マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
カオス・ネクロマンサー「ひゃっほーい! 出番ゲットォ! ――でも負け試合だから素直に喜べない」(´・ω・`)ショボーン




第83話 カード・プロフェッサーの力、ご覧あれ!!

 《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の最後の5連撃目を受け、ライフが0となったレベッカの姿に審判代わりにこの場を仕切る野坂ミホが片手を上げて宣言する。

 

「ここに決着ッ!! 熾烈を極めたかに見えた激闘ですが! 最後の最後は海馬社長が自身の力を見せつけるように引き離しましたー!!」

 

 その宣言と共に観客となった辺りにいた人たちが喝采を上げるも、レベッカは悔しさに耐える。

 

「ぐぐぐ……悔しーーい!!」

 

 いや、やっぱり耐えていなかった――「ウガーッ!」と腕を上げる姿は、その場で地団駄でも踏みかねない様相だ。

 

 しかし悔しさを言葉に出し、スッキリしたのかレベッカは勝利に浸る海馬を指さし、声を張る。

 

「――でも認めて上げるわ!! 海馬! 貴方がおじいちゃんの――いや、もう違うわね……そのブルーアイズを持つのに相応しいって!」

 

「ふぅん、貴様に態々認めて貰う必要などないわ!」

 

 だがそんなレベッカの複雑な胸中の想いを鼻で嘲笑い一蹴する海馬。海馬の中ではレベッカとの因縁が薄い以前にほぼ知らない人間の為、その態度は辛辣だ。

 

「何ですってぇ!!」

 

 その海馬のおざなり過ぎる対応にプンスカ怒るレベッカ。だが暖簾に腕押し、ヌカに釘――海馬は堪えた様子もなく、言い放つ。

 

「だが――その言葉は一応受け取っておいてやろう」

 

 そんなレベッカを認めたかのような言葉だが、先ほどの態度ゆえにレベッカは素直にソレを受け取ることは出来ない模様。

 

 

 そんな両者のやり取りを見つつ、「此処だッ!」とマイク片手に近寄る野坂ミホ。

 

「どうやら《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》に相応しいかどうかを確かめる為の一戦だったようですね! ではその辺りの詳しい経緯をこれから――ってああッ!!」

 

 しかし何時ぞやと同じくそのマイクは海馬に分捕られ、そのまま海馬はカメラに向けて指を差す。

 

「見ているか! デュエリスト共よ!! 俺のカードを狙うのならば、好きなだけかかってくるがいい! そのすべてを打ち倒してくれるわ!!」

 

 そうして一向に姿を現さないグールズの神のカードの所持者にメッセージを送りつつ、用は済んだとばかりにマイクを野坂ミホ――ではなくレベッカに投げ渡す。

 

「ふぅん、邪魔をしたな……俺は次の獲物を探しに行かねばならん――その程度の些事(インタビュー)は敗者である貴様にくれてやるわ! フハハハッ! ハーハッハッハー!!」

 

 そうして言いたいことだけ言った海馬は高笑いを上げながら立ちさっていく。その行く先の人込みはモーゼの十戒の如く左右に分かれていった。

 

 

 海馬 瀬人は今日も今日とて全力全開である。

 

 

 そんな海馬の後ろ姿を見ながら野坂ミホは一人ごちる。

 

「海馬くんは相変わらずだなぁ……じゃぁレベッカ選手! 《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》にまつわる因縁なんかを話してくれると――」

 

 だがすぐさま気持ちを切り替えレベッカに詰め寄る野坂ミホだが――

 

「悪いけど、私にそんな時間はないわ!!」

 

 そう言ってレベッカはマイクを野坂ミホに突き返す。

 

「おや、そうなんですか? なら――」

 

 取り付く島もないレベッカだったが野坂ミホもこの場を纏める為にせめて一言欲しいとレベッカにマイクを向けようとするが――

 

「今からダーリンの元に向かうからね!!」

 

 衝撃的なレベッカのカミングアウトに目を剥く野坂ミホ――ある意味ビッグニュースだ。

 

「えっ、ダーリン!? ち、ちょっとその辺り詳しく――って行っちゃった~~」

 

 ゆえに詳しい内容を聞いておきたい野坂ミホだったが、レベッカは既に駆けだした後であり、マイクが宙を振る。

 

 

