IS -Rachedämonin Silber-   作:名無し猫

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バッドエンド集1~3。人によっては胸糞展開とか映写に嫌悪感あるかもしれないので、回避したい人はバック推奨。


BADEND√ 1~3

■BAD END1 『彼が彼女と出会わなければ』 第3話:少年と少女より

 

「どうして、こうなったんだろうなぁ……」

 

 災難だ、そう思う。

 

 IS学園への進学にあたって学費やその他の費用の全ては政府が負担してくれるという話で、しかも返還も必要ないという話であった。

 

 普通に見ればこれほどおいしい話はないだろう。IS学園は俺でも知っているが、超一流と言っても過言ではないほどの学園であり、何より世界各国が関る世界的にも有名な学校だ。

 

 当然だが、学費だって馬鹿にならない。それこそ、一般家庭の親がそれを見たらまず金額を疑うレベルだ。IS学園が推進している奨学金制度や、もしくは金持ち、何かしらのバックアップがないと到底払える金額ではない。そんな自分でも桁がおかしいとしか思えない金額の修学費に、その他費用まで無償で出してくれる――ただの馬鹿なら美味い話だと思うだろう。

 

 だけど、タダほど怖いものは無いと言う。

 

 要するに、政府は俺にモルモットになれといっているのだ。モルモット、もしくは飼い犬になれと、そういうことなのだ。

 

 考えても見れば、世界初の男性操縦者で、俺はただの一般人で後ろ盾なんて無い。そりゃあ……千冬姉という人間が居るが、あれは別だ。千冬姉は凄いと思うし、尊敬もしている。だけど――常識的に考えれば、一個人が一人をもし政府や世界から守るとしたら、きっと一人の力では無理だろう。

 

 もし、政府が俺を捕まえておいた場合のメリットは?

 対して、デメリットは?

 

 そう考えた場合……恐らく、俺に対して支払うと言っていたあの金額以上の元は取れるのだ。

 

 例えば、諸外国への発言権。

 例えば、世界初の男性と言う希少性。

 例えば、極上のモルモットという存在。

 

 恐らく、このまま政府の言うとおりにして、IS学園へと仮に進学したとして……卒業すれば、最高のキャリアが俺を待っているだろう。きっと就職に困ることもないし、超エリートとしての人生街道を歩むことが出来るだろう。

 

 そうすれば、千冬姉にも、もう苦労を掛けることはないんだろう。

 いい事ばかりじゃないか、なのに――なのに。

 

 ふと思い出すのは、かつてバイト先であったことだ。あの時俺は……理不尽な男性を助けようとして、正義感から女性を糾弾した。その結果として男性は救われた。だけど――俺が受けたのは賞賛ではない。店長と、女性客からの罵倒だった。

 

 自分がやったことを、間違いとは思えなかった。実際あの時の男性は何もしてなくて、一方的に女性が立場を利用して言いがかりをつけていたのだから。

 

 間違った選択ではなかったと思う。けど……同時にとても理不尽だと、そう思ってしまった。

 

 夜道を歩く、思えば散歩程度の気持ちだったのに結構遠くまで歩いてしまった。ふと見れば、自分の今歩いている海沿いの道からは……人工島でもある、IS学園が見えた。

 

 自分が通うことになる、監獄とも言える場所。それを見て、思う。

 

 

 ――全部、受け入れてしまえば楽になるんだろうか 

 

 

 と。

 

 自分が藍越に行こうとしていたのに、IS学園に行くことになったこと。

 自分の人生は今、誰かに……誰かに首輪をつけられようとしていること。

 

 理不尽だと思った。どうして俺がこんな目に、そう思った。

 ふと思ったのだ。抗わずに、考えずに全部受け入れてしまおうと。

 

 自分の将来は確約されているのだ、政府に従っていれば俺はもう……千冬姉に迷惑かけることなんてない。

 

 仮に、あのバイト先の時のように女性に何か言われても、その場しのぎで適当に謝り倒して凌げばいい。

 

 必要なら、幾らでも媚を売ればいい。

 

