僕のパンツァーアカデミア   作:サンダーボルト

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セーラー服と自走砲

試験の一週間後に通知が届き、その結果は見事に合格だった。試験のポイントは敵を倒した時だけでなく、他の受験者を助けた時も貰える仕組みだった。ちなみに僕はなんと60ポイント!あの子も45ポイントも貰えたんだって。嬉しさのあまり祝砲を撃ちまくってご近所に頭を下げ回ったのは良い思い出になるだろう。

 

お母さんなんか、受かった僕よりもはしゃいでたし。

 

それでもって今日、遂に高校生活が始まる。新生活の始まりに胸が躍ってしょうがない!

 

 

「出久!ティッシュ持った!?」

 

「うん」

 

「ハンカチも!?ハンケチは!?ケチーフ!?」

 

「持ったよ!」

 

「戦車は!?」

 

「いつでも出せるよ!時間ないんだ、急がないと…」

 

「出久!」

 

「なァにィ!!」

 

 

お母さんの世話焼きにも困ったなあ。僕だってもう高校生なんだから、身支度位は一人で終わらせられるって。

 

 

「…超カッコイイよ」

 

「!!」

 

 

……まったく、何年前の事を気にしてるんだよ。そんな昔のこと、もう僕は吹っ切ってるってのに。この急いでる時に言ってきて。まったくもう。…まったくもう!!

 

 

「行ってきます!!」

 

 

毎年300を超える倍率を誇る雄英に自分が入れたなんて、今でも冗談みたいな話だ。きっととんでもない個性を持った人で溢れているんだろうなぁ。

 

かっちゃんはまあ…普通に受かってるだろうし、あの女の子二人も受かってるかなぁ。委員長っぽい人はどうだろう?クラスメイトは恐い人じゃないといいな…。

 

 

「1-A、1-A……広いなここ」

 

 

1クラスはたったの18人。中学校のクラスの半分よりちょっと多いくらい?人付き合いはどっちかというと苦手だけど、良い人間関係が築ければいいなぁ。

 

……あ、ここだ。ドアでかっ。バリアフリーなんだ。ドアを静かに開いて中の様子を窺ってみる。

 

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」

 

「思わねーよ!てめーどこ中だよ端役が!」

 

 

うん、お二人とも合格おめでとう。でもできるなら別のクラスがよかった。

 

 

「ボ…俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」

 

「聡明~!?くそエリートじゃねえか。ぶっ殺し甲斐がありそうだなぁ…」

 

「君酷いな!本当にヒーロー志望か!?」

 

 

かっちゃんは新天地でもかっちゃんでした。物騒な物言いにドン引きしていた飯田君が、ドアの隙間から覗きこんでいた僕に気づいて近づいてきた。

 

 

「君は確か、戦車に乗っていた…」

 

「あ、うん。僕、緑谷っていうんだ。名前は今聞いたよ、飯田君。よろしく」

 

「ああ、よろしくな」

 

 

よしっ、出だしは好調!!飯田君はちょっと怖いけど、真面目そうだし友達になっておいて損は無いな。

 

……あれ?なんか打算的だな。僕ってひょっとして性格悪い?

 

 

「それはそうと緑谷君…君はあの実技試験の構造に気づいていたのだな。

俺は気づけなかった…!!君を見誤っていたよ!!悔しいが君の方が上手だったようだ!」

 

 

訂正、クソ真面目の間違いだったよ。何もそこまで悔しそうにしなくても。というか気づいてなかったしさあ。でも、それを言ったらまた悶絶しそうだし、黙っておこう。

 

 

「あ!そのモサモサ頭はひょっとして!!」

 

「ふぁい!?」

 

 

後ろから声をかけられて思わず変な声が出てしまった。恥ずかしい…。

 

いや、それよりもだ。この声はひょっとして…。

 

 

「地味目の戦車の!!」

 

「あ、朝の親切の…」

 

 

あの子も受かってた!しかも一緒のクラス!?超嬉しい!制服姿やべぇぇぇぇ!!!

