紅魔指導要領   作:埋群秋水

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お待たせいたしました。続編をご覧ください。



第8話

 

 

 王立聖バーソロミュー病院に着いた。姿を隠して中へ入った(わたくし)は辺りを見回す。

――さて、彼はいますかね……。おや、あの後ろ姿は?

 私の予想は的中したようで、丁度聞き込みをする彼の姿を見つけることに成功した。彼の姿を確認し、私は小悪魔の言っていた執事をしているという情報に間違いがないことを知った。

――疑っていたわけではありませんが、本当に執事をしているだなんて! 長生きはするものですね。

 耳を澄ませると、どうやら彼は医師らのアリバイ調査をしているようだ。私が先ほど推測した条件とほぼ同じものを念頭に置いている。私もまだまだ捨てたものではない様だ。話を聞き終わったのか、彼が一般人には目にもとまらぬ速度で駆け出す。無論、遅れはとらない。つかず離れずの距離でついて行く。

――気になったのですが、彼はこんなに足が遅かったでしょうか? 見るに、ずいぶんと空腹な様子ですね。ただでさえ魔力も薄い地上で、空腹なら力は出ないでしょうね。昔は片っ端から食い散らかしていたのに、今はさしずめ美食家(グルメ)と言った所なのでしょうか。……しかし、彼は気づいているのでしょうか? 切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)は何も()()()()()()()()と言う事実に……。

 すると突然彼が立ち止まった。辺りを見回している。

――まずい、感づかれましたかね……? いや、ヘマは踏んでいません。気づいてはいない……ですよね?

 数刻の後、彼はまた走り始めた。どうやら私の杞憂だったようだ。全く驚かしてくれる。しかし、念を入れて少し距離をとる。さて、ファントムハイヴ伯爵の街屋敷(タウンハウス)は何処だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから少しの間走り続け、一件の屋敷に彼は入っていった。私はと言うと、外にて待機である。私の“欺く程度の能力”といえど、彼のいる屋敷の中に入っていけば流石に気づかれてしまうだろう。今の空腹な彼なら分からないが、念には念を入れたい。

――彼は怒ると厄介ですし、私としても彼を積極的に敵にしたくはありませんからね。それに、外にいてもこれぐらいの壁ならば問題ありません。

 彼は主と別行動したのか、屋敷内には彼以外誰もいなかった。そして驚くことに、午後の紅茶(アフタヌーンティー)の用意を()()()()()()()()、速度は比べものにならないが、しているのだ! てっきり魔力任せにさっと用意していると踏んでいた私としては意外以外の何物でもない。その手際は洗練されていて、遠目に覗いていても味は格別であろう事が容易に想像がつく。

――作っているのは洋梨とブラックベリーのコーンミールケーキですか。ふむ、美味しそうですねぇ。お嬢様も好きそうなお菓子ですし、今度作ってみますか。

 彼は至極あっさりと、しかし人間と同じ手順に沿った上で、午後の紅茶の用意を済ませた。丁度その時、彼とは別の執事が運転する馬車が到着した。お世辞にも上手いとは言えない手並みで馬車を留める。そして中から三人の人物が姿を現した。

 一人は美鈴と同じく、東洋の民族衣装を着た糸目の男性。そして次に、右目に眼帯を付けた小さな少年。最後に全身を真っ赤に染めた女性だ。何やら憤慨している。

――彼女なら、紅魔館に違和感なく溶け込めますね。いや、それよりも、あの執事です。何故あのような存在がこの人間界に、人前に、何よりも執事をしているのでしょう? 何か事情があるのでしょうか? ……これは面白くなってきました。私の推理が確かなら、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)は恐らく……。

 馬車を降りた一同は屋敷の中へ向かった。セバスチャンが玄関の前で待機する。糸目の中華系の男性が話しながら扉を開けると、彼が出迎えた。それを見た一同は、小さな少年ファントムハイヴ伯爵を除いて、驚愕した。無理もない。私が葬儀屋を後にして、この家に着くまで一時間ほどしかたっていない。あの場所から馬車を追い抜くなど、おおよその人間には不可能なのだから。

――ファントムハイヴ伯爵が驚いていないところを見るに、彼は普段からこの様な感じなのでしょうね。それよりも、よくよく話を聞くと、どうやら彼はロンドン中の医師すべてのアリバイ調査を終えていたようです。糸目さんと深紅さんが驚いていますね。いや、もはや呆れているようです。

 

「……ははっ。一体どんな手を使ったのよセバスチャン? あんた本当にただの執事? O.H.M.S.S.とかなんじゃないの?」

 

 深紅さんが問いかける。そしてセバスチャンは少し微笑んで返した。

 

「……いいえ。私は――あくまで執事ですから。」

 

