僕のパンツァーアカデミア   作:サンダーボルト

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HERO OF TANKS

人は生まれながらに平等じゃない。それが齢4歳にして、僕が知った社会の現実。

 

世界人口の約八割が個性と呼ばれる特殊能力を持つ現実。そして僕が、残りの二割に属する無個性と呼ばれる現実。

 

……夢だと思いたかった。

 

小さい頃からヒーローに憧れ、お母さんにパソコンで何度も何度も憧れのヒーロー『オールマイト』のデビュー動画を見続けた。それこそ身内じゃなきゃ引かれるくらいに。他のヒーローだって、ヒーローの敵、ヴィランだって調べ上げ、オタクと呼ばれるにふさわしい知識を蓄えた。

 

ヒーローになるのを諦めた方がいいと突き付けられたのは、幼稚園の時にお母さんに病院に連れて行って診察してもらった時。この世界の普通なら、四歳までに個性が発現していてもおかしくないのに、僕には全く現れていなかったのだ。

関節がどうとか型がどうとか言われた気がするが、ハッキリと覚えているのはたった一つの事実。

 

 

 

 

――――僕には何の個性も宿っていない。

 

 

 

 

家に返って僕は、またあの動画を見続けた。目が霞んで画面が見えないけど、それでも見続けた。必死で食らいついていけば、諦めずにいれば、夢は叶うと思っていたから。

 

 

『ごめんねえ出久、ごめんね……!!』

 

 

なのに、なんで、なんで謝るの?お母さん。言ってよ、言ってくれよ。

 

僕もオールマイトみたいな、超カッコいいヒーローになれる、って……。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

嫌な事ばかりで嫌になる。……別に洒落で言ったわけじゃなくてね?ヒーローになる夢を諦めずに足掻き続け、今や中学三年生。先生に有名国立『雄英高』を希望している事をばらされ、クラス中から笑われるわ、稀代の天才で幼馴染、かっちゃんこと爆豪勝己君に他のとこ行けって脅されるわ…。おまけに色んな情報を書き込んでたノートをかっちゃんに爆破されて捨てられるわ…良い事なしだ。

 

失意の底に真っ逆さまに落ちていった僕は、ふらふらといつも帰っている道を外れて人気の少ない路地に入っていった。

 

こんな事してても何も変わらない。そうだ、あの時決めたじゃないか。周りの言う事なんて気にするな。グイッと上見て突き進めってな!!

 

俯かせていた顔を上げると、僕の視界に一件の古ぼけた模型屋が入ってきた。……こういう店って意外にお宝とかが眠っていそうだよね。外れの時がほとんどだけど。それでも一応、見てみないと気が済まないのは男の性か?今ではすっかり少なくなった、自動で開かないドアを手で開けて中に入る。

 

 

「…………うわぁ」

 

 

中にあったのは、所狭しに積み上げられたプラモデルの山。しかもこれ、全部戦車だ。箱が古ぼけて色あせているあたり、歴史を感じるなぁ。

 

なんだか懐かしいや。きっと僕が生まれる前からあるんだろうけど、僕が小さい頃に戻った気分だ。

そういえば、おもちゃ屋さんでお母さんにねだって買ってもらった事があったな。名前なんか知らないのに、戦車ってだけでカッコよくて欲しくなって。きっと男の子が誰しも通る道だよね?

 

一番上にあった箱には、ティーガーって書いてあった。今でも詳しいわけじゃないけど、名前くらいは知ってる。今の日本の最新式は、10式だっけ?ヒーローのニュースばっかり見てるから、よく知らないや。

 

 

「………カッコいい」

 

 

思わず呟いて、鞄をまさぐって財布を探す。プラモ一箱くらいなら買えるはずだ。受験前だけど、気分転換に作ってみようかな。箱に直接貼られている値札と財布の中身を見比べていると、後ろに人の気配を感じた。

 

 

「………坊主。戦車は好きか?」

 

「…は、はい!」

 

 

後ろにいたのは顎に無精ひげを生やしたおじさんだった。多分、ここの店長さんだろう。

 

 

「今時珍しいな。近頃は個性だヒーローだっつって、めっきりガキも来なくなってな」

 

「……すいません。僕もヒーローは好きです…」

 

「……なんで謝るんだ?」

 

 

ヒーローを疎ましく思ってそうな内容だったから、ヒーローオタクの僕としては気まずくて謝ってしまったけど、おじさんは特に気にしていないようだった。

 

 

「ヒーローが好きだって言ったが、なら将来はヒーローになるつもりか?」

 

「はい!オールマイトみたいな、超カッコいいヒーロー目指してます!」

 

「ほお。坊主、どんな個性持ってんだ?」

 

「……ありません」

 

「無いのにヒーロー目指してんのか」

 