 

 

「良かった!受かってたんだね!そりゃそうだ、君のグ……グラタン・マカロニ?凄かったもん!!」

 

「グスタフ・マックスの事言ってんの!?」

 

「そうそう、ぐすたふね!うん、覚えた!ぐすたふ・まっくす!!」

 

 

か、可愛ぇぇぇぇ!!興奮して腕をぶんぶん振り回すその姿は、僕には眩しすぎる…!

 

 

「今日って式とかガイダンスだけかな?先生ってどんな人だろうね?緊張するよね~」

 

「は、はひ…仰る通りでございます…」

 

 

緊張の部分だけは激しく同意しますとも、ええ!この人は飯田君と違うタイプだけどこっちもよく喋る!まともな会話もできずに圧倒されっぱなしだった僕は、床から聞こえた声にある意味で救われた。

 

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 

寝袋に包まって栄養食のゼリーを一気に吸い尽くしたおじさんが、のっそり教室に入ってきた。目上の人だけど、誰だ貴様。

 

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね」

 

 

静かになったというより、静まり返ったというのが正しいのでは…?というか、この人が先生なのか?そうならプロのヒーローのはずなんだけど…こんなくたびれた人見た事ないぞ…。

 

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 

台詞と絵が合ってない!!そんな気だるげな顔でよろしくとか言われても!

 

 

「早速だが、これ着てグラウンドに出ろ」

 

 

……どうして寝袋から体操服が出てくるんだろう。合理的だから?

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「個性把握テストォ!?」

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」

 

 

僕等の声をばっさり切り捨て、相澤先生は更に続ける。

 

 

「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」

 

 

うーん…先生によって教育方針が違うって言いたいんだろうか…。だとしたらこの先生、一筋縄じゃいかないくらいの課題とか出してきそう…。

 

 

「ソフトボール投げとか立ち幅跳びとか…中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト。爆豪、中学の時のソフトボール投げの記録、何メートルだった?」

 

「67メートル」

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ」

 

 

相澤先生はかっちゃんにボールを渡して、タブレットみたいな機械を取り出した。あれって測定器みたいな物かな…。

 

 

「んじゃまぁ――――死ねえ!!!」

 

 

爆風を乗せたボールが彼方まで飛んでいき、かっちゃんは700メートル以上の記録を叩きだした。てか、死ね?どんな掛け声?きっとクラスの全員が僕と同じこと思ってるよ。

 

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

「なんだこれ、すげー面白そう!」

 

「個性思いっきり使えるんだ!流石ヒーロー科!!」

 

 

テンションが上がったクラスメイト達が騒ぎ出す。そりゃ、普段使用を制限されてる個性を使い放題ならそうなるよね…。本当なら僕も騒ぎ出したいところだけど、種目が種目だし、なによりあの先生…。

 

 

「…面白そう…か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

 

……ヤバいよこれ、かなり不機嫌だ。

 

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

 

やっぱりプロのヒーローだ。厳しいなんてレベルじゃないよこれ…。当然、抗議がおきるけど聞く耳持たず。生き残りをかけたテストが始まった。

 

 

 

・第一種目 50メートル走

 

 

飯田君の個性、エンジンが火を噴いた。一緒に走っていたカエルみたいな子…蛙吹梅雨さんに倍近い差をつけてゴールした。しかし3秒とは…最高速はどれくらい出るんだろうか?

 

 

「二人とも早いよねぇ」

 

「うん……ねえ、あの蛙吸さんってもしかして…」

 

「うん!あの時の子、梅雨ちゃんだよ!」

 

「やっぱり…」

 

 

ヒルドルブの目の前にいた子だ…。うわぁ気まずい。どうしよ、謝った方が良いよね?それともお互い不干渉を貫く?いやいや、それはあまりにも…。

 

 

「お茶子ちゃん。次、あなたの番よ」

 

「あ、うん分かった。じゃあ行ってくるね」

 

ブツブツブツ……あっはいどうぞいってらっしゃいませ」

 

 

蛙吸さんがあの人…お茶子さん?を呼びに来た。そういえば名前知らなかったな…。お茶子さんと入れ替わりで、蛙吹さんが僕の隣りに座った。

 

……ん?座った?なんで?どうして?

