紅魔指導要領   作:埋群秋水

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お詫びと訂正

知り合いから「たった1話じゃ評価のしようがねえだろ。」と指摘を頂き、「あ、確かにその通りだわ。」と考え直したので、ある程度連載を続けてみようと思います。どうか暖かい目で見守りください。
因みに、物語は過去より始まります。それでは宜しくお願いいたします。



第1章 昔語篇
第1話


 

 それは、(わたくし)が魔界での退屈な日々に少し飽き始めていた頃だった。一般的な悪魔は自身の物語などを記した本を地上に流し、召喚されようとするものではあるが、如何せん私は興味がない。召喚の見返りの報酬も興味がない。一応、知り合いにせっつかれて1冊だけ書きはしたが、それも今やどこにあるのやら。

 ――そういえば、彼は少し前に召喚されて行きましたね。美味しそうな魂の持ち主だと喜んでいましたが、また今度覗きにでも行ってみますか。

 そんな詮無きことを考えていた時、私の元へ魔力による通信が届いた。これは、小悪魔か。

 

「はい、どうしましたか?」

 

「ク、クロエ様! 大変です!」

 

「報告は簡潔に。要点だけ述べなさい。」

 

「ええと、その、あのですね、ク、クロエ様に召喚がかかりました!」

 

「何ですって? 私に? 間違いではないのですか?」

 

「いえ、確かにクロエ様を指定しておりますぅ……。昔、1冊だけ記されました本を仲介していますので間違いありません!」

 

「ふむ、あの本をですか……。普通とは逆に自身のことを卑下して書いたものでしたのに。地上には余程の物好きがいらっしゃるようですね。」

 

「いかがなされますか、クロエ様? 拒否することも出来ますが……。」

 

「いえ、行きましょう。長期的に地上散策できる良い機会です。留守は任せましたよ、小悪魔。」

 

「はい! おまかせください! (いよっしゃぁ! 厄介者が消える!)」

 

 どうやら失礼なことを考えているようだ。あちらへ行く前に少しお灸を据えておきますかね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小悪魔を軽く(私主観)お仕置きした後、召喚された場所はヨーロッパのあたりのようだ。ゴシック風のステンドグラスの窓の向こう側、濃い霧が夜の森を包んでいる。あぁ、良い月だ。

 

「ん? おい、これはどういうことだ? こんな強力な奴を喚んだ覚えはないぞ。……まぁ、良いがな!」

 

 目の前の金髪の若い男がいぶかしげに私の方を睨んでいる。どうやらもっと弱い悪魔が来ると踏んでいたらしい。しかし、どうやらこの男は人間でも、魔法使いでもないらしい。赤く光る瞳と言い、背中の漆黒の翼と言い、そのいかにもな雰囲気と言い、まさか……。

 

「ふむ、どうやら気づいたようだな? そうだ、俺こそがこの紅魔館を統べる主にして夜の王、不死者(イモータル)たる絶対強者、吸血鬼のアレイスター・スカーレットである!」

 

 やはりそうだ。地上に生ける魔族の一種、その中でも強力な部類であろう吸血鬼だ。さらに、目の前にいるこの男、なかなかに力を持っている。そこら辺の悪魔ならとうてい敵わないだろう。

――しかし、何故でしょうか。何というか、残念な気配がします。

 

「さぁ、悪魔よ。君にはある役目を任せたい。何、心配するな、実に簡単なことだからな。それで、君は俺に何を望む? 魂か? 魔力か? まぁ、私には魂などないからな、渡すことも出来ないがな! フフフ、フハハハハハッ!!」

 

「いりませんよ、そんなもの。」

 

「――ハハハ、ハァ!? な、何だと!? な、なら何が望みなのだ! 財宝か? ま、まさか愛する妻と娘に何かしようとでも言うのか!? おのれ、ゲスな悪魔め! スカーレットの名にかけて家族に手出しはさせんぞ!!」

 

「落ち着いてください。それも結構ですよ。魂等も興味ありません。他の悪魔がどうかはよく知りませんが、私には必要のないものです。」

 

