魔法騎士レイナース   作:たっち・みー

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#010

 act 10 

 

 ルプスレギナとイビルアイとは離れ離れになったレイナースは暗い空間で一人、精神統一していた。

 慌てても仕方が無い。

 出口も見当たらない。

 つまり、何らかの条件を満たさないといけない、と冷静に分析する。

 怒涛の展開についていけなかったが、落ち着いて物事を思考する時間がほしかった。

 最初にまず顔の膿が完治していること。それはつまり世界を救う報酬の前払いとも言えた。

 口には出さなかったが、受け取ったからには自分の出来る範囲で応えたい。

 だが、それを成し遂げるには情報があまりにも乏しい。

 ジルクニフ姫というのは笑いそうになるが、この世界の命運とやらはどういうものなのか。

 単に()()とやらに誘拐されたから、で済む話しなのか。

 

「………」

 

 敵アインズ。

 色々と不可解な事だらけだが、この先のことを考える前に今やらなければならないこと。

 この空間から脱出することだ。

 何者かの気配が生まれ、レイナースは立ち上がる。

 手には黒いオーラが噴出する剣のみ。これで突破出来るものなのか。それは相手の姿を見て確認するしかない。

 

        

 

 現れたのはレイナースのよく知る人物達だった。

 家族に婚約者。ジルクニフ皇帝に他の四騎士達。

 それぞれ手に武器を持っている。

 

「……知り合いが敵ということか。試練としては常套手段だな」

 

 疑問を差し挟む事無く、武器を構える。

 帝国の最強四騎士と呼ばれるレイナースは身内の登場で動揺したりしない。

 それが例え皇帝だとしても。

 

「いざ」

 

 剣の一突きは『不動』のナザミ・エネックの盾に防がれる。

 防御の厚い騎士だが、レイナースは足蹴りで距離を取る。

 準備運動の如く剣の握りを確かめてもう一度、駆け出す。

 柔軟な肉体により前方に一回転しつつ盾に足を乗せる。そして、そのまま駆け抜ける。と、見せかけて飛び降りざまに回し蹴りと剣の一撃を背後に見舞う。すぐに脚の感触から体勢を低くし跳ね上げるようにエネックを蹴りつける。そしてそのまま前転するように回転しつつ次の相手に向かう。

 防御を抜ければ攻撃主体の()()ばかり。

 いかにも呪い剣という感じだが特別な能力は今のところ発揮していない。ただの演出かもしれないけれど。妖しい光りを放つ武器で翻弄していく。

 

「……この鎧は……」

 

 と、言いかけて尻を拭いていない事を思い出した。

 軽く頬を染めて恥らいつつも攻撃の手は止めない。

 返り血で洗うわけには行かない。

 用件を済ませた後は水浴びがしたいなと思った。

 

「本当にっ、柔軟性に優れているな」

 

 華麗に舞うレイナース。花びらではなく鮮血が彼女を彩る。

 帝国の為に奮われる剣は己の復讐のためだけのもの。そういう契約の下にある。

 戦争を終えた今、新たな命令が無い限り自分の欲望のままに武器は奮われる。

 確かに忠誠心は無いかもしれない。けれども恩は感じている。

 不遇の身を召し上げてくれたジルクニフに。

 

「復讐が我が原動力なれば……」

 

 無闇に皇帝を手に掛けることなどありはしない。国の全てを恨むほどではないのだから。

 地に鮮血を振り払えば後方には屍のみが山となる。

 所詮はまがい物。自分の立ち位置も分からぬ者が『重爆』の二つ名を名乗れるはずが無い。

 最強は伊達ではない。

 

「……今ので試練は終わりか……」

 

 地面に広がる鮮血は上空に吸い上げられるように昇っていく。それは光り輝く青い宝石の塊へと変化した。

 この青い鉱物が伝説の鉱物エスクードなのだと確信する。

 

「……自ら手に掛ける試練か……。生憎(あいにく)と……、私の得意分野だ」

 

 軽く飛び跳ねて鉱物を手に取るレイナース。

 


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