IS -Rachedämonin Silber-   作:名無し猫

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決別 『こたえ』

 クラス対抗戦での襲撃事件。世間に対するこの騒動についての報道は、実験中だったISの事故として片付けられた。それを疑う人間も居たようだが、一般人からすればそんなもの時間が経てば忘れるし、深入りしようとした人間はそれ相応の対応を受けた。

 

 世間に対する公表はそうだったが、実際には異なり…事実を知る人間の間では、慌ただしさを見せていた。今回の襲撃事件の真相は…学園だけにとどまらず、篠ノ之束の所にも飛躍していたのだ。

 

 対抗戦当日。篠ノ之束が主に使用しているメインラボのうちの1つが襲撃される。しかも、そのラボには当時束も居た。襲撃者は不明。だが襲撃を実行したのは複数の無人機。

 

 センサーに感知されずの襲撃となったため束も迎撃に苦戦。そこに救援として招集したのがマドカだ。その後、『嫌な予感がする』という束の直感でマドカに学園行きの命令が下り、無人機と交戦。これを撃墜。

 

 学園側の騒動でも不可解な問題が残った。

 

 変死体…というよりは、ほぼ肉片の状態で発見された学園の生徒『谷口 凛子』だが、彼女の遺体を学園側で調べた所…残ったていた肉片から肉食性のナノマシンが検出された。

 

 この肉食性ナノマシンについて学園側は調査。その結果について、関係者はぞっとした。これは感染者…というよりは、投与者の体内で潜伏し、特定の信号で作用するというもので…記録される限り過去に戦争やテロで使用されたことはなかった。

 

 また、彼女の保有していたスマートホン型の端末は、市販されているごく一般的なもので…内部を調べても怪しいプログラムというのは発見されなかったが、メールの送信履歴に不審なものがあった。

 

 タイトルは空白で、宛先は学園のホームページからも送信できる、問い合わせ専用アドレス。その内容は

 

『リサイクルって大事だよね?』

 

という内容で、全く意図は不明。

 

 彼女の両親についても問題が起こった。対抗戦当日、資産家である彼女の両親は対抗戦に招待をされており、VIP席の確保がなされていた。更識家の調査で判明したのは、彼女の両親は死亡。しかも、見つかった遺体から恐らく対抗戦当日に死亡した物と断定された。

 

 死因は異なり、父は首を斬られて殺害。その首は殺害現場である自宅内のテーブルの上にあった皿の上に置かれていた。母親については下半身が存在しておらず、そのミンチと思わしきものが自宅風呂場から発見されていた。

 

 猟奇殺人であるが…これが何を意図するのかも不明、更識家ではこの事件について引き続き調査を進めている。

 

 

 これが、今回の騒動での出来事の全貌。どの案件についても犯人は特定されておらず、また手がかりもない上に、意味がわからないメッセージだけが残される。

 

 結論から言うと、学園側と、そして束は一方的に掻き乱されたのだ。

 

 …が、それは手がかりを掴めなかった。という話である。掴んではないが、"わざと残された"手がかりはあった。

 

 それはリィス達が聞いた、谷口凛子の口から出たキーワード。

 "男がナノマシンを打った"ということだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 対抗戦当日深夜。IS学園敷地内、現在は立入禁止となっている第三アリーナの内部に千冬の姿はあった。スーツ姿、そして…手には一振りの日本刀。彼女は、ある人物と相対するためにここに来ていた。

 

 瓦礫がまだ残るアリーナのフィールド、そこに足を踏み入れる。そして見れば…目的の人物は、既に存在した。

 

 

「…"円"」

 

 

 騒動が嘘であるかのように、夜空は晴天であり満月だった。そんな月の光に照らされる…"IS学園服姿の少女"を見ながら千冬は言葉を放った。

 

「――久しぶり、と言えばいいのか。姉さん」

 

 肩ほどまである黒髪に、吊り目。千冬からすれば、昔の自分と瓜二つの少女が言葉を返した。

 

