IS -Rachedämonin Silber-   作:名無し猫

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2016年11月20日(日) 誤字脱字修正・表現修正

ご報告に感謝致します。


騒々たる騒動は早々に

突然現れた金髪縦ロールの生徒に声をかけられたのはいい。

 

が…今の状況を見て一体何を思ったのだろうか。怪訝そうにしてどう反応したらいいのか困っているようにも見える。

 

そりゃあそうだろう。今の私は席に座っていて、左右後ろから清香に癒子、ナギの三人に揉みくちゃにされている状態である。

 

「…お、お邪魔でしたか」

「いいえ全く全然そんことないよ!」

 

ガバッ、と起き上がると三人が呆けたように手を離してくれる。どうやら貞操の危機だけは免れたらしい。

 

「いやほんとにありがとう、色々失うかと思った」

「え、ええと…どういたしまして?」

 

本当に危なかった。この人には感謝しても足りないくらいだ――所で、この人だれだろう。

 

「所で、どなたかな。私に用事でも? 」

「まぁ、私をご存知でない…!このセシリア・オルコットを?」

 

一難去ってまた一難。ぶっちゃけありえない とはこのことか。これもクロちゃんの受け売りだけど。

 

いや、三人はまだ悪ノリだったんだろうけどこう…なんていうか、根本から色々飛んでる人は色々面倒な気がする。事態が余計ややこしくなったような。

 

「…セシリア・オルコット」

「「知っているのか清香」」

「うむ」

 

そこ三人。まるで息を合わせたかのようにまた何やら始めるのはやめてくれないだろうか。

 

「イギリスの代表候補生で、入試『次席』のセシリア・オルコットさんだよね?凄いよね、私筆記とかけっこうボロボホロだったのに」

「『次席』!?ほえー…すっごいなぁ」

 

えっと、さっきから清香とナギのその言葉の後に気のせいかオルコットさんの方から何か突き刺さるような音がするのは気のないかな。

 

視線を戻せばビクビク痙攣しながら項垂れる張本人が。

 

「誰が次席ですか誰がっ――ふ、ふん……私に声を掛けられるだけでも光栄な事ですのよ?もう少し、ちゃんとした対応は出来ないのかしら?これだから極東の猿は――」

「私ドイツ生まれなんだけど」

 

再び流れる沈黙。いや、本当なんていうか…できれば関わり合いになりたくないタイプかもしれない。

 

嫌な感じだ、自分の立場をただ振りかざして――周りが何も見えていない。まさに今の『女尊男卑』社会の、今時の女の子、私が彼女に対して最初に持った印象はそれだった。

 

 …まぁ、私がそんな人間をとやかくは言えないけど。私だって、ISを力として使って成し遂げたい目的があるんだから。

 

「えっとそれで、オルコットさん?でいいのかな。私に何か用?」

「そ、そうですわ。こほん…私と同じ成績優秀にして、入試主席の方にご挨拶をと思いまして」

 

入試主席…?ああ、あの試験のことかな。

確かにIS学園への入学の際、入試試験ということで試験を受けた。だけど…私は事情があって、それを受けたのは一般受験生の後だ。多分だけど、主席とかそのあたりの成績判定には入ってないはず。

 

それに、私が聞いている入学生主席は――

 

「オルコットさん、多分それ人違い」

「…えっ」

「入試主席は私じゃなくて、あっち――今他の子と話してるクロちゃん…クロエ・クロニクルって子だよ」

 

クロちゃんは私より以前から束さんの助手をしていたこともあってか、とにかく頭がいい。私は工学専門だけど、クロちゃんは大体の分野には精通している。専用機は持っていないけど、適性も高い。主席だったといつものポーカーフェイスに隠しきれない笑みを浮かべていたことを覚えている。

 

「私は事情があって試験受けるのが後になってね、多分私の成績は主席とかの判定に入ってない」

 

流石に苦笑い。見れば三人も苦笑いしている。

でも私の窮地を助けてくれたことには感謝している。

 

顔を真っ赤にして言葉に困っているオルコットさんに対してどう言葉を投げればいいか考えていると『キーンコーンカーンコーン』と休み時間終了のチャイムが鳴った。

 

