IS -Rachedämonin Silber-   作:名無し猫

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すれ違う心

 ラウラとシャルルが転校してきた当日のお昼休み。学園本館から出て、生徒会室が存在している職員棟をあがった先にある屋上。そこにある屋上庭園にリィス達の姿は存在した。

 

 珍しくあからさまに顔をひきつらせているのはリィス、そしてリィスに抱きつきながらに幸せそうにしているラウラ。それを見ながら疲れた顔をしているマドカとクロエだ。

 

 一夏達には『ちょっとお話してくる』とだけ伝え、返答を待たずそのまま此処に連行してきて今に至る。

 

「それで、」

「はい!なんでしょうか姉様!」

 

 ぱあっ、と。まるで尻尾を振っている犬のように嬉しそうにして、リィスの制服に擦り付けていた顔をあげるラウラ。弁明しておくと彼女は犬ではない。兎である。いろいろな意味で。

 

「なんで君がここにいるのかなぁラウラ…私、お義父さんとかから何も聞いてないんだけど」

 

 その言葉に対して頷くクロエとマドカ。リィス、クロエ、マドカは篠ノ之束の関係者であり…亡国機業や世織計画について知る人間である。そして、各々目的を持って動いていた。

 

 ドイツ空軍の一部と篠ノ之束、更にドイツ政府は協力関係にある。この事実は世間に公表はされていないが、束とドイツの間に取引があってそれを互いに秘匿するという契約がされている。

 

 つまり、ラウラがもし学園に来るという話があればその詳細について連絡や資料が来るはずなのだ。にも関わらず、そんな話はなかった。例えるなら、男女交際でやや特殊な病気と性癖を持った女性だ。まさに今のラウラは俗にいう『来ちゃった』状態だったのだから。

 

「はい!姉様が結婚されると聞いて」

「誰に吹き込まれたの」

「クラリッサです!」

「あの人は…!ぐ、具体的に何を言われたのかなぁラウラ…」

 

 そこでラウラはリィスに抱きついたまま思い出すような素振りを見せて、

 

「姉様が織斑一夏と同室の仲だと聞いて、それをクラリッサに話したら"将来を誓う関係"だと聞かされました」

「…いや、そんな事実ないからね? その同室っていうのは誰から聞いたの」

 

 そろり、そろりと屋上庭園から逃げようとする影があった。クロエである。そんなクロエの気も知らず、ラウラはそのままの状態でリィスの背中側。逃げようとしているクロエを指差した。

 

「クロエです」

「クロちゃぁぁぁぁあん!?」

 

 全力で逃げようとするクロエ。だが、それを許さない存在が居た。マドカだ。クロエはデータ系であり、マドカは実戦型。それも修羅場をくぐり抜けてきたような人間だ。故に、もがいても逃げられるはずもなく…マドカに拘束され、そのままリィスの前まで連行された。

 

「あ、あのですねリィス。これには深い訳が」

「慈悲はあげる。言い訳くらい聞こうか」

「じ、実は少し前にラウラと連絡した際に…同室のことを話してしまいまして…」

「ああうん…それでラウラがそのことをクラリッサに話して、勘違いしたと。クロちゃん無罪――クラリッサは有罪、どうしてやろうか」

 

 リィスがクラリッサに対してどうしてやろうと考えていると。

 

「ま、待って下さい姉様!私が勘違いしたのでしょうか…?だとすればクラリッサに罪はありません!部下のやったことは私の責任でもあります、どうか私を罰して下さい!」

「ラウラは本当純粋な子だよねぇ…ああうん、なにもしないから大丈夫。冗談だから、ね?」

 

"

【通信兎】『狂犬みたいだった影が完全に消えてますね、流石ですリィス』

【エム】『完全に犬だな。 …どうやったらこんな忠犬が出来るんだ』

"

 

 そんな会話が個人間秘匿通信回線鯖"兎鯖"でされて、ため息を吐きつつ涙目になっているラウラを慰める。

 

