IS -Rachedämonin Silber- 作:名無し猫
「どういうこと、それ――」
土曜の昼下がり。寮の自室でリィスが聞いたのはとんでもないことであり、それに対しての疑問を放った。
一夏は金のISに助けられたと言ったのだ。そして、それは三年前だと。それは己が両親を殺された時期と一致する。つまり、一夏は同じ年に金色のISに出会っていたということになる。
これは偶然なのだろうか、そうリィスには思えて仕方なかった。それを確かめるために、次の一夏の言葉を待つ。
「……束さんの関係者なら、俺が第二回モンド・グロッソの時に誘拐された事も知ってるんだよな?」
「うん、話程度には聞いてる。一夏が誘拐されて、それで千冬さんは決勝戦を棄権。誘拐された一夏をドイツ軍と千冬さんが救出したって聞いてるけど」
「――正確には"それは誤りだ"。確かに救出に来たのは千冬姉とドイツ軍だった。けど、その前に俺は一度助けられてる」
「まさか、」
「俺さ、誘拐された時に暴行を受けたんだよ。暴行されて、殺されそうになった。 ……最初に連れてこられた時、何か注射みたいなものを打たれて意識が朦朧とした。それで、バイザー付けたリヴァイヴに乗った誘拐犯が言ったんだよ『また失敗作か』って」
そんな話はリィスは聞いていなかった。千冬からも、束からも、ましてやドイツは自分の母国であると同時に味方だ。にも関わらず、ドイツすら知らないことだそれは。聞いているのは、誘拐された一夏を千冬とドイツ政府が救出。その後、千冬はドイツに対して恩を返すために一定期間ドイツ軍の教官を勤めたという話だけ。
怪我をしていたというのはあるのかもしれない。単純にそれだけで報告されなかったのかもしれない。だけど注射を打たれたというのは、どういうことだ。
「……それ、千冬さんとかには言ったの?」
「暴行されたのは話してる。けど――注射のことは言ってない」
「ッ、何で!?もしかしたらとんでもないものを打たれたのかもしれないんだよ!?」
「まだ続きがあるんだよ。 ……とりあえず、最後まで聞いてくれないか」
「あ――うん、ごめん」
『だから謝るな』と一夏は言って、話を続けた。
「注射を打たれた後、そんな言葉を言われてさ。俺は複数人の男と、ISを纏ったその誘拐犯に暴行された。 ……普通に殴られたりするだけならまだ耐えられた。けど、加減してたんだろうけどISで直接殴られたのは相当に痛かった。死ぬかと思った」
「大丈夫だったの?怪我は」
「かなりヤバかったけどなんとか。頭殴られるわ、骨折られるわ、拳銃で手足撃たれるわで本当死ぬと思った ――実際殺されると思ってさ、もう駄目かと思った時に現れたのが金色のISだった」
その言葉を聞いて、リィスは心臓が跳ねたような思いだった。
同時に何かの皮肉かとも思う。自分の想い人は金色のISに関わっていてることに。とても嫌な皮肉だ、そう考え、どうしてと疑問しながら一夏の言葉を聞く。
「突然俺が拘束されていた……多分廃工場なのかな。そこに現れてたった一撃。その一撃で誘拐犯を全員皆殺しにしたんだよ。俺の、目の前で」
「ッ……それは、」
「俺も意識が朦朧としててさ、殺されると思った。 ――そんな中で見たのがまるで金色の狼のような、龍のような顔をしたフルスキンのISだったよ」
「――そいつ、翼があった?漆黒の、黒い翼」
「……あった。一瞬しか見えなかったけど、廃工場内でその翼を広げてたのを見た。 それで俺も殺される、と思ったら――そいつ、突然動きを止めて俺を見たんだよ」
「それで、どうなったの」
「最初に言ったのは……『想定外だ』って」
リィスは唯一金色のISの特徴で覚えていることがある。それは、漆黒の翼だ。あの時、瓦礫の隙間から空が見えた。そこにあったのが金色。金色と、空に対して開かれた漆黒の翼。確信した、一夏が見たのは自分が追っている金色のISだと。
しかし。想定外、それが何を指すのかがわからなかった。
「それでそいつ、意識が朦朧としている中で俺に何かを打った。そしたら、身体が少し軽くなって。視界も安定してきて、その時にハッキリと見えて鮮明に覚えてるのが――その金色のISだ。男の声、多分だけど……変声機とかは使ってないと思う。怪我が酷くて声の特徴とかはよく聞き取れなかったけど、男の声だった。それでそいつが言ったんだ"ここで見たこと、あったことは言うな。織斑千冬にもだ"って。その後俺は意識失って、目が覚めたら病室だった」
