マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
牛尾さんの大冒険!(ストレス・ロード編)




第74話 乙女の決意

 

 

 ある童実野町の一角で人だかりが出来ていた。その中央にいるのは2人のデュエリスト。

 

 一方のスーツを着た長身の伊達男、ハリウッドスターであるジョン・クロード・マグナムが対戦相手のレベッカを視界に収め、余裕な笑みを浮かべる。

 

「レディをこれ以上、痛めつけるのは忍びありません……どうかサレンダーを」

 

 己が有利を確信し、芝居がかった仕草でキザな台詞を放つマグナム。

 

 そんなマグナムのフィールドには4体の忍者が付き従う。

 

 

 右の手にクナイを持った青い忍び装束の忍者の周りを水の身体の海竜が回り、

 

《青竜の忍者》

星5 水属性 海竜族

攻2100 守1200

 

 赤い忍び装束の忍者が伸ばした右手の手甲を沿う様に炎の鳥がさえずり、

 

《赤竜の忍者》

星6 炎属性 鳥獣族

攻2400 守1200

 

 手裏剣を構えた白い忍び装束のくのいちの背後に白い長い身体を持った竜が咆哮を上げ、

 

《白竜の忍者》

星7 光属性 ドラゴン族

攻2700 守1200

 

 かぎ爪を付けた黒い忍び装束の忍者の横で大顎を持った影の身体を持った黒い竜が唸り声を上げる。

 

《黒竜の忍者》

星7 闇属性 獣族

攻2800 守1600

 

 

 そんな4体の忍者たちに立ちふさがるのはレベッカ。

 

「バカなことを言わないで貰える? デュエリストはデュエルから背を向けないものよ!」

 

 そう返すレベッカだが、マグナムは余裕の面持ちは崩れない。

 

「強がっているようですが 貴方の次のドローは私の《赤竜の忍者》の効果でデッキの一番上に戻した《シャドウ・グール》――レベル5のモンスター」

 

 そして周囲に己が優位を示す様に大仰にマグナムは説明を続ける。

 

「ですが貴方のフィールドにはリリースするモンスターはおろか魔法も罠も何もありません――だというのに、どうやってこの状況を打破するというのです?」

 

 マグナムの言う通り、レベッカのフィールドにカードは何一つなく、手札も0だ。

 

 しかしレベッカは強気に笑う――カードたちが繋いでくれた(アドバンテージ)があるのだから。

 

「お生憎様! 確かに貴方のフィールドのカードは多いわ――でも私の圧倒的なアドバンテージが貴方には見えていないようね!」

 

「強気なお嬢さんだ――ならそのアドバンテージとやらを見せて貰いましょう! ターンエンド!」

 

 そんなマグナムの言葉に周囲の観客も終戦ムードだ。

 

 

 だがレベッカはしっかりとカードに目を向け、力強くドローする。

 

「私のターン、ドロー!!」

 

 レベッカが引いたカードは当然、マグナムの宣言通りレベッカのエースカード、《シャドウ・グール》。

 

「さて、若干最年少でプロになったシンデレラガールの貴方はここからどうしますか? もっとも今は下位ランクをウロウロしている程度のようですが」

 

 己が勝利を確信しているマグナムはレベッカを挑発し、一足先に勝利の美酒に酔う。

 

「『どうするか』ですって? 勿論、私の墓地に眠るカードたちの力を貸りるのよ!」

 

 そんなマグナムの挑発もサラリと受け流したレベッカは地面を墓地に見立てて手を掲げ、高らかに願い出る。

 

「私は墓地の罠カード《小人のいたずら》を除外してその効果を発動!! このターン、互いの手札のモンスターのレベルを1下げる!  私は手札の《シャドウ・グール》のレベルを5から4に下げるわ!!」

 

 7人の小人がどこからともなく現れ、2手に分かれて互いの手札に群がる。

 

 そしてしばらくガサゴソした後、2人の小人がその手に黄色い星が書かれた赤い球体を持ち他の小人たちとハイタッチを交わしていた。

 

レベッカの手札の《シャドウ・グール》

星5 → 星4

 

 その球は《シャドウ・グール》とマグナムの手札のモンスターのレベルのようだ。小人たちはその赤い球を黒いドレスの姫らしき女性に献上している。

 

 その《小人のいたずら》の効果はマグナムの手札にも及んでいるが、モンスターのレベルを下げたところでマグナムに呼び出す術はない為に意味はない。

 

「一体いつの間にそんなカードを……」

 

 そう疑問に思うマグナム。

 

 だがレベッカがこのデュエル中で発動した《名推理》、《モンスターゲート》、《隣の芝刈り》などのカードで大量のカードがレベッカの墓地に送られている為、そう不思議なものではない。

 

「そしてレベル4となった《シャドウ・グール》はリリースなしで召喚出来るわ! さぁ、道を切り開くのよ! 《シャドウ・グール》!!」

 

 レベッカの影から現れた緑の体躯の《シャドウ・グール》は体中の赤い球体状の目を爛々と輝かる。そこに諦めなどありはしない。

 

《シャドウ・グール》

星5 → 4 闇属性 アンデット族

攻1600 守1300

 

「《シャドウ・グール》は私の墓地のモンスター1体につき、攻撃力を100ポイントアップするわ! 私の墓地のモンスターは15体! よって攻撃力は1500ポイントアップ!!」

 

 《シャドウ・グール》は散っていった仲間の無念をその身に宿し、その想いを己が爪に乗せる。

 

《シャドウ・グール》

攻1600 → 攻3100

 