「で、話戻していいかな。 何も聞いてないんだけど…どうしてここにいるの」

「それは、」

「クロちゃんが盗聴防止してくれてるから大丈夫だよ。それにここ、滅多に人来ないし」

「つまりこのような場所で織斑一夏とあんなことやこんなことをされていたのですか!?」

「またクラリッサか。そういう関係じゃないと何回言ったら… そろそろ怒るよ」

 

 流石に不機嫌そうなリィスに気がついたのか、ラウラはコホン、と咳払いをして――

 

「…大将閣下から言われてきました。今後、"君の力が必要になる可能性が高い"と言われて」

「なるほど。てことは…もう、亡国機業とか、例の件については聞いてるね?」

「Ja(ヤー)。資料を確認した時には信じられませんでした。まさか、あんな兵器が実在するとは…それに無人機とは」

 

 元々、ドイツは国として篠ノ之束と協力関係になることを複雑に思っていた。束との協力関係、正確には空軍上層部との個人的な関係があるということでドイツ側は『触らぬ神に祟になし』という考えで黙認していた。

 

 しかし、その関係が変わった出来事があった。IS学園での襲撃事件である。

 

 ドイツは色々問題を起こす国だった。といっても、一部の研究機関の話ではあるが。リィスが過去に襲撃した違法研究施設の中で、ドイツの施設は3件。全てが人体関係の施設。

 

 更に言うなら、既に束により粛清を受けたが…今ここにいるラウラが生まれる過程や、越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)についての研究。違法研究、特に人体とISを結びつけるものについては束は忌避しており、度を超えたものについては相応の処罰を下している。そんな中での無人機。その無人機には人の脳が使用されており、束の個人的事情を言えば愛娘のような存在を負傷させられたのだ。

 

 束から取引を持ちかけられたのだ、ドイツは。

 

 身内のついでに、ある程度の研究開発への助言はしてやる。だから国の力を使って"私に協力しろ"と。これは破格の取引だ。ISの生みの親である束にどんな形であれ協力をして貰えるかわりに、束に協力するというのはメリットしかない。

 

 しかしドイツは知っていた。自分達がどんなことをやらかしてきたのかを。つまりこうも取れるのだ、"お前らの国で行われていた違法研究についてとりあえず黙っておくから協力しろ"と。

 

 半ば脅しに近い取引ではあったが、ドイツはこれを了承。そして束が早速ドイツに対して言ったのは――ラウラの学園行きだった。

 

「私は、大将閣下の命と…自分の意志でここに来ました。そして姉様、貴女の力になりたいと、そう望んで私は此処に居ます」

「…ラウラ」

「私には貴女の復讐はわかりません。詳しくも知りません。ですが…"私を殺してくれた"貴女の力になりたい、傍に居たい」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒという少女は一度死んでいる。そして、それを殺したのはリィスである。かつての彼女の復讐は『生まれてこなければよかった』という、生に対するものだった。

 

「私の復讐は、まだ終わっていません …見つけていないんですから、真相を」

 

 そして――彼女は今も探す。"許せない"という感情で、ある事件の真実を。

 

「私も、答えを探しに来ました。"ラウラ"として …今はちゃんと、ここにいます」

 

 その言葉に、どれだけの想いが込められていたのだろうか。…リィスはその言葉に対して

 

「――今度からは、ちゃんと連絡するんだよ」

「ッ… は、はい姉様!」

 

 ラウラが学園に来たのは、自分の養父と彼女なりの理由があってのこと。そして…亡国機業と世織計画に対抗するための戦力として、というこはリィスは理解できた。

 

 

が、

 

 

「…よくわかったよ。ラウラ、でも一番大事なこと忘れてる」

「大事なこと…に、日本の作法。アイサツとツマラナイモノに何か不備でもありましたか!?」

 

 本当この知識どこで仕入れてきたんだろうかと考えるが、恐らく当たっているだろう原因に心当たりはある。やはり制裁しておこうと決めて、言葉を続ける

 

「なんで連絡がなかったの」

 

 沈黙。

 

 ラウラが沈黙して、リィスから目をそらした。

 

「例の件とかラウラの復讐とか、それはわかった。 …でもそれって"学園に来た理由"だよね」

「は、はい。そう…です…」

「連絡がなかったのはなんで? …まさか、連絡できないくらいの事態がドイツであったの?黒兎隊とかに何かあった?」

 

