考に乱れは無い。そちらこそどうなんだ? 空腹の影響が広がるなら、こいつを焼くぞ」

 

 焼くと言われてハムスケは唸った。

 

「一日くらいは耐えられる。これくらいで根はあげないさ」

「私は空白は我慢したくないっす……」

 

 と、不機嫌気味に答えるルプスレギナ。

 治癒魔法が使えるとしても自分の尻尾は食べたくないし、食べさせたくない。

 仮にレイナースの肉体を切り落とすとしても体力を大幅に削ってしまうので最終手段以外に手は無さそうだ。

 ハムスケの場合は嫌がって逃げそうなので、どうしようか考えあぐねている。

 そもそも論ばかり考えても仕方が無いのだが、世界を救えという割りに危機意識が低いハムスケを派遣するのは間違いでは無いのか。

 それにこの世界の情報は全くと言って良いほど手元に無い。

 闇の中を手探りで進む事自体に意味がある、とでもいうのか。

 そうこうしている内に一行は海面目掛けて落下し始める。

 

「おうっ!」

 

 反発せずに落ち込む。それから一行に水はかからず泡に包まれる。

 

「目標は海底か……」

 

 何者かが引っ張っているのだとすると相当な魔法の使い手でなければありえない。それと遠距離から干渉するのは聞いた事が無いし、見たことも無い。

 ルプスレギナは空腹の為に先ほどから唸り続け、笑顔だった顔は怒りに満ちた飢えた獣の形相になっている。早く餌を与えなければ仲間が食われてしまうのではないのか、と。声をかけるのも躊躇われる。

 大人しくしている間にも空気の泡に包まれた一行は海底に向かって進んでいく。

 その間、海中を漂う魚などが近づいてくるのだが泡は強固で破れそうに無いし、破ると破裂して水が入ってくる、などと思った。

 当たり前の事も正常に思考できないほど苛々してくる。

 空腹によるものだと思うがレイナースは何度も自分の頬を叩いたりする。

 どうにもじっと待つことが出来ない。

 イビルアイは飲食不要なので冷静な判断が出来るのだが、ハムスケ以外はどうにも様子がおかしくなり始めていた。

 

「……お腹が減ったっす……」

「……こっちもだ……」

 

 危機的状況であることは察知したイビルアイは泡の様子や周りの景色を調べていく。

 確実に移動は続けている。

 不思議な弾力はあるが見た目以上に強固なようだ。だからといって魔法で確かめるのは怖い。

 

「おい、ハムスケ」

「な、なんでござるか?」

「いざとなれば非常食も覚悟しろ。もはやお前は役立たずだと後ろの二人は思っているようだからな」

 

 飢えた野獣の瞳がハムスケを物凄い形相で見つめていた。

 振り返ると死ぬと身体が教えてくれたのか、ハムスケは海の方を見つめ続けた。

 ルプスレギナの指がかなりハムスケの身体が食い込んでいる。

 

「……痛いでござるぅ……」

 

 早く逃げ出したい。何度もハムスケは思うのだが狭い空間内に逃げ道は無い。

 


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