「……はいぃ…」

 

「そうかい」

 

 

自分で言っておいて、なんで自分で落ち込んでいるんだろう、僕…。

 

 

「……おい」

 

「はっ、はい!?」

 

「ドロップ、食うか?」

 

「え?あっ、いただきます」

 

「ほらよ」

 

 

手を差し出すと、おじさんがケースを振ってドロップを一つくれた。これまた懐かしい、ハッカ味だ。コロコロと口の中で転がして味を楽しんでいると、おじさんが優しい目でプラモデルの箱に手を置いた。

 

 

「俺もよ、別に商売上手って訳じゃねえんだ」

 

「……」

 

「戦車が…こいつらが好きで始めた商売なんだ」

 

「そうなんですか…」

 

 

おじさんが箱を撫でる仕草から、どれだけ戦車が好きなのかが伝わってくる。こんな事を思うのはおこがましいけれど、僕とおじさんはどこか似ている。

 

好きだから始めて、好きだから続けて、好きなのに……上手くいかない。

 

 

「……坊主、さっきの陰気なツラ見りゃ分かるが、上手くいってねえんだろ?ヒーロー目指すの」

 

「はい…そうです」

 

「それでも……止めねえのか?」

 

「止めません」

 

 

それを聞いたおじさんは、レジから袋を持ってきてプラモデルの山を中に詰め始めた。

 

 

「あ、あの…?」

 

「坊主、餞別だ。ありったけ持ってけ」

 

「……ええ!?」

 

 

いきなりすぎる。おじさんは固まっている僕を後目にして袋を戦車でパンパンにしていく。

 

 

「いや!悪いですよそんないきなり!!」

 

「気にするな。店長の俺が良いって言ってんだから、持ってけ」

 

「気にしますよ!!」

 

「…ったく、近頃のガキは遠慮深くていけねぇ。どうせもう店も閉めるんだ。気にせず持ってけって」

 

「……え?」

 

 

また固まってしまった僕の目の前に、戦車がたんまり詰め込まれた袋が差し出される。

 

 

「こいつらは俺の夢だ。だが俺はもう夢を見続けられねえ。そんな時に坊主、お前が来た。昔の俺みてえに、青臭え事やってる奴がな」

 

「!」

 

「運命なんてもんは信じねえが、こいつらをここで終わらせるよりは…坊主。お前に持っていてほしい」

 

「…おじさん」

 

「……まあ持ってたって、坊主の夢を叶える手助けになりゃしねえだろうが……」

 

「頂きます」

 

 

僕が袋を受け取ると、おじさんは一瞬驚いた顔になって、すぐに笑って僕の肩を叩いた。

 

 

「悪いな、坊主」

 

「……夢を、ありがとうございます」

 

 

両手を使っても溢れるくらいの戦車の箱。僕はおじさんに一礼すると、模型屋を振り返ることなく歩いていった。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

……真っ直ぐ帰ろうと思っていたのに、僕の足は商店街にできた人だかりに自然と吸い寄せられていた。今朝、ヴィランが暴れていた事件はすぐに記事になっていたけど、たまには情報をまとめるのを休んでのんびりプラモでも組み立てようと思ってたのに…。

 

はは……クセって恐いね。プラモを沢山持って歩き辛いのに、体は前へ前へと進んでいく。

 

 

「私二車線以上無いと無理~!」

 

「爆炎系は我は苦手だ!今回は他に譲ってやろう!」

 

「こっちは消火で手一杯だよ!状況どーなってんの!?」

 

「ベトベトでで掴めねえし、良い個性の子供が抵抗してもがいてる!おかげで地雷原だ!三重で手ェ出しづらい状況だ!!」

 

 

対処しているヒーローの怒鳴り声があちこちから聞こえてくる。……敵は流動的な体を持っていて、強力な個性を持った子供に取りついたってところだろうか…。

 

 

「つーか、あの敵…さっきオールマイトが追ってた奴じゃね?」

 

「嘘!?オールマイト来てんの!?なら何やってんだ!?」

 

 

あのオールマイトが来ているだって!?近くにいるかもしれないって!?

 

……ずっと憧れてたヒーローが来るかもしれないのに、僕はここから去る事を考えている。……たまにはそういう時だってあるさ。そう自分に誤魔化すように言い聞かせ、踵を返して商店街から出ようとする。

 

その時、彼と目が合った。敵に乗っ取られそうになっている彼と。

 

――――今日、僕を散々コケにした、かっちゃんこと、爆豪勝己君と。

 

気が付けば僕は、人混みを抜けて真っすぐ(ヴィラン)へと向かっていた。

 

 

「馬鹿ヤロー!!止まれ!!止まれっ!!!」

 

 

ヒーローの一人が僕に叫ぶ。僕が行って何ができる!?無個性の僕が!!頭では分かっている。体だって分かっている。

それでも、止まらない。

恐怖も震えも振りきって、僕はただ前へと駆ける。

 

 

「(……デク!?)」

 

「もう少しって時に……邪魔するな!!」

 

 

ヴィランが右手を振りかぶる。あいつがかっちゃんの個性で暴れているなら、来るのは爆風。どうする、どうする!?

