紅魔指導要領   作:埋群秋水

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お待たせいたしました。続編です。
どうぞご覧ください。


第30話

 

 

 美鈴と魔理沙の弾幕ごっこが始まった。両者共に場所を変えながら相手へと弾幕を放っていく。互いに互いの力量や隙をうかがっているようだ。

 魔理沙の弾幕は先ほどと同じ星型弾幕であるが、美鈴の弾幕は自身の能力による物なのか、虹色に輝いていた。縦横無尽に舞う虹色と星が夜のとばりを明るく照らす。少し霧がかかっている中に輝くその弾幕ごっこは、まさに幻想のごとき美しさであった。

 

「苦手と言っていた割には随分避けるのが上手いじゃないか!」

「武術体術は昔から得意だったんですよ。ただ、空を飛んだり弾幕を放ったりするのが苦手なんです。」

「よっしゃ、良い事聞いたぜ。それならもっと近づいても大丈夫だな。」

 

 魔理沙が距離を詰める。射程が縮んだ事により、魔理沙の弾幕が密度を増したように思われる。だが、それは同時に相手の弾幕にも被弾しやすくなると言う事だ。互いに弾幕を避け合うも、空中機動で避ける事の出来る魔理沙の方に分があるらしく、避ける美鈴の表情にはだんだんと焦りが見え始めてきた。

 

「どうした? 余裕がなくなってきてるぜ?」

「クッ、このままじゃジリ貧ですね……」

 

 魔理沙の言葉通り、いくら武術の達人とは言え降り注ぐ雨全てを避ける事が出来ないのと同じように、まるで雨あられのごとく降り注ぐ弾幕に美鈴は苦戦している。紅魔館の門番として、何より自分に憧れてくれた少女の前で無様な姿は見せたくはない。

 

(一体どうすれば……)

 

 美鈴が途方に暮れていたその時、どこからともなく声が響いてきた。

 

『苦戦しているようですね、美鈴。そんなに余裕のない表情は久しぶりに見ましたよ。』

「む……一体どこから?」

 

 霊夢が辺りを見回す。猫の子一匹見逃さないような視線で辺りを見回すも、声の主の姿を見つける事は出来ない。

 

『美鈴、この戦いはお嬢様も見ていらっしゃいます。貴女の戦う理由も含め無様な戦いはできませんよ。しかし、この命名決闘法が貴女と相性が悪いのもまた事実。なので、少しばかり助言をしてあげましょう。』

 

 魔理沙も気になるのか、お互いの弾幕が同時に途切れた。そして謎の声に場の三人が注目する。

 

『美鈴、弾幕ごっこのルールを思い返しなさい。その勝敗は弾幕に被弾するか、スペルカードの時間切れによります。()()()()()()()()()()()()()()()()なんてルールはありませんよね? あとは貴女の機転に期待しますよ。』

 

 その言葉を残すと謎の声は一切聞こえなくなった。辺りが再び静寂に包まれる。

 

「さっきの声は一体何が言いたかったんだ? 弾幕を弾幕で相殺しても良いなんて誰でも知っているじゃないか。」

「……弾幕を弾幕で……私の機転……そうか、そういうことですね! 魔理沙さん、お待たせいたしました。勝負を再開しましょう。」

「おっ、やるか? 何を思いついたのか知らないが負けないぜ。」

 

 魔理沙が再び弾幕を放つ。まっすぐに飛んでいくそれは大質量と共に美鈴を穿たんとする。

 

「……ハァァアアアア……!」

 

 しかし、美鈴は気合いを込め、構えを崩さなかった。その挙動からは避けようとする意志が一切感じられない。

 

「おいおいどうした!? そのままじゃ当たるぜ!」

 

 魔理沙が叫ぶも美鈴は飛んでくる弾幕から視線をそらさない。そして星型の弾幕が当たる直前であった。

 

「セイヤァッ!!」

 

 気合い一閃。神速の拳脚が魔理沙の弾幕のことごとくをたたき落とし、はじけ飛ばし、消滅させた。雨あられのごとく降り注いだ弾幕も、まるで嵐のような連撃にすべて消え去ってしまった。

 

「な、なんだそりゃ!? 弾幕を殴り飛ばすなんて、無茶苦茶だろ!? そ、それにいくら殴ったって被弾だよな、私の勝ちか?」

「魔理沙、相手の手足をよく見なさい。」

 

 霊夢が口を挟む。その言葉に魔理沙は美鈴の手足に注目した。

 連撃を終え、しかし油断無く残心をとる美鈴の手足には、まるで包み込むようにぼんやりと虹色に輝く気が纏われていた。まるでそれは、先ほどまで美鈴自身が放っていた弾幕そっくりである。

 

「何だありゃ……弾幕?」

「その通りです。弾幕を弾幕で打ち落とす事は何ら違反ではありません。ならば、弾幕を放たず手足に留め、それを持って迎撃しても問題は無いはずです!」

「な、何だってー!?」

 

 誰もが思いつかなかった、いや、考えもしなかった発想。弾幕ごっこにおいて弾幕を放たず弾幕で弾幕を迎撃する。思いついたとしても、恐らく美鈴のような弾幕ごっこの苦手な者しか実行に移さないであろう方法である。

 

「お、おい! 霊夢! あれ反則じゃないのか!?」

「……いいえ、何も問題は無いわ。弾幕に当たってないし、勝負に弾幕を使っている。もし、自分の身体全体を大きい弾幕で包んで無敵状態って言うならダメだけど、見てる限り弾幕を打ち落とす瞬間にしか弾幕を出してないし、むしろあの戦い方はハンデよ。」