 名のあるデュエリストの名勝負が終わったにも関わらず、この場に吹く空虚な風は何なのか。

 

 しかし野坂ミホはこの程度ではめげはしない。恋慕を向ける獏良がテレビ越しで見ているかもしれないのだから――まぁ、実際は見ていないが。

 

「そう! たとえデュエルが終わっても、デュエリストたちは止まりません!! 己が目的の為に邁進し続けるのです!! 私たちに出来るのはそんなデュエリストの足跡を追い掛け続けることのみ!!」

 

 そうカメラに向けて主張する野坂ミホ――若干以上に苦しい主張だ。

 

「さぁ私たちも先に進みましょう!!」

 

 これで最後、とばかりにカメラに向かってこの場を何とか上手く締めようとする野坂ミホの姿は何だか哀愁を誘うものに見えたのは気のせいではあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処からか突如として響いた海馬の高笑いにビクっと肩を震わせるのはダイナソー竜崎。

 

 音の発信源に振り向くと、そこには海馬が高笑いして立ち去る映像が町の一角のディスプレイに映されていた。

 

 ただの映像であったことに安堵した竜崎はポツリと言葉を零す。

 

「なんや、別のとこかいな……」

 

 オカルト課が海馬に睨まれている為、そのオカルト課の所属となった竜崎は海馬が若干苦手になっている――なお海馬が目を光らせているのは神崎個人であるが竜崎は気付いていない。

 

「しっかし、おらんようになった羽蛾の分も頑張るゆーて気合入れたんはエエけど、早々不正しとる奴なんておらんもんやなぁ……」

 

 そう一人ごちる竜崎。色々と張り切ってはいたのだが、実際に業務に取り掛かろうとしても分かりやすい「業務」がない仕事だった。

 

「『大会の参加者に紛れて』って言われても、困りごとはKCのスタッフが担当しとる訳やし、ワイの出番があるようには思われへんけど……」

 

 そんな考察を浮かべる竜崎――初仕事ということもあり、文字通り「ハードルの低い仕事」を与えられたのだろう、と。

 

「まぁ、こう人の目が多いと無理もない話か……人の目があると悪さはできひんやろうしなぁ」

 

 このバトルシティは町全体が大会の会場になっているだけあってかなり人の目が多い。そんな場で不正に動くリスキーな行動を取るデュエリストなど早々にいる訳がない。

 

 竜崎のモチベーションは下がる一方だった。

 

 

 しかし竜崎の脳裏に羽蛾が言った「言われた以上の成果」との言葉がよぎる。

 

 

 そして思い至る――自分は試されているのではないかと。

 

 ワザと「ハードルの低い仕事」を回し、それに対する取り組む意欲や責任感、さらにその仕事を通して何を成果として残せるかを試されているのでは、と。

 

 残念ながら微妙に違う。

 

 実際の神崎の思惑は、ある程度の意識改革を行った竜崎と羽蛾が「どう動くか」に主眼を置かれている。

 

 

 しかしそうとは知らない竜崎はやる気を漲らせ、考えを巡らせる。

 

 今の竜崎は『大会の参加者』――KCでは海馬を除き、その肩書を持っているのは竜崎と羽蛾だけだ。

 

 そこにこそ活路があると竜崎は考えるが、その考えは纏まらずに周囲を見渡す――そういえば自分はこの手の考えが苦手だったと思いつつ。

 

 

 

 そう視界を彷徨わせる竜崎が注目したのはヘルメットを被り、眼鏡をかけた軍隊風の服装の男と、黒のゴシックスタイルの服装にショートの金髪が特徴の女性。

 

 竜崎が注目したのはその2人が異国の人間であったこともあるが、何より一般的な服装とかけ離れた点に目が行く。

 

 

 その2人の内のゴシックスタイルの服の女性、カードプロフェッサー、ティラ・ムークは並んだ店に視線を向けている。

 

「さすがKCのお膝元ね……最新のものが多――『デュエルディスク改造セット――【ヴァンパイア】デザイン』!?」

 

 しかしある店のショーウィンドウで止まるとすぐさま、そこにかじりつくティラ・ムーク――油断していれば見逃してしまいそうになる程の恐ろしく速い動きだ。

 

 そのショーウィンドウには通常タイプのデュエルディスクに外付けパーツを付けることでそのデザインを「ヴァンパイア」をイメージしたデザインにする製品がその他のデザインと共に店頭に並べられていた。

