IS -Rachedämonin Silber-   作:名無し猫

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 生きてます。なんとか元気にやっているので、ひとまずストックを順次投稿。
 まだ拙作をお読み頂けているのかは疑問ですが、楽しんで頂ければ幸いです。


世界の真実

 

 世織計画。それは私が、私達が追っていたものだ。スコールさんはその計画を『絶対に阻止しなければならないもの』と言っていた。

 

 その全貌は知らなかった。しかし、今彼が話したことが頭ではどういうことなのか理解ができなかった。

 

「それって、世界を作り変える……そういうことですか?」

 

「簡単に言えばそうだね。けどこの計画の本質はもっと邪悪で、吐き気を催すほどに醜悪なものだ。――先に君の最大の疑問について答えよう。どうして俺が、君のご両親を殺したのかだ」

 

 そうだ。私がとにかく知りたいのはそれだ。何故両親が死ななければならなかったのかだ。

 

「教えてください、真実を」

 

「……かなり辛いぞ。それでもいいのか?」

 

「はい、覚悟はしているつもりです」

 

わかった。そう彼は心苦しそうに言って暫くの沈黙が流れた。

 

 

 

「結論から言おう。……君のご両親は、俺が到着する前にある薬物を投与された。それは"かつて織斑一夏くんに投与されたものと同じものだ"」

 

 ドクン、と。心臓が跳ねる。

 

 一夏が過去に金色。つまりハルトさんに助けられているのは知っていた。そして、その時何があったのかも聞いた。

 その時一夏は何かを打たれたと言っていた。薬物のようななにかを。

 

「ご両親の研究については殆ど知らなかったんだよね」

 

「……はい」

 

「研究していたのはISの宇宙進出についてと、限界突破瞬時加速と呼ばれるものについてだった。……そして、俺は元々の世界で限界突破瞬時加速というものを知っていた。同じものが存在していたからだ。俺と妹は本当、奇縁だったのかな。ご両親に拾われてね。色々助けてもらっていた。 ――俺たちが異なる世界の未来から来た、なんていうことを信じてくれてね」

 

 まるで懐かしむように。どこか辛そうに。ただ両親のことを語る彼は、どこか見ていて辛そうだった。

 

「俺のISには限界突破瞬時加速を応用したものが搭載されている。当時の俺は、ご両親と出会ったことを奇跡だと思った。 ……だから、未来の技術。限界突破瞬時加速の技術の理論をご両親に教えた。この世界の技術力でその時はできるかわからなかったけど、きっとこの人達ならと思って教えた。 それが、二人を殺すとは知らずにね」

 

「まさか、パパとママが殺されたのって」

 

「……亡国企業に限界突破瞬時加速の研究と、それが実現に近づいたことがバレた。それに加えて、ご両親が絶対天敵の存在に感づいていることも。 ……前者については試作機として完成していた機体が篠ノ之束でも制御できなかったコアを使用しているともね。 それらについて二人は知っていた。知って尚研究を続けた。 ……二人が殺される原因。それを作ったのは俺だ。俺が奇縁や奇跡なんてものを信じたから。いっときの感情や感動に心を動かされたから。そうして教えてしまったこの世界では存在していなかった技術。それが原因で君達家族は狙われて、ご両親は殺された。――そして、最後の瞬間手を下したのも俺だった」

 

 ふと、気になることがあった。

 彼は先程から奇縁だとか、奇跡だとか言っている。つまり彼はパパやママと面識があった?でも、元々は別の世界の人だと言っているし――

 

「……あの、奇縁とか奇跡ってどういうことですか?ハルトさんがパパとママに出会ったのは4年前、ですよね」

 

「なぁエーヴェルリッヒさん。俺は、一体何者だと思う?」

 

「ええと。私の仇かもしれない人で、大学の先輩で、金色の正体……ですか?」

 