 非常に真面目に、心配そうに聞いてくるリィスに対してラウラは目をそらし続けて、若干震えていた。マドカとクロエも『何か聞いてるか?』『いえまったく』と、疑問する。

 

「こ、個人的な理由で恐縮なのですが」

「…?」

 

「そのほうが"さぷらいず"になるとクラリッサに教えられて博士と大将閣下に相談しましたら…その…の、乗り気で…」

 

 人が三人分。ずっこける音が屋上庭園に響いた。

 尚、この件について後日関係者がこっぴどく苦情を言われたのは別の話。

 

 

    ◆     ◆     ◆

 

「…で、私としては一夏や諸々の人に誤解を解かなきゃいけなくなってもうかなり疲れ気味な訳だけど」

「お義兄様っていい響きじゃないですかリィス」

「クロちゃん他人事だと思って…まぁなんとかする。それで――シャルル君?のことだけど」

 

 とりあえず、一夏については夜にでも話をしておこう。噂についても話しておいたほうがいいのかなぁ…

 

 しかしながら、本当に私と一夏の噂はよく建つ。別に付き合ってる訳じゃないし、そんな関係でもない。

 

 …第一、私が一夏と釣り合う訳ないじゃないか。

 

「ラウラ、一応聞くけど何か聞いてる?」

「いえ、何も…。男ではないのは間違いありません。身体に男性独特の特徴がなさすぎるかと…」

 

 その通りなんだよね。あれはもはや書類だけ無理矢理作ってコスプレしてるだけのレベル。一般生徒は騙せても、ちょっと目利きの人には見抜かれるくらいに杜撰な変装。恐らくセシリアも鈴も気がつくだろう。

 

 思い出すのは、午前の授業。6月からはISの実戦演習ということで、一組と二組。三組と四組という組分けで授業をすることが決まった。そしてその合同授業。専用機持ちのうち、セシリアと鈴対一夏とマドカの演習が行われる。結果は一夏マドカペアの勝ち…というより、マドカが一方的に一夏を振り回して勝った。

 

 その間、シャルルさんが何をしていたのかを私はちゃんと見ていた。"首元のネックレストップに手を伸ばして触れながら演習を見ていた"のだ。推測ではあるけど、多分あれは録画。それもアナログな方法を用いてのもので、探知対策だと思われる。

 

 不審な点はまだある。演習での着替えは男子…つまり一夏はアリーナの更衣室だと決まっている。本館からアリーナまでは距離があり、時間がかかる。にも関わらずシャルルさんの着替えは非常に早かった。

 

「男装の理由は間違いなく織斑さんでしょう。ですが…あまりにも杜撰すぎて逆に不審です。彼、もとい彼女はデュノアですよ?」

「まぁ男性操縦者が第一目的。そして他の専用機のデータも採取するのが第二目的と考えるのが妥当だが…クロエの言うとおり杜撰過ぎる」

 

 彼女が男装している目的は色々考えられる。デュノアといえば世界的なISシェア第三位の大企業だ、それを考えれば尚更。ハニートラップという線が一番濃厚かな。企業にとって一番都合がいいのはそれだけど――男装の意味は一体?

 

 …仕方ない。ちょっと動くか。

 

「クロちゃん、マドカ。話してた通りちょっと束さんとかスコールさんに問い合わせてみてくれる?」

「わかった、今夜部屋に戻ったら確認しよう」

「束様にも聞いてみます」

 

 ちょっと手荒になるけど…私には考えがある。"わからないなら出てきて貰えばいいんだ"

 

「ラウラ」

「はい姉様!」

「ちょっとやってもらいたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

 そうして私は、此処にいる全員に話した。

 彼――もとい、彼女をあぶり出す作戦を。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…以上がラウラのあの言動の理由と、最近出回ってる変な噂について。本当疲れるね」

「な、なんていうかユニークな子だよな…。いきなり『お義兄様と呼ばせて下さい』なんてびっくりした」

 

 夜。寮の部屋でリィスは朝のSHRの事についてと、最近出回っている噂について話をしていた。朝の問題発言についてはリィスが7割位でっちあげた理由を説明しており、更に最近出回る噂についても話済み。