――今の台詞、恐らく『あくまで』と『悪魔で』を掛けているのでしょうね。彼の正体を知る者でなければ気づけないでしょうが。……良いですね、あの台詞。少し、拝借しましょうかね? 私なら、『(わたくし)は、あくまで家庭教師ですから』ですかね。うむ、良いですね、頂きましょう。彼に知れたら馬鹿にされるでしょうが……まぁ、バレなければ良いでしょう。一層彼に見つかるわけにいかなくなってしまいましたねぇ。

 

 一同は屋敷の中へ入り、午後の紅茶(アフタヌーンティー)と共にセバスチャンの報告を聞いている。どうやら容疑者が一人に絞り込まれた様子だ。一同は気づかないようだが、セバスチャンの様子がおかしい。何ともやる気なさげだ。

――恐らく、彼も私と同じ結論に達しているでしょうね。今までの調査が無駄だと知っている上で、この報告をしているなら……何と意地が悪い事だろう! 正に彼のらしい陰険さですね。

 話は進み、今夜行われる容疑者、ドルイット子爵アレイスト=チェンバー氏主催のパーティーに参加する事になったようだ。何とも無駄なことこの上ないが、観察する身分としては面白い。

――さて、時間まで適当に散策してきますか。お嬢様方はどうしていらっしゃるのでしょうか? 心配ですねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クシュンッ」

 

「どうしたの、めーりん? 風邪?」

 

「いえ、大丈夫ですよ、お嬢様。少し鼻がムズムズしまして……。」

 

 私、紅美鈴は門番である。産まれた遙か東方の国を離れ、何の因果か吸血鬼である旦那様に仕える事になり、門番を任された。正直に言うと、私は誰かに縛られる事が嫌いだった。さらに、配属先が門番という屋外と言うことで爪弾きにされたかのような錯覚もあった。そのせいか、この館の住人に対しつっけんどんな態度で接してしまっていた。そのうち、私に話しかける者は少なくなっていった。唯一、レミリアお嬢様だけはめげずに話しかけてきてくださったが、頑固な私は冷たい態度をとり続けた。

 そうした日々が日常になりつつあった時、私の元へ真っ黒な格好の家庭教師を名乗る女性がやってきた。私を晩餐に連れて行くと言った彼女は、最終的に私を打ち負かし、くだらないプライドも打ち砕いてくれた。国を出て無敗で、初めての敗北で拗ねていた私を叱咤してくれたのだ。おかげで私は態度を改めることが出来たし、住人に受け入れられた。此所が私の家なのだと胸を張って言うことが出来る。感謝をいくら述べても、この思い尽きることはないだろう。

 大恩あるその女性、クロエさんは今休暇中である。何やら古い友人の様子を見に行くと言って出発していった。お嬢様に宿題を残して。そして私は、宿題が多いと嘆くお嬢様の愚痴を聞いていた真っ最中であった。

 

「だいたい、先生はスパルタなのよ! 確かにあたしは『きちんとおべんきょうする』って言ったわよ? でも、ここまで大変だとおもわなかったのよぉ……。あたしてっきりお父様が家庭教師を連れてくるって言ったとき、遊び相手の事だと思ったのよ? だって普通のおべんきょうならもうだいたい出来るもの。いまさら先生なんてって思ってたら、『立派な淑女(レディ)になるためのお勉強です。』って言って難しいこと言ってくるんだもの! なのに、せっかく頑張って終わらせたら先生がいないなんて! せっかく一緒にお出かけしようと思っていたのに!」

 

「ま、まぁまぁ。落ち着いてください。お嬢様が聡明なのは存じ上げております。クロエさんもそのことに気づき、お嬢様にあえて難問を出しているのではないですか?」

 

 私の言葉に『そうなのかなぁ? うぅー……』と悩むお嬢様である。可愛らしいことこの上ないが、それを言うのは不敬であろう。私が内心ほっこりしているとお嬢様が何か思いついた。

 

「そうだわっ! めーりん! めーりんが一緒に行けばいいのよっ! ほら、いくわよっ、めーりん!」

 

「えっ!? ちょ、お嬢様! 私門番の仕事があるのですがああぁぁぁ……。

 

 あっという間に私を抱え月夜に飛び立つお嬢様。幼いながら私を抱え、すさまじい速度で飛行する姿はまさに吸血鬼である。であるが、

 

私このままだと叱られてしまいますよぉ!!

 

 私の受難は続いていきそうだ……。

 

 

―続く―

 




如何でしょうか?
最近東方の原作ゲームを拝見しましたが、アレは初心者から見ると無理ゲーにしか見えないのですが……きちんとクリアできるんですね……。
同人ゲームの方はちょいちょいと手を出してはいます。
ご感想などあれば、ぜひお寄せください!

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