「質問を変えよう。"俺が織斑一夏くんに似ていると思ったことはあるか?"」

 

 ある。最初見た時は声も、見た目もそっくりで一夏かとおもったくらいだから。

 けど、雰囲気とか大人びた態度とか。そういうのからどこか違うなって思った。

 

「あります。最初はその……本当に一夏かと思って。正直あの時は驚いてました」

 

「俺も正直、あの時は驚いてたんだ。"こんなに奇跡は起こるものなのか"ってね」

 

「……どういう意味ですか」

 

「俺の見た目、声、それらが似ているのは本当にただの空似だと思うかな。俺がどうして偽楽園に単独で介入できたと思う?」

 

 彼が。困ったように笑った時の一夏と同じ顔で、笑った。

 

 

「俺の本当の名前は、織斑 春人。 ――未来の別世界における、リィス・エーヴェルリッヒと織斑一夏の間に生まれた、双子の一人だよ」

 

 言葉を、失った。

 

 確かに一夏に似ているとは思った。けど、年齢は確実に彼のほうが上で、仕草や態度も何もかもが大人びていて。だからきっと似ているだけだと思っていた。

 

 自分と一夏の子供である。そう言われ、ただ混乱して。だけど、どこか納得が行く気がした。

 それが真実ならすべての辻褄が通る。似ていることも、あの安心感や懐古感も。

 パパとママ。二人と関わりがあったというのにも、何もかも。

 

「……は?え? 私と、一夏の子供?」

 

「正確には、別世界のね。そして、君のご両親はこのことを知っていた。……だから、それを知った上で俺は託されたんだ。君の未来と、最悪の結末になることだけを回避することを。織斑一夏君が拉致された時に亡国機業が彼に打ったのはエヴォルヴと呼ばれる、絶対天敵の因子を組み込んだ薬だ。……なんでそんなものを彼に使ったかというのは、かなり複雑になるが幾つかの理由がある」

 

「……それは、」

 

「世界を作り直すための世織計画。そこに大きく関わるのが、かつて行われた最高の人類、超越者を生み出すための計画。"織斑計画"。織斑一夏という人間と、織斑千冬、織斑円の出生に関わる真実。そして、世界をリセットするために最も重要なのが篠ノ之束の生み出した、形にしたISと、君の両親が研究していた限界突破瞬時加速。奴等の狙いは、織斑の姓を持つ人間とISのコア、それから君なんだよ」

 

 さて、と彼は疲れたように息を吸うと続けた

 

「……君のご両親と一夏君に投与されたエヴォルヴは、簡単に言ってしまえば誰でもISを使用可能にする薬だ。"人であることを捨てさせて"ね。一夏君の場合、これは後々彼からさっきの織斑計画のことと一緒に話があると思うが、ある体質のお蔭で進行が遅く体の中で投与されたものを拒絶できていた。結果、俺が投与したワクチンで完全に治癒。けど、ご両親はそうはいかなかった。俺が見た時は、ギリギリ理性が残っているくらいで手遅れだった。 ……言われたんだよ、"殺してくれ"って。エヴォルヴは人を化物に変える。もし放っておけば恐らく化物になったご両親が君を手にかける。きっと、それを理解していて言ったんだと思う。だから、俺が殺した。"もしもの時は君を頼む"と、そう言われていたから」

 

「それが、あの日の真実なんですか。つまり二人は、亡国機業によって人じゃない存在に変えられて、……えと、春人さんはそれを止めるために殺したと」

 

「……そんな事態になった原因を作り出したのは、俺だ。俺が技術提供をしなければそんなことにはならなかったかもしれない。だから、二人を殺したのは俺でもあり、君には俺を裁く権利がある。許してほしい、とは思わないさ。取り返しの付かないことをしたと、今でも思ってるから」

 