「訳がわからない、あいつが一夏を助けた?しかも何かを打ったって。 それに、男――?」
世界で確認されている男性操縦者は一夏だけの筈だ。それは世界的にでもあり、束の認識の中ででもだ。
彼がISを動かしたというのは束にとってもイレギュラーであり、何故そうなったのかということを彼女自身未だに解明している状況である。にも関わらず、それよりずっと前。3年前に"男性らしき操縦者"が居た。その話にリィスは驚きを隠せないままで居た。
しかし、嘘ではないのだろうと思った。織斑一夏という人間はこういった真面目な話でふざけた嘘は言わない。だからリィスは、それを信じた。
「でも、信じるよその話を。 ……なんで、誰にも言わなかったの?口約束でしょ、破ることも出来る筈」
「誰も信じないと思ったんだ。男がISに乗ってるなんて言ってもあの時は誰も信じない。今は変な話、俺っていう実例があるけどそれでも尚……心の中にしまっておこうと思った。どうあれあいつは俺にとって恩人だ。そんな相手に対して、不義理は嫌だった。だから、誰もその存在を知らないなら放っておこうと思った」
確かにそうかもしれない。3年前、それは今より酷い女尊男卑最盛期真っ只中だった。世間ではモンド・グロッソ出場選手を神聖視する人間も多く、ISを使える人間=強者という考え方も今より強かった。そんな中で男性操縦者を見た、なんて言っても誰も信じない。一夏がそれを言ったとして怪我で幻でも見ていただとか、そんなことを言われるのがオチだっただろう。
それに、この話もリィスや親しい人間でなければ信じない話だろう。未だにISを動かせているのは一夏だけ、彼の場合動かしている現場を抑えられている実例があるからこそ認知されている。しかし、"見たことがある"という程度では誰も信じない。
思う。本当に皮肉すぎる偶然だ。一夏にとっては己が追う金色のISは恩人であり、逆に此方にとっては復讐すべき相手。そこでリィスはますますわからなくなった。"本当にあの金色のISは何なんだ"と。
しかし、かなり大きな手がかりを掴んだのは事実だ。3年前、金色のISはモンド・グロッソの会場周辺に居た。そして、それは一夏曰く男だった。リィスは前とは違う、明確な手がかりを掴んだ気がした。だが、同時に感じてしまった――とんでもない深淵を覗いてしまったのではないのかと。
それとは別に、今の彼女には心配することがあった。それは、一夏が打たれたという何かだ。以前、対抗戦の時に何かを打たれて悲惨な死に方をした生徒が居た。その生徒は男に薬物を打たれたと言っていた。だから、一夏ももしかしてと思って不安になったのだ。
「……一夏、それで身体に異常はなかったの? 多分だけど薬、"2回"打たれたんだよね」
「一応、救出された後に怪我の治療を受けてその際に一通りのチェックみたいなことはされた。けど、怪我以外は問題なしだった。むしろ酷かったのは怪我の方で、"後遺症が残らなかったのが奇跡"だったらしい」
「そっか、いやちょっと不安になっただけなんだ。 ……もしかして、一夏が打たれたのは対抗戦の時のあれと同じ何かじゃないのかって」
「おいおい脅かすなよ。俺はこうしてピンピンしてるぞ?」
「うん。そう、だよね――」
対抗戦の時のあのウィルスは発病タイミングをコントロールできると束は言っていたのを思い出す。しかし、既に3年が経過しておりその間一夏は健康だったという。つまり、一夏が打たれたのはあのウィルスではない何かということになる。では何だ?何を一夏は打たれた?もし、仮に。金色のISが一夏を助けたのだとしたら、少なくとも有害でないものの可能性だってある。しかしそれが何なのか見当がつかない。
考え、思考の沼に嵌まる。リィスがその深淵をもっと覗き込もうと思考した時。
「リィス」
「え? あ――えっと、何?」
「ちゃんと俺はここに居る。……どこにも行かねぇよ」
思考を中断した。考えることはある、思うこともある。けれど彼は今こうして無事なのだ。ともかくとして、今わかっている事で色々考えなければならないと考える。
