IS -Rachedämonin Silber-   作:名無し猫

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やらかし回&ストック切れと多忙で更新停滞。
リアルタクスェ……


円卓を統べる少女

 耳を疑った。今、束さんはなんと言ったのか。

 

 "その機体のフレーム全てには、展開装甲っていう束さんが最近開発したものと似た何かが使われてる"?つまりはそれは――

 

「それって。つまり何年も前から、束さんが最近開発した技術が存在していた、ってことですか?」

 

「……それもあるね。順を追って今のうちに話すね。このヴァイスに使われているフレームは束さんが第四世代専用に開発した"展開装甲"っていうパッケージや、装備を換装することなく、状況や用途に応じて即時切替可能な装備・アーマーが使われている。これは、最近になって束さんがやっと形にしたものなんだ。実用段階にして搭載したのも、箒ちゃんに渡した紅椿と、試験的に武装に利用した白式と黒式だけ」

 

「でも、それなら束さんがあの時――私を保護して下さったときに機体を調べて、それでわかるんじゃないですか?」

 

 私はあの時。千冬さんに負けて束さんに保護された後ヴァイスを一度フルメンテという形で束さんに預けている。それからは暫くの間調整やリミッター設置の関係で束さんの管理下にあった。だから、もしそんなものが使われているのならその段階で気がつくものだと思った。

 

 束さんはISの生みの親であり天才だ。そんなこと、保護されて結構な期間一緒に暮らしていた私はよくわかる。そんな人が気が付かないわけがないのだ。

 

「――怪しい、って感覚はあったんだ。ヴァイスを預かった時、装甲が普通ではない反応数値を見せていたから疑問には思った。けど、どれだけ調べても別段変わったことがない普通の装甲で、私もその時は"まさか、ありえない"って思って勘違いだと思った。けど、最近になってそれが大きな間違いだったと思い知らされたんだ。間違いなくこれは、展開装甲。それに似た何かだよ」

 

「……なんで、その展開装甲だっていうものだと発覚したんですか?」

 

「それは次の話になるね。展開装甲は第四世代専用の装備、私もそれを想定して開発をした。今までヴァイスは世代上の分類がなかったものの第三世代相当の性能だった。それが――これ、見てよ」

 

 束さんは新しくウィンドウを展開する。そこには私が保護されてからの同調率のデータと、コア・ネットワーク監視上でのデータが表示されており、そのデータはある時期を境に急激なフラグメントマップの変化を見せている。

 

 フラグメントマップとは、オリジナルISコアが自身を独自に開発していく道筋のことで、人で言う遺伝子だとかつて教わった。しかし、このような自己進化を明確に行うISというのは今まで存在がほぼ確認されていない。

 

 通常ならば、このフラグメントマップが急激な変化を生むことは無いのだという。それが今、私が見るウィンドウの中では――急激に変化をしている。これはどういうことだと思う。これじゃまるで、"本当にISが意識を持っているみたいで、生きているみたい"じゃないか。

 

「フラグメントマップが急激に変化している。……普通なら、有り得ないことなんだよねこれ。幾ら同調率やシンクロ率が高くても、フラグメントマップは穏やかに変化していく。だから急激に変化することなんてのはないんだけど、ヴァイスはそれを急激に行っている。その理由が、これから話す『無段階移行(シームレス・シフト)』ってシステムが原因だと思う」

 

「無段階移行、ですか? ……聞いたことない言葉ですね」

 

「そりゃそうだよ。だって――"束さんが最近開発したはずのもの"なんだから」

 

 つまり、最近開発したシステムに、最近開発した四世代用の装備をヴァイスが生み出した?

 

「無段階移行。搭乗者の蓄積経験値により性能強化やパーツ単位での自己開発が随時行われて、高度な操縦支援システムを備えることで操縦者に依存しない機動性能を実現するもの。ややこしく言うとあれだから、簡潔に言うとね――ヴァイスが自分で装甲を展開装甲のような何かへと変化させ、装備も生み出した。そして自己開発じゃ足りない部分があったから束さんに"作れ"って催促してきたんだよ。 もう、わかるでしょ」

 

「ッ!? "最初から"無段階移行が搭載されていた?」

 

 第四世代の装備というのは束さんでなければ制作できないのだろう。にも関わらず、ヴァイスはそれを自分で開発した。そして足りない部分を"コア・ネットワークを通して開発するように催促した"。