 

 

 リアル感覚で言うところのいわゆる「スマホケース」や「デコレーション」に近いものなのだろう。

 

「なにこれ……こんなのが出てたなんて……」

 

 カードプロフェッサーとしての仕事も忘れる勢いで、ショーウィンドウの見本を凝視するティラ・ムーク。

 

 ティラ・ムークが目の色を変えるのも無理はない。何故なら彼女は「ヴァンパイア」デッキの使い手――さらには自分のフェイバリット「ヴァンパイア」カードを「(あるじ)」と呼ぶ程にのめり込んでいるのだから。

 

 

 しかし軍隊風の服装の男、カードプロフェッサーのカーク・ディクソンは同僚のティラ・ムークの姿に頭を押さえ、苦言を呈する。

 

「何をしているんですか、我々には任務が――『デュエルディスク改造セット――【アーミー】デザイン』!?」

 

 のも中断して、ティラ・ムークと同様にショーウィンドウにかじりつく。その目の先には――

 

 デュエルディスク改造セット、【ヴァンパイア】デザイン――の隣にあった【アーミー】デザインの無骨なフォルムに目を奪われていた。

 

 ……カーク・ディクソンが目の色を変えるのも無理はない。彼はデッキは勿論のこと、その私服すら軍隊風で固める程のミリタリーマニア――デュエル中に自然に敬礼までこなす程なのだから。

 

 店のショーウィンドウにピタッと噛り付く、ゴシックスタイルの服装の女性と、軍隊風のデザインの服装の男性はかなり悪目立ちしていたが当の本人たちは気にした様子もない。

 

 おい、ハンターたち……グールズを狩る仕事はどうした。

 

 

 そしてティラ・ムークとカーク・ディクソンは互いに顔を見合わせ――

 

「裏の総意とはいえ、ある程度はグールズも捕縛したし……取り合えずの『義務』は果たしたわよね?」

 

 そんなティラ・ムークの内心が透けて見えるような言葉にカーク・ディクソンは首を縦に振り同意しつつ返す。

 

「そうです。『義務』は果たしました――それに獲物が隠れた今、我々が自分の足で探すよりもKCからの要請を待った方が効率的です」

 

 そのカーク・ディクソンのもっともらしい言葉にティラ・ムークと共に笑みを作る。

 

 そして彼らはグールズ探し――ではなく、目の前の店に入店するべく動き出すが――

 

「でも『ソレ』、この店で買われへんで?」

 

 そんな竜崎の声が背後から響いた。

 

「 「なん……だと(ですって)……!?」 」

 

 後ろを振り返り驚愕の面持ちを見せるティラ・ムークとカーク・ディクソン。

 

 彼ら2人の脳裏には自分好みにチューンアップした新たなデュエルディスクでグールズたちを試し切りする予定が崩れていく。

 

「あっ、スンマセン。立ち聞きするつもりはなかったんやけど……そもそも『ソレ』はここでは――」

 

 そんな竜崎の謝罪の言葉と申し訳なさからの事情の説明を封殺するようにティラ・ムークはズイっと迫る。

 

「彼、何か知ってるみたいね――あら? どこかで見た顔?」

 

 そんなティラ・ムークの目力という名の圧力から思わず後ずさった竜崎。だがその背に誰かがぶつかり、そしてその上から声が落ちた。

 

「確か『ダイナソー竜崎』です――情報によればKCに所属し、彼のターゲットは『不正を行う人物』です」

 

 振り返る竜崎の目に映るのは眼鏡越しに見える獲物を見つけたかのようなカーク・ディクソンの瞳。

 

「えっ!? ちょっ、ワイはそう大したこと知らんし――」

 

 まさに前門の虎、後門の狼の状態の竜崎は声を震わせるが――

 

「無論タダとは言いません」

 

 カーク・ディクソンの思ったよりも理性的な声が返ってくる。

 

「先程、小耳にはさんだ情報ですが『心を読む』等と胡散臭いことを述べるデュエリストの情報――ご興味ありませんか?」

 

 そんなカーク・ディクソンの言葉に竜崎は動揺した頭が冷え、確認するように問いかける。

 

「……つまり情報交換の取引ってことかいな?」

 

「はい、貴方はその情報により成果の足掛かりを手にし、我々は欲しい情報を頂く。それだけです」

 

