僕のパンツァーアカデミア   作:サンダーボルト

6 / 6
猛れクソタンク

「侵入成功!」

 

「死角が多いな…気をつけないと」

 

 

ビルの中は当然といっちゃ当然だけど殺風景だった。身を隠す場所も限られていて、一度見つかったら逃げ切るのは困難だろう。この広さなら、もしかしたらかっちゃんと出会わずに行けるかな~、なんて…

 

 

――――BOOM!!

 

 

「うわ!!」

 

「ひゃあ!」

 

『いきなり奇襲!!』

 

 

曲がり角からかっちゃんが飛んできて、キツイの一発お見舞いしてきた。何とか麗日さんを庇えたが、コスチュームの顔半分が持っていかれた…!

 

 

「かすった…麗日さん大丈夫!?」

 

「うん!ありがと!」

 

「作戦は覚えてる…?」

 

「おもち…じゃなくてモチ!」

 

 

……一瞬不安がよぎったけど、思ったより余裕そうだ。

 

 

「デクこら、避けてんじゃねえよ」

 

「んな無茶な…!」

 

『爆豪ズッケェ!奇襲なんて男らしくねえ!!』

 

『奇襲も戦略!彼等は今、実践の最中なんだぜ!』

 

『緑君、よく避けれたな!』

 

 

チンピラみたいな言い草だ…。でも、チンピラ相手の方がまだマシな気がする…。

 

 

「中断されねぇ程度にブッ飛ばしたらぁ!!」

 

「甘いっ!!」

 

「っ!?」

 

 

出た、右の大振り!かっちゃんは大抵の場合、右の大振りを繰り出してくる。僕は踏みこんでかっちゃんにの右腕を取り、背負い投げの要領で投げ飛ばした。

 

 

「っらあ!!」

 

「ガハッ…!」

 

「凄い!達人みたい!」

 

 

思ったより鮮やかに決まった…!けど、かっちゃんはすぐに立ち上がってくる。柔道を習ってたわけじゃないから、背負い投げと言ってもかなり粗があったのだろう。達人というには程遠いよ。

 

 

「凄いと思ったヒーローの分析は、全部ノートに纏めてる。…君が爆破して捨てたノートに!」

 

「テメェ…!!」

 

「いつまでも、雑魚で出来損ないのデクじゃないぞ…僕は…頑張れって感じの戦車乗り、デクだ!!」

 

「(戦車乗りは言うてへん!!)」

 

 

……何だろう。ビシッと決まったはずなのに、麗日さんが何か言いたそうにこちらを見ている。

 

 

「ビビりながらよぉ……」

 

「!!」

 

「そういうとこが…ムッカツクなああ!!!」

 

 

ビビってるのバレた…!やはり十数年のいじめられっ子根性はちょっとやそっとで体から抜けきるもんでもなかったか…。

 

 

「麗日さんGO!!」

 

「ラジャッ!」

 

「余所見たあ余裕だな!!」

 

 

麗日さんが走り、僕は彼女を追わせないようにかっちゃんの前に立ちふさがる。かっちゃんは爆破で加速をつけて僕に蹴りかかってきた。

 

 

「ぐ…!!」

 

 

読まれるのを警戒して蹴りを入れてきたのか!だが甘い!

 

 

「!!(確保証明のっ!)」

 

 

蹴りを受け止め、足に確保証明のテープを巻きつけようとする。そしてそうなれば、かっちゃんはまた焦って…!

 

 

「くそが!」

 

 

右の大振り!!いくら爆破で威力とスピードを上げようと、どこから来るかさえ分かっていれば対処のしようはある!

 

 

『すげえなあいつ!!』

 

『入試一位と個性使わずに渡り合ってるぞ!』

 

 

とはいえ…一筋縄じゃいかないのは百も承知!ここは深追いせず、逃げて麗日さんからの連絡を待つ!!

 

 

「待てコラ!デク!!逃げてんじゃねぇ!ずいぶんと派手な個性持ってんだろォ!?使ってこいや!俺の方が上だからよぉ!!」

 

 

すっげーイラついてらっしゃる!!僕が個性を発現したのが余程気に食わなかったらしいね…。だからって喧嘩売られる筋合いないけど…!