「正直、わかりのせん。春人さんを憎めばいいのか、どうしたらいいのか。……私には少なくとも、貴方は悪意で二人を殺すようには見えなかった。それに、結果論かもしれないけど何度も私を助けてくれて、守ってくれて。一夏も、助けてくれた」

 

 納得なんてできない。はいそうですかと割り切れるわけがない。すぐに、どうしたらいいのかなんて決められるわけがない。

 でも。私にどうしても彼が悪意のある人には見えなかった。

 

 あの日の真実だけはわかった。二人が何をしていたのかも、今までわからなかった真実についても。

 世界のリセットに人類の滅亡、絶対敵性という敵に、本当にここまで聞いてしまえば後戻りなんてできなかった。

 

「……きっと私は、貴方を許すことは出来ません」

 

「だろうね。俺は、君に殺されても文句は言えないと思ってるよ。例え、異なる世界においての自分の母親の過去だとしてもね」

 

 彼は年上で、異世界の自分の子供だと言われてもいまいち理解が出来ない。そう、思うことも出来ない。

 納得だって出来ない。けれど、

 

「でも、私は貴方に復讐したいとは思いません」

 

「……え?」

 

 目前の彼が驚いていた。てっきり、私が彼を殺すだとか、復讐するだとかそう考えていたのだろう。

 

「貴方を殺しても、なんの解決にもならない。むしろ、今の状況でより多くの情報を持ち戦力でもあるあなたを殺したとして、それは間違いなく間違った選択です。 ……事情は理解できました。どうして貴方がパパとママを殺したのかも。その理由も。そしてきっとまだ沢山あるんでしょうけど、今の世界についても少しだけ」

 

 あの夢の世界から、間違いなく彼は私を助け出そうとしてくれた。

 一夏を私のところに導いたのも、彼だった。

 そして、あの海での戦闘で助けてくれたのも彼だった。

 

 許すことなんて、できない。納得なんて、できるわけがない。

 でも、それで尚私は彼を恨もうとは思わない。復讐しようとは考えない。

 

 だって、彼は――あり得た最悪の結末からは、私を守ってくれたのだから。

 両親に殺される。愛していた二人に殺される、その結末から助けてくれたのだから。

 

「私は、貴方を許しません。納得なんて、できません。 ――でも、真実を教えてくれたこと。最悪の結末だけは回避させてくれたことには感謝しています。 だから、これからは力を貸してください。本当の敵を知りに行くために、何もかもに対して精算をするために」

 

 

 恐らく一夏と出会う前の私なら。千冬さん達に保護される前の私なら復讐を選んでいただろう。

 けれど今は違う。今、最も重要なのは……真実を知った上でどうするかだ。

 

 納得はできない、けれど復讐すべき相手は彼ではない。

 それに、あの日の真実と世織計画の正体がわかった今成すべきことは、

 

 

「――もし、亡国機業の計画が成功したらどうなりますか」

 

「……人は大半が滅びる。残った人間も、人である保証はない。確実に言えることは、違う形であれど俺の居た世界と同じ末路をたどることになる」

 

 先にあるのは、滅亡。滅亡しなかったとしても、人が生きる世界とはいい難い結末。

 私は正義の味方でもなければ、英雄でもない。そんなものになりたくもない。

 

 けれど、もしそうなってしまったら私屋、一夏の未来は。みんなの未来は間違いなくないのだろう。

 そんなのは嫌だ。私は生きたい。彼と、一夏と生きていたい。これからの未来を一夏やみんなと過ごしていきたい。

 

 だから、もう一度私は決めた。

 

「そんな結末は、絶対に嫌です。ですからさっきも言いましたが、これからは私達に力を貸してください。勝手な言い方ですけど、私と一夏、それにみんなが未来を掴むために」

 

 一夏がきっと、何かを選んだように。 

 私ももう一度、未来を選ぶために戦おうと決めた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 時期は8月。IS学園はまだ夏休み中ということもあり、学園敷地内に人影は多くない。