 

 ――明確に意識を持っている。そう思えてならなかった。

 

「その通り。といっても……ヴァイスに無段階移行ってシステムは存在していない。けど、自分で自己開発と進化を行っている。つまり、無段階移行に近い何かを持っているということになる。それについては束さんもわかんない。展開装甲についても、なんでコア・ネットワークを自ら使って束さんに催促してきたのかも。 ……こんなコア見たことなくてね、だから束さんはヴァイスのこのコアを改めて呼称することにした。"インテリジェンス・コア"ってね」

 

 インテリジェンス・コア。つまり、知能を持つコアということなんだろう。けど……それではまるで、本当に。コアが生きているみたいだ。

 

「……それから、スコールから連絡があったよ。リーちゃんが言ってたいっくんが見たっていう金色のことについて」

 

「本当、ですか」

 

 私の言葉に対して束さんは頷いた。つまり、何かがわかったということだろう。しかし束さんの表情は浮かないようであり、何か――深刻そうでもあった。

 

「――正直ね、束さんは久しぶりにこんな感覚を持ったよ。久しくて、忘れていた感覚。  "怖い"って思った」

「怖いって、何がですか?」

「……私もちょっとわけわからなくて、まだ整理してる段階だからこれってことは言えない。けど掴んだよ、金色の正体を」

 

 金色の正体を、掴んだ?私はその言葉を聞いて目を見開いた。けど、束さんが怖がる?それ程に金色とは、そうさせる何かを持っているのだろうか。

 

「言えるキーワードは、"イレギュラーナンバーコア"扱いのロストナンバー01。そのコアを使っているISであるということ。……再度になるけど、リーちゃん。落ち着いて聞いてね」

 

 束さんの声は、僅かに震えていた。信じられなかった、あの束さんが震えていることに。束さんやスコールさんが見つけた真実というのは、それ程に恐ろしいものなのか。それ程に、深淵へと繋がるものなのだろうか。

息を呑み、私は言葉を待った。

 

「私が制御できなかったイレギュラーナンバーコア。それを、私はある人物に託した。きっと"その人達"なら私が制御できなかったそれを、扱えると思ったから」

 

「……それは、誰です?」

 

「――君のご両親だよ、リーちゃん」

 

 その言葉の意味が理解出来なくて、私はその場で固まった。

 

 

    ◆     ◆     ◆

 

「箒のやつ、こだわるなぁ……」

 

 紅椿の装備や機動能力について先程から何度も千冬姉と討論を繰り返しては、調整のために空へと飛びテストを繰り返す箒。箒は、頑固というかなんというか。昔から納得行くまでちゃんとやらないと気がすまない奴だった。きっとあの束さんが託すと言った紅椿についても思うことがあって、それで納得行くまで調整をしたいのだろう。

 

 束さんはリィスと取り込み中?みたいで、データ関係の調整とかは巻紙先生がやってくれてるみたいだ。あの人……すごい雑な人に見えたけど、あのタイプ速度とか手際の良さ見てるとそうじゃないんだな。遠目でその操作に相川さんが感心してるし。

 

 箒は千冬姉と巻髪先生と紅椿のことで熱くなってて討論中。他の皆もそっちに興味があるようで、意識がそっちに向いているようだ。

 

 そういえば……結局リィス、昨日は泳がなかったな。やや遅めに海に来て、クロニクルさんとかが獲ってきた魚とかいつのまにか巻紙先生が用意してきた肉やら野菜でバーベキューすることになって、そこに参加してたくらいか。

 

 ……なんていうか。あいつの水着姿を見たかった、というのはある。いや、やましい理由があるわけじゃなくて。けど、付き合うようになってからあいつが恥ずかしがったり照れたりしてるのをよく見るようになって。それ見てるとすげぇドキドキする。

 

 いや、臨海学校だから何か期待したとかそんなやましいことはない。大体、今まで同じ部屋でそんなこと一度も無かったじゃないか。

 

 もしかして、気を遣ってくれたんだろうか。1人の時間も必要だろうとか、そんな感じに。だとしたらそんな気にしなくていいのになとも思う。昨日の夕食時に聞いたけど、ちょっとしたトラブルがあったんだとか言ってたな。大丈夫だったんだろうか。

 

「……一夏」

 

「リィス? 束さんとの話、終わったのか?」

 