 

……ハッ!?これはもしかして…僕に謝れと催促しているのでは!?てめぇコラあんだけの事しくさって詫びも無しかい、アアン?みたいな!?

 

顔色も窺えない……というか表情がまるで変わんないよこの人!と、とりあえず謝っておこう…

 

 

「あ、あ、あ、あの蛙吹さん、その節は大変ご迷惑をおかけしまして誠に申し訳ありませんでした…」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。その節ってどの節かしら」

 

「じゅ、受験の時に砲を向けてしまった節……です」

 

「あの事なら気にしてないわ」

 

 

嘘つけェ!?おっきな目が僕を見つめて放さないじゃないか!怖い!怖いよこの人!なんかプレッシャー感じる!

 

 

「緑谷ちゃん、顔色悪いわ。不安なの?」

 

「……ま、まあ」

 

「それはそうよね。せっかく受かれたのに初日で除籍なんてあんまりだもの。私も雄英に入ったら…」

 

「ごっごめん蛙吹さん!そろそろ僕の順番だから!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで…」

 

 

戦略的撤退!!さっきから名前呼びを強要してくる理由は何なんだ!?怖い!何を考えてるか分からなくて怖い!

 

い、今はそれは置いておこう…。考えるべき問題はこの個性把握テストだ。個性使用に制限が無いこのテスト…僕が圧倒的に不利だ。

 

 

「……コースせまっ」

 

 

何故なら個性(戦車)が使えないから!この幅に合わせた戦車で走るより自分で走った方がスピードが出る。駄目元でコースを無視した大きさの戦車で走っていいか聞いてみたけど、

 

 

「駄目」

 

「ですよねー」

 

 

一蹴されました。制限が無いのに制限される。なんたる矛盾だ。

 

 

「爆速!!」

 

「あぢい!!」

 

 

かっちゃんは遠慮なく個性使ってるし。ていうか隣のレーンまで被害きてるんですけど!?どうして一人ひとり走らせないんですか先生!

 

 

緑谷出久 中学7:49→6:30

 

 

・第二種目 握力

 

 

障子君の個性、複製腕。腕を何本も作って握力測定器を握りしめていた。540キロて…。

 

 

「ふぬぬぬぬ…!!」

 

 

緑谷出久 中学40㎏→76㎏

 

 

「凄いわね、緑谷ちゃん」

 

「蛙吹さん!?い、いやこの程度じゃ駄目だよ…」

 

 

また話しかけてきたよこの人!?どうやら徹底的に僕をいびり倒すつもりのようだ…。なんか後ろから黒いオーラが見える気がするし…。

 

 

「向上心があるな、戦車男」

 

『マケネーゼ』

 

「常闇ちゃん」

 

 

あ、違った。この人の個性だった。

 

 

・第三種目 立ち幅跳び

 

 

これでも体は鍛えているから、普通の人よりは動けるんだけど…個性には勝てなかったよ…。

 

 

「真後ろに戦車を呼び出して撃ってもらったらどうかしら」

 

「それだよそれ!ぐすたふでドーン!と!」

 

「僕に死ねと!?」

 

 

女子二人が恐ろしい事を言い出した。女って怖い。

 

 

・第四種目 反復横跳び

 

 

「ひゅううう!!!」

 

「……重りを一番下まで下げたメトロノームってあんな感じじゃない?」

 

「バフォッ…!」

 

「ユニークな例えね」

 

 

耳からコードが出てる女の子が吹き出した。そして蛙吹さんは僕の隣りにいる。シチュエーションとしては嬉しい限りなんだけど…。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

気まずい。

 

気まずいッ!!

 

 

・第五種目 ボール投げ

 

 

「セイ!!」

 

 

あの子の投げたボールは見えなくなるまで飛んで行った。あの子の個性、無重力は触れたものにかかっている引力を無効化するらしい。

 

 

「記録、∞」

 

「∞!?すげえ!!∞が出たぞ!!」

 

 

……つまり!皆が各競技で大記録を出したって事だ!僕だけがあんまパッとしてない!このままだと、僕が最下位決定……だけど!

