僕のパンツァーアカデミア   作:サンダーボルト

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モチベーション、どこまで持つかな…。


ヒーローの資格

情けない結果に終わって、こんな事を伝えに行くのも変な話だと思う。でも、自分の言葉で伝えるのがこの試験を見ていたヒーロー達に対する礼儀だと思った。怪我をした人を治しながら回っていた看護教諭のお婆さん、リカバリーガールに話を通してもらって試験官のプレゼント・マイクの元に連れて行ってもらった。

 

 

「……辞退したいってぇ?」

 

「……はい」

 

 

不審がられるのも当然だと思う。プレゼント・マイクは眉間に皺を寄せてサングラスから瞳を覗かせた。

 

 

「あのよリスナー。辞退も何ももう受けちまってるだろ?それともアレか?結果を待たずに不合格の通知を出しちまってもいいの?」

 

「……構いません」

 

 

僕の返事を聞いて、プレゼント・マイクは腕組みをして困ったように唸る。

 

 

「言われたって俺の一存じゃどうにもなんねえよ。そりゃ、リスナーが俺達が見逃せねえような事件引き起こしたなら別だがよ、俺の見る限りじゃそんなの起こしてねえだろ?

リスナーは実技0ポイントで合格は絶望的だって予想立ててんだろうけどよ、諦めちまうにはまだ早えんじゃねえの?」

 

「……違うんです…」

 

「あん?」

 

 

声が震える。言いたくないけど、認めたくないけど、有名なヒーローに知られたくないけど、言わなきゃ納得してもらえない。葛藤する僕の体に不意に影が差した。

 

 

「私が来た!!!」

 

「おおぅ、オールマイト。どうかしたんスか?」

 

「この少年の話!このオールマイトも聞かせてもらおう!!いいかね!?」

 

「だってよ。どうよリスナー?聞いてもらうか?」

 

「…お願いします」

 

 

一番聞いてほしくないけど、一番言わなければならない人物、オールマイトが来た。

 

 

「それでなんだったかな?入試を取り消したいという事だが、どういう訳なのか話してもらえるかね?」

 

「………………僕は」

 

「少年よ。私の顔を見て言いたまえ」

 

 

顔を上げる。ただそれだけのことなのに、今はそれがとても苦しくてたまらない。しっかりと、とはいえないけれどオールマイトの顔を見て、僕はどうにか言葉を絞り出す。

 

 

「僕にはヒーローになる資格はありません」

 

「………んん!?話が読めないぞ少年!」

 

「……僕は最初に、大きな戦車を召喚して試験場に乗り込みました」

 

「そうだな、実にパワフルだった!!…その後、撃たなかった事が関係しているのか?」

 

「っ!!…はい」

 

 

流石、オールマイトだ…。

 

 

「僕はあの混戦の真っ只中で、榴弾を撃とうとしたんです。他の人が巻き込まれるかもしれないという可能性を考えずに、力を振るおうとしていたんです」

 

「それが辞退の理由かね?」

 

「……」

 

 

一旦、視線を下に落とす。二人は急かしもせず、黙って僕が話すのを待ってくれていた。

 

 

「……僕は、一年前まで無個性でした」

 

 

”無個性のお前に何ができるんだ!?”

”無個性の癖にヒーロー気取りか?”

”ムコセーっていうんだって。ダッセー”

 

 

「なのに将来はヒーロー志望で、周りに色々言われました」

 

 

個性を持ったクラスメイトからの嘲笑の声。侮蔑の目。今でも覚えてる。

 

 

「……僕は、個性を持った人を少なからず恨んでます」

 

 

目の前のオールマイトの笑みが消えた。それがとても怖かったけど、僕の口は止まらなかった。一度溢れ出した感情を止める事は出来なかった。

 

 

「あのヒルドルブを召喚した時、心の奥底できっとこう思ってました。こいつらを見返してやる(・・・・・・・・・・・)、僕の方が凄いと思い知らせてやるって。

何の疑問もありませんでした。ただ大暴れしてやるって、そんな事だけしか頭にありませんでした。

 

