IS -Rachedämonin Silber-   作:名無し猫

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人によっては嫌悪感のある映写あり。注意。

■更新情報

2016年11月19日(土)  誤字修正。

ご報告に感謝致します。


クラス代表決定戦

一夏とクロちゃんと共に訓練に明け暮れた土日。そんな慌ただしい週末が終わり月曜日の放課後、私の姿は第三アリーナの第三ピットゲートにあった。

 

今の姿は白と黒のISスーツ姿。首には剣と翼を象った、待機形態の私の専用機。

 

ISスーツは束さんお手製。私の専用機はちょっと特殊で、神経伝達をより効率化することができる仕組みになっているスーツらしい。

 

…ちなみに、スーツ作成の際に束さんとクロちゃんに一種のセクハラをされたことを私はよく覚えている。胸があるだとか、感覚が鋭いだとか言われて。悪ノリも大概にしろと叫んで怒ったのはいい思い出。

 

本日の対戦相手は、オルコットさんと一夏の二人。…ちょっとズルになるけど、オルコットさんの専用機については調べがついている。対して一夏の専用機は先程情報公開がされたばかりだ。

 

しかし、千冬さんも面倒なことをしてくれたと思う。私はクラス代表なんてものには興味がなかったし、あのデータ取りも本当なら後日出来たことだろう。クロちゃんの才能を知らない千冬さんではあるまい。にも関わらずこんな展開にしたのは、何か考えがあるのか。それともただの思いつきか。

 

何にせよ、やるからには全力だ。

 

「リィス、織斑君とオルコットさんの試合終わったみたいだよ」

 

ピットゲートにはモニターがあるが、現在は中継されていない。『相手の手の内を見せない』という先生の配慮らしい。

 

しかし試合の結果は各ピットの整備担当者に送られる。ちなみに他のゲート整備担当者はクロエと学園側の上級生…確か本音とその姉さんだったかが担当している。

 

私の担当は清香。今日付けで正式に専任整備士になった。

 

「結果は?」

「オルコットさんの勝ち。けど――」

 

何やら清香は送られてきたと思われる試合に関係するデータを幾つもの投影ウィンドウで展開してながら、それに目を通して――難しい顔をしている。

 

「何かあったの?」

「これ、今ここに私とリィスしか居ないから言えるけど…ほぼ織斑君の勝ちだよ」

 

投影しているウィンドウの内2枚を清香はタッチすると、スライドするような操作で私の所にそれを持ってくる。

 

そのデータを見て――私は、ただただ驚いた。

 

「…ブルー・ティアーズ損害率67%? BT兵器は全基破壊されてるし、何があったのこれ」

「――試合終わったから公開できるけど、問題の動画がこれ」

 

そう言って清香が私のウィンドウの中で再生した動画の映像は――

 

「…嘘」

「私も信じられないよ。リィスとクロエが特訓付き合ってたのは聞いたけど、これはちょっとおかしい」

 

映像の中では、先程情報が公開された一夏の機体――白式がオルコットさんの専用機に搭載されている専用武装であるBT兵器に包囲され、砲撃を受けるが――すぐに一夏はそれを回避しだして、BT兵器に接近すると次々と破壊していった。

 

その後…一夏はカッコつけて色々言って、『単一仕様』を発動。勝負を決めに掛かるが、どうやら本人は単一仕様について理解していなかったらしく刃が届く直前でエネルギーがエンプティ。敗北となる。

 

更にもう一枚のウィンドウには一夏と白式の稼働率がグラフ化されていた。その内容を見て、私は――驚いた後に、つい笑ってしまった。

 

「…リィス?」

「ああ、ごめん。いや、凄いねこれは…本当、"一夏は異常だ"」

 

試合は判定負けだが、内容を見る限り"実戦なら一夏の勝ち"だ。

 

稼働率のおかしさもそうだけど、彼の動画の中での操縦技術は…多くが土日で教えたものばかりだ。

 

『相川、エーヴェルリッヒ。聞こえるか?』

 

ピットにあるモニターが起動して、そこに織斑先生の姿が映し出される。

 

「はい、聞こえてます」

『ならいい。既にデータは確認したと思うが、試合はオルコットの勝ちだ、本来ならこの後順番にエーヴェルリッヒが二人と対戦を行う予定だったが――』

「…?どうかしましたか」

『オルコットのブルー・ティアーズの損傷率が酷すぎる。BT兵器も復旧までに数時間掛かるようで、正直このまま勝負しても "試合にならない"』

 

