どうぞ、ご覧ください。
「アッハッハッハッハッ!」
「う、うぇええええっ!? な、なんですかこれぇえええっ!?」
手紙から出てきた謎の煙により、美鈴が小さくなってしまった。とても可愛らしい。丁度お嬢様と同じくらいの大きさである。
内容は、先の
――流石はセバスチャン。私のことをよく分かっている。
「美鈴、落ち着きなさい。」
「落ち着いてなんかいられませんよぉおっ! こんな小さな身体では門番ができません! あぁ、私は用済みとして追い出されちゃうんだ……。 短い間ではありましたが、お世話になりました……。」
「待ちなさい。ほら、この手紙を読んでご覧なさい。」
「ふぇぇ、読んじゃっていいんですかぁ?」
美鈴は半べそをかきながら手紙を読み進めていった。見た目と相まって完全に幼女である。涙目であった美鈴だが、手紙を読み進めていく内に表情が変わっていった。そして、読み終わる頃には完全な怒り顔である。
――まぁ、見た目が幼いので精々“ぷんすか”といった程度の迫力なんですけどね。
「ひ、ひどいですよクロエさんっ!! 罠があるって知ってたんなら教えてくれたって良いじゃないですかっ!! 鬼、悪魔っ!!」
「はい、私は悪魔で家庭教師です。あと、その甲高い声で叫ばないでください。お姫様だっこぐらいで真っ赤になっていた自分を棚に上げて、私のことを初心呼ばわりした罰ですよ。それに、疑って掛からなかった貴女も悪いでしょう?」
「うぐっ! そ、それはそうですけどぉ……。」
「大丈夫ですよ。それは4,5時間で解けると書いてありましたから、朝には間に合います。良ければ、お嬢様の下へ伺ってみては如何ですか?」
「うーん、まぁ、それもそうですね。では、お嬢様のもとへいってきます!」
彼女は馬鹿なのか? 呪いのせいで精神的にも外見に引っ張られているのかもしれない。まぁ、可愛いので良いだろう。私は意識を切り替えテストの仕上げに取りかかった。
昼食(真夜中)が終わり、お嬢様が書斎にやって来た。小さくなった美鈴を連れて。ずっと考えないようにしていたが、昼食の間も美鈴を隣に置いて食べさせていたりもしていた。
――もしかしたら、お嬢様は一人っ子なので弟か妹がほしいのでしょうか? まだもう一人ぐらい、お子様は出来そうなものですが……。まぁ、今後に期待ですね。
小さくなった美鈴はこの状況を楽しむことにしたようだ。いや、すでに精神面がかなり身体に引っ張られているらしい。言動がだいぶ幼くなっている。つい先ほどはお嬢様が自身のことをお姉ちゃんと呼ぶように言った所、本当にお姉ちゃんと呼び始めた。後で思い出して赤面物だろうが、まぁ良いのだろう。
さて、肝心のテストであるが、お嬢様は見事満点を取った。もうすでに教えることはそうそうなくなってくる。現在も教えていることいえば勉強よりも戦い方やマナーレッスンなどの方が格段に多い。これで相応の威厳と落ち着きさえ身につければ完璧であろうが。
「ふむ、さすがお嬢様。満点ですよ、素晴らしい。」
「フフンッ! まぁ、当然よね。じゃあ、先生。約束していた散歩にいきましょ!」
「畏まりました。では、少し準備いたしますので、先に玄関ホールでお待ちください。あ、美鈴は残していってくださいね。もうすぐ呪いが解けると思いますので。」
「そうね。じゃあ、めーりん。しっかりとお留守番してるのよ。」
私はお嬢様を残し部屋を出た。出先で軽くつまめる物を持って行った方が良いだろう。そう思い立ち、私は厨房にて夕食(明け方)の準備をしているシェフらに許可をもらい準備をした。
私が玄関ホールに向かっていると、テラスで手紙を読んでいる奥様を発見した。この時代では珍しい写真も入っているようだ。私の視線に気がついたのか、奥様がこちらを向いて笑った。
「不躾に見てしまい申し訳ありません。」
「良いのよ、気にしていませんわ。それよりも、これを見てくださる?」