「ずっと私は一人だったよ。あの時、姉さんに見捨てられてから」

「ッ…、ああそうだ。私はお前を見捨てた。見捨てて…一夏を選んだ」

 

 千冬へと紡がれたのは、少女の過去の絶望。

 

「憎かったよ、何度も恨んだよ…辛かったよ、私は」

「…わかっている。私は、お前にそう思われても仕方のないことをした」

 

 一歩。また一歩と、少女…マドカが千冬へと歩みを進めた。

 続けて少女の口から紡がれるのは、怨嗟と憎しみだった。

 

「何故?どうしてって、何度も思った。"どうして私を選んでくれなかったの"って」

「…ああ、」

 

「死にたかった。でも死ねなかったよ。何度も私は利用価値があるからって、道具みたいに使われたよ?」

「――すまない」

 

「普通の生活をしている姉さんが羨ましかった。世界最強に上り詰めた姉さんが眩しかった。…"私の弟"と幸せそうにしている姉さんが、何より憎かった」

「ッ…すまない、」

 

 それは、少女の疑問と羨望。

 

 対して千冬の口から出るのは、後悔と謝罪の言葉ばかりだった。わからなかったのだ、目前の――己が見捨てた少女に、どうしてやればいいのかを。

 

「私を、殺しに来たのか」

「…何でそう思う、姉さん」

「私はお前を…円を見捨てたッ!辛かっただろう…怖かっただろう…。だが、私は見捨てたんだ! 恨まれて、憎まれて当然のことをした!」

 

 叫び。普段の織斑千冬からは考えられない叫びが木霊した。

 

 絶対に弱音など吐かないと誓った。そして、世界最強として君臨し続けるため己を殺した。

 

 選択したからには後戻りなんて出来ない。ずっとそう思い続けて。後悔と罪の意識を抱え続けて。そんな中の…殺してきた己の言葉が、千冬から出た。

 

「――そうだな、私は姉さんを殺しに来た」

「そう、か…」

 

 千冬は、死のうとしていた。かつて自分が最大の後悔と共に、見捨てた少女。それに対して…償いが出来るなら、命だって差し出す覚悟で今日此処に来たのだ。

 

 世界最強という仮面の下で、自分を殺した。殺した自分が持っていた…最大の後悔。

 だからこそ、弱さという懇願が出た。許して欲しい、という。

 

 持ってきていた刀は、自分のある縁に関わるものだ。償いとして、ケジメとして。もし妹がそれを望むなら、と…自らを殺すためにそれを持ってきたのだ。

 

 だから千冬は言おうとした。望むなら『私を殺せ』と。

 

 

「…私は、姉さんを殺す。"織斑"という姓を捨てて、姉さんを殺しに来た」

 

 

――しかし、妹が放ったのはそんな答えではなかった。

 

 

「姉さん、…今日此処に、死ににきたんだよね」

 

 図星だった。それで償えるならと、そう思って。

 

「私は ――そんな生きる事を諦める奴が大嫌いだ。私が絶望の中で、苦しみの中で藻掻いてきたのに死にたい? 反吐が出る。甘えるなよ姉さん」

「なッ…私は、お前に許されたくて、だから」

 

「ああ、やっぱりか」

 

マドカは何処か、納得したように言った。

 

「"やっぱり姉さんの足枷は私だった"。なら尚更だ…言ったろう、私は織斑の姓を捨てに来たと」

 

 それは、少女の決意だった。

 

 地獄の底で、絶望の底で。痛みと疑念に苛まれ、その先に出した…復讐という行為での答え。

 

「…私は確かに絶望の中に居た。だがその中で、私を命懸けで救ってくれる存在が居た。感情を教え、生きる道を示してくれた存在が居た。その人達のお陰で、また生きようと思えた」

 

 少女は言う。決意を、復讐という形にした、言葉を。

 

「だから私は、織斑としてではなく…東雲として。東雲マドカとして、もう一度生きようと誓った。手を伸ばしたあの大馬鹿達に恥じないようにみっともなく生きようと決めた」

 

 姉を恨んだ。弟を恨んだ。憎んで妬んで、殺したいとも思った。

 