 といっても、教員である千冬や麻耶。臨海学校での一件での当事者の一夏達は学園に残っている。

 

 リィスの退院は目が覚めてからそこまで時間を要しなかった。というのも、長期間に渡る昏睡状態の間、身体のコンディション管理は束がほぼ完璧といっていいほどに行っており、リハビリにおいても春人の知り合いだというとある大学研究員の女性のお蔭で、目が覚めて数日で身体は問題なく動く状態まで回復していた。

 

 退院までの間に幾つかの出来事もあった。織斑春人の語ろうとする真実、それを語るにはまず前提が必要だった。

 

 まず、千冬に円、そして一夏の出生について。かつて織斑計画と呼ばれ、"束と千冬が忌避した"最悪の計画について。その知る限りの全貌を千冬と束、そして円は一夏へと伝えた。

 

 次に、3年前の真実。何故リィスの両親が殺される事態になったのか、そしてその裏では何があったのか。それについても春人から全員へと伝えられた。最後に。恐らくこの世界に実在すれば、最悪の敵となる存在。絶対天敵についても。

 

 前提となる真相と情報。それを伝えられて、本題を話す日。関係者の姿は、IS学園のち家施設。完璧に情報が隠蔽されたミーティングルームにあった。

 

 

「……さて、やっと本題に移れるね。早速だけど話してもらおうか、織斑春人」

 

 急かすように言ったのは束だ。対して、部屋の前方。投影スクリーンの前に立つ春人は"今の私は織原です。わかってますよ"と言葉を返した。

 

「まず、既にご存知の方も多いと思いますが、俺は織原春人。IUIの学生で、加えて言うならこの世界の人間じゃない」

 

 その事実について知らされていなかったリィスと一夏、関係者であるマドカ以外の専用機持ちに動揺が走るが、今は気にしていられないと言うに彼は続ける。

 

「既にエーヴェルリッヒさんの過去について、3年前の事件と、織斑計画と呼ばれる計画についての話は関係者終わっているので、ここからは順次話をしていきたいと思う。 ――その前に、一夏君は何か聞きたそうだね」

 

 そう言葉を投げられた一夏は少し迷うにして、

 

「……もうひとつだけ、教えてもらっていいですか。ええと、春人さん?」

 

「そんな緊張しなくても。ここでは、俺は君とエーヴェルリッヒさんの子供じゃなくただの大学生なんだから。 ――それで、何かな」

 

「第二回モンド・グロッソ。誘拐された俺を助けてくれたのは春人さん、ですよね。あの時、俺は彼奴等……亡国機業の奴等に何をされたんですか?貴方は俺に、何を打ったんですか?」

 

 一夏としてはまだ謎があった。誘拐されたあの日、暴行を受け、その中でなにか薬物を打たれた。診断上でも特に問題ないと出てはいるが、一夏としてはそれが何なのか知りたかった。

 

 

「それも今から話す内容に含まれることだから、どちらにしても話そうとは思っていた。結論から言おう、君が投与されたのはエーヴェルリッヒさんのご両親に投与されたものと同じものだ」

 

「なッ……でも俺は今もこうして、」

 

「落ち着いて。……エーヴェルリッヒさんのご両親は間に合わなかったが、君については間に合った。というより、これについては俺も謎が多くてね」

 

「謎……?」

 

「言うならば、一夏君。君の場合、ウィルスの進行が異常に遅かった。思い出すのは辛いかもしれないが、あの時君は暴行を受け、身体的に弱った状態にあった。なら逆に、弱った体に対してウィルスは早く進行するはず。なのに、君への進行は極端に遅かった。俺が到着して状況を確認した時点で、恐らくそれなりの時間が経過していた筈だがにも関わらず、君の進行度は初期の初期だった。 だから、対応が間に合った。俺があの時君に打ったのは、投与されたウィルスに対する除去ワクチンだ。安心していい、恐らく君に再発はない。更に言うなら ……君に対してもうあのウィルスは意味がないだろう」