…なるほど、先生の言いたいことは大体理解できた。

 

『後日改めてとも考えたが、アリーナの予定が確保できないようでな――よって、試合は織斑とお前のものだけ行う』

「了解しました。試合開始はいつでしょうか」

『15分後だ。その間に織斑の白式については補給を済ませておく。そちらも準備しておけ』

「わかりました」

 

モニターの電源が切れる。オルコットさんの件は予想外だったけど――仕方ないか

 

「それで、リィス」

 

再び幾つものウィンドウを操作しながら言葉を投げてくる清香。こうして見ると、本当に清香の技量の高さが伺える…少なくとも私には8枚ウィンドウ出して同時操作とか無理。

 

「勝てるの?」

 

そんな清香の言葉に対して私は苦笑を返した。

 

「ぶっちゃけ織斑君、バケモノだよ?専用機の初回起動で、多分オルコットさんは慢心あったかもしれないけどあれだけ追い込んだ。それは、評価されるべき」

「…うん、彼の規格外さはよくわかってるよ。その上で言うよ 勝てる」

 

確かに、強い。確かに天才で、規格外。

間違いなくこの先、とんでもなく強くなるだろうという確信があった。

 

…でも、それは今じゃないし。私はもっと規格外を相手にしたことがあるから。

 

「――そっか。なら、お疲れ様会のための手配でもしておこうかな」

「その前に、稼働データもちゃんと頼んだよ清香。先生から色々と押し付けられたんでしょ」

 

『うがああああ』と頭を抱える清香。実は清香、当日になってクロちゃんと一緒に先生に連行されてデータ取りの手伝いを命じられた。曰く、山田先生が楽になるからだとか。

 

技術者も色々大変だな。あ、私もその道志望だった…。

 

そんなこんなしているうちに、時間になった。先生の合図でピットゲートが開かれる。さて…行きますか。

 

「行ってくるね」

「御土産は稼働データでよろしく」

「期待してくれていいよ」

 

サムズアップと満足げな笑顔を確認して、息を吸う――

 

 

「それじゃ、行くよ ――ヴァイス・フリューゲル」

 

白銀のISにエメラルドの三対六枚翼。後ろで清香が『おぉ…』と呟くのが聞こえた。

 

そのまま清香に手を振ると、私はアリーナへと飛び立った。戦うべき相手と、相対するために。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

放課後の第三アリーナ。その観客席には多くの生徒の姿もあり、中には教員の姿もあった。

 

本来は1学年にのみ関係する出来事なのだが、観客席には他学年の生徒も多い。中には飲食などの購買を開始する商魂たくましい生徒も居たくらいだ。無論、後日この生徒は制裁を受けたことを記述しておく。

 

そんなアリーナの空。ピットから登場した存在によって観客席から声があがった。専用機を身に纏うリィスだ。

 

白銀のスマートフレーム、背面の非固定浮遊部位として存在するエメラルドの三対六枚翼。その姿は…観客席の生徒や教員を驚かせた。

 

その姿を見た一夏は息を呑んだ。『これが、リィスの専用機なのか』と。そう思うのと同時、白式からは相手のデータが送られてきた。

 

 

 

"   『対戦相手の機体情報を表示します』

 

機体名:第三世代型IS 万能機動型 ヴァイス・フリューゲル

搭載武装:(公開可能なもののみ表示します)

     五五口径 多様性役割大型ライフルソード『シュツルム』

     機殻実体剣 『バルムンク』✕2

                            以上。

                                "

「やぁ」

「…よう」

 

偶然会った時にするような、まるで友人同士の挨拶。アリーナ中央上空で相対した一夏とリィスが掛けた言葉はそんなものだった。

 

試合開始までのカウントダウンがスタートする。両者、定位置に付いたまま。続けて言葉を放ったのは、一夏だった。

 

「その、悪い。特訓付き合って貰ったのに…凄く無様な負け方した」

「本当だよ。まさか君があれだけカッコつけて負けたのには、私もびっくりした」

「うっ…面目ない」

 

『だけど、』とリィスは続ける

 

「君は何も残せなかったわけじゃない、そうでしょ?」

「――ああ」

 

カウントダウンの残りが20秒になった。リィスは笑って、言葉を返す

 

「今後に期待、してもいいんだよね?」

 