 

 

個性(戦車)使えないじゃないか!!!」

 

 

オー!マイ!ガー!神よ、私を見捨てたのですか!?円から出ない大きさの戦車じゃ良い記録は出せない。あと残ってるのは持久走と上体起こしと長座体前屈。どれも戦車の利点を活かせない競技ばかりだ!絶望して四つん這いで頭を垂れ下げる僕にあの子と蛙吹さんが近寄ってくる。……いい加減あの子の名前聞けよ僕。このヘタレめ!!

 

 

「だ、大丈夫…?」

 

「ははは…短い間だったけど楽しかったよ…」

 

「諦めるのは早いわ。個性無しの記録としてなら良い線いってるもの」

 

 

頑張れ、頑張れ、と二人がエールを送ってくれている。自分達だって除籍がかかっているのに他の人を応援するだなんて、本当に良い人達だ。蛙吹さんも表情が分かりづらいだけで、優しかったんだな。今の僕がそれほど情けないとも言えるけど…。

 

 

「―――ふっ!!」

 

 

……。

 

70m…駄目だ…。

 

ワン・フォー・オールを使う手も考えたけど、その存在は秘密にしてるらしいから無暗に使えない…。そもそも受験の後に試し撃ちしてみたら、反動で腕が折れて使い物にならなくなったし使うに使えない。

 

 

「緑谷」

 

「はっ、はい!」

 

 

相澤先生が僕に声をかけてきた。まさか何かアドバイスを…!?

 

 

「このままだとお前、最下位になるぞ」

 

 

最後通告だったよ畜生!!一瞬抱いた希望を返してください!

 

 

「つくづくあの入試は合理性に欠くよ…お前のような奴も入学できてしまう」

 

「…え?」

 

「入試の映像は俺も見た。どうしてあの列車砲を使わない?」

 

「それは…」

 

「……あの円の大きさに納まるように作れないのか?」

 

「……はい」

 

 

核心をついてきた。普通の戦車ならいざしらず、仮にグスタフ・マックスを出せたなら良い記録は出せるだろう。それぞれパワーが違うからね。

僕は大きさも操れるが、ある程度だけだ。元のサイズに比べて大きすぎたり小さすぎたりしている物は作れない。

 

 

「普通は四歳までには個性が出る。これくらいは知っているな?」

 

「それは勿論…」

 

「対してお前の個性が出たのは中三だ…。他の奴よりずっと遅い。

 

……つまりだ、他の奴等は十年ほど慣らしてきた個性を使ってる。それに比べてお前は一年そこら。同じ創造系の八百万が問題なく出来たのを見れば、お前は自分の個性を制御できているとは言えない」

 

「……」

 

「戦車ってのは立派な兵器だ。一歩間違えりゃ大惨事を簡単に引き起こす。あの試験内容じゃ個性を完全に制御してなくたってポイント自体は稼げる。……だから合理的じゃないんだよ」

 

 

相澤先生の指摘は尤もだった。僕は現に、力を使う心構えができていないままに試験を受けている。寸前で止められたからいいものの、もし蛙吹さんを、他の誰かを砲撃に巻き込んでいたらと考えると…。

 

 

「……ボール投げは二回だ。あと一回、さっさと済ませな」

 

 

そう言って、相澤先生は持ち場に戻った。どうする……やはり玉砕覚悟でワン・フォー・オールを使うか?でもそれじゃあ、相澤先生の僕の個性に対する信頼は無くなる。

 

 

「彼が心配?僕はね……全っ然」

 

「ダレキミ…」

 

「指導を受けていたようだが…」

 

「除籍宣告だろ」

 

「ケロ…」

 

 

かっちゃん、それ正解。飯田君もなんだかんだで気にかけてくれてるみたいだ。あの子も蛙吹さんも…あのキラキラしてる彼は違うみたいだな。

 

確かに僕は皆に比べて個性を使いこなせているとは言えない。

 

………でもね。

 

だからきっぱり辞められるような一年、こっちは過ごしてないんですよ。

 

 

「先生!」

 

「……?どうした」

 

「ちょっと試してみたい事があるので、八百万さんに協力してもらっても構いませんか!?」

 

「何をする気かは知らんが…いいだろう。八百万、良いか?」

 

「は、はあ…構いませんけど…」

 

「ありがとう!そして、ありがとう!」

 

「何故二回言いましたの…?」

 

「大事な事だからさ」

 

「そ、そうですか…」

 

 

僕は八百万さんの手を引いて、校舎裏へ連れて行った。創造の個性を持つ彼女だからこそ、やってもらいたい事がある…!