「むぅ、そ、そうなのか……。それならば一体なにを望むというのだ?」

 

「基本給プラス出来高でまとまった給金を月払いと、月に5・6日の休暇を頂きましょう。契約は半年ごとの更新で。休日は契約内容を履行しませんし、命令も聞きませんのであしからず。――私の趣味は地上散策なんですよ。お休みの日には外出させて頂きます。」

 

 目の前の男、アレイスターは実に間抜けな表情をさらしている。その視線が如実に『お前は本当に悪魔なのか?』と語りかけているのも無理はない。

――私自身、一般的な見返りとかけ離れているのは承知の上ですからね。

 

「ほ、本当に良いんだな? 止めないぞ?」

 

「くどいですね。良いと申しておりますのに。」

 

 いまやアレイスターのカリスマは崩壊している。最初の威厳は形を潜めて、少しオドオドとしている。

――あれは虚勢だったようですね。この調子では先に進みそうにないですし、さっさと進めますか。

 

「では、契約と参りましょうか。」

 

「う、うむ。では契約を。僕は君に……面倒だな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これで良いかい?」

 

「ええ、構いません。では、()()()()()()ね。」

 

 悪魔の契約は、対人間であれば契約書だとか、刻印だとかがいるようだが、相手が人外なら簡単なものだ。ただこうして相互の意思疎通の上で魔力を込めた言葉を交わせばそれで終わりだ。悪魔は契約に縛られる。破棄した場合は様々なペナルティが課される。向こうが破棄したならばもはや我々は自由だ。取って食おうが問題はない。

――しかし、アレイスターは、いや、旦那様はどうも少し頼りなさげです。折角強い力を持ってらっしゃるのに、それに付随するカリスマが虚勢とは。今も『ただ家庭教師を頼もうとしたのに……弱い悪魔を喚んだはずなのに……』などとつぶやいておられる。一人称も俺から僕に変わっていらっしゃる。……よもや、家庭教師の対象は旦那様なのでしょうか。いや、奥方様とお嬢様がいらっしゃるようですし、違うでしょう。……違うはずです。

 

「では、ついてきてくれ。妻と娘に紹介しよう。他の使用人もいるしな。」

 

 あぁ、良かった。違うらしい。

――何はともあれ、家庭教師。悪魔に頼むのは珍しいのではないでしょうか。私より前に喚ばれた彼は何処で何をしているのでしょう。案外、私のように使用人を任されている――考えられませんね、彼の使用人姿など。まぁ、良いでしょう。せいぜい励むとしますか。

 

「しかし、もう少し力を抑えることは出来ないのか? 他の使用人がおびえてしまう。」

 

「そうですか……では、格好もそれらしくしてみますか。」

 

 私は魔力で新しい服を用意した。従者のような格好に、動きやすさを意識して男性用の物を。――力を抑える物は……良い物がありました。昔手に入れたこの『聖女のバレッタ』で良いでしょう。聖なる者の力を倍増し、悪なる者の力を削るこれならば、ちょうど良い力加減となるはずです。これで長い髪を纏めれば……。

 

「うむ、素晴らしいな。まさに執事のようだ。」

 

「おやめください。私は家庭教師ですよ?」

 

 家庭教師に加え、執事まで任されてしまっては大変だ。丁重に辞退せねば。

 

「そうか? まぁ、良い。よし、では行こう。」

 

 ――さぁ、仕事の時間だ。

 

 

―続く―




いかがでしたでしょうか。このようにしばらくは過去の話となります。近いうちに黒執事の要素が多少混ざる予定ですので、それまで連載が続くようにがんばります。
新規投稿ですが、なるべく早い投稿を心がけるようにします。只、何分素人ですので(タイピング)が遅々として進まない場合があります。そのときは、申し訳ありませんがお待ちください。何もメッセージを残さずいきなり打ち切りとは絶対にしませんので、何卒、お願いします!

追伸
皆様のご覧いただいた回数、お気に入り頂けた事実、心の底から嬉しく思います。只、目を通していただくだけでも、私にとってとても喜ばしく思います。改めてお礼を言わせてください。
有り難う御座います!



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