 それっぽく言っているカーク・ディクソンと訳知り顔で腕を組んでいるティラ・ムークだったが、竜崎から得る情報の中身が若干残念なせいで微妙に格好が付かない。

 

 

 そんなカードプロフェッサーの2人に竜崎は己の業務に光明を見出す。

 

「せやったら了解や。取引成立やで! え~と、その後付けデザインのヤツは――」

 

 そうして説明を始める竜崎。

 

 その情報も既に世間に広め始めているもの、ゆえに彼らに話すことは何も問題にならないだけでなく、KCの宣伝にも繋がる。一石二鳥だ。

 

「――って具合や。どうや?」

 

 そうして説明を終えた竜崎。だが自身があまりこの手の話題に詳しくないことだけが不安材料だ。

 

「成程、助かりました。では此方を――詳しい内容を書き留めたものであります」

 

 しかし、カーク・ディクソンとティラ・ムークは納得したように晴れやかな顔を竜崎に向け、一枚のメモを竜崎に手渡した。

 

「おおっ! こらエライ詳しい情報を!」

 

 メモに書かれた詳細な情報に感嘆の声を上げる竜崎――自分の情報の精度ゆえに申し訳なくなる程である。

 

 そんな竜崎にティラ・ムークは注釈を入れる。

 

「でも急いだほうがいいと思うわ。私たちが見たときは対戦相手を探して周囲に呼び掛けてたみたいだから、もうデュエルは始まってるかもしれないし」

 

「そでっか! いや、おおきに! 感謝するわ! じゃぁ、ワイは先を急ぎますんで!!」

 

 そのティラ・ムークの言葉に居ても立っても居られなくなり竜崎はそう言って駆け出す。

 

 KCのスタッフは参加デュエリストに過度に接触することは出来ない――贔屓に受け取られかねないからである。

 

 だが「大会参加者」の肩書である竜崎はそれに当てはまらない。ゆえにデュエリスト間の情報の精査――それが竜崎の見つけた答えだった。

 

 

 そんな竜崎の後ろ姿を見つつティラ・ムークは呟く。

 

「張り切っているわね」

 

「無理もありません。彼はいわば『篩』にかけられている状態ですから」

 

 それに対し、色々と黒い噂の絶えない神崎に目を付けられている竜崎に「ご愁傷様」との思いと共に返すカーク・ディクソン――こら、十字を切るんじゃない。縁起でもない。

 

 しかし所詮は対岸の火事、自分たちには関係ないと竜崎に背を向ける2人。

 

「さて、そろそろ行きましょう」

 

 そしてそんなティラ・ムークの言葉と共に2人のカードプロフェッサーは歩き出す。

 

 

 

 件の「デュエルディスク改造セット」を先行販売している店舗に。

 

 

 いや、グールズ探せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧倒的なプレッシャーを放つ存在の前にマイコ・カトウは対峙していた。

 

 そしてそのマイコ・カトウの車椅子を引いていたテッド・バニアスの手の僅かな震えを感じ取り、マイコ・カトウはテッド・バニアスを労わるように問いかける。

 

「テッド、下がる?」

 

 しかしテッド・バニアスは強気な笑みを作り返す。

 

「バカ言うなよ――ここで下がるデュエリストなんていねぇぜ」

 

 この一戦を間近で見届けられることはテッド・バニアスにとって値千金の価値がある。

 

「俺がガキの頃から伝説だった男が……今、目の前にいるんだ――引くわけねぇだろ」

 

 そうして眼前の役者(アクター)を睨むように見据えるテッド・バニアスの声は震えていた――それは怯えなどではなく武者震いに近い。

 

 役者(アクター)――

 

 デュエルモンスターズが生まれ、世界に根付いた最初期の時代から、その裏世界で「不敗」の伝説を打ち立てたデュエリスト。

 

 なお実際は大半のデュエルが勝てそうな相手とだけ戦ってきただけのものなわけだが、そんな事情など彼らは知る由もない。

 

 

 さらにその「無敗」の伝説は今もなお続いている。

 

 テッド・バニアスの憧れの男、キース・ハワードを表の最強の一角と取るならば、

 

 役者(アクター)はまさに裏の最強の一角。

 

 

 何だか裏の方だけ随分と格が下に落ちた感じだが、気にしちゃいけない。

 

 