「うん、君を信じるよ一夏。 ――この話、束さんとかにしても大丈夫?」
「……本当は黙っていようと思ったんだが、リィスの事情聞くとな。ああ、構わない。けど千冬姉に言う時はフォローしてくれると助かる」
「うっ……ちょっと、厳しいかも。多分千冬さん凄く怒るよ?」
「出来れば同伴だけでもしてくれると俺の命が助かる可能性が上がるんだが」
「同伴はするけど命の保証はしない」
「覚悟決めるかぁ。あー……俺臨海学校前に死ぬのかな」
大袈裟な。とも思うが、実際にありそうな話なのでなんとも言えなかった。しかし、そこでふと思い出す。今は7月。そして今一夏からはあるキーワードが出た。臨海学校だ。
「……しまった」
「どうしたんだよリィス。そんな『あいえすっ!』に出てくる真顔千冬姉みたいな顔して――いててっ!」
「私はあんな真顔だけで威圧感満載な顔しないし『ヒュゴゥ!』とかも言わない。本当失礼だな君は」
「悪かった、だから無言で立たせてアームロックはやめてくれ!」
「しょうがないなぁ」
「いつつ……それで、どうしたんだよ」
「臨海学校週明けて暫くしてすぐでしょ。……買い物とか準備してない」
「ああ、準備。準備ね…… あっ」
一夏も何かに気がついたらしい。数秒固まってすぐ、その表情には明らかな焦りが見えた。そして恐らく、一夏の状況はリィスも同様だ。ここ数日間時間が取れずそれどころではなかったというのもある。しかしよく考えてみれば、この週末身内はマドカとクロエ以外全員出かけているのだ。天下のIS学園の生徒がまさか遊びに行っただけだと考えた浅はかさに二人は焦る。
恐らくではあるが全員そのついでに臨海学校の買い物や準備にも出たのだ。とてつもなく不味い。もし、当日に準備してないなんて言ったら千冬に何を言われるのか。間違いなく粛清コースだろう。
それを恐れての二人の行動はとても早かった。
「リィス、提案が」
「奇遇だね、私も。多分同じだろうから一夏どうぞ」
「あー……こういう場合どう言ったらいいんだ? ――まだ昼過ぎだし時間あるだろ?」
「うん、というか今日明日は休みだね。土日だし」
「買い物というか、デートに行こう」
そんな言葉に対して、リィスはどこか可笑しそうに。楽しそうに笑った。
「なんか凄い準備に託つけたみたいだよね」
「いや、流石にまだ抵抗なく言うのは恥ずかしいというか、なんというか」
「真っ赤な一夏って何か新鮮だなぁ。 ――エスコートしてくれるんだよね?後、期待していいのかな?」
「エスコートはするが、その後の期待は何かによる。もし俺が思ってることなら程々にしてくれ、財布がヤバイ」
「大丈夫、私これでもお給金は結構貰ってるから残り少なくなったら安心して。やったね一夏、ヒモだよヒモ」
「すげぇ失礼というか不名誉なこと言われたよな今!? 個人的に絶対それは嫌だから安心しろ」
「冗談だよ、冗談。 ん……じゃあ――」
そこでリィスはあることを思い出す。それは、一夏と喧嘩をする前にしていた約束だ。結局喧嘩して、無かったことになってしまったが……今彼とこんな関係になっている今、今度はちゃんとしようと思いかつての約束をもう一度口にする。
「私から反故にした約束だけど、あの時の約束――もう一度、お願いしてもいいかな? 私とデートに行こう、一夏」
「……本当、ズルいのはどっちだ。ああ、喜んで付き合うさ」
思う。リィスは自分に対してズルいと言った。しかし、今の彼女を見ているとそれはそちらにも言えることだろう。一夏としてはまだ恥ずかしく、抵抗があるその言葉を彼女はかつて果たされるはずだった約束を持ってきて、少し恥ずかしそうに言ったのだから。
お互い様か。そう思い苦笑すると一夏は『んじゃ、行くか』と彼女に対して言って二人で部屋を出た。
結局その日、二人で水着売り場に居る所を偶然レゾナンスに居合わせた千冬と真耶に見られ色々と弄られたのはまた別の話。
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「突然で悪いが悪い話と個人的にとてつもなく悪い話があるんだがどっちから聞きたい?」
週明け。臨海学校まで後数日となったある日の朝のSHR前。マドカは自身の席の周囲に居たリィスとクロエ、そしてラウラに対してそんな言葉を言った。