……戦車っていう大きな力を扱っているのに、その自覚がなかったんです。ただ気に食わないから使うだなんて……こんなの、ヴィランと同じじゃないですか。

 

……だからごめんなさい。僕は……ヒーローになれません」

 

 

最後の謝罪はオールマイトに対しての謝罪。力を受け継いだ矢先、こんな醜態を晒してしまった。僕のために時間を割いてくれたのに、その全てを僕が無駄にしてしまった。

 

……力は返そう。きっと僕よりも相応しい人がいるはずだ。

 

深くお辞儀をして、一刻も早くこの場を立ち去りたく早足になる僕の背中に声が投げかけられた。

 

 

「――――だが、君は踏みとどまった」

 

 

憧れのヒーローのどこか温かい言葉に僕の足が止まる。オールマイトは悠然と歩きながら更に言葉を続けた。

 

 

「引き金に手をかけながらも、その重さを理解して手を離した。これに自力で気づける人間はそうはいない」

 

「…撃つ一歩手前までいったんですよ?」

 

「紙一重を越えてしまう人間と越えない人間がいる。自分のしたことの結果を予想して、セーブをかけた。土壇場だった事は関係ない。した、という事実が大事なのだ。君はヴィランではないよ」

 

「でも、僕は……力の使い方を間違えたんです!!カエルみたいな女の子に砲を向けたんです!!」

 

「だが、撃たなかったんだろう?」

 

「…っ!!」

 

「……少年よ、見よ」

 

 

オールマイトが指差した方向を見ると、プレゼント・マイクとその隣に朝の親切な女の子が立っていた。

 

 

「…どうして…」

 

「この女子リスナー、お前さんにポイントを分けたいんだとさ」

 

「は!?」

 

 

愉快そうに笑うプレゼント・マイクの隣で、女の子が僕に訴えてきた。

 

 

「君、まだポイント持ってなかったんでしょ!?それなのに助けてくれたんでしょ!?あの時の女の子…梅雨ちゃんが言ってたよ!君の乗ってた大きな戦車、来てから一回も攻撃してないって!」

 

「……それは…」

 

「さようならって言ってたの、聞こえたよ。受かる筈がないって分かったから言ったんだよね?だからせめて、私のせいでロスした分を貰ってほしくて!あのまま終わってほしくなくて!」

 

 

必死になっている女の子に対して言葉が出てこなかった。今日会っただけの人に、ここまで言われるとは思っていなかった。

 

 

「個性を得て尚、君の行動は人を動かした」

 

「……そんなの、結果論ですよ…!」

 

「ならば何故、君はグスタフ・マックスを二度撃った!?」

 

 

食い下がる僕をオールマイトは一喝した。

 

 

「あのイカス大砲のフルパワーチャージまでの時間を計ってみたが、最初にそれを狙っててもこの女子リスナーに危害が加わるまでに発射できたぜ?」

 

「それをしなかったのは何故か?あのまま撃ち抜いていたなら、あのヴィランの破片やらなんやらが彼女に降り注いでいただろう!」

 

 

女の子がゾッとしたように体を震わせた。

 

 

「君はあの時の事を鮮明に覚えているか!?」

 

「……いいえ…」

 

「トップヒーローは学生時代から逸話を残している……彼らの多くが話をこう結ぶ!!”考えるより先に体が動いていた”と!!」

 

「……」

 

「威力を抑えた一撃で彼女の安全を確保し、もう一撃で仕留める!!君はこれを無意識のうちに、人を(たす)けるために使ったんだ!!」

 

「……!!」

 

 

胸が、強く、締め付けられる…!!温かい気持ちで、溢れてくる…!こんな事って、あるのかよ……!!

 

 

「君は力の意味を知り!!正しく操り一人の少女を救った!!…これ以上の証明が必要か?」

 

「…あ…あぁぁ……!!」

 

「この欲張りさんめ!!ならば私が言ってやるっ!!」

 

「オ…オールマイト…!!」

 

「――――君はヒーローになれる」

 

 

僕はその場に泣き崩れた。


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