 テッド・バニアスたちに向けられた闘志は膝を屈しそうになる程の重圧感を放つ。マイコ・カトウはこの時ほど自分が車イスに座っていることを感謝したことはない。

 

 

 なおそのアクターらしからぬプレッシャーの正体は――

 

 想定外の遊戯との接触や完全にデュエルする目(潰す気)でアクターを見据えるマイコ・カトウの姿などに精神的な動揺が立て続けに起こったゆえのもの。

 

 早い話がアクターこと神崎の身に取り込んだ「冥界の王」の力が軽く漏れ出ているせいだ――もっとシャンとしろ。

 

「要件は?」

 

 何の感情も感じさせないような機械で加工されたアクターの声が響く。

 

 そのプレッシャーからマイコ・カトウは自身の考えなど見透かされていると思いつつ、そんなことなどおくびにも出さずに世間話をするかのように語りだす。

 

「そんな大したようじゃないわ――アクター、貴方は本戦を目指している。ならパズルカードを集めるのも一苦労でしょう?」

 

 マイコ・カトウの言う通り、一般の参加者たちはアクターのその異様な風貌から進んで近づくようなことはしない。

 

 そもそもアクターが進んで表参道を歩くようなこともしないが。

 

 さらに遊戯や海馬のように対戦相手を吟味している訳でもないにも関わらず、今のアクターが持つパズルカードは3枚――少しペースが悪い。

 

「よかったら私の余ったパズルカードを貰って頂戴」

 

 そう人の良さそうな顔をしながらマイコ・カトウは3枚のパズルカードを提示する。

 

「ああ! 忘れていたわ……パズルカードはデュエルでやり取りしないとデータの所有権が移らないんだったわね」

 

 そして今思い出したかのように驚いて見せるマイコ・カトウ。

 

 そして困り顔を作りつつ悩む素振りを見せた――どこかワザとらしいのは気のせいではあるまい。

 

「困ったわねぇ……そうだわ! 私とデュエルしましょう?」

 

 やがて今思いついたように「いい考え」だとマイコ・カトウは手を合わせる。

 

 しかしその提案にアクターは簡単に首を縦に振る訳にはいかない。

 

 

 そもそもハンターはグールズを捕らえる為に雇われた人員――目的を同じくする者たちでデュエルする必要性がない。

 

 というのが理由、ではなく、単純に原作にて遊戯をあと一歩まで追い詰める実力者とデュエルしたくないからである――何とも情けない理由だ。

 

 

 だがマイコ・カトウは思考の隙を見せないように言葉を返す。

 

「大丈夫、万が一私が勝ってしまったとしてもマッチ戦形式を取れば残りの2戦は私がサレンダーして上げるわ――だから貴方の仕事には何も影響はない」

 

 そう優し気に微笑むマイコ・カトウだが、その言葉は分かりやすい挑発に他ならない。

 

 プライドを僅かでも持ったデュエリストなら「ふざけるな」と怒号を上げるだろう。

 

 与えられる「勝利」という名の「敗北」を受け入れられるデュエリストなどいない。

 

 

 そんな形だけを取り繕った「白々しさ」すら感じるマイコ・カトウの提案。

 

 

 しかし「プライド」もなく、「デュエリスト」と呼ぶには若干アレなアクターからは願ってもない申し出だった。

 

 懸念される「アクターの敗北」による問題もマイコ・カトウの人となりを原作から知り、吹聴して回る人間でないことが分かっているアクターこと神崎の認識もその決断に背を押す。

 

 さらに万が一「役者(アクター)」の看板が地に落ちたとしても、既にオカルト課ではデュエリストが充実している為、神崎はさほど問題視していない。

 

 

 ただデュエルするだけでパズルカードが手に入り、本戦出場の権利である「パズルカードを6枚集める」もクリア出来る――それが神崎にとって魅力的な提案だった。

 

 そう! 今後、遊戯や海馬に出会った際に「既に本戦出場の権利を得ている」ことを理由に彼らとのデュエルを避けることが出来るのだ! ――お前はそれでいいのか。

 

 

 さらに浮いた時間でマリクの捜索も行える為、アクターは内心の乗り気を隠しつつ、自身のデュエルディスクにデッキをセットする。

 

 

 そしてデュエルディスクを構えるアクターの姿にマイコ・カトウは満足気だ――アクターの内心を知ればその満足感も吹き飛ぶだろうが。

 