 

「……意味がない、というのは」

 

「織斑計画については君は聞いているね。最高の人類を人の手によって作り出すための計画。そして、その成功例第一号が織斑千冬先生。次いでの成功例が織斑……失礼、東雲マドカさん。彼女と同時期に生み出されたのが一夏君、君だ。計画自体は既に破綻している。関係者も既にこの世にはおらず、真相を知るのは篠ノ之束博士と、先日知らされた関係者だけ。 ……の筈だったんだが」

 

 春人はそこで言葉を切った。そして暫くの沈黙の後、『すまない』と言って、

 

「未来に置いて俺が知り得たのは、この研究は破綻して、そして研究員は全員どんな事情があれど既にこの世からは居なくなっていた。他で知り得ていたのは、言ったように篠ノ之束博士と君達だけ。……その筈だった。この世界で亡国機業について調べているうちに、最悪なことが判明した。 この研究は、亡国機業でも行われている」

 

 全員が息を呑んだ。それもそうだ。もし、織斑計画と呼ばれていたものと同じものが亡国機業で行われていたとしたら、最悪だからだ。

 

「ち、ちょっと待て!亡国機業でも行われている?んな話、元構成員の私らでも知らねえぞ!?」

 

「……オータムさん。とても言いにくいことですが、彼女 ――あえてこう呼びましょう。織斑 円さんについての出自についてはご存知ですか」

 

「ある程度は、だがな ……マドカもその織斑計画によって生み出された一人で、ってのは本人から聞いてるが ――ちょっと待て」

 

 そこでオータムは黙った。それと同時に顔が真っ青にもなった。

 

 マドカはオータムに対して、織斑計画の概要しか伝えていない。自分が何者であるのか、どうして生まれてきたのかということしか。

 そして、事情を理解した上でオータムもまた深く踏み入らなかった。マドカはどうあれ、自分たちの家族であると思っていたから。

 

 そして今、春人から告げられ。あることに気がつく。

 

 

「まさか、マドカが生まれたのは。 ――最初に出会った時、あんな状態だったのは。スコールが頑なになって、守ろうとしていたのは」

 

「……恐らく想像通りです。そして、スコールさんが亡国機業によって消された理由もお察しの通りです」

 

 周囲が訳がわからないという表情をする中、オータムは顔を真っ青にして壁によりかかり、『悪い冗談と思いたい』と呟き、マドカもまた目を伏せた。

 

 

「織斑計画については、申し訳ないけど俺から話せらることはこれ以上はない。……後は、当事者の問題であると思うので。 ただ、今の現状から話すなら一夏君、それにエーヴェルリッヒさんが昏睡状態となる原因になったあの無人機はその副産物と言っていい」

 

「……それ、どういうことですか」

 

 言葉を発したのはリィスだ。自分の昏睡状態になった原因の、あの化物。それと織斑計画、つまり自分の恋人の出自に関わるそれが関わっていると聞いてつい声が出た。

 

「さっきも言ったけど、織斑計画という研究は破綻している。そしてそのデータを基にして亡国機業は織斑計画を再現しようとした。が、結果は不可能だった。千冬さんや一夏君、マドカさんのような失礼な言い方になるけど、"成功例"を作り出すことは出来なかった。……結果から言えば、再現不可能だった。けど、そのデータを基に亡国機業は新しい試みを思いついた。 成功例を仮に作り出せても、制御できる保証がない。ならその劣化のものでも複製して、運用すればいいと。そう、例えば人工兵士。例えば、洗脳。織斑計画の成功例ではなくとも、優秀な素体をベースにして別のものを作ればいいという悪魔の発想をしたんだよ、奴等は」

 

「……人工兵士に、洗脳ってまさか。 デュノア社の一部が行っていた脳変性接続に、ドイツの人工兵士計画」

 