 

 

『なんかスッゲーイラついてるな…こわっ』

 

『(爆豪少年は緑谷少年から聞いた感じ、自尊心の塊なんだろうが…肥大化しすぎてるぞ……ムムム…)』

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

 

ま…まだか麗日さん…!時間をかけすぎると、合流する時間が無くなってしまう…!

 

 

『デクくん!!』

 

「待ってたよ!どう!?」

 

『見つけた!…けど飯田君に見つかっちゃった!ごめん!』

 

「今行く!場所は!?」

 

『五階の真ん中フロア!それと飯田君、部屋の中の物を全部片付けちゃってて私の個性が使えないの!』

 

「な!?……分かった、出入り口を背にして粘って!!着いたら武器を作るから!」

 

『りょ、了解!』

 

 

抜け目ないな、飯田君…!向こうが守りに徹している以上、麗日さんが捕まる事は無いと思うけど…急がないと!

 

 

「溜まった…」

 

「!!かっちゃん!」

 

 

見つかった…!今、溜まったと言ったのか?

 

 

「てめぇのストーキングならもう知ってんだろうがよぉ。俺の爆破は掌の汗腺から、ニトロみてぇなもん出して爆発させてる」

 

 

何だ…いきなり何を話だし……!!かっちゃんのコスチュームの籠手!!手榴弾みたいな形だけど…まさか!!

 

 

「要望通りの設計なら、この籠手はそいつを内部に溜めて…」

 

『爆豪少年ストップだ!殺す気か!?』

 

「当たんなきゃ死なねえよ!!」

 

 

ピンを抜く音が聞こえたと思ったら、耳をつんざく爆音と強烈な爆風が僕を襲った。

 

 

 

ド オ オ オ オ オ オ ・ ・ ・ ! !

 

 

 

「うおあああああああああ!!?」

 

 

僕の絶叫を飲みこんだ巨大な爆炎は、ギリギリ体をかすめて後ろの壁を木っ端みじんに破壊した…!嘘だろ…何だよこの威力は…!!とっさにかっちゃんの正面から逃げたからかすめる程度で済んだけど、もし体の一部分でも触れていたら……!!

 

 

「ハハ…すげぇ…なあ?どうしたデク?来いよ、まだ動けんだろぉ!?」

 

 

この威力に興奮しているのか、笑いながら歩いてくるかっちゃんの姿は威圧的なコスチュームも相まって悪魔か何かみたいだ。こっちは余波の影響でまだ体が痺れているってのに…。日頃から爆破しまくってるからか、爆風に対する耐性があるのかもしれない。

 

…って分析してる場合じゃなかった。

 

 

「麗日さん、そっちは大丈夫!?」

 

「無視かよ。すっげえな」

 

 

通信機が駄目になったのか、麗日さんからの返答がない。飯田君にやられてないといいけど…!

 

 

「……!」

 

 

ここで突然、かっちゃんの動きが止まった。……使うとしたら今だ(・・・・・・・・)!!

 

 

「……ああ~!じゃあもう殴り合いだ!!」

 

 

もどかしそうに叫んだかっちゃんは、拳を握りしめて臨戦態勢をとった。ここで勝負をかける!

 

 

「君はもう負けているっ!」

 

「……ああ!?」

 

 

指を指して叫んだ僕に、今まさに飛びかかろうとしていたかっちゃんの体勢が崩れた。そして僕を視線で殺そうとしているぐらいに睨みつけている。

 

 

「デクてめぇ…個性も使わねえで、どこまで俺を舐めてやがんだ…!!」

 

「さっきの攻撃は凄い威力だった…けど、もう使えないんだろう!?籠手は両手にあるのに、この状況で殴り合いなんて愚の骨頂ッ!!大方オールマイトにもう使うなって忠告されたんだろう!?」

 

 

通信機で会話できるのは相方とオールマイトだけ。飯田君の忠告をかっちゃんが素直に聞くはずがないから、オールマイトからもう一回使ったら失格とか言われたんだろう。

 

 

「だったらなんだってんだ!!」

 

「その攻撃が厄介だった!それだけが危険だった!それがもう使えないのなら、こっちも攻勢に出れるって事さ!」

 

「ハッ…ようやく個性を使う気になったって事かよ!!」

 

「残念、もう使ってる」

 

「ンだとぉ!?」

 