 見れば、話が終わったのかISの展開状態も解除して、ISスーツ姿で俺の所まで歩いてくるリィスが。しかし、どうかしたのか。元気が無いような、深刻そうな――また、1人で抱え込んでるんじゃないかと心配になる。

 

「うん、一応終わったかな。 ――箒、まだやってたんだ。こだわるね」

 

「本当にな。さっきから何度も何度も武装の調整に納得行かないらしくてな、いつのまにか千冬ね、おっと。織斑先生も熱が入ってるみたいだ」

 

「うわぁ……織斑先生だけじゃなくて礼子さんも、あれ完全に真面目モード入ってる。暫くかかりそうだね、あれ。 ――えっと、昨日はごめんね一夏。ちょっと、トラブルがあって」

 

「旅館で何かあったのか?結局泳がなかったみたいだしさ」

 

「……水着、見たかった?」

 

 多分意図してやってるんだろう。隣に立つとリィスにしては珍しく、小悪魔的な笑みを浮かべて視線を向けてくる。いや、ズルいぞそういうの。

 

「本音を言えば、まぁ……うん」

 

「言ってくれなきゃわかんないよ?」

 

「見たかった、すごく」

 

「一夏かわいいなぁ。明日、また自由時間でしょ?その時にね」

 

「期待してる」

 

「……いや、そこまでストレートに言われると私も恥ずかしいんだけど」

 

 お返しだよ。顔真っ赤にして目を逸らすリィスはとてもかわいい。しかし、様子が何かおかしいな。どこか取り繕っているというか、なんというか。

 

 ……この前言ってたリィスの事情は、俺が想定していないくらいに重いものだった。こいつが背負ってるものを知って、それで初めてちゃんと理解した。とてつもなく重いものをリィスは今までたった1人で背負ってきたんだなって。

 

 重いとは思った。けど、逃げ出そうとは思わなかった。逃げないと決めたから、受け入れると決めたから。ずっとリィスの隣に立つ、そう決めたから。

 

「一夏、あのね」

 

「ん?どうしたんだよ」

 

「……今日、ね。一夏の部屋に行ってもいいかなって」

 

 ああ、部屋か。夜は夕食食べたら自由時間だし、問題なんて、

 ……待った。ストップ。Wait。今リィスはなんて言った。

 

 確かに日常的に同じ部屋で、それが普通みたいな感じで過ごしてたし付き合ってからもそんな感じだけど、今は臨海学校中。そして部屋は別々だ。それが何を意味するのかわからない俺じゃない。

 

 いや、確かに経験はあるぞ?中学時代なんて、修学旅行の時に女子の部屋に遊びに行こうとしたり夜中に行こうとして大目玉なんていうのは実際に見てきたから知っている。俺はやってないけど。

 

 つまりいつもと違う特殊な環境下なので、そんな状況でそんなことを言われたら動揺する。学園でなら同室なんて気にしない。だが今は別だ!

 

 れっ、冷静になれ織斑一夏。素数を数えろ。……素数数えるあれって確か、意味ないんだよなぁ。

 

「待て、待ってくれリィス。状況が飲み込めない、どういうことなんだ」

 

「織斑先生は夜から教師陣で飲みに行くらしくて。そのまま泊まりらしいよ? ……許可は貰ってる、から」

 

「いやいや待て。そのだな、俺にも色々心の準備と言うか――」

 

「そっか……嫌か、じゃあ仕方ないね」

 

「いや、違う。その嫌じゃなくてだな、だが俺としては何の心構えもなしには駄目というか、だから駄目だっていうか、」

 

「……ぷっ」

 

 リィスが笑った。あれ、もしかして俺……からかわれた?

 

 だとしたらなんてことをしてくれるんですかねリィスさん。貴女のその小悪魔的ノリで完全に赤面状態かつ心がズタボロなんですが。

 

「ごめん、まさか君がそこまで動揺するなんて思わなくて」

 

「この行き場のない羞恥心どうしたらいいんだ。俺も男だっての……」

 

「君にそんな度胸がないことを私は知っている」

 

「反論できねぇのが辛い。それで、どこまで本当なんだ」

 

「先生達いないっていうのと部屋に行きたいっていうのは本当。 ……ちょっと、話があるっていうか」

 

 話っていうのは、この前のあれについてだろうか。

 

