紅魔指導要領   作:埋群秋水

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お待たせいたしました。続編です。
どうぞご覧ください。


第27話

 クロエと紫たちとの丁々発止のやりとりから数日後、八雲家から正式な書簡が届きレミリアと紫との会談が開かれる事となった。

 会談にて紫の計画における初めての異変は、紅魔館の一員が起こす事に決定された。その見返りに当主のレミリアにかけられた様々な制約、自由外出の一部禁止などが解除される事になるという。

 ただ、その異変が起こされるのは会談の日からおよそ十年後と決まった。これは人間側の対妖怪勢の主力になる次代の博麗の巫女の教育と、「命名決闘法」、スペルカードルールの推敲普及が目的である。悠久の時を生きる妖怪にとって十年という月日は長くはない。特に反対も起こらず流された。

 

 

 

 

 

 そして、10年に及ぶ月日はあっという間に過ぎていったのだった。

 

「お嬢様、八雲様より例の件の手紙が来ました。」

「そう、ありがと咲夜。」

 

 永遠に紅い幼き月がその牙をむきだして笑う。奇しくもそれは、夜空にうかぶ三日月によく似ていた。

 

「始めましょう? 私たちの紅い夜を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、霊夢。いるかー?」

「何よ魔理沙。あたしは忙しいんだけど?」

 

 幻想郷の端、少し寂れた神社に二人の少女の声が響いた。その神社は名を「博麗神社」と言った。

 

「忙しい? 参拝客も来ないくせによく言うぜ。どうせお茶をいれるのに忙しいとかだろ。そんな事よりも私の用事なんだが……」

「違うわよ。あたしが忙しいのはこれから。この赤い霧に関して人里から正式に依頼が来たのよ。」

「何だ、私も同じ用事だったのにな。」

 

 現在、幻想郷には謎の赤い霧が蔓延している。人体に大きな影響を及ばさないそれは、始め特に騒がれはしなかった。だが、長期にわたるそれは作物の成長を妨げるなど、生活に少なくない影響を与えた。何よりも、始め人体に大きな影響がないと思われたそれだが、近頃になって咳き込む人が増えるなど無視できない状況となりつつある。

 困った人里の人間たちは幻想郷における異変解決の専門家(プロフェッショナル)である博麗の巫女に解決を依頼したのだった。

 

「……何より、今までほっぽっておいたのがあの人にバレちゃってね。」

「あぁ、紫にか。それは災難だったな。」

 

 孤児だった当代の博麗の巫女である霊夢を育てた育ての親である紫の名前が出た。異変解決・妖怪退治を生業とする博麗の巫女の育ての親というのが妖怪なのはおかしな気もするが、当の霊夢は寸分たりとも気にしていない様子である。曰く、「私が敵と認定した相手が幻想郷の敵よ。その点で紫は敵じゃないわ。」だそうだ。

 今回の異変においてなかなか行動しない霊夢に業を煮やしたのか、あまり干渉しないように決めていたらしい彼女もついに行動するようにせっついてきた。流石の霊夢もとうとうその重い腰を上げざるを得なくなってしまったようだ。

 

「それで、同じ用事って事は魔理沙も何か行動するわけ?」

「あぁ。流石にこの赤い霧にはうんざりしてきたからな。霊夢も誘っていっちょ解決するかぁって思ったんだぜ。」

「そう。それじゃあ行きましょ。」

「行きましょって……当てはあるのかよ。」

「ないわ。勘よ。」

「……勘かよ。」

 

 呆れながらもそれに付き合う魔理沙である。この二人は幼い頃からのつきあいであるようで、その雰囲気は互いに気が置けない仲であるようだ。霊夢は持ち前の【空を飛ぶ程度の能力】で、魔理沙は魔法で浮かび上がる。

 

「よっし! で、どこに行くんだ?」

「そうね……湖、かしら。なんだか怪しい気がするわ。」

「湖か、確かあそこには吸血鬼の住む真っ赤な館があったはずだぜ。」

「そこね。間違いないわ。」

 

 巫女の勘は的確に今回の異変の出所を突き止めた。これが妖怪たちに恐れられる由縁でもある。今、楽園の素敵な巫女と普通の黒魔術少女が動き出した。

 

 

 

 

 

「紫様、霊夢が動きました。」

「そう、やっとなのね。」

「あと、なにやら魔理沙も一緒にいるようですが……排除しますか?」

「構わないわ。『人間がスペルカードをもって異変にあたる。』今回の異変で必要なのはこの事実。その点で魔理沙なら問題は無いわ。それに、魔理沙も一緒の方があの娘も張り切るでしょう?」

「……本当に紫様は霊夢に甘いんですから。」

「だって、私が手塩に掛けて育てた娘なのよ? 可愛くないわけがないわ。その点あの吸血鬼だってあのメイドを溺愛してるじゃない。それと同じ様なものよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異変解決に向けて飛ぶ魔理沙と霊夢は、湖の手前にある森の上を通っていた。時刻は夕暮れ、日の入りもすぐそこの正に「逢魔ヶ時」である。