「フフッ、年寄りのわがままにつき合わせちゃって悪いわね――でもアクター。私は貴方を買っているのよ?」

 

 マイコ・カトウ視点では生ける伝説とのデュエルに老いを感じさせぬ闘志を発しつつ、楽し気に語りだすマイコ・カトウ。

 

「過去の全米チャンプの騒ぎの時もデュエルするだけで勝ち負け関係なく莫大な依頼料を提示した人たちに『裏の人間が表に関わるべきじゃない』――そのスタンスを最後まで貫いた」

 

 そんなマイコ・カトウの昔話にアクターは過去を思い出す――メリットが少なすぎて受ける気がしなかった、と。

 

 当時のオカルト課では所属デュエリストが大して充実していなかった為、キースとのデュエルに負ければ当然オカルト課は大打撃を受け、

 

 仮に勝っても下手をすれば原作のようにキースの転落人生が始まるのでは、と危惧していた――恨まれでもしたら面倒になることは確実だ。

 

 

 そんな夢も希望もないアクターの考えを余所にマイコ・カトウの饒舌に語る。

 

「裏で仕事をしつつもデュエリストの矜持をしっかりと持った貴方を私は高く評価しているわ」

 

 マイコ・カトウの中ではアクターの評価はかなり高いものだった――それら全て虚像なのが悲しい。

 

「でもそんな貴方がこうして『表の大会(バトルシティ)』に参加している――あの男の指示よね?」

 

 しかしマイコ・カトウの視線が強まる。

 

「貴方は何故『あんな男』に付き従うのかしら?」

 

 その一点がマイコ・カトウには疑問だった――アクターの実力があれば態々誰かに付き従う必要性が見いだせない、と。

 

 よりにもよって何故あの男――神崎 (うつほ)に付き従うのか、と。

 

 

 マイコ・カトウの純粋な疑問だった。

 

 しかしそんなことを言われてもアクターこと神崎は自分の一方の部分の評価が低すぎることに内心でショックを受けるだけ。

 

 

 沈黙が場を支配する――アクターこと神崎からすれば心が痛い沈黙だった。

 

 やがて何も答える気のないアクターにマイコ・カトウは溜息を吐く。

 

「答える気はない? フフッ、噂通り本当に無口なのね――何を話してもダンマリ……」

 

 年甲斐もなくはしゃぎ過ぎたとマイコ・カトウはデッキをデュエルディスクに差し込みつつ、瞳を閉じる――デュエリストが戦うのは口論ではないのだと。

 

「ならここはデュエリスト同士――」

 

 そして開かれたマイコ・カトウの眼光はギラリと光り、それに呼応するように車椅子に取り付けられたデュエルディスクが展開した。

 

「――デュエルで語るとしましょうか!」

 

 そしてマイコ・カトウは役者(アクター)の舞台へ躍り出る。

 

 




