どうぞ
ご覧ください。
「……何か失礼な事を言われた気がするわね。魔理沙かしら? あとでとっちめてやらないと。」
広大な紅魔の館を一人浮遊する巫女が呟く。一見すると、ふよふよと宙を行く彼女の姿はただ単にさまよっているだけの浮遊霊にも見えるが、その実思いついたように襲来してくる妖精メイドの攻撃を意図も容易く避け反撃している。さらに、今回の異変の黒幕が待つラストステージに着々と近づいているのだから恐れ入る。
その時、遠くから叫び声が響いた。
「あー! 何をやってるのよ! ぜんぜんお掃除が進んで無いじゃない!」
「「すいませぇーん(棒)」」
どうやら近くの部屋からのようだ。気になった霊夢が声のする方へと近づきそっと様子を伺う。
とある一室の中で二人の妖精メイドが人間に叱られていた。叱っているのは霊夢が初めて遭遇する妖精以外のメイドだった。銀の髪を揺らして怒りを表す彼女の声は妖精らには届いていないようで、妖精メイドたちは明らかに話を聞いていない。
叱っているメイドの彼女はそれに気がついたようだ。先ほどまでの怒り顔を一転させ笑顔になると、どこからともなくナイフを二振り取り出し妖精メイドの脳天に突き刺した。
「「ギャッ!」」
「……ふぅ、お母さんならこんなことをしないで言う事を聞かせられるのに……」
ナイフを一瞬でしまい嘆息を漏らす。そして霊夢の隠れている方へと向き直り声を掛けた。
「そこで隠れている人、出てきなさい。」
「……何だ、バレてたのね。」
扉の影から霊夢が姿を現す。それを見たメイドの彼女は少し目を見開き驚いた。
「あなた……は、ここの主人じゃなさそうね。そんな格好した主人なんているはずないし。」
「何ですか、お嬢様のお客様ですか?」
「……まぁ、ある意味そうね。そろそろこの館の探索にも飽きてきたの。窓もないし同じような光景ばっかり続く。自分がどこにいるのか分かりゃしないわ。と、言うわけで、さっさとそのお嬢様とやらの所へ案内してくれない?」
霊夢が振り向き案内を要求した。次の瞬間、霊夢の首にはナイフが突きつけられていた。研ぎ澄まされたそれは人の皮を、肉を、そしてその命すらも容易く刈り取るだろう。
「……速いわね、見えなかったわ。」
「ここから先には通さないわよ。」
後ろからナイフを突きつけたメイドの彼女が怒気を込めた声で言った。だが、当の霊夢は首筋に添えられたナイフがまるで存在していないかのごとく、その声に何の感情も乗ってはいない。
「お嬢様は滅多に
「ただ会うだけなのに、何でそんなに難易度が高いのよ。何?
「――ッ!?」
「はい動揺した。」
メイドの一瞬の動揺をつき、霊夢は彼女の手を取りそのまま体勢を入れ替えて投げ飛ばした。合気道の要領である。投げ飛ばされた彼女は自身の失態に気がつき顔をゆがませる。だが、その姿は次の瞬間にはかき消え、そして音もなく霊夢の後ろに立っていた。
「……さっきの体勢からそこへは移動できないはずだけど、なにか秘密があるのかしら?」
「そんなことより貴女、何を知っているというの!?」
怒気に加え殺気もみなぎらせるメイドの少女は、両手にナイフを構え霊夢をにらみつけた。だが、霊夢はそれに答えず歩き出した。部屋から廊下に出る。その廊下には珍しく窓が取り付けられていた。外には赤い霧が充満しており、月すらも赤く輝いているように見える。
廊下の先には先ほどのメイドがいつのまにか待ち構えていた。まるで質問の答えを待っているかのように霊夢をにらみつけている。ため息を一つこぼすと、霊夢は口を開いた。
「……知らないわよ、何も。さっきのはただの思いつきだし、あたしはただこの赤い霧の異変解決を依頼されてきただけの巫女なんだから。例えこの館に何かあったとしても、あたしの知ったこっちゃないわ。で、この霧は何なの? 何が目的なの?」
窓の外を指で示し疑問を投げる。
「……日光が邪魔だからよ。お嬢様は暗いのが好きだし。」
「へぇ、流石は吸血鬼。でも、あたしは好きじゃないわ。止めてくれる?」
「そればかりはお嬢様に言って貰わなきゃ。一使用人の私がどうこう出来る話じゃないわ。」
「あっそ。じゃ、呼んできて。」
メイドの少女は鼻を鳴らし馬鹿にしたような表情をとった。そしてまたも、どこからともなくナイフをまたも取り出すと霊夢に向けて言った。