残り10秒。一夏が専用武装――雪片弐型を正眼に構えた

 

「ああ、期待してくれ。今度は…ちゃんと応える」

「ん…。ならよし」

 

試合開始のブザーが鳴る直前。『じゃあ、』と呟いて

 

「私との試合、よく覚えておいてね」

 

ブザーが鳴ったと同時。

瞬間、リィスの姿が一夏の視界から"消えた"

 

 

    ◆     ◆     ◆

 

「がッ――」

 

試合開始直後。鈍い衝撃と共に地面へと叩き落される。

 

シールドの減少を告知するアラートが鳴るが、それを無視して以前教えられたように、無理矢理ではあるが空中で体勢を戻すことで地面へ叩きつけられることだけは回避した。

 

(何だ――?試合開始と思ったら、リィスの姿が消えて、消えたと思ったら地面に叩き落された?どうなってるんだ)

 

理解できない。ただわかるとすれば、"試合開始と同時にリィスの姿が消えたこと"。ハイパーセンサーは何も反応せず、ただダメージのみを受けた。

 

恐らく自分に攻撃を叩き込んだと思われるリィスはアリーナの上空に存在しており、その右手には大型のアサルトライフル『シュツルム』が握られている。見れば、銃のバレル下部。バヨネットラグに装着されていたパーツからは黒い実体剣が展開されており、恐らくあれで斬られたのだと推測する。

 

わからない、理解できない。自分が何をされたのかを。同時に、一夏の中には『恐ろしい』という感情が芽生えてしまった。

 

考える。何故彼女は消えたのか。とてつもなく速い加速…瞬時加速?いや違う、瞬時加速は加速状態での軌道変更がほぼ不可能のはずだ――では、何だ?瞬間移動?これも有り得ない。超常現象を否定するつもりはないが、ISでそんなことができるなんて参考書では見たことがないし聞いたこともない。

 

理解できないという未知だけが、今の一夏を支配していた。

 

「あー…えっとね、一夏」

 

通信が入る。それは、対戦相手――リィスからのものだ。通信ウィンドウのリィスは笑顔であり、どこか楽しそうにも見えたが、

 

理解する。これは死刑宣告だと。

 

「ちょっと容赦なく行くから、痛かったらごめん」

 

またリィスの姿が消えた。

そして、消えたと思ったらこれもまた、"死角から攻撃を受けた"。

 

 

    ◆     ◆     ◆

 

 

「な、何故だ!?何故一夏は反応できない!?」

 

第一ピット。そこには複数人の姿があった。千冬に真耶。そして、箒とクロエである。既に三人の専用機の情報は公開されたこともあり、試合はピットのモニターでも中継されている。そして、箒はその中継映像を見て大声を上げたのだ。

 

恐らく箒の考えていることは、観客席で試合を見ている生徒達も思ったことだろう。『どうして反応しないのか』、と。

 

実際に試合をして、リィスと相対している一夏からすれば彼女の動きは"消えている"ようにしか見えない。

 

しかし、観客席から見るとリィスは"消えていない"。高速機動型のISの速度。それを用いて移動しているようにしか見えないのだ。

 

普通に考えれば、確かに速いが反応は出来る速度のはずだ。にも関わらず、一夏は何の反応も出来ていない。この状況に、箒も生徒達も訳がわからないという状態だった。

 

一部の生徒からは『八百長?』、『まさかわざと負ける気?』の他、心無い言葉が出ていたが…今の状況を理解している人間から見れば、これはれっきとした試合なのだ。

 

「わからないか、篠ノ之」

「ち、千冬さ――「織斑先生だ馬鹿者」織斑先生!」

 

出席簿を構える千冬に対してビクッと体を震わせる箒。急いで言い直しをすると『よろしい』という言葉がかえってくる。

 

「ちなみに山田先生、君には分かるか?」

「…なんとなく、ですけど。でも、"見えない"のでなんとも言えません」

 

教師陣の会話に対して理解できない、という思いを抱く箒。少なくとも箒の中では…リィスが何かしらのズルをして、一方的に一夏に攻撃しているようにしか思えなかったのだ。

 

それはあながち間違いではない。が…本質は異なる。

 

「ヒントをやろう。篠ノ之、お前は剣道をやっているな?」

「は、はい。やってますが――」

「今起こっていることはISの性能差でも、イカサマでも単一仕様でもなんでもない」

 

実際、今リィスが行っているのはある武術のちょっとした応用である。この仕掛に気がつくのには…千冬も時間を要した。

 

