紅魔指導要領   作:埋群秋水

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続編です。どうぞご覧ください。


第29話

「あたしはこっちの緑の方とやるわ。」

「それじゃあ、私はこっちの寒い方とだな。」

「その言い方やめろー!」

 

 チルノはそう言うと、出し抜けに氷の弾幕を放った。氷柱のような、ドリルのような形をしたそれはまっすぐに魔理沙の元へと向かう。あわや決着かと思われたが、魔理沙は箒を軸に一回転し難なく弾幕を避けた。

 

「スッゲー! 何だ今の避け方!」

「フッフッフ、凄いだろう? 箒に乗る魔法使い伝統の避け方だぜ。」

 

 そう言うと魔理沙は星のような形をした弾幕を放った。キラキラと輝くそれは、一見すると弾幕には見えない。弾幕ごっこの美しさを表現する部分だろう。

 以外と速い速度で迫る星の弾幕をチルノはひらりとかわす。こちらも弾幕ごっこに慣れている様子がうかがえる動きだった。

 

「ほう、たかが妖精だとなめていたが、なかなかやるじゃないか。」

「当たり前だ! アタイはサイキョーだぞ!」

「ふーん。なぁ、お前チルノって呼ばれてたよな? チルノは弾幕に大切なものは何だと思う?」

「大切な物ぉ……? うーん、やっぱあれだな! 冷たさだな!」

「ダメだな。まだまだ、だぜ。いいか、弾幕に必要なのは冷たさでもスピードでもない。」

 

 魔理沙は帽子をかぶり直し不敵な笑みを浮かべた。ただならぬ雰囲気がにじみ出し、チルノが少し下がる。

 

「弾幕はパワーだ!!」

 

 その言葉と同時に、まるで川のように星型の弾幕があふれ出した。まるで星の奔流のようなその弾幕はチルノをめがけ飛んでいく。

 

「わっ! わわっ!? これ避けれなっ!」

 

 必死に避けるも次第に弾幕がかすりだしていく。それは自ら当たっていくグレイズとは異なるものだ。

 

「くっ、こうなったらスペルカードだ! 氷符『アイシクルフォール』!!」

「早っ! もうかよ!」

「うっさーい!」

 

 チルノから見て斜め前方へと氷の弾幕が射出される。さらにその弾幕から魔理沙を挟撃するように弾幕が生成されて放たれた。妖精の攻撃としては規格外の弾幕である。

 

「うーん、妖精にしてはなかなかのスペルだな。だが、致命的なミスがあるぜ。」

 

 魔理沙は迫り来る弾幕を物ともせずにチルノの方へと突っ込んでいく。左右から迫り来る氷の弾幕を避けながら、ある一点を目指す。

 

「チルノ。お前のド真ん前……がら空きじゃないか!」

 

 そう、この氷符「アイシクルフォール」には死角があった。左右から放たれた弾幕が、さらに中心へ向けて弾幕を放つこのスペルの構造上、宣言した者の正面に弾幕は出来ないのだ。

 

「あっ、ホントだ!?」

「やっぱ妖精はバカだな。まぁ、よく頑張ったと思うぜ。だからこんぐらいで勘弁してやる。」

 

 そう言うと、魔理沙は小さな星型の弾幕を一つ作りチルノのおでこへと軽く放った。デコピン程度の威力のそれは、きれいにチルノのおでこへと命中した。

 

「あたっ! むぅー……負けた……」

 

 これにて弾幕ごっこは魔理沙の勝利である。すると、それを見ていたのか霊夢が魔理沙の方へと近寄ってきた。

 

「もう、冷えてきたわ……そっちは終わったみたいね。」

「ああ、まぁな。それにしても、何だ。いやに早いじゃないか。そんなにそっちの相手は弱かったのか?」

「さぁ?」

「さぁ……ってお前の事だろ?」

「あの妖精、緑の方だけど戦わなかったのよ。『私は戦わないです。』って言われてね……どうしようもないじゃない。それに、妖精にしては話し方も妙に賢そうだったし、侮れないわよ。」

「ふーん、それならなおのこと戦ってみたかったけどな。」

「まぁ、良いんじゃない? 楽できる訳だし――誰ッ!?」

 

 霊夢が突然声をあげ、湖の岸、そこに生えた木の一本に針を投げる。音を立てて針が突き刺さると、その影から一人の人物が姿を現した。

 

「うあっ!? えっ? あ、あわわわわ……見つかっちゃいました……」

 

 そこにいたのは、紅魔郷の門番の紅美鈴だった。うろたえたように視線を泳がしている。

 

「おいおい、門番さんじゃないか。こんなところで何をしてたんだ? まさか偵察か?」

「えっ? えぇーと……とりあえず逃げます!」

 

 思いついたかのようにきびすを返し走り出す美鈴。その速度はなんとか目で追えるほどの速度だった。

 

「あっ! 待ちなさいよ!」

「いいんだ、霊夢。逃すぜ。後を追いかけて案内してもらおうじゃないか。」

 

 そう言うと二人は美鈴の後を追いかけた。その速度は不思議な事に、二人のそれぞれ全速力よりすこし余裕のある程度の速度であった。

 

