紅魔指導要領   作:埋群秋水

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続きを投稿させて頂きます。今までご覧頂いた皆様に感謝を、この話を読んで頂ける皆様に喜びの意を示させて頂きます。本当にありがとうございます。これからもお願いします。


第2話

 

 (わたくし)を奥様とお嬢様のもとへ案内する道すがら、旦那様はこの紅魔館の現状と周囲の状況、そしていかに妻と娘を愛しているかを、それはもうたっぷりと話してくださった。

纏めると、此所はルーマニア公国と言う場所にあるらしい。らしい、というのは、正直魔の者にとって人間の区分けした土地などには興味はなく、ただ、昔からこの場所にあるというだけだからだ。ただ、中には人とうまく付き合う者もいる。その逆も然りだ。この紅魔館に仕える従者の中にも人の世界から排斥された者もいる。彼らには街への買い出しや対外的な仕事が割り振られている。無論、血液を提供するという重大な役目もある。

さらに、旦那様が仰るには、このスカーレット家は遠い祖先に、かの『串刺し公』、ヴラド=ツェペシュを持つ、由緒正しい家系であるとのことだ。確かに、それが本当ならその非常に強力な力も納得できる。

――しかし、最近発刊された、ブラム・ストーカー氏の『Dracula』しか知らない私ではありますが、ヴラド3世に子孫がいたなどは聞いた覚えがありません。家庭教師として、お嬢様には旦那様の話をお教えすべきなのか、真相を調べお教えすべきなのか。考えておかねばならないでしょう。

そして今は現在進行形で家族自慢の話だ。曰く、妻・マリアは吸血鬼でありながら、その美しさは女神のようだとか、娘・レミリアもまた可愛らしく、まるで天使のようだとか。その顔はデレッデレに蕩けており、もはやカリスマの欠片も感じられない。――このような体たらくでこの館を本当に支配出来ているのでしょうか? もし、最悪の想像通りなら従者の教育も平行せねばなりませんね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惚気を右から左へ受け流していると、ある扉の前に到着した。

 

「あぁ、着いた。中に妻と娘が待っている。一応、家庭教師として弱い悪魔を召喚するとは話してあるが、そこまでだ。自己紹介を頼むよ。」

 

「それは承りましたが……。旦那様、先ほどから聞いておりましたら、従者たる私に対し話し方がフランクではありませんか? 確かに、家庭教師というのは他の従者とは身分が違いますが、これでは他の者に示しがつきません。」

 

「何を言っているんだ。そんな人間社会の常識に合わせる必要が何処にある。僕がどのように話そうと僕の勝手だろう? 事実、他の従者に対しても同じような感じだしな。」

 

「しかし、それでは……」

 

「ええい! 僕が良いと言っているんだからそれで良いんだ! それに、マリアもあまり偉そうにするのは嫌いって言っていたしな。」

 

「ハァ……畏まりました。しかし、私は話し方を変えませんから、悪しからず。」

 

「ああ、君の好きにしてくれて良いよ。さぁ、中に入ってくれ。待ちくたびれたのか中から笑い声が聞こえてくる。」

 

 扉を開けると中に奥様とお嬢様が座っていらっしゃった。奥様は薄い青色がかった髪を長く伸ばし、真っ赤なドレスに身を包んでいる。そこまで力は強くないのか、魔力はそこまで感じられない。しかし、その背中にはおよそ翼とは思えない翼が生えている。宝石のような結晶がきれいだ。その隣でニコニコとしていらっしゃるのは娘のレミリアお嬢様であろう。奥様とよく似た髪をもち、旦那様のような、その小さな体には少し不釣り合いにも感じる立派な翼をパタパタしている。まさにお二方のご息女である。私が見ていると奥様が口を開いた。

 

「初めまして、悪魔さん。私はマリア・スカーレット。そこのアレイスターの妻ですわ。よろしくね?」

 

「お初にお目にかかります。私、この度旦那様に召喚され家庭教師として契約いたしましたクロエと申します。そちらにおわしますお嬢様のお世話を仰せつかりました。」

 

「あら、堅いわ、クロエ先生。同じ女なんだし、もっと親しげにしてちょうだい?」

 

「滅相もない。私は一介の家庭教師。この館の奥様に対し、そのような口をきくわけには参りません。」

 

「つれないわねぇ……。」

 

 奥様がそう嘆息したとき、待ちきれなかったのか、お嬢様が会話に割って入った。

 

「あたしを無視しないで! クロエとか言ったわね、あたしはレミリア・スカーレット。かの偉大な吸血鬼ツェペシュの子孫にして紅い悪魔(スカーレット・デビル)とはあたしのことよ!」

 

――なんとまぁ、ませたお嬢様でしょうか。やりきったと言わんばかりに得意げな顔を浮かべていらっしゃる。旦那様の自己紹介とそっくりでしたね。隣で奥様が『練習していた台詞をちゃんと言えたわねぇ。』なんて仰っている。確かに、そこらの弱小魔族など歯牙にもかけない力を有していらっしゃる。その尊大な態度もあながち間違いではないだろう。まさに、吸血鬼。……しかし、淑女(レディ)としては失格だ。

 

「お嬢様?」

 

 私は抑えていた力を少しだけ解放する。お嬢様が『ヒッ!』と声を上げた。旦那様が止めようとするが、奥様が一瞥して黙らせる。奥様には頭が上がらないご様子だ。――しかし、奥様はただお嬢様を甘やかせるのを良しとしないようですね。意外でした。さて……。

 

「ご口上、大変結構でございました。まさに、吸血鬼といったご様子でいらっしゃる。」

 

「フ、フフン! と、当然でしょ! あたしはスカーレット家の長女なのよ!? な、何か文句でもあるっていうの!?」

 

「ええ、ありますとも。お嬢様、あなたは吸血鬼である前にスカーレット家のご長女でいらっしゃいます。そのよう御方が、先ほどのような言葉遣い、態度……淑女(レディ)としてはまるっきりなっておりません。」

 

 さらに力を解放する。お嬢様がさらにおびえ出す。――おやおや、涙なんか流してしまって。可愛らしいお顔が崩れてしまいますよ? 怖がらせないように笑顔を意識しなければ。

 

「お嬢様? ご安心ください。別にとって食べようと言うわけではないのです。私はただの家庭教師。お嬢様にお仕えする立場の者です。……ただ、曲がりなりにも教師である以上、お嬢様にはそれ相応の振る舞いをして頂きますし、一人前の淑女になって頂くためにもそれなりに厳しくさせて頂きます。よろしいですね?」

 

「ひ、ひゃい……!」

 

「ではまず、先ほどの自己紹介をやり直して頂きましょうか。自己紹介はシンプルに、且つ優雅に。」

 

 笑顔、笑顔……ニコ。

 

「ヒィッ!? ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

「おや? 私は謝ってくださいなど申しておりません。自己紹介をやり直してくださいと申したのです。ほら?」

 

 ニコォ……。

 

「う、ううぅー……。は、は、初めまして……。レ、レミリア・スカーレットです……。よろしく、おねがいしましゅ……。」

 

「はい、よくできました。」

 

 

―続く―

 




 次回から、前書きと後書きを他の方々に見習い、もう少し簡易な物にしていきたいと思います。
 序章に入れた挿し絵ですが、つい一ヶ月ほど前にペンタブを手に入れたので、それで書いた物です。同じように各話の挿絵を、余裕があれば描いてみたいと思っています。挿絵を追加したら後書き、または活動報告にてお知らせしたく思います。
 しかし、ド素人の手慰みにも近しい物ですので、何かおかしい点にも目をつぶって頂けると幸いです。

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