 どす黒い何かが、俺の中で囁いたような気がした。それはとても甘美で、とても心地の良いものだ。自ら苦労なんてする必要ないじゃないか。俺は織斑一夏、ISを世界で唯一使える男。ははっ……そうじゃないか。そんな存在を欲する奴等なんて幾らでもいる、俺みたいな奴を利用したい女なんていくらでもいる。

 

 なら、利用させてやろうじゃないか。それで、何もかもが手に入るなら。思い通りになるのなら。

 

 ――俺は、喜んで女尊男卑の犬になろう。

 

 

    ◆     ◆     ◆

 

 その後の彼について、ここに記そう。

 

 IS学園進学後、彼は特に問題を起こすことなく学園での学生時代を過ごした。生徒からの評判は上々。イケメンで、優しくて、頭もいい。そんな彼に対して好意を抱く女性は幾らでも居た。

 

 そんな実情を彼は知っていた。他人から向けられる好意も理解していた。だから彼はそれすらも全て利用した。必要ならば相手が喜ぶ甘美な言葉を囁き、必要ならば関係も持った。それは学園で再会した幼馴染や、旧友。他の候補生に対しても同じだ。自分に惚れるように振る舞い、扱い。そうした。

 

 そして不要になれば――彼は相手について不穏な噂を別の相手に流し、自分は関係がないというようにして、生徒達の標的になるように仕向けた。

 

 これは噂ではあるが、IS学園で公にはされていないが自殺している生徒が何人もいるらしい。その中には代表候補生や、有名な令嬢も居たとも言われている。噂では身籠った生徒や人間もいたらしいが、結局の所噂だった。

 

 つまるところ、織斑一夏が糾弾されることは一度もなかったのだ。

 

 中学時代に彼の友人だった弾は、高校卒業後――ある旧友にこう語ったという。

 

『"あれ"は一夏じゃねぇ。俺の知ってる一夏は……あんな下種で、落ちぶれた野郎じゃなかった。蘭を無理にでも藍越に行かせて正解だった』

 

 と。

 

 高校卒業後も織斑一夏という人間の周りには、常に女性の存在があったという。

 

 いつのまにか、彼に対して意見する人間は居なくなった。何故ならば、彼に歯向かえば彼に従う女性に消されるからだ。

 

 いつのまにか、彼に友人は居なくなった。『友すら道具のように扱うお前は友ではない』と見放され、信用されなくなったからだ。

 

 いつのまにか、彼はひとりになった。友もおらず、"織斑千冬もいなくなった"。けれど彼は、それでもいいと思っていた。

 

『もう、俺は千冬姉に苦労なんてかけなくていい。1人で生きていける――だから、安心してよ千冬姉』

 

 かつて織斑一夏という存在だった、今はそうでない誰かが。夜の街の空にそう呟いた。今日も彼は、生きるためにどこかで女性を利用し、利用される。

 

 

■BAD END2 『彼女が来るのが遅ければ』 第14話:白銀の断苅者より

 

「ッ…こんな時に、」

 

 まただ。また、身体への負担が来た。

 

 そして…時間にして1秒。私はその場から動けなくて、反応も出来なくて――

 

「…え?」

 

 気がつけば、無人機が正面に居た。そして巨大な腕部で鷲掴みにされる。その衝撃で両手に持っていたバルムンクを手放してしまう。手放したそれが自動的に量子化されて、私は無手のまま無人機に拘束されてしまった。

 

 しまった。最悪だ。この状況では武器を展開できないし、エネルギーウイングでの防御も機能しない。セラフも先程の無人機に対して、"篠ノ之さんを助けるために"使ってしまった。

 

 それにどうして反応がなかった。オペレーターにはクロちゃんが、少なくてもこの局面には専用機が三機居たのに、どうして――

 

 なんて最悪のタイミングで、こんなことに ――タイミング? 最悪?

