色々、はっちゃけてます。
オールマイトと話をして、色々試して分かった事。
僕の個性は確かに発現していた。ただ、普通なら親のどちらかの個性か、両方が合わさったものになる筈なんだ。お母さんは物を引きつける、お父さんは火を吹く。そして僕は戦車を呼び出す。うん、繋がらない。
まさか、浮気!?なんてオールマイトが呟くものだから不安になったりしたけど、戦車を呼び出す個性なんて世界で僕だけらしいから、それもないだろう。
戦車を呼び出せるようになってから、頭の中に色んな戦車の情報が浮かび上がってきた。実在する戦車から架空の戦車、戦車っぽい武装装甲車両から絶対戦車じゃないじゃん、ってものまで。ほんと、何なんだろうね僕の個性は…。
あと、戦車を呼び出すと体力を使う。大きさはある程度自由自在。運転席に乗らなくても動かせる。等々オールマイトの協力のおかげで自分の個性についての情報も揃った。
そうそう、そのオールマイトからの提案というのが、オールマイトの力を受け継いでみないか?というものだった。
かなりショッキングな話だが、オールマイトは5年前にあるヴィランと戦い、重傷を負ってしまった。そのせいで体は衰弱しきっていて、あのムキムキマッチョの体を維持できるのは一日三時間程度という話だ。ガリガリに痩せ細ってもなお、ヒーローとしてナンバーワンに君臨してきた衝撃は大きかった。
オールマイトの個性は代々引き継がれしもの。個性を譲渡する個性、ワン・フォー・オール。オールマイトは僕になら渡しても良いと言ってくれた。会って間もない、この間まで無個性だった僕を認めてくれた。正直に言って即答したかった……のだが。
「個性ある人間に個性渡して大丈夫なんですか?」
僕が無個性のままだったのならともかく、既に個性が発現してしまっている。もし、今の僕がワン・フォー・オールを受け取ったとして、どちらかの個性が消えてしまうのなら…僕は頷けなかった。ワン・フォー・オールを消すわけにはいかないし、この戦車を呼び出す個性も失いたくない。
おとぎ話みたいだけど、あのおじさんがくれた
「問題ないよ!!稀な事だが、複数の個性を持った者も存在するからね!!」
オールマイトが笑って言うと、僕は安心して胸を撫で下ろす。改めて力を受け取る意を示すと、そこから地獄の特訓が始まった。
海浜公園に流れ着いたゴミを引っ張ったり、戦車を引っ張ったり。ゴミを担いだり、戦車を担いだり。約十ヶ月間、ワン・フォー・オールを受け取るため、そして雄英に受かるための個性の強化と体力作りに勤しんだ。
それに加えて受験勉強もある。寝る時間も限界ギリギリまで削って、ひたすら取り組んだ。
……そして、受験当日。
「ついに来た!!やってきたぞ、雄英!!」
ゴミ拾いのノルマを大きく上回るまで片づけ尽くし、まだ受験しても無いのに大泣きして、力の受け取り方が髪の毛を食う事と愕然しながらも、ここまで来た。長かった。本当に長くて、苦しくて、充実していた!!
今朝受け取ったワン・フォー・オールを試す時間は無かったものの、あれはあくまで奥の手だ。おいそれと表に出せる物でもないしね。
キュラキュラキュラ…変な音を出しながら進む僕に道行く人の視線が集中する…。ふっ、何を隠そう僕は今、戦車に乗っているからな。移動するときだって戦車の訓練を欠かさない。ちなみに乗っている戦車の大きさは僕が普通に腰かけられる位の大きさだ。戦車の上に座って移動している姿はさぞ珍しいだろう。どうだ、羨ましいか羨ましいか?乗せてあげようか?
「どけデク!!俺の前に立つな殺すぞ!!」
「あっはいごめんなさい」
キュラキュラキュラ…心なしかキャタピラ音が情けなく感じる。かっちゃんはあれ以来、僕に何もしてこなくなった。逆に恐い。今だって滅茶苦茶殺気立ってるし。僕を乗せた戦車を見て舌打ちするし。
……いつまでも気にしてたって仕方ない。そうだ、思い出すんだこの十ヶ月を!これから新しい僕の第一歩が始まるんだ!ほら、戦車の力強い行進が僕を励ますようにキュラキュラバキッ……バキッ?