とても深刻そうでその表情にはやや疲れが浮かんでいるように見えた。その姿は完全に社会に疲れ切った会社員のようで、心配そうにその姿を三人は見ていた。
「えーっと……マ、マドカ?大丈夫?」
「そうですよマドカ、そんな今にも人生辞めそうなサラリーマンみたいな顔してどうしたんですか」
「安心しろマドカ、私がいい医者を紹介してやる!きっとすぐに元気になれる!」
「リィス以外辛辣だなぁ!?……本当、切実に休みがほしい。フリーパスもう一週間欲しい……まだ私の期間残ってるが」
「え、えっとマドカ?私まだあれ残ってるからあげようか?」
「……くれると生きる気力が湧く」
「放課後にでも渡す。 ――で。じゃああえて聞くけど悪い話から」
リィスの言葉に対してマドカは『実は、』という言葉の後沈黙を作った。相も変わらず表情は深刻そうであり、まさに今戦場にでも居るのではないのかという程だ。それ程の事態なのか、と流石に若干ふざけていたクロエとラウラも息を呑み、言葉を待つ。
「……つい一昨日、急遽正式に確定した話なんだが。IS学園に新しく教師が来る」
「へー、教師ですか。教師?」
言葉を返し真っ先に顔色を変えたのはクロエだ。普段のポーカーフェイスや不敵な笑みはなく、普段閉じられたようにしているその眼は開き金色の瞳が見えている。そしてその場で立ったままガタガタと震え始めた。そんなクロエを見て『察したか』と言葉を返し、未だに理解出来ていない二人に対して言葉を続けていく。
「その教師は私達がよく知る人物で、腕は確かだが口が悪く、そして――実力だけで言えば全盛期の織斑先生と同じかそれ以上だ」
「ま、まさか。ちょっと待って!?それ許可出たの!?」
許可というのは、束やスコールの事だ。その人物はとてつもなく狂犬であると同時に忠犬でもある。そして、彼女は現在諸外国の調査や工作のために動いていたはずなのだ。何をどうしてどうやったらIS学園に来て教師をすることになったのか、リィスには理解出来なかった。
ラウラも何のことなのかを理解したらしい。恐らくSAN値チェックに失敗したのか『クラリッサぁ!クラリッサぁ!』等という言葉をスマホ型端末に耳を当てながら叫んでおり、鞄の中の教科書を確認している箒の所に走っていってしまった。
そのまま箒に泣きつく形になり、箒自身も事態が理解出来ず『なっ、何事だ!?何があったラウラ!』などと言いながら肩を揺さぶるが目は虚ろで反応がない。ちょっとした騒ぎになった。
「……生き残ったのは貴様だけか。フフフ、歓迎しよう。盛大にな!」
「マドカも何かおかしくなってない!?正気に戻って! ほら、フリーパス貰うまで死ねないでしょ!?」
「はっ……私は何を。すまない、正気を失っていたようだ」
おそらく自分が考えている人物だろうと、確証があった。その人物はまさしく狂犬にして"世界最凶"。恐らく専用機持ち全員が束になっても絶対に勝てる相手ではない存在。確かに口は悪く雑な所もあるが、マドカとリィスは頭の中では理解していた。仕事は完璧であり、義理に厚い。更に言うなら実技教師という立場ならあれ程に有能な人材も居ないからだ。
そして、リィスは恐る恐るその名前を口にした。
「オータ――ま、巻紙礼子さん?」
「……大正解だ。そして恐らく、」
そこでまるで死刑宣告だというように、キーンコーンカーンコーンというチャイムが鳴り響いた。それを聞いてリィスは急いで自分の席へと戻ろうとしたが、背後から追い打ちと言わんばかりにマドカからの言葉がやってきた。
「多分、もう来てる。さっきから私の携帯端末にチャットがうるさい」
「えっ」
◆ ◆ ◆
SHRの時間。教室正面の教壇には千冬が立っており、その表情には彼女には珍しく疲れが見えた。そして、教壇横で待機する真耶もそれを見て苦笑いしている状況。明らかにいつもと違う状況に対して一組生徒全員は身構える。『絶対何かが起こる』という考えが全員にあったからだ。
「……おはよう、諸君。実は個別トーナメントが終わり、臨海学校まで後数日になったが今日はお前達に連絡がある。IS学園に新しく赴任してきた先生が居る。その教員には一組の担任補佐と、実技関係の教師をして貰うことになった」