 リィスが追ってるっていう金色のIS。その件については千冬姉からはそれは死んだほうがマシだと思うくらいの雷を落とされた。どうして言わなかったんだとか、そんなに私が信用ないだとか、まぁ色々言われて最後はなんとかリィスに宥めて貰って渋々落ち着いてくれた。千冬姉が心配してくれているのはわかる。言わなかった俺にも落ち度は、あると思う。……けど、リィスのことがなかったらきっとこれは一生胸の奥にしまっておこうと思ったことだったのだ。

 

「――わかった。 けど俺も男だぞ、本当何するかわかんないかもな?」

 

「君にそんな度胸があるならどうぞ。多分夏休みのこととかの話もすると思うよ。そうなってもならなくても一緒にドイツ来てね?」

 

「えっ俺あのアッパーな修羅の国に連れて行かれるの」

 

「どっちにしてもお義父さんには紹介したいから来てね? 大丈夫、お義父さんは普通の人だから」

 

 本当だろうか。確かリィスのお義父さんって空軍大将じゃなかったか。

そういえばクロニクルさんから前にリィスのお義父さんは過保護だとかとかって聞いたことあるような覚えが。……俺、生き残れるのかなぁ。

 

「なんか無理してるか?」

 

「……うん。してるかな、結構考え込んでてね」

 

 疑問を呈し、やっぱりかと思う。リィスが普段ならやらない仕草をしていたからだ。付き合いはじめて歩いたりする時とかに距離が近いってことはよくある。けど、彼女が何かしら不安だったり無理してたり。そんな状況の時にはあるサインをする。それに気がついたのだ。

 

「頼れよ?」

 

「うん、わかってる。 ――頼らせて。ちょっとというか、かなり堪えてるから」

 

 その言葉を聞いて、黙ってリィスの頭の上に手を乗せる。彼女はこの動作が好きなのか、こうすると安心したようにしてくれる。

 

 気がつけば束さんが紅椿の調整に加わっており、何やら巻紙先生とあーだこーだ言っている。犬猿の仲という言葉があるが、巻紙先生のイメージ的に犬と兎というのは仲が悪いのだろうか?

 

「たっ、大変です!」

 

 リィスの頭に手を乗せて、彼女を撫でる。それに目を細めて満足そうにしているのを見ながら安堵していると、突然山田先生が大声をあげて走ってきた。何やらただごとではないらしく、急いで山田先生がタブレット端末を織斑先生へと渡す。

 

「……馬鹿な!」

 

 突然、怒鳴り声が聞こえた。それは驚きが混じったものであり、見れば千冬姉は"信じられない"といった表情でタブレットを見ていた。

 

 おかしいと思ったのか、巻紙先生も千冬姉と山田先生へと近づいてタブレットを確認して、動きが固まった。

 

「ありえねぇ。嘘だろ――"あいつが墜とされた"?」

 

「……それに、"複数箇所同時"だと?軍は何をしていた!」

 

「あの馬鹿何してんだ――!ええい、私が出る!ガキ共は下がらせて、 ……何だ?通信?」

 

 会話が少しだけ聞こえた。巻紙先生は携帯端末を耳に、そのまま何処かにいってしまう。何か小声で千冬姉と山田先生は会話をした後。山田先生が『わかりました』と言って、相川さんだけ連れて来た道を戻っていった。

 

「全員聞け。たった今、委員会から連絡があった。詳しいことは移動してから説明するが、特務レベルAの事態が発生し、専用機持ちは全員その対応にあたってもらうこととなった。クロニクル、専用機持ちのオペレーターはお前に一任する」

 

 専用機持ちの中で明らかに苦い顔をした人間が居たのを見た。東雲とラウラ、そして――リィスだ。何か、とてつもないことが起こったのだと理解する。そして……俺には、同時にとても嫌な予感がした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 銃声が響いた。それは連続的なものであり、複数の弾丸を連続して撃ち出すような音。

 

 そんな音が何度も何度も木霊するこの場所は、地獄といってよかった。

 

「ファック!何なんだあれは!」

 

 それは、この場に生きている兵士の言葉だ。米国人特有の肌に身体的特徴。そして、彼が着ている軍服にはアメリカ軍であることを示すものが存在した。

 

 既に建物としての機能を果たせなくなった瓦礫に身を隠し、弾幕を凌いでは銃を連射し、危なくなったら逃げるという動作を既に幾度も繰り返している。

 