「ノォーーーッ!!履帯切れたッ!?」
これだよ!!!履帯切れたぐらいじゃ戦車は横転しないけど、上に乗ってた僕はバランス崩してコンクリの床に顔面ダイブさ!!チャイルドシートでも付けておけばよかったよ!!後悔先に立たず、僕は固く目をつぶった。
……あれ?いつまでたっても衝撃がこないぞ?ていうか僕……浮いてるッ!?
「大丈夫?」
「……へあ?」
横から女の子の声がした。はて、僕なんかに話しかけてくれる女子の友達なんていたっけ?いないな。即、答えが出るのが悲しいよ。
女の子は僕の腕を支えながら、ゆっくり戦車の上に降ろしてくれた。そうか、これはこの子の個性か…。
「私の個性、ごめんね勝手に。でも、転んじゃったら縁起悪いもんね」
「さ、サー!ありがとうございます、マム!」
テンパって敬礼しながらどうにか返すと、女の子は少しびっくりした表情になった後、ふにゃっと笑って敬礼を返した。
「お互い、健闘を祈るであります!……なんてね♪頑張ろうね!」
そう言って、一足先に学校の中に入っていった。
……え、なに?あの子、優しい上に可愛い。凄い良い人じゃん。あれかな、僕って悪い事あったあとに良い事があるのが一種のジンクスになってるのかな?
さっき別れたばかりだけど、また会いたいなぁと思いながら、僕も扉をくぐった。
~~~~~~~~
『今日は俺のライヴにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!!』
ライヴじゃねえだろ、なんて空気の読めないツッコミを入れる者は一人もいない。何故なら壇上で叫んでいる彼は…!
「ボイスヒーロー、プレゼント・マイクだ凄い…!!ラジオ番組聞いてるよ感激だなぁ雄英の講師は皆プロのヒーローなんだ」
「うるせえ」
隣の目つきの悪い人はこの凄さに気づいていないようだ。ああ勿体ない!この感動を誰かと語り合いたい…!
『入試要項通り!リスナーにはこの後!10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!持ち込みは自由!プレゼン後は指定の演習会場へ向かってくれよな』
「
お母さん、隣の人が恐いです。恨まれ過ぎじゃないかな僕。ここまで言われるような事、した?理由を直接聞いたら爆殺されそうだしなあ。
『演習場には”仮想敵”を
行動不能、か。プリントの写真に写ってる仮想敵は機械だから、壊す以外にも例えば電源をOFFにしちゃえばポイントがもらえるって事かな。
でも、僕の見間違いでなければ仮想敵の写真は
『もちろん他人への攻撃等、アンチヒーローな行為はご法度だぜ!?』
「……質問よろしいでしょうか!?」
『オーケー!!』
眼鏡をかけたいかにも委員長って感じの人がプリントを持って挙手した。あの人も気づいたのかな。
「プリントには四種の敵が記載されております!誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!我々受験者は――」
長い。長いよ委員長っぽい人。そこまで言わなくたっていいじゃないか。
「ついでにそこの縮毛の君」
「……僕?」
「先程からボソボソと…気が散る!!物見遊山のつもりなら、即刻ここから去りたまえ!」
「あっはいすいませんでした」
……そこまで言わなくたっていいじゃないか…。まあこれは僕が悪いけどさ…ついでに怒る事ないじゃない。周りは僕を見てクスクス笑ってるし。笑い声の中に、朝の良い人が混じってないといいなあ…。
四種目の敵は誤載じゃなくて、ポイント0のお邪魔虫キャラらしい。各会場に一体、必ずいるという事だ。
『最後にリスナーへ、我が校の校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!”真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者”と!!
”
~~~~~~~~
ジャージに着替えて会場に来ましたが……広っ。市街地演習だから当たり前だけど…やっぱ凄いな雄英は…。僕は緊張でガチガチなのに、他の人達は結構リラックスしてるよ。
それにしても色んな人がいるなあ。なんか顔が光ってる人や、腕が六本?八本?くらいある人。カラスみたいな人にカエルみたいな人……ん!?
「ふぅ~……」
あそこに御座すは朝の良い人じゃないか!!あの子も緊張してるのかな。ちょっと話しかけてみようかな。キュラキュラキュラ…ぬあっ!?