 そんな一度は"殺意"という復讐に心を染めそうになった少女の手を引く存在があった。そして、その復讐は別の形に変化した。

 

 それは、復讐だ。"決別"という、復讐。

 

「…私は、貴女の妹で最悪だった。そして、貴女を許すつもりもない。けど、生きていてくれて良かった。それだけは嬉しかったさ」

「――円」

 

 満足気に、吹っ切れたようにマドカはふっと笑うと、そのまま千冬に背を向け、彼女とは逆方向に歩き出す。

 

 

「その名前はもう捨てた。私は、東雲マドカだ。――私が生きるために、さよならだ"織斑先生"」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 時期は5月末。既に対抗戦から一月近くが経過しており、あの騒動の記憶もクラスメイト達の中では古いものとなり始めていた。

 

 流石に早すぎないかと思うかもしれないが理由がある。それは…対抗戦以降、イベントが連発したからだ。

 

 対抗戦の後、更識楯無と名乗る学園の生徒会長に保護された俺達。保護されて、すぐに身体に異常があったリィスは保健室へと搬送された。

 

 …一緒にリィスを載せる担架と走って生徒会長がとても心配そうにしていたのをよく覚えている。リィスは、会長とも知り合いだったのだと思う。

 

 話したいことがあった、言いたいことがあった、聞きたいこともあった。とにかくすぐにリィスと話したいと。俺は…そう思った。

 

 けど、それは叶わなかった。あいつが運ばれた学園の医療棟の病室には…『面会謝絶』の文字があったのだから。リィスの身体への負担が相当だったらしく、1週間は面会禁止と言われて結局その間――姿を見ることもできなかった。

 

 鈴やセシリア達相当心配していた。そして、クロニクルさんに至っては…暫く登校を拒否していた。『私がリィスを殺しかけた』と…千冬姉が面談するまで言い続けていたらしい。

 

 そうして、1週間が経過して――リィスは戻ってきた。"まるで何もなかったかのようにして"。

 

 対抗戦の件、特にあの無人機と…谷口という生徒については厳重な緘口令が敷かれた。少なくとも…あの谷口という子については、鈴に無理矢理目を塞がれていて、リィスにも絶対見るなと言われていて何も見ていない。

 

 覚えているのはリィスの『傷になる』という言葉と…ただ耳に聞こえてきた、何かが千切れる音と、悲鳴だけだ。

 

 リィスは人付き合いが良くて少なくとも一組の中では友達が多い。だから、あいつが戻ってきた時はちょっとした騒動になった。クロニクルさんは泣きつくし、セシリアと鈴は深刻な表情でリィスと何か話していたし、のほほんさんや、清香達には抱きつかれていた。

 

 それに対してあいつは…"いつもと変わらない"ように接していた。『ちょっと怪我しただけだから、もう大丈夫』とそれだけ言って。

 

 その態度は、俺に対してもそうだった。戻ってくるやいなや俺は、話そうとした。言いたいこと、話したいこと、聞きたいことを――けど、その話題を振ろうとするたびにリィスはそれを避けるのだ。話題を逸らそうとしたり、はぐらかそうとしたり。やや強めに聞いた時は…無視までされた。

 

 ――俺は、わかってしまった。彼女が…俺が知らない世界の住人だということが。

 

 覚えているのは、あの冷たい目。そして、無機質な感情に、慈悲がない言葉遣い。違う、あれはリィスじゃないと否定したかった。

 

 …そんな俺にとどめを刺したのは、あの銃声だ。

 

 迷いなく、何の感情もなくあいつは――あの時撃った。

 焦って止めに入った俺にも言ったのだ、『必要ならそうする』と。

 

 自分の中での彼女のことがどんどんわからなくなっていた。気持ちについても、"どちらが本当の彼女なのか"についても。だから確かめようとした。そんな俺に対して返されたのは、いつも通りだった。

 

 拒絶された。否定された、と。そんなことないってわかってる筈なのに――そう、感じた。

 