流石に私も、そして三人もオルコットさんも先生の制裁は受けたくないのか。チャイムという宣告を聞いた瞬間、急いで席に戻っていった。

 

…いやはや、IS学園もとい代表候補生ってあんな人ばっかりなのかな。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その後の授業時間。休み時間のやり取りの後の授業は山田先生ではなく、織斑先生が教壇に立っていた。そして山田先生は、その教壇の横でうんうんと頷いていた。

 

確か、この時間はISの基本装備と各種装備についての説明だったかな、だけど――織斑先生が教壇に立っているのは何故だろうか?うーん、と頭の中で考え事をしていると織斑先生が口を開いた。

 

「さて、授業に入る前に話がある。今度行われるクラス対抗戦に出る代表者を選出しなければならないのだが、誰か居ないか?ちなみに、クラス代表というのはIS学園の学園委員会や生徒会の会議への出席、最初に言ったが対抗戦への出場、そうだな…分かりやすく言えば単純にクラス長でクラスの代表だと思ってくれればいい」

 

なるほど、つまりは…クラス代表という犠牲者の選抜か。私は中学生時代飛ばして高校生だからよくわからないけど、小学生の時にも似たようなことがあったような。

 

どうせこういったことを面倒と思う学生が大半で…自分からやりますと進み出る人間はあまり居ないだろう。居るとすれば、自尊心が高いか犠牲者か。それとも、何かしらの理由があるか。

 

それに…

 

ちら、と少し離れた席の彼。先日話した彼を見る。

 

客観的に見れば、今このクラスには『織斑一夏』という最高のモルモットと、他にも代表候補生や、クラス代表になれば面白くなると考えられてもおかしくはない人物がかなり居る。例えばさっきのオルコットさん。例えば…主席だったクロちゃんとか。そしてその中に、私だって含まれるかもしれない。

 

「自推他薦は問わない。誰か居ないか?」

 

そんな織斑先生の言葉で、やはり教室内の生徒が動いた。

 

「はいっ!織斑君を推薦しますッ!」

「私も、織斑君を推薦します!」

 

次々に『私も私もー』等という、賛同の声が挙がる。当の本人といえば、完全に動揺しきっていて、場の空気からなのか反論すらできていなかったが。

 

まあ、恐らく『面白くなる』と考えた場合、男性操縦者として世界で始めて認知された織斑一夏という人間をこういったイベントに出した方が、客としては、傍観者としては楽しいのだろう。

 

彼は、それだけ世界をある意味で楽しませる存在だ。いい意味でも、悪い意味でも。私にとっては、そうなると仕事も増えて面倒なんだけど。

 

そんな彼は織斑先生に対して何やら反論をしているが、『自推他薦は問わない』と言われている以上、恐らく抗議しても無駄だろう。

 

「ま、待ってください! 納得がいきませんわッ!」

 

彼の抗議という言葉は最後まで続くことは無かった。

バンッ!と机を強く叩いて立ち上がり、ヒステリックとも取れるような叫び声を上げたのは…先程、赤っ恥をかいたオルコットさんだった。

 

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しです! そんな屈辱を味わうくらいでしたら、私が立候補しますわ!」

 

言い切るなぁ…。もうこの瞬間に私の代表候補生に対する評価はダダ下がりだよ。

 

代表候補生というのは、即ち国家の顔。当然その行動や発言というのは下手すれば国際問題にもなる。確かにIS学園には学園の特例事項というものがあって、その中に『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』というものがあるが、それでもこれは酷すぎる。

 

個人的に言えば、私は織斑先生を尊敬している。生活面はともかくとして、あの人は社会という面では完璧だ。おっと、今何処から睨まれたような。

 

そんな人を見てきたからこそ、候補生や国家代表というのはも先生を基準にした人間性を…なんて勝手なことを思ってた。そりゃあ人間性なんてそれぞれだけど、ちょっとこれはね。

 

まぁ、私が気にしても仕方ないかと思うと私は机の上に膝を立てて、その彼女の演説ともいえるものを眺めていた。

 