 

「…まさか、」

 

 無人機は私を鷲掴みにしている腕の力を、少しづつ強めている。まるで甚振るように。愉しむように。

 

 そして、私を捕まえている腕を…救援に入ろうとした一夏と鈴に、見せつけるように前へ出した。つまり、人質でもある…ということなんだろう。

 

 最悪のタイミングで、こいつは現れた。

 つまり…こいつは "最初から居た 見ていた"

 

 怖いと、恐ろしいと感じてしまった。少なくとも私は油断していないつもりだった、オペレーターのクロちゃんだってそうだろう。

 

 クロちゃんの技術はすべて束さん譲りだ。あの子が使う端末やプログラムだって、並のものではなく"世界最高位"レベルなのだ。

 

 私の専用機のセンサーにもそれの応用が搭載されている。なのに――こいつらはそれに感知されなかった。つまりそれは、束さんと同じかそれ以上の存在ということになる。

 

 よく見ると、この無人機は先程撃墜した無人機とは装備が異なっている。徐々に力を強めて、私を握りつぶそうとしていくその腕に対して、シールドも減っていく。

 

 五つ目の顔は…嗤っているように見えた。私のシールドが、命がデッドラインに近づいていくのを愉しむかのように。

 

 目的がある。復讐という目的が。

 まだ生きていたい、IS学園という場所に居たいという願いが。

 

 だけど、諦めにも似た感情が生まれてしまった。

 

 そしてそんな中で…ふと浮かんだのは、努力家で無茶ばかりする少年の姿だった。

 

 …"君"との約束。守れなくてごめんね。

 

 最後に私が感じ、消える意識の中で見たのは――首から下の身体全てへの激痛と、視界の中で廻る世界だった。

 

    ◆     ◆     ◆

 

 リィスが死んだ。その事実は、織斑一夏という人間に対して大きな影響を与えた。彼が最後に見た彼女は、己を見ていた。そして――言ったのだ。『ごめんね』と。

 

 焼き付いてしまった。彼女の、最後の瞬間が。

 

 シールドがデッドラインを超えて無人機に握り潰され、彼女の首がアリーナの空から地面へと堕ちた。日常的に見ていたその銀の髪がとても鮮明に見えて――"モノ"になった彼女は、そのまま地面へと叩きつけられて弾けた。

 

 無人機が握りつぶしたその腕にはそれまで生きていて、機能していた人だった部品が付着しており、それをゴミだというように無人機は地面へと捨てた。

 

 叫び、我を失った一夏はシールドのことなんて考えず無人機に鈴の制止を無視して切りかかった。しかし、元々有効打が入らない敵に勝てるわけもなく、埃でも払うかのような一撃で叩き落され意識を失った。

 

 結局その無人機は、"一夏が殺される瞬間"に現れた少女によって撃墜されることになった。誰もがリィスの死には自分の前では触れず、一夏が生きていてよかったと言った。それはきっと周囲からすれば心遣いだったのだろう。

 

 しかし、それが彼を追い詰めた。一夏は思ったのだ、自分が勝手なことをしたから。自分が弱かったから彼女を死なせた、彼女を殺したのだと。

 

 最後の『ごめんね』という言葉を鮮明に覚えていた。思う、『違う。謝るのは俺だ』と。弱かった自分を責めた。

 

 その後、彼は人が変わったようになった。卒業後に開催される『第四回モンド・グロッソ』、そこで優勝すると低い声で宣言し、まるで狂ったように鍛錬に明け暮れた。

 

 ISバトルにおいても、彼の戦い方は変わった。入学当初、誰かを護るためにという為にあったそのスタイルはもうない。

 

 勝つためならどんな手段でも使い、護るためならどんな卑劣な手でも使う。試合中の不意打ちや相手への脅迫、脅し、パワープレイは勿論として勝つために試合前の工作までするようになった。

 

 雪片を振るうその太刀筋にも躊躇いがなくなり、相手の急所を的確に狙うようになった。そして必要なら、精神的に追い込むために首や心臓を執拗に狙った。

 

 強くなるためならどんな手段でも使う。悪魔にさえも魂を売る。一夏は、そうなってしまった。それはきっと、彼にとっては贖罪であり許されたいという想いからだった。

 

 『ごめんね』と言った少女に許されたいと。そう思って彼は――修羅であり、羅刹へと堕ちた。

 

 

 

■BAD END3 『何処にも行かせない』 第19話:すれ違う心より

 