リィスは一夏同様、ある種の規格外であると千冬は認識している。かつて己と戦い、本気でないにせよ自分を追い込んだ。

 

自惚れるわけではない。が、仮にも世界最強まで上り詰めた自分と戦えるだけの才能を持っているのだ。まず、土俵が違いすぎる。

 

今の一夏では絶対に勝てない。そんな確信が千冬の中にはあった。なら、何故今回の試合を"仕組んだ"のか。

 

簡単だ、千冬としては一夏に経験させておきたかったのだ。世界レベルとはどんなものか、自分がこれからどんな世界に挑まなければならないのかを。

 

「クロニクル」

「はい終わりのクロニクルです ――痛いです先生」

「悪ふざけはいい。そのまま作業続けながら聞け。お前は今何が起こっているのか理解できるか?」

 

ふざけたからか、後頭部に出席簿が炸裂。だが作業中ということもあり、その痛みに我慢しながら抗議の視線だけを千冬に送る。

 

そして、問いかけられた質問に対して面倒くさそうに投影キーボードを叩きながら答えていく

 

「…理解は出来ますよ。ただ、理解できるだけでリィスのあれには対応できませんが。私、実戦タイプではないので」

 

驚愕したのは箒だった。剣道で全国優勝をして、今まで鍛えてきて、自信はあった。だが…今起こっていることは理解が出来ない。

 

にも関わらず、クロエはそれを全部否定するかのように『理解できる』と言ったのだ。

 

「作業終わりました。後は自動でデータ解析してくれると思いますので、私はもう行ってもいいでしょうか先生」

「わざわざ呼んで悪かったなクロニクル。礼は何かでする」

「なら、食堂の特上パフェでも――「あれは高いからダメだ、普通のにしろ」…むぅ、ではそれで」

 

腑に落ちない、そうクロエは思いつつ展開していた投影ディスプレイやウィンドウを全て閉じると、ピットの出口へと歩いていく

 

「最後まで見ていかないのか?」

「"勝負は"最初から見えてますから」

 

モニターの右上には試合開始15分の文字が表示されており、両者のシールド残量を示すゲージも表示されていたが…一夏のシールドはどんどん削れていくのに対して、リィスはまだほぼ無傷。

 

開始15分。その間、一夏が反撃に出ることは一度もない。傍から見れば、ただ攻撃を受け続けるだけの試合なのだ。

 

「ま、待て!」

 

ピットを出ようとしたクロエを引き留めたのは箒だった。クロエは細目を僅かに開き、金色の瞳を露わにして不機嫌そうに振り返ると、

 

「…何ですか篠ノ之さん。私、これから祝賀会の準備があるんですが」

「祝賀会…だと?」

「はい、リィスの祝賀会です。お疲れ様会と言ったほうがいいかもしれませんね。…おや、どうしましたか篠ノ之さん。そんなに肩を震わせて」

「貴様、一夏を侮辱するのかッ!?」

 

感情的になって、箒は拳をクロエへと振り上げてしまった。真耶は制止の声をあげるが…千冬はやれやれと言ったようにクロエを見ていた。

 

手をあげられたクロエはと言えば、慣れたようにそのまま殴りかかってきた箒の腕を掴んでハンマーロックを掛ける。

 

「誰も織斑さんを侮辱してませんよ。勘違いはいけない、私はあくまで"データ取りの"祝賀会という意味で言ったのですが。いけませんね、感情的になるのは」

「だ、黙れッ――嘘をつくな、貴様達は一夏を誑かして、」

「…?何のことかわかりかねますね。おっと、失礼」

 

そのまま拘束を解くと、箒はある程度距離を取った後クロエを睨む。

 

「それで、引き留めたのには何か理由が?殴り掛かるためでしたら再度どうぞ。またハンマーロックかけますけど」

「…ッ。貴様には、見えているのか?」

 

その質問に対してクロエはため息の後、

 

「見えるわけ無いですよ。私、さっきも言いましたが体育系ではないので。ただ――内容を理解してるだけですよ」

 

その回答に箒は、呆然とするしか無かった。呆然と立ち尽くす箒を放ってクロエがピットを出た時だ

 

 

『試合終了。勝者 リィス・エーヴェルリッヒ』

 

そんな試合終了のアナウンスが、アリーナに響いた。

 




規格外を倒せるのは、規格外だけ。

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