「実力から考えればこのセシリア・オルコットこそがもっとも代表に相応しいのは目に見えています!それを、男性だからという理由で男を代表にされては困ります! そのような、極東の猿が演じるサーカスに付き合う気など毛頭ございませんわッ!いいですか?代表とは実力が最もある者、実力、つまりは力が最もある者こそが相応しいのです! そして、それは私、セシリア・オルコットですわっ!」

 

言い切った。ここまで言い切ると逆に清々しい。 …ん、メール通知のウィンドウ?この騒ぎだけど念のためにこっそりとバレないようメールをに開くと――クロちゃんからだった。

 

"やりましたリィス。これで私に矛先が向くこともありません"

いやクロちゃん。こんな時にそれ言う必要ある?ふと見ればとても機嫌が良さそうな顔をしていた。ポーカーフェイスだからわかりにくいけど。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らすこと自体私にとっては耐え難い苦痛で――」

「イギリスだって大したお国自慢なんて無いだろ。騎士道精神とか、色々言うけどさ……飯は不味いし、ニュースでやってるイギリスの情勢なんて最悪の一言だろ。 逆に言うけどさ、オルコットさんって言ったか? お前のその態度こそ騎士道精神、国自体を汚してるんじゃないか? ああでも、世界一不味い飯では覇者だったか?」

 

おっとぉ!?色々突っ込みどころはあるが、その前に直接ツッコミを入れたのは――織斑一夏さんだった。そういえば、学園に来てから彼とは話してない。あとで話しておこうかな。

 

ともかく、これでは火に油だ。彼の発言を聞いて、私はそう思った。

これはもう…止まりそうにないなぁ。私には関係ないけど

 

「あ、あ、あなたねぇ! 私の祖国を侮辱しますの!? それに美味しい料理は沢山ありますわ!」

「仮にそうだとして、お前がお国を汚していることは事実じゃないか? 騎士道精神が聞いて呆れるな?」

「言わせておけば――決闘ですわッ!織斑一夏、貴方に決闘を申し込みますッ! 一番力があるのが誰かわからせてあげますわ! 恐れをなしてわざと負けたりしないでくださいね?もしそんな事をすれば私の小間使い、いいえ、奴隷にしますわ!」

「上等だっ! 俺も男だ、その勝負受けてやるよ! 逃げも隠れもしない、やるからには覚悟しろよ!」

 

教室内は何やら盛り上がりを見せている。『面白くなってきたね!』とか『がんばれー!』とか。

 

いや私から見たら本当これどう収集つけるんだと思うけど。国際問題的にも、後は学園的にも。更に言うならオルコットさんは専用機持ちで彼は持ってない。

 

「…ふむ、そうか。いやはや盲点だった」

 

そんな混沌とした教室の中、今まで黙っていたある意味一番動いてはいけない存在が動いた。織斑先生だ。先生がそんな言葉を放った瞬間、教室が静まり返った。まるで嵐の前の静けさだ。

 

「オルコット」

「ひ、ひゃい!?」

 

突然先生に話しかけられたからか、それとも怒られるのかと思ったのか、オルコットさんはビクッと体を震わせた。先生、それ完全に萎縮してます。

 

「"力が最もある者こそが相応しい"そう言ったな」

「は、はい。ですから私が――」

「それが全てではないが一理ある。いや盲点だった…礼を言うぞオルコット」

「は、はあ…」

「そうか、そうだな…」

 

…あれ、なんかとてつもなく嫌な予感。というか先生?なんかとっても悪い顔してません?