「その女子は精神統一を図っているんじゃないか?君は何だ?妨害目的で受験しているのか?」
「めめめ、滅相も無い!?」
委員長っぽい人が僕の肩を掴んで止めてきた。あっぶな…朝せっかく助けてもらったのに、また落ちるところだったよ…。
「クスクス…あいつ校門前で戦車乗ってコケそうになってたやつだよな」
「注意されて畏縮しちゃった奴」
「少なくとも、一人はライバル減ったんじゃね?」
「乗ってるオモチャも弱そうだし」
「今、僕の戦車をオモチャって言った奴出てこい。弱いかどうか試してみろよ」
忍び笑いが静まった。いくら僕が地味目でも、言って良い事と悪い事がある。
「僕の悪口は許しても、戦車の悪口は許さないぞ」
委員長っぽい人が目を見開いて僕を見る。他にも同じような視線がちらほら感じる。……誰も名乗り出てこなくて、何だか気まずい空気の中で頭の中に声が響いた。
『ハイ、スタート!』
「……えっ」
『どうしたあ!?実戦じゃあカウントなんざねえんだよ!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?』
「えっちょっ…」
先程までの空気はどこへやら、弾かれたように走りだす集団に僕は見事に取り残された。
……って言ってる場合じゃない!!僕も早く追いかけなくては!
「Go!Go!Let`s Go!!ヒ・ル・ド・ル・ブ!!!」
僕の魂の叫びと共に、モビルタンク『ヒルドルブ』が召喚される。ちなみに本来のヒルドルブの全長は30メートル以上あるらしい。流石にそのまま呼び出せないので、かなりサイズダウンされている。それでもトラックよりも断然大きいけどね。
「やってやる……!」
僕が上に乗ると、ヒルドルブはタンク形態になって轟音を立てて市街地へ突進していく。この加速、この風、最高だぜ…!
道の瓦礫を跳ね飛ばしながら、ヒルドルブは既に戦闘が始まっている市街地の中心へ走る。頭の中に直接流れ込んでくるカウントダウンに焦りながらヒルドルブを走らせ、ようやく着いた時には仮想敵はかなり減っているようだった。
「ふー…28ポイント…」
「45ポイント!!」
「32!」
「18…!」
受験者と仮想敵が入り乱れる中、良い人や委員長っぽい人をはじめとしてあちこちでポイントを数えている声が聞こえてくる。マズイ…僕も早く…!
ヒルドルブはHE弾を装填し、僕は仮想敵を探す。
「吹き飛ばしてやる…!!」
近くにいた仮想敵に主砲を向ける。頭の中でトリガーに手をかけるイメージが浮き上がり、僕はゆっくりと指を引く……もらった…!
――――ま、待て!?
僕は今……何をしようとした!?
榴弾を撃とうとしたのか!?
……だ、駄目だ!!撃てない!いくらサイズダウンしているとはいえ、こんなところで撃ってもし誰かに当たれば…!!
マズイ……どこかにないのか!?いないのか!?周りに人がいない敵は!?
まだゼロポイントなんだぞ!?無駄になっちゃう!!オールマイトがくれた全部が、無駄に…!!
~~~~~~~~
ヒルドルブが市街地の中心、戦闘の真っ只中に現れた時、全ての受験生が危機を感じた。乗っている戦車を馬鹿にされた時の緑谷出久の反応から、戦車に対するこだわりは人一倍持っている事は容易に想像できた。
その彼が巨大な戦車に乗って突撃してきたのだ。いくら彼より先にポイントを稼いでいたとしても、あんなものを持ち出されたら簡単に逆転されてしまう。
偶然ヒルドルブの近くで仮想敵を倒した受験生の一人、蛙吹梅雨も警戒していた。上に乗っている少年の挙動を見逃すまいと身構える。少年の表情に笑みが見えた。攻撃が始まる…!
……しかし、ヒルドルブの主砲は火を噴かない。怪訝に思う少女の視線の先で、少年は急に挙動がおかしくなった。あちらこちらに目を向けて、主砲もそれに追従して動く。だが、いつまでたっても撃つ気配は無かった。
不意に少年がこちらを向いて視線がぶつかり、砲口が少女へと向く。
「ケロ…」
個性、”蛙”の蛙吹梅雨にはヒルドルブの主砲を防ぐ手立てがない。思わず固まってしまった彼女だが、やはり撃たれる事は無かった。
少年の目は死んでいた。諦めたような、絶望したような目をした彼は、なんとヒルドルブから降りてしまった。
「どうしたの?まだ試験は終わっていないのよ」
自分も受験生で、しかも試験中にもかかわらず、蛙吹梅雨は緑谷出久に尋ねた。
「無理だ……僕には…」
「無理なの?どうして?こんなに強そうな戦車があるのに」
「違う…そうじゃないんだ…僕には無いんだ…」
「無いって…何が?」
「僕は……ヒーローになる資格なんて…」
――BOOOOOOOOOOOOOM!!