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「緑谷君、八百万君を連れていって何をするつもりなのだろうか」

 

「デクめ、悪あがきしやがってクソナードが…」

 

「何か便利な道具を借りるつもりなんじゃない?」

 

「そんなの許さねえだろ…」

 

「まさかアイツ…最後の思い出にヤオロッパイを堪能する気なんじゃねーだろうなあ!?」

 

「そりゃないだろ、アイツ草食系っぽいし」

 

「バカヤロー!!追い詰められた草食獣ほど恐ろしいモンはねーぞ!!」

 

「何の話をしてるんだ…」

 

「あ!戻ってき……どぅえ!?」

 

「どうしたのお茶子ちゃん。女の子が出す声じゃ……ゲコッ!?」

 

「お前も人の事言えな……ファッ!?」

 

 

緑谷出久の行動の意味を推察していた面々は、戻ってきた彼を見て驚愕した。

 

 

「みっ緑谷さん!!本当に大丈夫なんですの!?」

 

「…ほんねいうなら……だいじょばない……!!」

 

 

背負っていたのだ。

 

自走砲(・・・)を。

 

 

「……み、緑谷君…背中のそれは…」

 

「…ご…ごべんいいだぐん…よゆうないがらどいで…!!!」

 

「あ、ああ。すまない…」

 

 

必死の形相の出久に飯田は大人しく道を譲る。ズシン、ズシンと一歩進むたびに地鳴りが起きる。尋常ではない量の汗を垂れ流しながら、緑谷出久は円の中心に立って相澤に振り返る。

 

 

「え…えんがらででまぜんよ……!!ごれでいいでずよね…!!」

 

「……そうくるか。許可」

 

 

相澤の了承を得て、出久は前に向き直る。

 

 

「(八百万さんに頼んで僕に自走砲をくくりつける頑丈な縄を出してもらった。自走砲は僕が耐えられるギリギリの重さ、十分な距離を稼げる大きさの物を召喚した)」

 

 

前屈みになって砲身を前へ向ける。足が震えて今にも崩れそうだが、根性で耐えている。

 

 

「(こちとら戦車背負って特訓してたんだ…!!流石に背負ったまま撃った事はないけどさ!!)」

 

 

はるか遠くを見据え、自走砲がじっくりと狙いを定めている。

 

 

「(あの子が∞って記録を出している以上、飛距離でアピールするのは無理だ!それなら…!)」

 

「……に…せん…」

 

「……!?」

 

「にぜんめーどるぅぅぅぅぅぅ……!!!」

 

 

――――ドオン!!

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ…!!!?」

 

 

自走砲からボールが発射された。反動が出久の体の隅々まで伝わるも、歯を食いしばって倒れないように耐える。相澤の手にある測定器からアラーム音が鳴り、結果が表示された。

 

 

―――ピピッ……《2000.5m》

 

 

「(……飛距離を調節したのか…!?あの今にも重さで潰れそうな状況で…!)」

 

「…ぜ、ぜんぜい……ぼぐは…ぜんじゃのりでず……!!」

 

 

体はガタガタ、されどしっかりと相澤を見た出久を見て、相澤は思わず声を漏らした。

 

 

「こいつ…ここまでやるか…!」

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「……フウゥゥゥゥゥ~……」

 

 

ボール投げの後は散々な結果だった…。持久走とかホント死にかけた。体力がすっからかんだから新しく戦車も作れないし。

 

 

「んじゃ、パパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なんで一括開示する」

 

 

ともあれ全力は尽くした……後は運を天に任せるのみだ。

 

 

「……あ、ちなみに除籍はウソな」

 

 

……えっ?