「バカね。自分のご主人様を危険な目に遭わせるわけないでしょ?」
「……あたしに向かってバカって言うなんて言い度胸してるじゃない。名乗りなさいよ、墓前に名前ぐらいは刻んであげるわ。」
「紅魔館の従者が一人、メイド長の十六夜咲夜よ。」
霊夢も大幣を構え、闘気を高ぶらせる。一触即発の雰囲気が場を満たす。
「ここで騒ぎを起こせば、アンタの言うお嬢様とやらも出てくるかしら?」
「……そうかもね。お嬢様は何だかんだ言ってお祭りごとが好きらしいし、あり得ない話じゃないわ。でもね、」
懐中時計を取り出しそれを眺めながら咲夜は言葉を続けた。霊夢に向けられたその瞳は冷たく輝いている。
「――貴女はお嬢様には会えない。それこそ時間を止めてでも時間稼ぎが出来るから、ね。」
「フン、天岩戸だかなんだか知らないけど、こじ開けてあげるわ。」
一方その頃、紅魔館・地下大図書館にて。
「――いや、そこの理論はおかしいんじゃないか? そこでその詠唱をすると魔力の流れが……」
「それは貴女と私の魔法の差ね。私のは精霊魔法だからこれの方がよく流れるのよ。むしろ貴女の魔法のそこ、その部分は力業過ぎよ。」
「当たり前だろ、魔法も弾幕も肝心なのはパワーだぜ。」
「……それには同意しかねるわね。魔法は精密な魔力のコントロールが紡ぐ芸術よ。」
二人の魔法使いが魔法についての議論を戦わせていた。ただの喧嘩にも見えるそれは、お互いがお互いの知識をすりあわせ、削り、より洗練させていくものである。その証拠に互いに遠慮容赦ない言葉を投げ合っているにもかかわらず、その表情はとても明るい物であった。
「こぁ~、お二人とも、お茶ですよ~。」
そしてその議論を遮るようにカートに紅茶のセットを乗せて、小悪魔がやって来た。お茶菓子も添えられたそれは、時間さえ合っていれば立派な
「おっ、美味そうだな。なんだ、私も貰っていいのか?」
「ま、まぁ一応お客様だしね。例え本を盗もうとするような相手でもお客様ならもてなすのよ。それが富める者の余裕なの。」
どこか早口で、弁解するような口ぶりのパチュリー。その顔は少し紅潮している様にも見える。それを見た小悪魔は少し底意地の悪い笑みを浮かべた。
「またまた~、パチュリー様さっきの注文で『上質の紅茶と、とっておきのお茶菓子を持ってきなさい!』って仰っていたじゃないですか~。久しぶりにこうして誰かといっぱいおしゃべりできて嬉しかったんでしょう?」
魔力を介した秘密の連絡をあっさりとばらしてしまう小悪魔だった。パチュリーはそれを聞くと、瞬間的に小悪魔へ沈黙の呪いをかけた。そして急いで魔理沙の方へと向き直る。
「ちち、違うのよ!? こう、幻想郷に来て久々の来客で浮かれていたとか、誰かと魔法の話が出来て嬉しかったとか、そう言うのじゃないのよ!? か、勘違いしないで!」
(……パチュリー様、なんてテンプレなんですか。)
焦ったように取りなすパチュリーの姿を、まるで子犬を見つめるような目で見る小悪魔だった。そして肝心の魔理沙はと言うと、
「んぁ? 何か言ったか?」
早速と言わんばかりにドーナツにかじりついていた。幻想郷は日本にあり、そしてその里の文化はおおよそ江戸の頃と一部を除き大差はない。そこで生まれた少女にとってドーナツは聞きかじった事はあれど見た事も、ましてや食べた事などないものだった。夢中になって食べてしまうのも無理はないのである。
今までの話を聞かれていないとわかり、パチュリーは安心したような、一方でどこか残念そうな表情をして肩を落とした。椅子に座り直し小悪魔の呪いを解くと紅茶を注がせ、叫んで酷使したのどを潤していく。そして、異変の最中とは思えないような穏やかな時が過ぎていった。
だが、魔理沙がふと呟いたとある言葉がその時間の終わりを告げるのだった。
「……なぁ、ちょっと気になったんだが、この館ってもう一個地下があるよな? そこには何があるんだ?」
如何でしたでしょうか?
某狩猟ゲームですが、とても面白いですね。私はPSPの頃からやってますがあの頃と比べると様々な面で変わっていて面白いです。
太刀が実装されて以来、ずっと太刀しか使っていない使わないと言う変なこだわりを持つ私ですが、かの山のように大きなドラゴン相手に苦戦です。ソロで太刀は無理なのか……?
終始ゲーム話で失礼しました。続編をお待ちください。