どうぞ、ご覧ください。
気絶した美鈴を門の脇に移動させた後、霊夢と魔理沙は門を開け紅魔館へと入っていった。玄関扉を開け館へ入ると、そこは玄関ホールだった。
広い玄関ホールには一人の人影があった。黒い燕尾服に身を包み、
「いらっしゃいませ、紅魔の館へようこそ。
「次の相手はアンタって訳ね。さぁ、やるわよ。」
挨拶もそこそこに霊夢が戦闘の構えをとる。魔理沙はクロエをどこか訝しげな様子で観察していた。
「お待ちください。私は今回の異変において戦闘要員に数えられておりません。本来なら貴女方の前に姿も現さない予定だったのですから。」
「じゃあ、なんで今私たちの前に姿を現したんだ? 降伏するって言うんなら、まずは霧を止めるところからだぜ。」
「とんでもない、我々の異変は終わりませんとも。御当主のお嬢様が倒れられるその時までは、ね。私の此度の役割は、表で気絶している門番の代わりですよ。」
そこまで言うと、クロエは振り向き玄関ホールを広げた両手で仰ぐように示した。
「この館はもともと広大な敷地面積を誇りますが、今やとある従者の力によりその大きさは外観と一致しない物となっております。お嬢様の待つ大広間までたどり着くだけでも夜が明けてしまうでしょう。ですので、よろしければ途中まで道案内を致します。そこから先はどうぞご自由にしてくださって構いません。如何ですか?」
クロエが二人のもとへ近づき提案をする。その顔に貼り付けられた笑みは一見すると人の良さそうな印象を受ける物だった。
「……折角だけど、あたしは遠慮するわ。敵の本拠地で敵に行き先を任せるほど平和ボケしていないの。」
クロエからの提案を霊夢はすげなく断った。そして周囲に視線を巡らせた後、一人無言で飛んでいった。
「おや、フラれてしまいましたか。魔理沙様は如何なさいますか? ともすれば霊夢様を出し抜くチャンスかもしれませんよ?」
「……私は、今回の異変解決から降りさせてもらうぜ。」
驚くべき事に、魔理沙は今回の異変からの離脱を宣言した。これはクロエにとっても意外だったようで珍しくその表情を驚きに変えている。
「ほう……よろしければ理由をお聞かせいただいても?」
「さっきの門番との戦いで私は確かに勝利した。だけど、内容的には私の負けだ。勝負にお情けで勝っておいて、そのまま先に行けるほど私のプライドは安くないぜ。霊夢もそれを分かってたんだろ、私をおいて先に行っちまったし。これで降参って訳だ。」
両手を上に上げ降参の構えをとる。自身の負けを認めたその表情はどこかすっきりしたような顔だった。
「そうですか……では、申し訳ありませんが異変が終わるまでその身柄をこちらでお預かりさせていただきます。ご安心ください、しばらくの間部屋でお待ちいただくだけです。危害を加えるような事は致しません。」
「そうか。できるなら暇つぶしできるような場所がいいな。」
「では、地下の大図書館へご案内いたします。どうぞ、こちらへ。」
クロエが歩き出し先導する。魔理沙は大人しくそれについていった。大図書館へと向かう道すがら、クロエは一人考えていた。
(この少女と言い、先ほどの巫女と言い、人間の考える事は分かりかねますね。美鈴もいくらあのままでは気弾が放てなくなってしまうとは言え、あのような提案をしたのか理解できませんし。まぁ、そこがおもしろいところではあるんですけどね……)
「おい、どうしたんだ?」
「……いえ、なんでもありません。段差にご注意ください。」
しばらくして、二人は大図書館の前に到着した。重厚な扉を開けると、そこにあったのは本、本、本。見渡す限りの本の大海原のような、恐ろしいまでの蔵書数をほこる正に大図書館であった。
「……すっげー、なんだこりゃあ……」
「我が紅魔館が誇る知識の宝庫でございます。その蔵書数は幻想郷はおろか、おそらく外の世界でも類を見ないほどでしょう。」
「見た事無い本が大量だぜ……異変が終わるまでって言ってたけど、それを抜きにしても居座りたいぐらいだな。」
「この大図書館の主のご許可さえいただければ、ご自由にお越しください。その際はおもてなし致しますよ。さて……小悪魔! 小悪魔はいますか!」
声を上げ、何かを呼び出すクロエ。呼ばれてやって来たのは蝙蝠のような羽を持った長く赤い髪の女性だった。司書のような格好の彼女は見た目通りなのか、多くの本を抱えた状態だった。