 

かっちゃんはぐるりと周りを見渡した後、怒りの形相で僕を見た。

 

 

「このクソナードが嘘ついてんじゃねえ!!」

 

「嘘じゃあない!」

 

「この狭ぇ空間のどこに戦車を出したってんだ!!」

 

「…Behind You(君の後ろさ)」

 

 

―――ギャルギャルギャル…。

 

 

その時、かっちゃんの耳には確かに届いていた。戦車と言うには軽すぎるキャタピラ音が。

 

ハッとして慌てて振り向くけど、かっちゃんの後ろにはそれらしいものは無い。

 

 

―――ギャルギャルギャル…。

 

 

でも音は聞こえてくる。明らかな動揺が見てとれた。珍しくかっちゃんは焦っている。かっちゃんはキレやすいけど切れ者だ。傍から見て冷静に見えなくても、妙な部分で冷静ではある。

 

だから、このチャンスを逃せない。

 

僕は一目散に上へ向かうために階段へ走った。

 

走る音に気づいてこっちを振り向くけど、さっきから鳴りやまないキャタピラ音が判断を遅らせる。僕を狙って戦車を放置するか、戦車を警戒して僕を見逃すか、二つに一つだ。

 

…まあ、かっちゃんなら…

 

 

「待てやコラァァァァ!!!」

 

 

僕を狙うだろうね。この音を逃走用のブラフと判断しての行動だろう。もしも本物だったとしても、音の軽さから自分の個性で対処できると踏んで、僕に狙いを絞ってきた。爆破で勢いをつけたかっちゃんがこっちに飛んでくる。

 

 

『コッチヲ見ロォ…』

 

 

その判断が命取りさ。君は二つ間違いを犯した。

 

一つ。このキャタピラ音はブラフでもなんでもなく、君を倒せる戦車の音だということ。

 

そしてもう一つ。さっきの籠手攻撃をあっさり使ってしまった事だ。

 

かっちゃんはようやく理解したようだ。後ろから音がしたのに後ろにいなかった理由……それは天井に張り付いていたからだ。普通に考えたなら、戦車が天井に張り付いているなんて考えもしないだろう。

 

空中で振り返ったかっちゃんは、自分を狙って突進してきた戦車と目が合った(・・・・・)。骸骨の顔が付いた戦車は闇のように黒い目の奥から光を宿し、機械のような声を上げて襲い掛かった。

 

 

『コッチヲ見ロォ~!!』

 

「な、んだコイツァ!?」

 

 

かっちゃんはとっさに右の大振りで爆破を繰り出して戦車を吹き飛ばした。勢いで壁にめり込んだ戦車を見て、かっちゃんは再び僕に狙いを定める。

 

 

「こんなオモチャで俺を倒すってぇ!?笑わせんなよデク!!」

 

 

僕の背中に怒号が飛んでくる。それに構わず、僕はひたすら階段に向かって走る。

 

……言っておくけど、あの戦車がやられたから急いでいるんじゃないぞ。時間制限が厳しいからこんなに必死で走っているんだ。そもそもかっちゃんは勘違いをしている。

 

 

『……コッチヲ見ロォ…』

 

 

戦車は壁にめり込んだだけで、壊れちゃいないんだぜ?

 

 

「!?このガラクタ…まだ動けんのかぁ!?」

 

『オイ…コッチヲ見ロッテイッテルンダゼ』

 

「るせェ!!」

 

 

後ろから爆発音が聞こえてきた。…無駄だよかっちゃん。その程度の爆破じゃ話にならないよ。

 

 

「……こ、こいつっ!?ブッ飛ばしても、ブッ飛ばしても…!!」

 

『コッチヲ見ロッ!!』

 

「クソがぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

小さいけど、パワーも頑丈さも折り紙付きさ。あの籠手の攻撃力なら壊されはしないまでも、彼方へ吹き飛ばされる恐れがあったから使用不能になって助かった。奥の手は取っておくものだって誰かが言っていたけど、その通りだよねホント。

 

誰も聞いてないだろうけど、思わず口に出さずにはいられなかった。

 

 

「シアーハートアタックに…弱点は無い」

 

 

……そんなことないんだけどね。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

シアーハートアタックがかっちゃんの相手をしている間に、僕は五階へたどり着いた。中では麗日さんと飯田君が対峙しているはず。出入り口を背に……そう指示したのには意味がある。