 

「太陽がだいぶ傾いてきた。日が沈む前にはあの館に着きたいもんだな。」

 

 ほうきにまたがり空を飛ぶ魔理沙が呟く。夜は人外の時間である。異変の首謀者と思わしき敵を前に、無用な戦闘はなるべく避けたいところだ。

 

「確かに、暗くなると厄介よね――ッ!?」

 

 霊夢がそう返したその時だった。突如二人の周囲が闇に包まれた。

 

「なな、なんだこれ!? 何も見えやしないぜ! 太陽ってそんなに早く沈むもんなのか!?」

「そんなわけ無いでしょう。……この闇、妖力を感じるわ。たぶん、妖怪の仕業よ。」

「妖怪の仕業って……周囲を暗くしたのか、私たちの視力を奪ったのか知らないが、大したもんだ。私たちを奇襲したんだぜ? 相応の報いは受けてもらおうか。」

「……あたしがやるわよ。アンタとは相性が悪いわ。」

「そうか? んじゃあ、高みの見物としゃれ込むか。」

 

 魔理沙がそう言い、高度を取った。と同時に霊夢は集中し始める。巫女の勘を最大限に冴え渡らせ、自身の邪魔をする存在をあぶり出した。

 

「……そこね。」

 

 妖怪退治の針を投げる。闇の一角に飛んでいったそれは闇に蠢く何かに当たった。

 

「あ痛ッ!? ちょ、何々!? 何事ッ!?」

 

 すると、周囲を覆っていた暗闇が突如として消えた。そして下方、そこにいたのは少女のような風貌をした一匹の妖怪だった。

 

「いきなり針を投げつけるだなんて、なんて凶暴な奴! 一体どこの誰よ!」

「あたしよ。」

 

 その声に妖怪少女が顔を上げる。霊夢の存在を認めた彼女は途端に嫌な顔をした。

 

「げぇっ! 博麗の巫女!」

「あら、あたしを知っているのね。」

 

 妖怪少女はふよふよと浮かび上がり、霊夢と同じ視点になった。

 

「知ってるわ。妖怪の間でも有名よ? でもまさか、噂の暴力巫女がいきなり針を投げつけるほどだなんて聞いてはいなかったけど。」

「人は暗いところでは物が良く見えないのよ。だから安全のために針を投げたの。」

 

(それを直感で一発命中させたってことは、自分で自分を人間じゃないって言ってるようなものだぜ……)

 

 魔理沙が心の中でつぶやく。だが、巫女の直感はそれすらも見越すのか、霊夢は魔理沙の方を一瞥した。

 

(うひゃっ!? マジかよ……)

 

「ふーん。あら? 夜しか活動しない人も見た事ある気がするわ。そいつらはどうなの?」

 

 妖怪少女が疑問を発する。魔理沙を睨んでいた霊夢はその声に視線を戻した。

 

「それは取って食べたりしてもいいのよ。」

「そーなのかー。」

 

 妖怪少女は聞いてるのか聞いていないのか分からない態度で返した。どうやら会話に飽きてきているらしい。彼女は両手を真横に広げ、自身の身体の周囲に闇を広げた。

 

「おい、何だよそのポーズは。変な構えだな?」

 

 魔理沙が口を挟む。妖怪少女は顔を上げて魔理沙の方を見た。

 

「このポーズ? 私のオリジナルよ。どう? 聖者は十字架に磔られましたと言ってるように見える?」

「妖怪が聖者だって? 冗談が上手くないぜ。私には、人類は十進法を採用しましたって言ってるように見えるな。」

「そーなのかー。」

 

 またも適当な態度で返す妖怪少女。自身の構えに執着はない様である。

 

「無駄話は終わった? あたしばっかり名前を知られているのも不公平だし、アンタの名前も教えなさいよ。あたしの武勇伝に加えてあげるから。」

「私? 私はルーミアよ。さぁ、アナタはさっき言ってたわね。夜に出歩くような人は取って食べても良いって。」

 

 すでに日が沈み、空の端がわずかに明るいだけである。もはや時刻は夜になっていた。先ほどの霊夢の言を借りるなら、霊夢たちは取って食べても良いはずだ。

 ルーミアが霊夢を指さし言葉を続ける。

 

「――目の前がとって食べれる人類?」

「……良薬は口に苦しって言葉知ってる?」

 

 

 

―1st stage Start―




如何でしたでしょうか?

 まずいきなり咲夜さんが登場している件ですが、ゆかりんたちとの会談後の10年間で加入したという設定です。そのお話はまた後ほどで。
 次に霊夢とゆかりんにすでに面識がある件については、単なる二次創作です。スルーしてやってください。

 原作ゲームに興味が出てきた今日この頃です。それではまた。

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