 

やばい、そう思った瞬間。先生が私の方を見た

 

「エーヴェルリッヒ」

「ハイ、ナンデショウカセンセイ」

「そんな片言にならなくていいだろう。何、大したことではない」

 

いやいや絶対面倒事でしょう。なんとか逃げたいけど――クラス全員の視線が私をターゲティングしている。逃げられない。

 

「お前の専用機、手続きの遅れで学園に提出する実戦データがまだ取れていなくてな、後日にとでも考えていたんだが」

「私は後日で構いませんが。むしろそのほうが嬉しいです」

「ははは、そう言うな。アリーナの使用申請にデータサンプリングの為に山田先生の予定も調整しなければならなくて実は難航していたんだが…盲点だった」

 

あ…はい。この先の展開が読めた。

 

「オルコットと織斑のついでだ――お前の専用機のデータのサンプリングも一緒にやってしまおうかと思ってな」

「拒否権があるなら拒否したいです先生!」

 

ばっさりと言い切った。クラス全体からはブーイングが起こったがそんなもの知らない。

 

提出データのサンプリング?大いに結構。でも面倒事に巻き込まるのは嫌です、勘弁してください。

 

「データ処理なら山田先生ほどとまでは行きませんが、うちのクロちゃん――クロエ・クロニクルさんもかなりの技量持ってます!ですから彼女を代役にして後日にしませんか」

 

クロちゃんが『えっ、リィス私ですか?』とプライベート・チャネルで慌てたように言ってくるが無視だ。この際、危機を脱するためならなんでも使う!

 

それにこの前の買い出し、イカサマを使われて負けたのだ。少し位いいだろう。

 

「拒否権があると思ってるのか」

「あると思ってます!」

「ははは、こやつめ。 残念だがない」

 

無慈悲。あまりにも無慈悲だった。

 

「それに、だ。"力が最もある者こそが相応しい"なら――恐らくお前こそ相応しいだろう、エーヴェルリッヒ」

 

その瞬間。教室全体がざわめいた。それだけではない、織斑一夏さんとオルコットさんは驚愕の視線を私へと送っている。

 

と、とんでもない爆弾を落としてくれましたね先生…

 

そして恐る恐る口を開いたのはオルコットさんだった。

 

「あ、あの先生。それはどういう――」

「うん?ああ、エーヴェルリッヒの入試が遅れたことは言ったな。遅れての試験、実技試験を担当したのは私だ」

 

ああ…ありましたねそんな試験。でも私の場合、射撃訓練とか操作技量とかだけで先生とは戦ってないはずなんですけど――もしかして。もしかしなくても、あの時のあの戦闘?だとしたら先生、それでっちあげー!?

 

「いや、いい機会だ。オルコット…はっきり言ってやろう。"力が最もある者こそが相応しい"と言うならお前は絶対にエーヴェルリッヒには勝てない」

「なッ――」

「少し厳しいことを言うぞ。あまり自分の力を過信しないことだ、自分の力量を図ることも重要だと知れ。そして織斑、それはお前にも言えることだ」

「お、俺にも!?」

 

突然矛先を向けられたからか、動揺する織斑一夏さん。いや一番動揺してて胃が痛いのは私ですよ。

 

「貴様、オルコットとの力量差は考えたか?ましてや、専用機がない状態でどうやって戦う?」

「う…それは」

「まぁ、今回はお前達二人が熱くなっての自業自得だ。それに織斑、『戦う術がないわけではない』」

 

つまり、彼には既にその手段が用意されていると。私…束さんからは何も聞いてないんですけど。

 

というかそうなら二人で勝手にやって下さい。私を巻き込まないで欲しい…。

 

「と、いうことでだ」

 

あ、また先生の視線がこっち向いた。

 

「――エーヴェルリッヒ、"データ取りのついで"に二人にお灸を据えてやれ」

「結局それが本命ですかー!?」

 

どうやらそれが本命らしい。恐らく、二人が争うところまでは予想外でそれ以降は先生が突発で考えたのだろう。

 

なんというか…束さん同様場をかき乱すのが好きだと思う。ああ、そういえばお二人は親友同士でしたか――

 

日本のコトワザ?だったか。覆水盆に返らずという言葉があったような。もうここまできてしまっては私もどうしようもない。

教室全体からの視線、先生からの宣告。完全に逃げ場も拒否権もない私はため息を付いて机に項垂れて、

 

「…はあ、わかりました。それで私は何すればいいんでしょうか」

 

負けを認めた。とりあえず、次の休憩時間にクロちゃんに泣きつこう。自棄だから清香達と一緒に放課後食堂でやけ食いするのもいいかもしれない。

 

 


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