どうぞご覧ください。
「じゃあ、始める前にルールを決めるわよ。」
「待て、霊夢。ルールって何のことなんだ?」
魔理沙が疑問を発する。霊夢は一瞬、「何言ってんだコイツは」みたいな顔をしたが、すぐに説明をしていない事を思いだした。
「今回の異変はスペルカード・ルール、弾幕ごっこをもって解決に当たれってお達しがあったのよ。だから、スペルカードは何枚かって決めるのよ。」
「ちょっと待ってよ、私がそれに応じると思う?」
ルーミアが口を挟んだ。確かにその通りだ。ルーミアには従う義務はない。
「あら、その言葉本気で言ってんの? アンタ、あたしと弾幕ごっこ抜きで戦って本気で勝てると思う? そのリボンで力封印されてんでしょ?」
「ギクッ!?」
痛いところを突かれたようで、ルーミアの額に汗が流れた。
「今回みたいに力の差が歴然でも、対等の勝負が出来るようにって事で弾幕ごっこよ。ほら、どうせ持ってんでしょ? さっさと出しなさい。」
(霊夢、まるでそれは
親友のぶっきらぼうと思っていた一面が、別の何かに見えてしまう。催促されたルーミアは渋々と言った様子で応じた。
「持ってるけど……今まで遊びでしか使ってなかったのにな……」
「今この時からが本当の弾幕ごっこよ。お遊びじゃない遊びを体験させてあげるわ。」
「分かったわよ……スペルカードは三枚ね。行くわよ!」
「喰らえ!」
ルーミアが極彩色の弾幕をばらまいた。弾幕ごっこのルールとして、意味の無い攻撃はしてはいけない。無秩序にばらまいて見える様なそれも必ず避けられるような隙間を作らなければならないのだ。
逆に言えばその隙間さえ作っておけば、容赦の無い弾幕をばらまいても良いと言う事である。ルーミアの放ったそれも、傍目から見れば本気で相手を殺しにかかっているような容赦のなさであった。
だが、幼い頃から弾幕ごっこに親しんでいた少女に取ってみれば、それは穴だらけであった。縦横無尽に放たれる弾幕を霊夢は危なげも無く避けていく。右に、左に、自由自在。華麗に舞うように弾幕を避けるその姿はまるで舞を舞っているかのようだ。これこそが霊夢の能力の真骨頂である。
「ぬぅ……明らかに手加減しているでしょ!」
「当たり前じゃない。あたしはこの霧を出している黒幕を退治しに行くのよ? 言わばこれは準備運動なんだから。ほら、もったいないからボムは出したくないの。さっさとスペルカードを宣言しなさい。」
「馬鹿にしてっ! そんなに喰らいたきゃ喰らえば良い! 月符『ムーンライトレイ』!!」
ルーミアが一枚目のスペルカードを宣言する。するとルーミアを中心として同心円状に弾幕が放出された。その様子はまるで花火である。一見すると避ける隙はありそうにない。
「何よ、それだけ? なめられたものね。」
だが、霊夢にそれは通じないようだ。もといた場所からほとんど動かず、弾幕を避けていく。
「まさか、これで終わりって訳じゃないでしょう?」
「当たり前よ、喰らえ!」
その言葉と共に真横に伸ばした両手からレーザーが放たれた。真横に伸びるそれは霊夢を挟まんと迫る。だが、霊夢は冷静に起動を見極め、ビームが当たる寸前で避けた。微妙にビームに当たるように避けられたその動作は「グレイズ」と呼ばれる高等テクニックだ。
「おぉ、お見事。霊夢に軍配だな。」
魔理沙が呟く。美しさを求められる弾幕ごっこにおいて、グレイズなどのテクニックは必須だ。幼い頃より弾幕ごっこに親しんできた彼女だからこそ、である。
ルーミアのスペルカードが時間切れを迎えた。スペルカード・ブレイクである。
「ハァ、ハァ……人間のくせに、空を飛んで弾幕をかわすなんて……幻想郷の巫女は化け物ね!」
「言ってなさい、あたしは痛くも痒くもないわ。」
霊夢が大幣を構える。弾幕ごっこはまだ始まったばかりだ。
「はい、これで三枚目ブレイクね。」
「あぁああッ! なんで当たらないの!?」
ルーミアの最終スペル、闇符「ディマーケイション」が破られた。これにて弾幕ごっこは霊夢の勝利である。