そう言ってこちらに写真を渡してきた。見ると、夫婦らしき男女と、女性に抱かれた赤ん坊が写っている。
「こっちの女の人が私の友人でエルザ・ノーレッジって言いますの。最近赤ちゃんが産まれたらしくて、お手紙をもらったのですわ。可愛いでしょう?」
「ノーレッジと言いますと、あの魔法使いの一族の方ですか? 奥様のご交友関係は広くいらっしゃいますね。」
ノーレッジ家。その名は魔界でも有名だった。古くから魔法使いを生業とした一族であり、我々悪魔の得意客とも言えるべき相手である。
「私の産まれた場所の近くにエルザは住んでいたのですわ。私も他人の事は言えないのけれど、あの娘ったら昔から身体が弱くて、折角魔法使いだっていうのに詠唱が上手く出来なくって。」
奥様はミセス・エルザ氏との思い出話を始め、彼女が夫と出逢い結婚するまでのドラマを熱く語ってくれた。そして、最近一人娘が産まれたという。
「ゆくゆくはこの娘とレミィが友達になってくれたら嬉しいのですけどね。」
奥様は笑ってそう仰っていた。それはそう遠くない未来に実現するだろう。
「そういえば、クロエ先生。どこかに向かっている最中ではなかったのかしら? こんなところで話していて良いの?」
そうだった。ついつい話に興じていたが、お嬢様を玄関ホールに待たせている。急がなければ。
「そうでした。お嬢様を待たしております。申し訳ありませんが、これにて失礼させて頂きます。」
「フフッ、レミィの事をよろしく御願いしますわ。」
「
私は一礼して玄関ホールへと急いだ。
急いで玄関ホールに向かうと、すでにお嬢様が待っていた。少し不機嫌そうだ。私は跪いてお詫びの言葉を口にする。
「大変お待たせいたしました。申し訳ありません。」
「先生おそいっ! 忘れられちゃったかと思ったわ!」
「私としたことが、言い訳のしようもありません。しかし、お詫びと言うわけではありませんが、散歩の際に外でお茶出来るものを持って参りました。お嬢様にもご報告したい事も御座います。」
「まぁいいわ。それよりも早く行きましょ? 夜が明けてしまうわ。」
お嬢様は急ぎ足で玄関を飛び出し門へと向かった。私も後に続く。門を抜け少し行くと大きな湖が目の前に広がる。現在は霧も晴れているようだ。田舎らしく、澄んだ夜空を鏡のように映す湖面が揺れている。人間にとっては不気味な夜道も、吸血鬼と悪魔にとっては静かな散歩道にしかならない。月明かりを一身に浴び歩くお嬢様の儚げな美しさもまた際立つ。
――黙っていればとても絵になる光景ですね。さながら
そういえば、
「お嬢様、散歩と仰いましたが何処か目的地はあるのですか?」
「うーん……特に考えてなかったけれど、この湖に少し変わった妖精が出るって噂があるわ。」
「少し変わった妖精、ですか。」
「ええ。冷気を操る青い妖精と、それにくっついている緑の妖精らしいけど、どうやら妖精にしては力が強いらしくて、青い方に至っては最強を自称してるらしいのよ。」
「はぁ。それがどうなさいましたか?」
すこし珍しいらしいが、妖精は妖精である。そこまで大騒ぎするような事態ではなさそうだが……。
「だって、だって最強を自称しているのよ!? 放ってはおけないわ! 格の違いを教えてあげなきゃね!」
どうやらお嬢様はたかが妖精の戯言と流すことは出来ないようだ。妖精は自然現象が形を為したような物であり、死という概念は存在しない。姿が消えてもまたしばらくしたら発生する。私たちはそれを「一回休み」と呼んでいる。
――妖精相手なら危険もないでしょうし、大丈夫でしょう。
湖畔に沿って歩く道すがら。夜の散歩に興じる二人を、夜空の月が静かに照らしていた。
如何でしたでしょうか?
年末に向けて少し忙しくなるので、投稿がしばらく待ってもらうことになってしまいそうです。すいません……
年明けに必ず投稿するのでしばしお待ちください。
それでは!