 

 

「無駄死にだ!自殺志願かよ!?」

 

 

どうするか、どうするか、考えて、考えて…。

 

考え続けた結果。

 

――――思考が、急にクリアになる。

 

鞄を奴の眼前に投げつけて、視界を奪う。

 

その隙に僕は急ブレーキをかけて、両手を顔の前で思い切り叩き合わせた。

 

それに何の意味があるのか?きっと、僕も分かっていなかった。ただ、あの時はそうするのが正解だった気がして、体を迷いなく動かした。

 

 

「な…なんだ!?」

 

 

僕の隣で爆発が起こる。あいつの攻撃じゃない。巻き起こった白い煙が晴れると、そこに――

 

 

「……戦車!?」

 

 

――金色のボディに女の子がペイントされた戦車があった。

 

 

「なんだアレ!?戦車なのに痛車!?」

 

「横のあいつが出したのか?」

 

「何する気だよ、オイ!?」

 

 

周りの声を無視して、僕はこの戦車に手のひらをくっつける。

 

運転していないのに砲塔が回り、キリキリと主砲が目の前の敵へ狙いを付けた。

 

 

「ガハッ……てめェ!!何を…!?」

 

「かっちゃん」

 

 

この距離だ、外さない。

 

 

「ふんばれ」

 

 

大量の水が戦車の主砲から発射され、かっちゃんに纏わりついているヴィランを引きはがす。

 

体が流動的なら、水で洗い流してしまえ。手に付いたスライムを水道で洗うのと同じだ。

 

ヴィランを全て洗い流すとほぼ同時に、空から何かが降ってきた。

 

 

「もう安心だ、諸君!私が……あれ、終わってる!!」

 

 

ナンバーワンヒーロー、オールマイトの登場にこの場が大きく沸いた。ヴィランをペットボトルに詰めると、僕のところにズンズン近づいてきた。戦車をバンバン叩きながら、僕に力強い視線を向けてくる。

 

 

「君!がこれの持ち主か!!」

 

「……えと、恐らく」

 

「恐らく!?君以外が出したと言っても私は信じられないぞ!!」

 

「……僕、無個性なんです。無個性、だったはずなんです…」

 

「……つまり!!君は初めてこの痛い戦車を召喚し、ヴィランを倒したというのだね!!」

 

「倒してないです、剥がしただけで…」

 

「細かっ!!」

 

 

オールマイトと話せたのは素直に嬉しかったけど、その後が散々だった。

 

勝手に飛び出していったからヒーロー達からこっぴどく叱られ、かっちゃんも僕に助けられたのが気に入らないのか突っかかってきたし。

 

あの戦車は、どういう原理か分かんないけど僕が消えろと思ったら消えたし。

 

で、更に大変だったのが帰る途中にオールマイトが来た事。何故か曲がり角から飛び出してきたのですっごくびっくりしたよ。

 

 

「少年、まずは礼を言わせてくれ。あれは私が取り逃がしてしまったのだ!ああ、情けない!!ありがとう、少年!!」

 

「い、いえいえそんな!!僕こそ無個性だったのに、お仕事の邪魔を…」

 

「確かに!!正規のヒーローではない物が個性を行使するのはいただけない!……君の場合は元々無個性と登録されていたようだから、無理も無い部分もあったがね」

 

「……やっぱり、あれって僕の個性……なんでしょうか?」

 

「言われても分からんよ!だと思って声をかけに来たのさ!!」

 

「え?」

 

「先程の礼!!……そして、無個性だったにもかかわらず、あの場で誰よりもヒーローだった君に話がある!!」

 

 

あのオールマイトが、僕に?

 

 

「君の個性がどんなものか調べてみよう!!……そして、ある提案を君にしたい」

 

 

今日という日を、僕は一生忘れない。

 

僕がヒーロー(戦車乗り)になった、この日を。




召喚戦車

・ギガンテス 夏色ハイスクル★青春白書 ~転校初日のオレが幼馴染と再会したら報道部員にされていて激写少年の日々はスクープ大連発でイガイとモテモテなのに何故かマイメモリーはパンツ写真ばっかりという現実と向き合いながら考えるひと夏の島の学園生活と赤裸々な恋の行方。~ マーキング

地球防衛軍4.1のDLC戦車。マジで放水が武器です。

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