「基礎データは織斑計画の残滓を、素体はドイツで非合法に行われていた人工兵士計画の素体を、そして自分達の都合のいい兵士にするために、フランスのデュノア社。その一部がやっていた脳変性接続を利用した。その結果として生み出されたのが、あの時に交戦したあの化物だよ」

 

 亡国機業が考えたことはこうだ。織斑千冬や一夏、円のような成功例を作り出せたとしてそれを制御できるかわからない。ましてや、個人というものが存在していては"兵器"として運用するには不安要素が残る。

 

 だから、そんなものを持たない存在をれようすればいいとかんがえた。ドイツで生み出されたアドバンスド、その失敗作と呼ばれた人間を素体として、フランスで非合法に行われていた個人という存在を捻じ曲げる悪魔の研究。それを使用することで意のままに操れる完璧な素体を作り出した。

 

「……じゃあそろそろ、核心について教えてくれないかな。世織計画って、なんなのさ。この束さんでもそれについては一切情報がつかめなかった。でも……スコールが最後に残したデータが解析されて、少しだけ判明したことはある」

 

「ある程度は予想がついているのではないのですか?篠ノ之束博士」

 

「でも、これが真実だとは限らない。いや、真実だとは信じたくないと言ったほうがいいのかもしれないね。だから、答え合わせと行こうか。織斑春人」

 

 リィス達が遭遇した化物についてはわかった。そして、織斑計画についても、リィスの過去についても。

 だが、それが全てつながる先。亡国機業の目的である世織計画についてはまださっぱりだった。

 

 

「……先に、確認しておきます篠ノ之束博士。これは、ISという存在の根本にも関わる問題です、即ちこれから先に関わる人々には、それについて話して置かなければならない。それでも、構いませんか?」

 

 ISという存在の核心。それは恐らく、今の世界で多くの人間が知りたいものだろう。

 

 そもそも、ISには謎が多い。どうして女性しか動かせないのか、どうして織斑一夏という特異存在が現れたのか。その謎について恐らく知るのは、篠ノ之束だけであろうと言われているくらいには、ISについて多くをする存在は居なかった。

 

 春人のその言葉によって、その場の全員が困惑してざわめいた。だが、春人はまっすぐ束へと視線を向けており、対する束は暫く瞳を閉じ、すぅ、と息を吸って。

 

「――いや、そもそもISとは何なのかというのは私から話すよ。これは、私の責任でもあるから」

 

 多くの人間の視線が束へと向けられた。だが、冷静なものもある。それは、一夏と春人、そしてマドカのものだ。

 

「そもそも、ISはね。束さんがゼロから作ったものじゃないんだよ。イチから作ったものなんだ」

 

 その言葉に対して疑問符を頭の上に浮かべたのは、各国の候補生達だ。だが、その言葉を聞いた千冬とオータムはそれぞれ、『やはりか』と呟いた。

 

「束さん。 ……いや、私が作ったのは基本構造だけ。ISという全てをゼロから考えて、作ったわけじゃないんだ。既にあったもの、存在していたものをISとして形にしたんだ」

 

 

 とんでもないことを言われ、誰もが言葉を失った。

 そして、そこから束によって語られていくのは――今の世界の真実だった。

 

 





 さて、覚えて頂けている方はお久しぶりです。

 今まで何があったのかと言えば、仕事による忙殺、入退院の繰り返し、創作に対する疑問でモチベの低下。諸々ですがなんとか生きています。

 ISも次巻で完結。ですが、この話とかは12巻時点の内容と、後今はなきアーキタイプ・ブレイカーの内容から引っ張っています。もう原作から掘り起こすことは困難になりましたが、アーキタイプ・ブレイカーについての設定は作者自身で勝手に考えて考察・捏造しています。

 匿名で幾つか作品を上げたりしているので、こちらについては不定期更新となりますが、よろしくお願いします。

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