 

 

 

 

 一方、木陰にて。

 

「ふぅ、美鈴のあの大根っぷりにはすこし肝が冷えましたが、なんとか騙されたようですね。」

 

 木陰から姿を現したのは、紅魔館の家庭教師クロエだった。木に突き刺さった針を引き抜き、月にかざしながら一人言葉をつむぐ。

 

「しかしあれが、八雲様が育てられた今代の博麗の巫女ですか……完全に気配を殺していたのに察知するとは、恐ろしいまでの勘ですね。」

 

 針を懐にしまい、霊夢たちが飛んでいった方向を見る。クロエは見つかった際に、共に二人を()()()()()()美鈴にある指示をして木陰から押し出したのだ。その指示とは、二人を紅魔館へと案内する事。それも、自然な形で、だ。

 

「こんなところでうだうだやられていても困るんですよね。早くしないと夜が明けてしまう。」

 

 月を見上げ、口を笑みの形に歪めさせる。その瞳に掛けられた片眼鏡(モノクル)には霧の影響で紅く見える月が映っていた。

 

 

 

 

 

少女追跡中

 

 

 

 

 

 逃げ出した美鈴を追いかけ、二人は紅魔館へとたどり着いた。固く閉ざされた門扉は来訪者を拒絶しているかのようだ。

 

「あ、さっきはどうも。」

 

 二人を目に留め挨拶をする美鈴。なんとも緊張感のない様子である。

 

「はいはい、道案内ご苦労様。さて早速だけど、どうしてあたしたちを見て一目散に逃げたのかしら? 何か本当に誘導されたみたいな感覚なんだけど。」

 

(えぇー? 私の演技を見抜くとは、なんて勘の鋭い娘なんですか。)

 

 自身の演技力に疑問を覚えていないようである。すこし汗を流しながらもなんとか話をそらそうと試みる。

 

「さ、さぁ? 気のせいじゃないですか? それに、あなたたちが逃げる私に勝手に付いてきたんじゃないですか。私に付いてきてもこっちには何もないですよ?」

「嘘ね。何もないところに逃げないでしょ? それに最初っからここが怪しいと思ってたのよ。さぁ、素直にそこを通すか、あたしに倒されて門をこじ開けられるか選びなさいな。」

 

 大幣を構え闘志を高ぶらせる霊夢。その姿はとてもじゃないが巫女には見えない。

 

(くそ、背水の陣ですね!)

 

 一人で陣なのかという疑問は置いておくとして、すっかり臨戦態勢となった霊夢に流される形で構えを作る美鈴である。しぶしぶといった雰囲気に見えるが、その口元にはわずかに笑みが見えていた。

 

(まぁ、いいでしょう。この娘はちょうど咲夜さんと同い年ぐらいですし、()()()()()のも良いかもしれません。)

 

 だがその時、霊夢の前に躍り出る人影があった。魔理沙である。

 

「なぁ霊夢、悪いがここは私にやらせてくれないか?」

「……何でよ。」

 

 明らかに不機嫌と行った様子で返事をする霊夢。出鼻を挫かれたような心持ちなのだろう。それを知っているのか、申し訳なさそうな笑みを浮かべて魔理沙は訳を話す。

 

「あの門番、名前は美鈴って言うんだけどな? まだ私が里にいた頃よく見かけてたんだよ。昔っから動きに無駄がないって言うか、かっこよくて、実はちょっとあこがれてたんだぜ。だから、折角だし戦いたいんだよ。」

 

 秘めたる思いを打ち明ける魔理沙。幼い頃より神社で育った霊夢が知らない事実であった。友人の真摯な思いを知り、珍しく少し眉を上げる。

 

「……ふぅん、そんな真剣なアンタは久しぶりに見たわ。良いわよ、変わってあげる。その代わり、無様な戦いをしたら承知しないわよ。」

「分かってる。恩に着るぜ、霊夢。」

 

 霊夢は少し後ろに下がった。そして魔理沙が箒に乗ったまま地上すれすれまで降下する。丁度地上の美鈴と対峙する形だ。

 

「私はこれがないと空も飛べない普通の、人間の魔法使いだからな。これで失礼するぜ。」

「……先ほどの会話、失礼ながら聞かせていただきましたよ。本当は、ある程度力量を測ったら適当に負ける予定でしたが、予定変更です。無様な戦いは出来ません。」

 

 美鈴の瞳に真剣な光がともる。本気の構えをとり、全身から気をあふれ出させる。

 

「私は弾幕ごっこが得意ではありませんが、それでも私の全力を持って相対します。――紅魔館が門番、紅美鈴。推して参ります!」

「良い口上だ。私も負けてられないな! 霧雨魔理沙、魔法使い。罷り通るぜ!」

 

 

2nd Stage Clear・3rd Stage Start

 

―少女相対中―

 




 如何でしたでしょうか?

 気がつけば今回でもう30話目となりました。ここまで続いたのも読んでくださる皆様の支え合ってのことだと思います。ありがとうございます。

 続編までもうしばらくお待ちください。

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