 

「ラウラ、小さい時から事情があって両親居なくて…それで引き取られた先でも箱入り娘同然に育ったからちょっと純粋というか、常識がないというか…ごめんね一夏」

「もういいって。でも、噂なぁ…。本当その噂どこから出てきたんだか」

 

 既に一夏にとっても自分とリィスの関係を噂されることは慣れている。その事実について聞かれたことはあるが『そんな事実はない』とキッパリ言っている。しかし今回はちょっと訳が違う。"クラス別個人トーナメントで優勝すれば、リィスか織斑君。好きな方と同室になれる"という噂だった。以前、リィスが媚を売って決定戦に勝っただとか、既に付き合っているなどという噂は流れたが今回はちょっと質が違う。

 

「…所でリィス」

「何かな?」

「何で荷物片付けてるんだ?というかその拡張領域収納すげぇな、俺も欲しいわ…」

 

 寮、一夏とリィスの部屋。リィスは自分の荷物をまとめては拡張領域に収納するという作業を繰り返していた。

 

 彼女の私物は常に整理整頓されている。だからそれに対して一夏は疑問を抱く。なんで片付けしてるんだ、と。

 

「白式は単一仕様の関係で空き領域ないから無理だと思うし、これ知り合いがテスト扱いで作ったのだから。 あれ、先生から聞いてない?」

 

 聞いていない。と一夏は思う。

 

「いや、シャルル君転校してきたでしょ?その関係でまた急遽部屋割り変更になったらしくて。それで私、クロちゃんの部屋に移動」

「…え」

 

 時間が止まったように固まる一夏。当のリィスはといえば、『あれ、何処に片付けたかな…』などと呟きながら片付けを継続している。

 

「所で、昨日の約束だけど――」

「ど、どういうことだよ!」

 

 突如。大声が部屋に響いた。それは一夏からのもので、焦ったように一夏はリィスを見ていた。

 

「…いや、だからね。シャルル君がこの部屋に入ることになったから、私はお引っ越し。2つ隣の部屋に移動するだけだよ?どうしたんだい君は」

「ッ…移動って、今すぐじゃないと駄目なのか」

「今日中にやれって先生からも言われてるからね。 …てっきり、私は君にも連絡が行ってるものだと思ってたんだけど」

 

 部屋の移動。これはリィスのある目的のためであるが…個人的な理由でも、部屋を移動したいという気持ちがあったのだ。

 

 その理由は自分の中の感情。これ以上…違和感を増やしたくなかった。その違和感はいつか自分を追い込む、きっとそれは一夏すらも追い込む。

 

 "わからない感情への恐怖"。それが、リィスの中にはあったのだ。

 

「明日にはシャルル君来ると思うよ。まぁ流石にずっと同室って訳にもいかないよ」

 

 そして、リィスは地雷を踏んでしまう。

 予想もしていなかった、彼女にとってもイレギュラーな地雷を。

 

「"君には散々甘えさせて貰ったからね"。 …本当ありがとう、助かったよ」

 

「…んだよ、」

「え?何か言った?」

 

「なんだよそれッ!」

 

 一夏の中で何かが切れた。そして、リィスの肩を掴んで向かい合おうとするが…位置が悪かった。そのまま壁に対してリィスを押し付ける形になってしまう。

 

「い、一夏?」

「…何が甘えさせてもらった、だよ。散々護られて、優しくされて、何も知らないのは俺だろ! ――あの対抗戦の事だって、」

 

 禁句だった。リィスにとっては対抗戦での出来事は出来るだけもう話したくないもので…特に、その真相を知る人間としては一夏をもう関わらせたくなかった。一夏は意図しなくても見てしまった。あの…対抗戦での少女と、リィスのやり取りを。

 

 それはリィスにとっては触れてほしくない、聞いてほしくないことだった。彼女にとっての違和感が大きくなる原因であり、その話をされると嫌だったから。見てほしくなかったのだ、本当の自分を。見てほしくない理由さえわからずに。

 