「マジかよ……」

 

 がっくりと肩を落とす魔理沙。ハンデと言われればハンデだが、美鈴にとってそれはハンデにはならない。むしろ魔理沙にとって初めての戦闘スタイルが相手となる。

 美鈴は改めて構えをとって魔理沙を見上げた。気をみなぎらせ口角を上げる。

 

「さぁ、仕切り直しです。私の弾幕ごっこを見せてあげましょう!」

 

 

 

 

 

 極彩色と星が幻想郷の闇を照らしている。先ほどまでの情勢とは打って変わって、現在は美鈴が魔理沙をおしていた。手足に纏った弾幕を駆使した攻防一体の武闘はまさに華麗の一言である。

 魔理沙は美鈴の放つ弾幕を避けながら、更には美鈴の打撃にも気をつけねばならない。必然的に防御に傾倒しつつあった。

 

(クッ……このままじゃマズい! しかし、隙が無いぜ……)

 

「魔理沙さん、提案があります。」

 

 魔理沙が焦りを覚え始めていたその時、美鈴が攻撃を止めた。魔理沙は怪訝に思いながらも話を聞く。

 

「このまましのぎ合うのも悪くはありませんが、今は異変の最中。そこまで時間を掛けている余裕もないでしょう? だから、提案です。スペルカードを宣言してください。私がそれをしのいだら私の勝ち、私を見事打ち破ったら魔理沙さんの勝ちです。」

「……構わないが、それは私に有利すぎだろ。裏があるんじゃないか?」

「こちらにも、あまり時間を掛けられない事情もあるんですよ……さぁ! どうします? 乗りますか、乗りませんか?」

「いいぜ、やってやろうじゃないか。後悔するなよ!」

 

 魔理沙はそう言うと美鈴から少し距離をとった。そして頭に被った帽子の中からあるものを取り出す。出てきたのは掌ほどの大きさの八角形の道具だった。小さい足のついたそれは、傍目から見れば何の変哲も無い謎の道具だ。

 だが、それを見た霊夢は目を見開いて驚いた。そして慌てて自身の周囲に結界を張りながら叫んだ。

 

「ち、ちょっと! ミニ八卦炉じゃない! まさか()()をやるつもりなの!?」

「ああ! 最大火力だぜ!」

 

 魔理沙がミニ八卦炉と呼ばれたそれを構え、呪文をつぶやき始める。周囲の空気が渦を巻き荒れ始める。美鈴は魔理沙をしっかりと正面に見据えつつも、その異様な雰囲気を感じ取っていた。

 

「……待たせたな。これが私の正真正銘の奥の手、最大の攻撃だぜ。」

「負けません。紅魔館の門番の名にかけて、この門は抜かせませんよ!」

「その門ごとぶっこ抜いてやるから覚悟しろ!! 恋符『マスタースパーク』!!」

 

 スペルカードの宣言と同時に魔理沙の構えたミニ八卦炉から、光の奔流があふれ出た。闇夜を照らし出すその極太レーザーは、周囲の木々を吹き飛ばしながら美鈴の元へと飛んでいく。

 

「……ハハッ、こんなの避けるわけにはいかないですね。」

 

 美鈴がどこか諦めたかのような乾いた笑いを漏らした。だが、すぐに表情を引き締め、一撃必殺の構えをとる。拳に気を貯め、まっすぐに迫り来る破壊の光に臆する様子は一切見せない。

 

「ハァァアアアア……!! 華符『破山砲』!!」

 

 美鈴もスペルカードを宣言した。同時に拳を打ち抜き、マスタースパークを迎撃する。最大まで貯められた気を纏う拳は、マスタースパークに当たると同時に周囲を爆発の渦に巻き込んだ。

 

「キャアッ!!」

 

 結界を張っていたはずの霊夢が爆発の余波を受け吹き飛んだ。湖の霧も岸の周囲に漂っていた分が吹き飛んでいる。

 

「いたた……全く、出力をもっと考えなさいよ……」

 

 木に衝突しなんとか復帰した霊夢が決戦の場へと戻ってきた。土煙が舞う中、そこには美鈴の姿があった。

 驚くべき事に、紅魔館の門や建物には傷一つ付いていなかった。ただ、その前に拳を突き出した姿勢で微動だにしない美鈴の姿はボロボロであった。

 霊夢は宙に漂う魔理沙の元へ近づいた。魔理沙は勝利したというのに浮かない表情をしている。

 

「……アンタの勝ちじゃない、喜びなさいよ。」

「それを本気で言ってるなら、私は二度とお前に話しかけないぜ。」

「冗談に決まってるじゃない。初めて見たわよ、魔理沙のマスタースパークをまともに受けて形が残っているものは。たしか最大出力だと山を消し飛ばしてたわよね?」

「ああ、正真正銘私の最高の攻撃だった。なのに、美鈴から後ろには傷一つ付いていない。まさに、試合に勝って勝負に負けた気分だぜ。」

 

 弾幕ごっこはスペルカードに被弾した美鈴の負けである。だが、門番としての責務と矜恃(プライド)を守り切った美鈴は満足そうな顔をして、そのまま気絶した。

 

 

3rd Stage Clear

 




如何でしたでしょうか?

ようやっと紅魔郷終了までのスジが見えてきました。遅いですね……

これから一狩り行ってきます。

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