「はいはーい! どうしましたー?」
「お客様です。丁重におもてなしください。くれぐれも、粗相の無いように。」
「……そんなに強調しなくても分かってますよ。ではどうぞ、こちらへお越しください。この大図書館の主、パチュリー様の下へご案内します。」
「よろしく頼むぜ。」
クロエはそのやりとりを確認すると扉を閉めて去って行った。残された二人は広大な大図書館の中を歩いて行く。
「なぁなぁ、聞いても良いか? ここにはどれくらいの本があるんだ? お前が一人で管理してるのか?」
「どれくらいあるのかは私も把握し切れてないですねぇ。管理は私が主ですが、つい最近まではさっきのクロエ様が行ってましたし、今は妖精メイドのみんなに教えているんですよ。」
「ふーん、大変だなぁ。」
「ホントですよぉ……」
(まぁ、いろいろと役得はあるんですけどね。パチュリー様のいろんな姿が見られたりとか、可愛い妖精メイドちゃんたちに悪戯したりとか……)
「さぁ、このまま進めばパチュリー様がいらっしゃいます。私はお茶の準備をしてきますので一旦失礼しますね。」
そう言うと小悪魔は一礼して去って行った。残された魔理沙は指示通りまっすぐ歩いて行く。
「……しかしなぁ、まぁよくこんなにも本をため込めたもんだぜ。こんだけあったら一冊ぐらい無くなっても分からないんじゃないのか? どれ、後でさっくり貰ってこ……」
「――待ちなさい。」
不意に制止の声がかかる。魔理沙が声のした方を向くと、そこにはうずたかく積まれた本の山があった。その本の山の向こう、添えられた椅子に全体的に紫色の少女が一人鎮座していた。侵入者に一切目もくれず本のページをたぐっている彼女こそ、動かない大図書館、紅魔館の頭脳であるパチュリー・ノーレッジである。
魔理沙は本の山を横目にパチュリーの側に寄った。その手にはちゃっかりと本が抱えられている。パチュリーはそれを見ると、少しむっとした様な表情で魔理沙を見上げた。
「……持ってかないで。」
「いいや、持ってくぜ。大丈夫、別に盗むわけでも奪うわけでもない。ただ借りるだけだ。私が死ぬまでな!」
盗っ人猛々しい発言が飛び出す。パチュリーはため息一つと共に本を閉じ、魔理沙に向き直って言った。
「あなたねぇ、ここにある本がどれだけの価値があるか分かってるの? わかりやすく例えてあげるわ。これらの本は、あなたのお友達のあの巫女、あそこの神社のおおよそ5年分の賽銭程度の価値があるのよ。わかったかしら?」
日本の有名寺社仏閣の一年の賽銭は10億円ほどになるという。パチュリーはそのことを書籍で読んで知っていた。この紅魔館の大図書館の書籍の価値は、実際にしたらお金で買えないほどではあるだろうが。
だが、根暗な紫モヤシと揶揄される事もある彼女は、博麗神社の現状を知らなかった。
「霊夢のか? あそこは年中無休で参拝客がないぜ?」
「……」
二人の間に気まずい沈黙が流れる。パチュリーの瞳が左右に泳ぐ。耐えかねた魔理沙が口を開こうとしたその時、パチュリーが焦ったように発言した。
「つ、つまり! この大図書館の主である私にとって、ここの本なんてその程度の価値しか無いってことよ!」
「……それじゃあ、やっぱり借りてくぜ。」
「むきゅう! う、うぅ……え、えぇーと、目の前の黒いのを消極的にやっつけるには……」
(それは載ってるのか?)
「なになに? ごき○りホイホイと呼ばれるトラップを設置す……」
「その黒いのは別モンだぜ!?」
どうやら黒い物の撃退法は載っていたものの、そこにあったのは
「うーん……最近、目が悪くなったかしら?」
「部屋が暗いんじゃないか?」
「鉄分が足りないのかしら……」
「……まぁ、それも足りなさそうだが。どっちかっつーとビタミンAだろ。」
「あなたは?」
「足りてるぜ、色々とな。なんせ私はアウトドア派なんだ。」
「じゃあ、頂こうかしら?」
パチュリーがそう言うと、急に魔理沙は顔を赤らめモジモジしだした。そして若干上目遣いでパチュリーを見上げて言った。
「こ、こんな場所で何言ってるんだよ……恥ずかしいだろ。私を頂くって……そ、そういうのはもっと段階を踏んでだな……」
「そそ、そんなこと誰も言ってないわよ!!」
如何でしたでしょうか?
投稿が遅れてしまい申し訳ありません。これもひとえに某ハンティングゲームが楽しかったからです(汗)
しばしお待ちください。