 違和感を生まれさせる禁句。それによって湧く感情を拒絶しようとして、リィスも一夏を睨みつけると、壁際に追い込まれている状態で彼を突き飛ばした。互いにとっての地雷、禁句。それが連発される中で、リィスは言ってしまう。

 

 最大の禁句を。

 

「…一夏、君には未来が約束されている」

「何言って――」

「"君はそのまま従っていれば安全なんだ"。未来も、安全もきっと約束されている …それでいいじゃないか」

 

 それは事実だろう。一夏は男性操縦者であり、その未来と安全性は望めば日本政府が保証する。実際、学園での生活を支援している一部も政府なのだ。

 

 世界只一人の男性操縦者。同時に身の危機だって生まれるが…基本的に国や政府が彼を護る。利用するために、データを欲するために。

 

 更識家がいい例だ。生徒会長である更識楯無、更識家の人間達。それらもまた一夏を護るという任務を受けている。それも、政府からだ。リィスは対抗戦を終えて、真相を知り、こう考えていたのだ。『一夏はそのまま何も知らず、平和に暮らすのがいい』と。

 

 間違いではない。きっとそれは客観的に見れば一夏にとって最良の選択。最も安全で、未来を守られるという選択。…だが、そこに本人の意志なんて存在していない。"護られる"というのは受け身なのだ。

 

 誰かにそうされている、それは見方を変えれば――選択の権利を全て捨てて、全て殺しているということなのだから。

 

「お前はどうなんだよリィス!いつもなんでも一人でやって、全部完璧にこなして見せて! …対抗戦の時だって、全部自分でやろうとして俺達を跳ね除けて! 鈴の言葉の意味が、わからなかったのかよ!」

「…それは、心配かけたとは思ってる。不甲斐なかったとも思うよ、でも」

「そうじゃない、なんで…なんでわからないんだよッ…」

 

 リィスにとっては理解できなかった。対抗戦での件は、全てが自分の不甲斐なさと力足りずだと思っていたからだ。箒が無人機に襲われて殺されそうになったことも、自分が死にそうになったことも、何もかもが。

 

「お前のその完璧主義や、全部自分でなんとかしようとするそれを強さだと思ってるのかよ、だったらそれは大間違いだ――それはただの、強がりと自己犠牲だ!」

「ッ…」

 

 パンッ、という乾いた音が響いた。

 それはリィスからのものであり…打撃されたのは、一夏だった。

 

 自分がやったことに対して一瞬見開くが、すぐに一夏を睨むような視線へと戻る。

 

「君に、何がわかるんだ」

「わかんねぇよ。ただ強がって、一人で傷ついて、"いつも通り"を装うお前の気持ちなんてわかるかよ」

 

 互いに冷静ではなかった。だからなのか、お互いが思っていた言いたいことや、思っていたことが吐き出されていく。

 

「――やっぱり、だめだ」

 

 リィスは息を吸い、深呼吸すると…まるで呪いのようにその言葉を呟いた。

 

「…君と私は、真逆だ」

 

 そのままリィスは一夏を押しのけて、部屋の入り口へと歩いていく。

 

 一度は一夏がこちらに踏み込んで、リィスはそれを拒絶して逃げたのだ。なのに、また踏み込まれた。そうされる違和感、それに対してリィスは――ただわからなくて、耐えられなかった。

 

「"Auf Wiedersehen"…一夏。 あの約束はナシにしよう。それと 殴って、ごめん」

 

 リィスが走って部屋を出ていきバタン、という扉が閉じられる音が聞こえる。部屋に一人だけ残された一夏は――『何故、どうして』という憤りと、自分に対する別の怒りがこみ上げながら立ち尽くすしか無かった。




――やがて二人は気づく。その違和感と、気持ちの正体に。


 そんなこんなで第19話 すれ違う心 をお送りしました。今回のお話はぶっちゃけ痴話喧嘩っぽい何か回。お互いすれ違った結果、ちょっとしたキッカケで喧嘩になって言いたいこと言ったという本当そんなお話。もしかしたら、彼女のあの言葉から推測してもらえば答えが見えるかもしれない。

さて、二人共どう理解しようとするのかなぁと。そんなことを考えながらの作者のあとがき。

感想などお待ちしております。

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