「さぁ、私の勝ちよ。そこを退きなさい。」
「くっそ、覚えてなさい! 次会ったら食べてやるんだから!」
「はいはい、また良薬を飲ましてやるわよ。」
捨て台詞を吐きルーミアは飛び去っていった。その軌道が少しふらついているのはご愛敬だろう。
「……まぁ、良薬っていっても飲んでみなけりゃわからないけどね。」
「お疲れだぜ、霊夢。」
「全く、無駄に時間を使ったわ。早く先を急ぎましょう。」
霊夢と魔理沙は再び飛行を開始した。先ほどの遅れを取り戻すためであろう、少し速度を上げて飛んでいる。
程なくして森を抜け、霧の湖に到着した。湖の遙か先、ここからは見えないが湖の中のとある島に今回の異変の首謀者と思わしき吸血鬼の住む館がある。
「さて、じゃあ島を探すとするか。霊夢場所分かるか? 私もなんとなくしか知らないんだが。」
「知らないわよ、行った事無いんだし……でも、こっちの方な気がするわ。」
博麗の巫女の勘に従い湖の上を飛行する二人。だが、あちこちを飛ぶも真っ赤な館は見つからない。霧も濃くなってきて捜索は困難を極めそうだ。
「全く……この湖こんなに広かったかしら? 島を探そうにも、霧で見通しが悪くて困ったわ。」
「うーん……島は確かこの辺だったような気がするが……もしかして移動しているのか?」
「そんなわけ無いじゃない。でも……こんなに探しても見つからないなんて、もしかしてあたしって方向音痴?」
一向に目的の島が見つからず、ストレスばかりが募っていく。ついつい目的外のことに話題が飛んで行ってしまう。
「それにしても……なぁ、霊夢。」
「なによー。」
「今はおおよそ夏だぜ。いくら夜だっていっても、なんでこんなに冷えるんだ?」
「来たな、解決者たちめ! 二度と陸には上がらせないよ!」
「さぁ? 熱帯夜よりかはマシでしょ。」
「それはそうだが、お腹が冷えちゃうだろ?」
「……ダメだよチルノちゃん。聞いてないよ。」
「ぬぐぐ……ちょっと、そこの紅白と白黒!! 無視すんじゃないわよ!! こっち向け!!」
霊夢と魔理沙がその声に気づき振り向く。するとそこには青っぽい妖精と、緑っぽい妖精がいた。この霧の湖に居着いている妖精の、大妖精とチルノだ。
「アンタたち、ちったぁ驚けよ! 目の前に強敵がいるんだから!」
「標的? 妖精ごときがあたしの弾幕の標的になるわけないじゃない。」
「だけど霊夢、あいつら妖精にしては力が強そうだぜ?」
「あら、本当じゃない。こいつはびっくりだぁね。」
幻想郷において妖精は珍しい存在では無く、むしろ人間に悪戯をする非常に鬱陶しい存在として広く認知されている。一部妖精は人間の郷にも出入りをしているようではあり、毛嫌いされているわけではないようではあるが。
霊夢たちもまさか目の前にいる妖精たちが自分たちの障害になるとは微塵にも思っていないようで、半分以上馬鹿にしたような態度でいる。それが伝わったのか、青っぽい妖精チルノは憤慨した様子をみせた。
「ふざけやがってー!! アンタたちなんて、英吉利牛と一緒に冷凍保存してやるわ!!」
「ま、まってチルノちゃん! 戦うときは弾幕ごっこでってレミリアさんから言われてるでしょ!?」
焦ったように緑っぽい妖精、大妖精がチルノを止める。ポロッと重要な名前を口にした気もするが、霊夢たちは聞こえていなかったようだ。
「まぁ良いわ。勝負するんだったら早くやるわよ。丁度二人ずついるんだし、二対二で終わらせてあげるわ。」
大幣を構え相対する霊夢。魔理沙も帽子をあげ不敵な笑みを浮かべた。
「どうやらお前がこの寒さの原因らしいな? 寒い奴だぜ。」
「よくわかんないけど、それはなにか違う……」
如何でしたでしょうか?
今回前々から言っていた、この作品の表紙になるイラストをようやく完成させることができましたので、目次ページに掲載しました。よろしければご覧ください。
ちなみに、右から
レミリア、フラン、美鈴、クロエ、咲夜、パチュリー、小悪魔です。