 

 

「君らの最大限を引き出す為の、合理的虚偽」

 

「「「はーーーーーーーー!!!!??」」」

 

「あんなのウソに決まってるじゃない…。ちょっと考えれば分かりますわ…」

 

「分かってたんなら自走砲背負う前に教えてくれたっていいじゃないかよォッ!!?」

 

「それはその…あまりに一生懸命だったので水を差すようで…」

 

「なんてありがた迷惑!!」

 

「まあ、そゆこと。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ。それと緑谷、一応リカバリーガール(ばあさん)のとこ行って診てもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ」

 

 

……なんなのよもう…。

 

疲れ切った顔で見た映し出された順位は最下位。ボール投げの後が酷すぎたせいだなこりゃ…。でも…とりあえずは乗り切った。

 

 

「良かったわね緑谷ちゃん。除籍にならなくて」

 

「……それは嫌味?」

 

「ケロ?……!?違うのよ緑谷ちゃん。私思った事を何でも言っちゃうの。今日で緑谷ちゃんとお別れにならずに済んだのが嬉しいの」

 

「ありがとう……でも今日は早く帰りたいです…」

 

「ケロ…お疲れさま」

 

 

今にして思えば、蛙吹さんが毎回話しかけてきたのも僕を緊張させまいとしての行動かもしれない。思った事を何でも言う割に、何を思ってるのか分かり辛い人だ。

 

保健室で見てもらったけど、特に怪我とかは無くて助かった。自走砲背負って背骨が折れたとか、お母さんになんて言えばいいかなんて分かんないし…。疲労感に全身蝕まれながら帰路に着くと、誰かに肩を叩かれた。

 

 

「緑谷君!体に異常はなかったかい?」

 

「やあ飯田君…見ての通り疲れただけさ…」

 

「それで済むとは…日頃の自己鍛錬の賜物かい?」

 

「まあね…」

 

「しかし相澤先生にはしてやられたよ。俺はこれが最高峰か!とか思ってしまった!教師がウソで鼓舞するとは…」

 

 

ウソか…本当にそうだったのか?あの先生の雰囲気はウソを言っているようには思えなかったけど…。ひょっとして僕を試す腹づもりだったんじゃ…と思うのは自惚れすぎかな…。

 

 

「おーいお二人さーん!駅まで?待ってー!」

 

 

終わった事だしどうでもいいよね!あの後ようやく名前を聞けた麗日さんがこっちに走ってきた。

 

 

「君は∞女子」

 

「麗日お茶子です!えっと、飯田天哉君に緑谷…デク君!だよね!!」

 

「麗日さんまでそう呼ぶのか…」

 

「え?まずかった?爆豪って人がデクって呼んでたよ?」

 

「本名は出久(いずく)なんだよね…。デクはかっちゃんが馬鹿にして…」

 

「蔑称か」

 

「そうだったんだ!ごめん!でもデクって…頑張れって感じで、なんか好きだな私」

 

「デクです」

 

「緑谷君!!浅いぞ!蔑称なんだろ!?」

 

「君がデクって呼んだから、今日から僕はデクです」

 

「緑谷君!!」

 

「よ、デク君!!」

 

「HAHAHA!」

 

 

……なんだこれ。

 

すっげえ楽しい。

 

これから頑張らなきゃだし、苦しい事も沢山待ってるだろう。

 

でも、友達ができた事くらいは喜んでもいいよね。




・自走砲

大砲を自走可能な車体に射撃可能な状態で搭載したもの。戦車とは違うものだが、境界線は曖昧らしい。突撃!!ファミコンウォーズに出てくる車両は遠距離攻撃を得意としていて、MGネスト等の動かない敵に対して有効。今回召喚したのはウエスタンフロンティア軍の自走砲をイメージしています。



NEW FILE:緑谷出久(戦車乗り)

緑谷`sヘア
相変わらずねじれている。

緑谷`sアイ
涙腺が補強された。

緑谷`s汗
涙の倍くらい出てる。

緑谷`s全身
自分の出した戦車に潰されかかった事が何度もある。おかげで原作より身体能力が強化された。だって鍛えないと死ぬから。

緑谷`sハート
ヒーローへの憧れと戦車の愛でできている。比率は3:7くらい。死にかけたので心臓も強い。

緑谷`sシューズ
赤から緑になってます。

緑谷`sリュック
迷彩が施されました。

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