~入りきらなかった人物紹介、その1~
ティラ・ムーク
遊戯王Rに出演
カードプロフェッサーの一人。

ゴシックスタイルの服装にショートの金髪が特徴の女性。

自身の切り札、そしてフェイバリットカードたる《カース・オブ・ヴァンパイア》を(あるじ)と呼ぶ。

デュエリストは自身のフェイバリットカードを大抵「相棒」や「仲間」と同列に扱う中で

ティラ・ムークは「(あるじ)」と目上に扱う珍しいタイプのデュエリスト

それがキャラ作り的な意味合いの「ポーズ」なのか、本当に「目上」に扱っているのかは不明。


遊戯王Rの作中では遊戯に敗北後、城之内がデュエルディスクを借りた相手。

そして作中の騒動終了後にカードプロフェッサー最強の証、ブラックデュエルディスクになって戻って来た――どこの昔話だ。

――今作では
「前世でのサブカルチャー関係はこの世界でどの程度、影響が出るのだろうか?」という神崎の疑問により立ち上がったプロジェクトにより

BIG5たちの協力の元、KCの持ちうる全技術を使い様々な前世のサブカルチャーを「デュエルモンスターズ」を用いて可能な限り再現して世に解き放った。

マスクド(M)(・ヒーロー(HERO))ライダー」シリーズや

「(怒炎壊獣)ドゴランVS(対壊獣用決戦兵器)スーパーメカドゴラン」

「Kozumo・ウォーズ」に「レオグン・キング」等々

それらの前世の様々な作品をパクって――もとい再現したものはKCを色々と潤した。


その過程で某「にんげんってうつくしい」で有名な吸血鬼の話もあり、

それにド嵌まりしたティラ・ムークは、返ってこれなくなった――今作ではその辺りから《カース・オブ・ヴァンパイア》を(あるじ)と呼び始める。

当初は困惑した他のカードプロフェッサーたちだったが、

マイコ・カトウの「このぐらいの年頃の女にはそういうのもあるわ。私にも覚えがあるもの」という言葉により取り合えずは収束。


その後、サブカルチャー作成の話を聞きつけた海馬により《正義の味方 カイバーマン》を主役にしたストーリーを作るよう命令があったとか、ないとか。





~入りきらなかった人物紹介、その2~
カーク・ディクソン
遊戯王Rに出演
カードプロフェッサーの一人。

ヘルメットを被った軍隊風の服装をした男。常に丁寧な口調で話すが、その中に高圧的な性格や嫌味な一面も覗かせる。

遊戯王Rの作中では舞台となったKCの至るところに罠を仕掛けており、城之内はそれに引っかかった為、落とし穴に落ちた。

なお仕掛けた当人も遊戯に敗北したショックで後退り、自分の罠にかかった――メンタルが脆い模様。

青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》をも超える攻撃力4600を持つ《マシンナーズ・フォース》を切り札に据えた「マシンナーズ」デッキを使用。

召喚条件が厳しい? 《マシンナーズ・フォートレス》の方が使いやすい? 知らんな、そんなことは管轄外だ。


――今作では
機械軍隊デッキや私服に軍服を選ぶ程のミリタリーマニアっぷりな一面から、趣味人の側面が大きくなった。

そのため、紛争の中で武器も持たずに生身で戦い抜いたと言われる「伝説の傭兵の謎」を追っている。

カードプロフェッサー内では「そんな奴いるわけねぇだろ」、「戦場でパニックになって幻覚を見ただけ」等と言われているが

彼は「きっといる」と信じている。

その伝説(笑)の傭兵の正体は――



~今作でのオリジナル品~

~「デュエルディスク改造セット」について~

コンセプトは「自分だけのデュエルディスクをお手軽に」

ドーマ編でのオレイカルコスの鎌のようなデュエルディスクや
遊戯王GXでクロノス教諭が使っていた衣服と一体化した「デュエルコート」など

デュエルディスクは(将来的なものを含め)多彩なデザインのものがある

しかし、どの時代においても大抵は画一化されたデザインが主流。

専用のデュエルディスクが欲しくても、ワンオフは値段が高くなるのが世の常。

だからといって遊戯王5D’sの遊星のように「自分で改造」はデュエルディスクを壊してしまいそうで出来ない。

そんな貴方にこれ! 「デュエルディスク改造セット」!!(通販感)

おや? 「改造」と聞いて難しそうだと思ったかなぁ~(聞き耳の仕草)

でも大丈夫!

この「デュエルディスク改造セット」は
通常のデュエルディスクの所定箇所に対応パーツを上から取り付ける仕様になっているんだ!

だからとっても簡単だぞ!

そしてデザインの種類も沢山あるんだ!

ようはスマホケースのようなものさ!(DMのバトルシティ時代にスマホはないけど)

えっ? でもそれだと同じ商品を買った人とデザインが被っちゃう?

それも問題ナッシング!

あくまで今回の話で出たのは「セット売り」されたものなんだ!

パーツごとのバラ売りもされているぞ!

つまりデュエルディスクの――

デッキを収める部分は「ヴァンパイア」

ライフが表示される周囲の部分は「アーミー」

カードをセットする部分は「バーニング」

その他はノーマル(付け足しなし)

といった具合にそれぞれの部分に別々のデザインを取り付ければ――

あら不思議! デザインのパターンが盛り沢山だ!!

さぁ! 君もこの 「デュエルディスク改造セット(仮名)」で自分だけのデュエルディスクをゲットだ!!


今ならカッコよくデュエルディスクを持ち歩ける「デュエルホルダー」も付いてくる!!

これを使えば~~例えば、こんな風にガンマン風にデュエルディスクを持ち歩けるぞ!!
(腰に付けたデュエルディスクを見せつける感)


では、また次回をお楽しみに!!


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