ざわめき出す教室。本来、ただの転校生だとか男装している生徒だとか、こういった新しい教師くらいでは既に一組は動じない。しかし、いつも朝は凛としてる千冬がこれほどに疲れ切っているのは見たことがなく、声にも覇気がないのだ。その教師は只者ではない、そんな予感がしたのだ。
『では、入ってきて下さい』という疲れた声の後、教室の扉が開かれる。クラス全員が息を呑み、既に誰なのかと知っているリィス達は各々異なった反応をしている。リィスは苦笑い、マドカは頭を抱え、クロエはガタガタと震えており、ラウラは『箒クラリッサ箒クラリッサ……』とうわ言のように呟いていた。
扉が開かれ、入ってきたのは女性だった。年齢は若く恐らく20代、茶色のロングヘアーに千冬と似た鋭い目つき、スーツ姿。世間体で見れば間違いなく美人と称されるであろう人物が現れた。
「今日からこのクラスの担任補佐と、実技授業の担当になった"巻紙礼子"だ。学園に来る前は国際IS委員会の実働部隊の実技教導とか、まぁ色々していた。あー……教師だからとか、あんまり気ぃ使わずに遠慮なく接してくれていい、というか接しろ。そういう堅いのは嫌いだからな。 と、こんな感じでいいか織斑センセ」
現れた巻紙礼子。オータムに対して全員が言葉を失い沈黙した。美人、そこまでは良かった。だがそれに似合わず口調はまさにヤンキーといった感じで、振る舞いや態度も初対面では教師とは思えない程だ。しかし、彼女の"遠慮せずに接しろ"という言葉は生徒たちの心に響いたようだ。
「もうちょっとまともに自己紹介できないですか、巻紙先生」
「これが素だからなぁ。取り繕っても着飾っても仕方ねぇだろ? ――ああ、そうだそうだ。"リィス"、お前男出来たんだってな! で、何処まで行ったよ?」
突如として礼子からそんな爆弾が投げられた。同時、クラス全員の視線がリィスへと向く。そしてリィスはといえば俯いたまま肩を震わせており、そのまま勢い良く立ち上がると、思わず。
「時と場所考えて下さいよ礼子さん!?ぶっ飛ばしますよ!?」
「おぉ……言うようになって姉貴分としては嬉しいぜ! いいぜ、掛かってこい!久しぶりに特訓してやるよ!」
スパァン!と目にも留まらぬ速さで何かが空中を奔り、軌跡を描いたかと思ったらそれは礼子の頭へと直撃してとてもいい音をたてた。彼女は『うごごご……』と言いながら頭を抑え、その一撃を放った千冬を睨みながら頭をさする。
「生徒の前でなんてことを言ってるんですか、巻紙先生」
「いや、だがな織斑センセ?こう、姉貴分としては気になって、」
「 弁 え て 下 さ い 」
「……はい」
「結構です。エーヴェルリッヒ、お前も座れ。粛清されたいか」
千冬に睨まれ、出席簿を今度は投擲の構えで向けられ慌ててリィスは席につく。恐らくあの一撃を受けてはいけない、きっと本気であれを投げられたらいくら自分の反射神経といえど目視できないと思ったからだ。故に急いで座る、少なくともここで死にたくはない。
何故礼子が学園に赴任したのか、恐らくマドカは事情を既にスコールから聞いているのだと考えるが自分は聞いていない。だが、なんとなく予想はついていた。何かしら動きがあった、ということなのだろう。でなければ礼子を学園に投入するはずがないとリィスは考える。
それ程の何かなのか、そしてそれは――己が聞いた、一夏のあの話に関係しているのかなどと考えながら視線を教壇へと戻せば、そこでは再び千冬が話を開始していた。聞けば、臨海学校についての日程についての話だった。
一夏との関係が落ち着いて、周囲のことも落ち着いてきた。だから一度、一夏の話を基に……もう少し束や、協力してくれている人達を頼ってみようと考えるとともに、自分のことについてちゃんと報告しておこうかと、リィスは思った。
そんなこんなで第33話 狂犬、来る をお送りしました。マドカ完全に過労状態。元々あった社畜根性は抜けず結局仕事しちゃうマドカ。結果として色々ストレス過負荷に。さて金色さんちょっとづつ見えてきましたよと。一切動かない亡国機業は何考えてるのやら。
もしかして有給消化中?などという冗談はおいておいて。トンデモ戦力が学園に投下されたけどどうなるのかなぁとか考えながらの作者のあとがき。
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