 リィスが戻って来た、ということも対抗戦の記憶を薄める要因にはなっているだろう。が、他にも理由はあった。…転入生だ。

 

 恐らくこれが、リィスのこと以外で最も俺を驚かせた出来事。転校生がやってきたのは騒動から一週間弱後。リィスが戻ってきて数日後だ。

 

『ドイツの軍学校から今回転校してきた東雲マドカだ。長く外国に居たが、生まれは日本。…日本の文化にも久しく、何かと助けてもらうこともあるとは思うがよろしく頼む』

 

 恐らく、俺だけではない。クラス全員が目を疑った事だろう。転校してきたのは ――千冬姉と瓜二つの、同い年の少女だったのだから。

 

 当然、クラスメイトだけではなく学園の生徒が多く詰め寄り、本人はやや困ったようにしていたが質問に答えていた。その中でハッキリと言っていたのが、

 

 ――『織斑先生と似ているとはよく言われるよ。ドイツでも同じことを言われたからな。 …だが、私は"先生とは無関係"だ。何か期待されたのかもしれないが、期待に応えられなくてすまないな』

 

 確かに千冬姉によく似ている。が…なんというか、雰囲気が全く違う。俺も東雲とは会話をしたが、やや男っぽい口調なだけで普通に笑うし、冗談も言う奴だった。似ているだけなんだと、それでわかった。少なくとも俺に千冬姉以外の姉や妹がいた記憶なんてのはないし、第一居れば箒や束さんが知ってる筈なんだから。

 

 …と、こんなことがあって生徒からすれば盛り上がり放題のイベントが連発して、多くの生徒からはもうあの騒動の記憶は薄れていた。

 

 

 対抗戦が終わっても慌ただしい日々、その中で俺は…自分への逃げと、もしかしたらチャンスが出来るかもしれないと考えあの話をリィスに提案しようと考えた。

 

 約束していた、対抗戦が終わったらちゃんと休む。という話を

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 その日の夜、私の姿はIS学園ではなくとあるホテルにあった。

 

 着ている服はいつもの制服ではなく、黒のワンピース。学園に来る前に束さんが選んだものだ。季節は既に夏が近くて少し暑い、だから夏向きのものを着ようと学園を出る際にクロちゃんに勧められた。

 

 学園からモノレールで中央駅まで移動してそこからすぐ。IS学園が見える沿岸公園の近くにある高級ホテルに私は来ていた。

 

 招待が来た時は正直困った。あまり派手なドレスとか、そういうのは好きじゃないし…悩んでいた時に言われたのは『私服で構わないし、そこまで畏まるような場所でもない』という言葉。そんな言葉に甘えての服装。そして――渡されたカードキーを使って、ホテル内の最上階にある部屋に私は向かう。

 

「リーちゃぁぁぁあん!!!心配したよ!怪我大丈夫?痛くない? …何処の誰かは知らないけどよくも束さんのリーちゃんに怪我させてくれたね。見つけて死ぬより恐ろしい目に合わせてやる」

「た、束さん…怪我はもう大丈夫ですから。一週間もお休み貰って、ちゃんと回復してますから落ち着いて下さい」

「本当に心配したんだよ? …でも、本当無事でよかった。マドっちもよくやってくれた」

 

 部屋の中には二人の人物が居た。一人は、束さん。あの騒動の後、データを全部まとめて存在しているラボを全部破棄したらしい。現在は新しいラボを作成しており、その一箇所だけで活動をしている。そして、私を助けてくれたあの少女…既に顔合わせは済ませているが、マドカについても話は聞いている。やはり先生の関係者で、色々あったとか。

 

「入院したと聞いた時は私も気が気ではなかったぞ。…リィス、お前は私にとっての娘のようなもの。あまり心配をかけてくれるな」

「ありがとうございます。えと…お、お義父さん」

 

 あれ、私変なこと言っただろうか。何故かお義父さんは急に後ろを向いて悶ている。

 

 私の養父であり、ドイツ空軍大将――フリッツ・ベルンシュタインさん。その姿もここにあり、私も直接会うのは入学式前以来だった。

 