 

 

「ヒルドルブッ!!」

 

 

召喚と同時にヒルドルブへ乗り込み、ドアと壁を粉砕して部屋に乗り込んだ。

 

 

「デク君!!」

 

「ぬ!援軍か!」

 

 

指示どおり粘っててくれた…!!飯田君は核を背にして守りを固めているようだ。

 

 

「やはり個性を使ったかヒーロー!だがこの狭い場所で貴様の個性は持ち腐れだ!屋内では俺の個性に追いつけまい!このまま時間いっぱいまで粘らせてもらうぜ!ぐへへへへ!!」

 

 

……飯田君だよねあの人。なんであんなにキャラが変わってるんだ?まさかヴィランになりきった結果があれなのか?

 

 

……。

 

 

……ま、まあキャラはさておき、怪人イイダの言ってる事は正しい。狭い場所で小回りが利かないヒルドルブじゃ絶対に飯田君は捕まえられない。主砲が怪人イイダを捉えるまでに、エンジンで振り切られてしまうだろう。

 

だけどそれは一人だったらの話。今の僕には麗日さんがいる!

 

派手な突入をしたのは飯田君の注意をヒルドルブに引きつけるため。そして、麗日さんの武器を作るためだ。今まで消極的だった麗日さんが走りだしたのを見て、怪人イイダも気づいたようだ。そう、壊れた壁や吹っ飛ばしたドア等…麗日さんのためにあちこちに物がある状況にしたっ!

 

 

「おのれ考えたな!!だが俺は諦めない!力で富を独占した連中に報いを受けさせるまで!俺は倒れる訳にはいかんのだぁぁぁ!!」

 

「今は突っ込まないぞ!!麗日さん行くぞ!!!」

 

「うん!!」

 

 

構えた怪人イイダに突進するヒルドルブ。そして飛び出す麗日さん。その手は散乱している瓦礫やドアを押しのけて、

 

 

――――ヒルドルブの主砲を掴んだ。

 

 

……えっ?

 

 

「え、ちょ」

 

「いくよデク君!!」

 

 

個性が発動してヒルドルブにかかっている引力が無くなった。麗日さんは僕ごとヒルドルブを構え、大きく振りかぶって…

 

 

「即興必殺!戦車ストレート!どっせええええええええい!!!」

 

「うわああああああああああ!!?」

 

「な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」

 

 

思いっきりぶん投げた。ヒルドルブは度肝を抜かれて動けない怪人イイダの目の前に突き刺さり、ヒルドルブにしがみついていた僕は反動で前に吹っ飛び、怪人イイダに激突した。

 

 

「ギャン!!」

 

「グアッ!!」

 

 

共倒れになった男二人を飛び越えて、麗日さんが核にタッチした。

 

 

「回収!作戦成功だね…って二人とも大丈夫!?」

 

 

……確かに何をどうするか具体的には言ってなかったけどさぁ…。だからって戦車を投げる発想になるかなぁ…。

 

女って怖い。改めてそう心に刻んだ僕は、地面に突き刺さった目の前の哀れなモビルタンクを見て静かに涙を流した。




・シアーハートアタック
ジョジョの奇妙な冒険第四部”ダイヤモンドは砕けない”の登場人物、吉良吉影のスタンド”キラークイーン”第二の爆弾。
熱を追尾する自動操縦のスタンド。小型でありながらパワー、防御力に優れている。元のサイズが小さいので召喚するのに殆ど体力を使わないエコ戦車であり、屋内の近接戦で使える数少ない戦車。ただ自動操縦なので使い勝手が悪い。熱が高い物体を優先して追う上に、敵味方の判別ができない困ったちゃん。開幕で出したら麗日お茶子がうららかに爆殺されていた。ちなみにスタンドは一般人には見えない特徴があるが、デクの呼び出したシアーハートアタックは普通に見えます。作者が感想でスタンドの話が出て、そのうち登場を予想されるんじゃないかってヒヤヒヤしてた裏話がある。


・ヒルドルブ
再び登場したものの、自らが弾になって射出されるという原作よりも不遇な超弩級戦車。作者はヒルドルブ大好きだからね!勘違いしないでよね!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。