 その地獄で、生きる人間は追われていた。異形とも呼べる、ISのような何かに。

 

 グレネードのピンを引き抜き、その異形へと投げた。効果がないことはわかっている、狙いはダメージではない。

 

 瞬間。異形の近くにあったIS用の燃料タンクが爆発した。

 

「へっ!ざまぁみろ!人間ナメんなよ!」

 

 しかし、彼も米国兵士である。しかも、大統領直属のある部隊の兵士。

故に油断しない。素早くリロードを行い、持っていたM4を構える。これで終わってくれていればいい。そう思ったが

 

「うおっ!そりゃああれくらいじゃISなんて傷一つつかないよな!」

 

 毒づきながら再び放たれたレーザー弾の雨から逃げる。動きは止められた。だがそれは一瞬だ。こちらを追うあのISのような何かは健在であり、再びこちらを視認すると攻撃を放ってくる。

 

 走る。しかし、それは逃げるためではない。あのISのような何かを何とかするためだ。"自分は兵士である"という誇りが彼にはあった。逃げることも必要だとかつての上官には教えられた。

 

 しかし、今は逃げる訳にはいかない。"ここを捨てる訳にはいかない"。帰る場所を、彼女達が帰る場所を護らねばならないと思ったからだ。

 

 だから走った。既にこの場所。IS用の基地はどこもかしこも瓦礫だらけであり、目を凝らせば既に息のない"モノ"も存在している。信じられないことばかりだった。このISのような何かの襲撃、実験予定だった銀の福音の暴走、そして。なによりも――

 

 自分達の姫であり騎士。自分達が支えたいと望んだ少女が撃墜されたこと。

 

「ああ、くっそ!死にたくねぇけど逃げたくもない。だが、生身であんなバケモノとどうやって戦う」

 

 幸いといっていいのか、あのバケモノはそこまで頭が良くないらしい。代わりに、火力は異常だが。

 

 走り、思考する。その時だ、

 

「おいッ!そこのアメリカ兵、こっちだ!」

 

 声が聞こえた。それは、走る先にあるまだかろうじで無事であるタワークレーンから響く声だ。見れば、そこには生きた人間が存在した。それは、軍服姿であり、腕にはイスラエル軍を示すマーク。

 

「そのままクレーンの下を全力で突っ走れ!早くしろ!」

 

「よくわかんねぇがわかった!」

 

 走る。小細工を考えずに全力で前に走るように逃げる。

 

 背後からはバケモノが追ってきており、レーザー弾を連射してくる。だが走った。走り、運良くその弾に当たらず、言われた通りクレーンの下を通過した。

 

「くらえバケモノ!」

 

 ヒュオンッという大きな風斬りの音が鳴った。同時に、何かが空から落ちてきた。それはISの"実弾"装備が詰め込まれた鉄製の箱だ。空中から勢いをつけて落とされたはそれは、耳に響くほど大きな音をたてて、そのバケモノを押しつぶした。

 

 見れば、身体を押し潰される形になったそのバケモノは身動きをとれなくなっており、無理矢理箱の下から這い出ようとしている。

 

 それを見ての、二人の行動は早かった。

 

 米軍の男は自分が持っていた残り全てのグレネードを同時に投げた。そして、イスラエル軍の男は急いで地面に置かれていたロケットランチャーを構えると、動けないバケモノへと放った。

 

 手榴弾とロケットランチャー、その爆発音と同時。押しつぶしていたその箱も連鎖して爆発した。

 

 爆破地点は燃え上がっており、炎の中は煙でどうなっているのかが判別できない。しかし、バケモノはすぐに追ってくるような気配はない。

 

「……やった、のか?」

 

「おいおい米国兵。そういうの、ジャパニーズのアニメではフラグという奴らしいぜ?」

 

 タワークレーンからワイヤーロープを使って器用に降りてきたその男は言う。米国兵はフラグとは何だ?と思いつつも言葉を返していく。

 

「だがあの爆発だ。……幾らISとて、絶対防御とやらを貫通してしまえば殺せるはずだ」

 

「ああ。流石のISも無傷ではないとは思うが――あんた、生き残りか?」

 

 米国兵の男はイスラエル軍の男に問いかけた。その返事として『そうだ』と返される。

 

「通信が死んでて状況がわからん。イスラエル本国や軍部にも連絡がつかない、そっちはどうだ米兵」

 