 私が此処に来ているのは、対抗戦の事後処理と調査で暫く此方に留まるお義父さんに『食事でもしないか』と誘われたのと、対抗戦での出来事についての話をするためだ。束さんに背を押されて、ソファに座ると――コホン、と束さんが咳払いをした。

 

「…で、話に入る前に何だけど。リーちゃん」

「は、はい何ですか?」

「箒ちゃんから謝罪って、あった?」

 

 謝罪って…もしかして、対抗戦の時のあれについてだろうか。

 

「報告は聞いてるよ。…箒ちゃん助けるためにセラフ使って、その後にもう一体にやられそうになったって」

「あぁ…作戦中のイレギュラーです。それを想定できず、対応できなかった此方に落ち度はあります。…彼女に非はありませんよ」

「でも、」

「もう終わったことですから。それよりも――ご報告することがあります」

 

 真面目なトーンで話をして、その意図を汲み取ってくれたのか束さんは渋々言葉を止める。お義父さんもどこか納得していないように見えるけど…もう終わったことなんだ。

 

「…報告書にあえて書かなかったことについて、直接具体的な報告だけはしておいたほうがいいと思って。あの無人機と、そして谷口凛子についてです」

「聞こうか」

「まず、あの無人機…谷口凛子が手引したのは間違いないでしょう。彼女がそれらしい発言をしていました」

 

 彼女の所持品からは怪しいものは見つからず、保持していたスマートホンについても怪しい点がなかったというのが捜査結果ではあるが――私は直接聞いているのだ、『手引した』と取れる内容を。

 

「彼女の死因については…直接見ています。束さん、彼女から見つかったという肉食性ナノマシンについて何かわかりましたか?」

「…残念だけど、あれがどこでどう生み出されたのかはわかんなかった。けどどんなものか、というのは解析できたよ」

「――お聞きしても?」

 

 束さんは珍しく乗り気ではないというか、深刻そうにして投影ディスプレイを展開。それを私とお義父さんに見える位置に置いた。

 

 そこには、あの少女を"食い殺した"肉食性ナノマシンについての詳細が書かれており…私は、内容を見てぞっとした。

 

「簡単に言うと、あれはエボラ出血熱をベースにした生物兵器だよ。…ベースと異なるのは、"感染者から他者に感染しない"という事と"発症すると生体組織を喰い破られる"という点。恐らくだけど、これはピンポイントで特定の対象だけを殺傷することが可能だと思われる」

「それってつまり、大勢の中に何らかの方法でばら撒いて…その中で指定した対象だけを殺せるって事ですか?」

「うん。ただこれはまだ束さんの仮説だから、そうとは限らない。追加させてもらうなら…発症のタイミングも、恐らくコントロールできる」

 

 最悪だ。

 

 感染者はあの症状を確実に発症して、しかも推測の段階ではあるが複数に対して同時使用可能で更に発症も任意に操れる?今まで何度か生物兵器というものは見てきた。使われた所も見て…自分だけが助かったこともあった。だからある程度は理解できる。これは、今までにない程に最悪最凶の兵器だ。

 

「束さんもこんなにヤバいの見たのは久しぶりだね。…ただ、確かにヤバい代物だけど対策はできそう」

「対策、ですか?」

「このナノマシン。オリジナルコアを使用しているISには反応しないんだ。…つまり、コア使用ISを纏っている限りは絶対に発症しない。理由はまだ解明中だけど…コアに対して拒絶反応起こしてるっぽいんだよね」

 

 対策がある、その言葉を聞いて安心した。もし対策できるならまだやりようはあるからだ。

 

「…ま、このナノマシンとか諸々のことは束さんに任せてよ。ちょっと、束さんも今回ブチギレてるんだ。このナノマシンについても、研究所潰しについても、リーちゃんに怪我させて殺そうとしたことも、いっくん達を襲ったことも。そして――完全にキレたのは、あの無人機だ」

 

 …そう、恐らく最大の問題点はこれにある。

 