 パンッ、という乾いた音が響いた。

 それはリィスからのものであり…打撃されたのは、一夏だった。

 

 自分がやったことに対して一瞬見開くが、すぐに一夏を睨むような視線へと戻る。

 

「君に、何がわかるんだ」

「わかんねぇよ。ただ強がって、一人で傷ついて、"いつも通り"を装うお前の気持ちなんてわかるかよ」

 

 互いに冷静ではなかった。だからなのか、お互いが思っていた言いたいことや、思っていたことが吐き出されていく。

 

「――やっぱり、だめだ」

 

 リィスは息を吸い、深呼吸すると…まるで呪いのようにその言葉を呟いた。

 

「…君と私は、真逆だ」

 

 真逆。彼と自分ははやり正反対だと思い、やはり相容れないのだと理解する。

 

 一度は一夏がこちらに踏み込んで、リィスはそれを拒絶して逃げたのだ。なのに、また踏み込まれた。そうされる違和感、それに対してリィスはただわからなくて、耐えられなかった。

 

「"Auf Wiedersehen"…一夏。 あの約束はナシにしよう。それと 殴って、ごめん」

 

 だからこそ、嫌だった。その違和感が。だからこそ、それから逃げたかった。

 

 そう望むからこそ、リィスは決別の言葉を口にして一夏を押しのけようとした。

 

「何処、行くんだよ――」

「ッ……!?い、一夏、離して!」

 

 だが、それはできなかった。彼を押しのけようとした瞬間、リィスは再び壁に押し付けられたからだ。

 

 突然のことで反応できなかったというのもある。しかしそれ以上に今のリィスは頭の中が混乱していて、正常な判断ができなかった。そしてそれは、一夏も同じだろう。熱くなりすぎていて、判断ができていなかったのだ。

 

 壁に押し付けられ、身動きを取れなくされてリィスが感じたのは"恐怖"だ。動けない。いつものように少し力を入れて振り払えば逃げられるはずなのにそれができなかった。そして何よりも、予想以上に強い力で自身を壁に押さえつけている彼に対して困惑し、怖いと感じたのだ。

 

「一夏、冗談はやめ――」

「……そうだよな。お前がそうやって自分を犠牲にしようとするなら、無理しようとするなら」

「ッ!?きゃっ!?」

 

 近くにあった一夏のベッド。そこにリィスは押し倒された。押し倒され、ベッドに対して両手を抑えつけられる形になる。

 

 嫌な予感が全身に駆け巡った。だからこそ、リィスは逃げようとして身体へと力を入れようとしたが――力が入らない。

 

「そう、できなくすればいいよな」

「なっ……一夏、流石に君でも冗談が――むぐっ」

 

 身体をベッドへと押し付けられて、リィスはそのまま無理矢理唇を奪われた。抵抗しようにも力が入らず、何故かどんどん頭が麻痺していく。麻痺し、抵抗する力も弱まってしまう。

 

 抵抗する力が弱まり、暫くの間唇を深く交わした後に一夏は顔を離してリィスを見る。彼女の状態と表情はどこか呆けているようになっていて少し赤い。が……目はそうではない。抵抗しようとする意思があった。

 

「俺さ、多分リィスが好きなんだよ」

「何言って――私は、君のことなんて、」

「じゃあさ、好きにさせてやる。もう二度と自分を傷つけないように……俺のこと、好きにさせてやる」

「っ……や、やだ。やめてよ一夏、ね?お願いだから」

 

 恐怖状態。そんな状態から出た、普段の彼女からは絶対出ないもの。その"他人に対して頼む"という言葉。怯えるようにして言ったその言葉で、一夏の気持ちは更に強くなった。『誰にも渡さない、リィスは自分だけのものにする』と。

 

 だから一夏はその言葉を聞かずに、彼女の制服へと手を伸ばして、それを開けさせていった。

 

「好きだ、リィス。だから……全部欲しい。リィスの全部が、俺は欲しいよ」

 

 リィスが抗議の声を再びあげようとしたが、それを一夏は無視するようにまた唇を塞ぐ。そうして彼は、彼女を"自分のモノ"にしたいと思い、また手を伸ばした。

 


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