二人の問答は爆音で遮られる。
――――圧倒的脅威。0ポイントの仮想敵がビルをなぎ倒して登場した。
「ケロッ…」
答えを聞いてる場合じゃない。倒しても得が無いのにあんなのを相手にしてはいられない。他の受験生も一目散に逃げていく。自分もそれに便乗し、この場を離れようと跳躍を試みようとした。
ふと、少年をどうしようかと思いとどまる。いくらなんでもこの状況で置いてけぼりは不味いかと思い、少年に顔を向ける。
……少年は一歩踏み出していた。
先程と違い目に力を迸らせ、巨大な敵を見据えていた。
~~~~~~~~
逃げていく人の声と足音に紛れて、確かに聞こえた。
「いったぁ…」
朝の親切と同じ声。
”転んじゃったら縁起悪いもんね”
瓦礫に足を挟まれて、動けなくなっているあの子の姿。その後ろに迫る、巨大な
「…お婆ちゃんが言ってたよ。可愛い女の子が困っていたら助けてあげなさいって。
そしてこうも言ってた。小さな親切をもらったら、ちゃんと返してあげるべきだって」
……ヒルドルブじゃあれは倒せない。大きさが足りない。もっと大きな大砲がいる。
「エクシーズ召喚…」
僕の後ろに虹色の光が湧き出てきて、大きな大砲が姿を現す。
「グスタフ・マックスッ!!!!」
大声を張り上げて、列車砲を呼び出した。ヒルドルブ以上の長大な主砲があいつを狙う。
受験者達は逃げた。今、あの巨大ヴィランの近くにいるのはあの子だけだ。
「――FIRE!!」
グスタフ・マックスが青い光弾を撃ち出し、巨大ヴィランに直撃した。あの子を狙ってたヴィランは衝撃で後ろに大きく仰け反ったが、まだ破壊できていない。
まだだ…まだ終わってない…。
グスタフ・マックスの砲口に青い光がチャージされていく。さっきのよりも強力で、溜めに溜めた一撃を与えるべく、グスタフ・マックスは体勢を崩した巨大ヴィランに狙いを付ける。
「二連打ァッ!!」
グスタフ・マックスのダイレクトアタックが、巨大ヴィランの頭を撃ち抜いた。力を失った巨大ヴィランは、爆発しながら後ろへ倒れて動かなくなった。
足の力が抜けてしまい、グスタフ・マックスに寄りかかる。あの子は……どうやらさっきのカエルみたいな女の子に助けられてるみたいだ。良かった…。
「大丈夫?立てる?」
「な、なんとか…。ありがとう…」
「お礼はあの子に言って。あの子だけよ、あれからあなたを助けようとしたのは。恥ずかしながら、私は逃げようとしてたから」
「は、ハッキリ言うんだね…」
「私思った事を何でも言っちゃうの」
カエルみたいな子に手を貸してもらって、あの子がこっちにやってきた。
「君!今の凄かったね!おかげで助かったよ、ありがとう!」
「…ははは……どういたしまして…」
ヒルドルブとグスタフ・マックスを消して、僕は彼女達に背を向けて歩きだした。
『終了~!!!』
試験終了の合図。僕の持ち点は、0ポイント。
「……さようなら」
もう会う事も無いだろう。僕の試験は、終わったんだ。
個性:戦車
本物の戦車から戦車っぽい乗り物まで色々作りだして呼び出せる。大きさはある程度操れて、大きいものほど呼び出すのに体力を消費する。自動操縦も可能だが、まだまだ練習不足のようです。
・ヒルドルブ
機動戦士ガンダム MS IGLOOに登場するモビルタンク。ナンバーワンよりオンリーワンを地で行く超弩級戦車。今回は良いとこ無しだけど今後に期待!
・超弩級砲塔列車グスタフ・マックス
遊戯王のランク10機械族のエクシーズモンスター。超弩級列車砲。2000バーン効果と3000の攻守を持つ強力なモンスターだ!戦車じゃないし呼び出す時にエクシーズしてないけど勘弁な!