 現れたのは確かに無人機だった。人が乗っていないで稼働しているのも調査でわかっている。

 

 

  "人が乗っていなかったのは事実なんだから"

 

 

「本当ッ…ふざけてる。心底反吐が出る、よっぽど犯人は束さんを煽るのが上手いみたいだね ――最悪のシステムを投入してきたんだから。しかもご丁寧に煽りのメッセージまで残してね」

 

 あの一件で絶対に公表できないことがあった。あの無人機は無人機であるが…無人機ではなかった、ということだ。

 

 戦っている時に嫌な予感はしていた。それが確信に変わったのは…私を握りつぶそうとした無人機を見た時だ。通常の人工知能なら、あそこまで人間じみた動きなんてしない。情け容赦なく私を殺していた筈、なのに…あれは愉しむように私を甚振っていた。

 

 撃墜された二機の無人機。その残骸のコア部分からは…人間の脳と思わしきものが見つかった。コアは製造時期不明の、専用機に及ばない粗悪品であったが――それに接続されていたのが、人の脳だ。

 

 これを当時モニター越しで報告として見た束さんは…完全にキレていた。バァン!という打撃音を響かせ、通信先であるラボのテーブルを思いっきり殴るほどに。…そして、その殴った手には血が滲んでいたのを私は見た。それ程に、束さんの怒りを買ったのだ。

 

 最悪のシステム。つまるところの人体をパーツとして扱ったISである。束さんは言っていた、これは自分でも忌避した…人が絶対に手を出してはいけない禁忌だと。

 

「…束さん、お義父さん。これは私の推理です。あくまでそれとして聞いて貰えますか?」

 

 私にはある推測があった。そして、その推測が形になっていったのは――あの少女の死に際。

 

 事件の全貌を見ると、対抗戦当日に束さんの研究所が襲撃され、そしてあの少女の両親も殺害されていた。対抗戦ではタイミングを狙ったかのように無人機が現れ、事態に対しての解決に向かった私に対しても、最悪のタイミングで2機目が現れた。そして、撤退時には…あの少女が居た。その少女は騒動の手引をしていた人間で、見計らったかのようなタイミングで死亡している。

 

 全部繋がっている。もしこれが…犯人の計画通りに全てが進んでいたとしたら?束さんを煽ったのも、無人機を投入したのも、わざと協力者を餌にして、こちらを扇動するような行為をしたのも、何もかもがそうだとしたら。

 

 "全く別の目的で犯人は動いていたんじゃないのか"

 そう思えてならなかった。

 

「恐らくというか、その通りだと思うよリーちゃん」

「…うむ。私もそうとしか思えん。もしかすると、マドカ君の介入すらも予測の内ではないのかと、思えるほどにな」

 

 もし、そこまで考えていたとしたら…一体犯人は何者だ。

 ここまで狡猾に計画を進めていた犯人は――

 

「…心当たりは、ある」

 

 言葉を作ったのは、束さんだ。

 束さんは暫く迷ったようにして、私を見た。

 

「リーちゃんの話を聞いて合点がいった。…だから、大事な話がある」

「束さん…?」

 

 

「恐らくだけど、犯人は亡国機業に与する者で、目的は…世織計画と呼ばれる計画だと思う」

 

そして、と続けた

 

「これは束さんの協力者の推測だけど ――世織計画には、金色のISが関与している可能性が高い」

 

 

ドクン、と。心臓が跳ねた。

 

 

 




――それは、少女の答え。己の復讐に対して出した"生きる"という復讐。


そんなこんなで16話 決別 『こたえ』をお送りしました。迷いを殺したマドカちゃんは強いよって金髪の天の声が言ってた。

今回は、オメーのこと絶対許さないからな!。手の平の上で踊ってくれてありがとう。絶対に許さねぇ!亡国機業!。という感じの内容。やったねマドカ、これで本気モードだよ。

さて、そろそろ雲行きが怪しくなったりまた色々起こりそうだなぁと。
その中で結局あの二人は"どう祈って、どう呪うのかな"とか考えながらの作者のあとがき。

感想などお待ちしております。


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