「残念ながらこっちもだ。……しかし、これじゃまるで地獄だ。こんな酷い戦場も久しぶりに見た」

 

「ISが普及してから、俺達男……いや、男の兵士のような奴らが見てきた生身の戦場ってのは少なくなったからな。本当に、酷い有様だ」

 

 周囲を見れば、そこにあるのは男性だけの遺体ではない。女性と思わしきものも混ざっており、事態の深刻さが見えた。

 

「まだ生きてるやつがいるかもしれん。悪いが協力してくれるか、米国兵」

 

「俺はあんたに助けられた。……ああ、喜んで手伝うさ。 そうだな。まずは、」

 

 男の言葉は最後までは続かなかった。突然響いた轟音でかき消されたからだ。その音に驚き、炎が燃え盛るその地点を二人は見れば――その空に、先程の化物が存在した。

 

「おいおい」

 

「ジョークにしてもこれはブラックすぎるぜ」

 

 その化物は、ダメージを負っていた。しかし、それはフレームが歪んだ程度のものであり、不気味な5つ眼は二人の兵士を捉えていた。不味いと判断して二人は逃げようとした。が、すぐに全身の血の気が引くことになる。

 

 ここは基地。そして、その港に位置する場所だ。背後は海であり、周囲は開けている。壁になりそうな障害物もない。

 

 絶体絶命だった。手持ちの武器もIS相手では無力といっていい。悔しいがここまで、そう諦めかけた瞬間。

 

 

「――撃ち抜いて、トリスタン!」

 

 

 声が聞こえた。それは、背後である海の上空からのものだ。

 同時に。全部で13発の光の矢が、バケモノを襲った。

 

 矢は全て手、足、胴、頭に突き刺さり、横転したそのバケモノを地面に縫い付けるように固定した。

 

 そこに存在したのは、騎士のようなISを纏った少女。騎士鎧とコートを合わせたような機械的な騎士装束。それを纏うのは、薄い小麦色の髪に半眼の眼を睨むように相手に向けている少女だ。

 

 その声の主を見上げて、兵士二人は違った反応を返した。イスラエル兵の男は『なんだ、あの少女は!』と驚愕したが……米国兵の男は、安堵したように笑っていた。

 

「やっぱりな。絶対に有り得ないと思ったんだよ」

 

「何……?米国兵、お前はあの少女を知っているのか?」

 

 それに対して返すのは肯定の言葉と、笑みだ。

 

「ああ、よく知ってる。――俺達の、最強にして最愛のお姫様だよ。そして、"あの機体"を持ち出したってことは、もう心配する必要もねぇ」

 

「何だ……?何者なんだ、あの少女は」

 

 イスラエル兵が疑問符を浮かべる中。上空から再び声がした。

 

「……遅くなって、ごめんなさい。 後、ちょっと危ないのでもうちょっとこっちに離れてくれると……助かります」

 

 ぎこちないような、人に慣れていないような言葉遣い。あまりにもそれはこの場に不釣合いではあったが、その少女が構えるそれを見て、二人はその場を離れた。

 

 それは、弓だ。機械的な竪琴も似た弓。それを構え、狙いをバケモノへと固定していた。

 

「……許さない。私の大事な人達、たくさん殺した。だから、"貴女"は許さない。 ナタルがおかしくなったのも、イーリスが大怪我したのも、全部……貴方達のせい」

 

 光が収束した。まるで、少女の感情に同調するように。

 

 敵意と殺意。それが込められた視線をバケモノへと向けて、少女は一撃を放った。

 

「薙ぎ払って。フェイルノート」

 

 閃光が走った。それは、極太といってもいい光の奔流だ。矢のように疾く放たれた照射砲撃。その一撃はバケモノごとその周囲を飲み込んで、薙ぎ払った。

 

 光が収まる。そこには一切何も残っておらず。この場に生きているのは少女と、男二人だけだった。

 

 自分達を襲ったバケモノも大概だった。しかし――それ以上に、この少女は何者なのかと。そうイスラエル兵は思った。

 

「……あの、」

 

「お、おう!?何だ、お嬢ちゃん」

 

 突然。ISを展開状態で港へと降下し、その後に解除したその少女に声をかけられる。ISスーツ姿。背はアメリカ人にしては低く、だが容姿は子供らしさと大人らしさを兼ね備えたような、どこか儚げな少女。そんな見た目をした、この場にはあまりにもあっていない少女に男は驚いたが、声をかけられたと理解し対応する。

 

 しかし、声をかけてきた少女はじっと自分を見ている。時折困ったようにし言葉を作ろうとするが止める、という動作を繰り返す。思わずイスラエル兵の男は思ってしまった。"あれ、俺なんか怖がらせるようなことした?"と。

 

「――こういう時って、問題、ないのかな?」

 

「あー……姫さん、多分問題なしだ。何かあれば、後で大統領から連絡があるかと」

 

「ん……ありがとう。……マイク、さん?」

 

「うわぁ姫さんに名前覚えられてて俺超光栄。生き抜いて良かった……!」

 

「部隊の人の名前。全部覚えてる、よ?」

 

 更にイスラエル兵は困惑した。姫?大統領?つまりこの少女はアメリカ、それもホワイトハウスに関わる誰かということになるのかと。

 

 だとすれば超大物だ。そして、先程のあのISを保有するだけの実力者……何者だ、そう思考を巡らせていると

 

「えっと……初めまして。私は"エクスカリバー"、です。それとこの子は私の友達、"ナイツ・オブ・ラウンド"」

 

 その少女、エクスカリバーはやはり人に慣れてないような言葉遣いでそういった後、ペコリと一礼し、その後に自分の左手薬指に存在する装飾の入った指輪を男の目の前へと差し出すように見せた。

 

「なっ……エ、エクスカリバーって、あの!?」

 

「……ひぅ……その、ごめんなさい?」

 

「い、いや謝らなくていい。こっちが勝手に驚いただけだ。しかし君が、君のような子が――アメリカ最強とは」

 

 驚いた。驚きつつも、びっくりしたように謝ってきた少女に言葉を返す。驚きたいのはこちらだった。まさか、噂に聞いていたアメリカ最強の存在が女の子で、子供だとは。

 

「だが姫さん、確か福音の起動実験開始時に一緒に飛んでったんじゃなかったか?念のためにって持ってきたプレジデント・オーダーで」

 

「……うん。福音が暴走して、ナタルがおかしくなって、止めようとしたら……見えない何かが海から出てきて、海に叩き落された」

 

「見えない、何かだって? だが何故福音を追わなかった、大統領からは――」

 

「……迷った、けど。IS学園が福音の対応にあたるって、連絡あった。基地が無人機に襲われてるって報告も一緒に。 ――えっと、ナタルは心配。でも、福音はまだ誰も殺してない。けど無人機は、皆を襲ってる。だから、一回戻ってきた。 ……ごめんなさい」

 

 しゅん、と落ち込んだようにして俯く少女に対して米国兵は慌てた。慌てて、『ああ、違うんだよ』とか『いや、助けられたのは俺達であって』などと暫くの間慌てる。

 

「……連絡、あったの。だからすぐに、ナタルと福音を止めに行く。あの見えないやつも、私が殺す」

 

「――うし、わかったぜ姫さん。こっちは生き残り探して、なんとか立て直す。助けてくれてありがとうな、姫さん」

 

「えへへ……褒めて貰えて嬉しい、な。 えっと、でも出る前にやらなきゃいけないこと、あるの」

 

「ん、何だ姫さん」

 

 

 

「――IS学園に、連絡しなきゃ。機密事項の連絡と……何か、すごく嫌な感じの奴が居るって」

 

 

 




 そんなこんなで第38話 円卓を統べる少女 をお送りしました。やらかし回第一弾、エクスカリバーちゃんの完全捏造設定。見た目も専用機も口調も何もかも作者の脳内妄想で生み出した。専用機を考える際に参考にしたのはイシュガルドのアイツ。武装とかは元ネタから参考にして、彼女を原作情報でわかってる範囲内で考えたらこうなった。

 やらかし回以外で言うならリィス一夏イチャイチャ回。果たして、一夏君には度胸があるのかないのか。仮にあったとしてリィスはその時どんな反応するんでしょうね。

 多忙にリアルタスク追加で、ストック切れにもなったのでまた更新が不定期に。私に時間をくれ、執筆している間は時間が停止する的な力をくれ。

 さて、正体不明の何かが出てきたけどどうするんだろうねIS学園勢は。とか考えながらの作者のあとがき。

 感想などお待ちしております。

 

 

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