「バトルよ! 《シャドウ・グール》で《黒竜の忍者》を攻撃!!」

 

 《シャドウ・グール》はその4本の足で相対する《黒竜の忍者》こと忍者に張り合う様に足音を立てずに突撃する。

 

「おっと忘れてしまったのですか! 《黒竜の忍者》の効果を!」

 

 だがその《シャドウ・グール》の突撃に対し《黒竜の忍者》は両の手で印を組む。

 

「1ターンに1度! 私の手札もしくはフィールドから『忍者』モンスターと『忍法』カードを墓地に送りフィールドのモンスターを1体除外します!!」

 

 すると《黒竜の忍者》の影が広がっていき――

 

「私は手札の《成金(ゴールド)忍者》とフィールドの《隠密忍法帖》を墓地に送り、貴方の《シャドウ・グール》にはご退場願いましょう!」

 

 その影に忍びらしからぬ派手な忍び装束の忍者、《成金(ゴールド)忍者》と秘伝の術が書かれた巻物、《隠密忍法帖》が飲み込まれていった。

 

「忍法! 影呑みの術!!」

 

 贄を得て力を蓄えた《黒竜の忍者》の傍に控える影の黒竜がその身を巨大化させ、《シャドウ・グール》を喰らわんと大顎を開けて飛び掛かる。

 

「ええ、覚えてるに決まってるわ! 《黒竜の忍者》がいなくなれば私のモンスターたちが戻ってくるもの!!」

 

 この《黒竜の忍者》の力によってレベッカのモンスターたちは影に呑まれたのだ。レベッカが忘れる筈もない。

 

「だから私は墓地の罠カード《ブレイクスルー・スキル》を除外して《黒竜の忍者》の効果をターンの終わりまで無効にするわ!!」

 

 《シャドウ・グール》は文字通り「影の鬼」。

 

 それゆえに《黒竜の忍者》が放った影の竜の突撃を《シャドウ・グール》はその身を(ひるがえ)して通り抜けながらその実態なき竜の身体を切り裂き進む。

 

 絶叫のような雄叫びを上げながら消えていく《黒竜の忍者》が使役する影の黒竜。

 

「ならば《青竜の忍者》の効果を発動!」

 

 影の黒竜を仕留めた勢いを殺さずに《黒竜の忍者》に突き進む《シャドウ・グール》に《青竜の忍者》は己が忍術の狙いを定める。

 

「1ターンに1度! 手札から『忍者』モンスターと『忍法』カードを墓地に送り相手のモンスター1体の攻撃と効果を封じます!!」

 

 《青竜の忍者》が印を組むと、その周囲から水が溢れ出し――

 

「私は手札の《忍者マスター SASUKE(サスケ)》と《忍法 変化の術》を墓地に送り、貴方の《シャドウ・グール》の動きを封じさせて貰いましょう!!」

 

 その水の中に向かって白い甲冑のような忍び装束を纏った忍者、《忍者マスター SASUKE》が《忍法 変化の術》の巻物と共にその身を投げ出した。

 

「忍法 海竜弾の術!!」

 

 そして贄により力を高めた《青竜の忍者》が操る海竜が津波のように《シャドウ・グール》に迫りくる。

 

 その津波のような水の壁が《シャドウ・グール》を飲み込まんと迫るが《シャドウ・グール》に恐れは見られない。何故なら――

 

「それも想定内よ! 私は墓地の罠カード《スキル・プリズナー》を除外して効果を発動!このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にするわ!!」

 

 (あるじ)であるレベッカが道を切り開いてくれるのだから。

 

「当然この効果で《シャドウ・グール》を守る!!」

 

 《シャドウ・グール》と津波の中間地点に現れた八角形の壁。

 

 その壁を踏むことで《シャドウ・グール》は跳躍し、《青竜の忍者》が放った忍術の津波をも飛び越える。

 

「バカな! 私の忍者マスターたちの忍法が!!」

 

 そんなマグナムの声とシンクロするように驚愕の面持ちで空を見上げる《黒竜の忍者》。

 

「さぁ、《シャドウ・グール》! これで貴方を遮るものは何もないわ! 行けぇええ! ティアーズ・オブ・セメタリー!!」

 

 落下のスピードを落とさずに迫る《シャドウ・グール》に《黒竜の忍者》もかぎ爪を構え跳躍し迎撃に移る。そして互いは一瞬の交差と共に地上に降り立った。

 

 そして《黒竜の忍者》の肩から袈裟切りに傷が広がっていく。

 

「No!! 私の《黒竜の忍者》が!!」

 

 ジョン・クロード・マグナムLP:2700 → 2400

 

「そして《黒竜の忍者》が表側でフィールドを離れたことで《黒竜の忍者》の効果で除外された私のモンスターが帰ってくるわ!!」

 

 そのレベッカの言葉に呼応するように《黒竜の忍者》の傷口から黒い影が噴出し、その影は地面へと広がりやがてそこから――

 

 青い体躯に銀の甲殻を持った《混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)-終焉の使者-》が翼を広げ飛翔し、

 

混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)-終焉の使者-》

星8 闇属性 ドラゴン族

攻3000 守2500

 

 人型の上半身に蛇のような下半身を持った赤い骨格に覆われた魔獣が、その身をくねらせ影の中から這い出て、

 

紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう)ダ・イーザ》

星3 炎属性 悪魔族

攻 ? 守 ?

 

 《カオス・ソルジャー》とうり二つな戦士が影を切り裂きフィールドに降り立ち帰還する。

 

 その身に纏う鎧は中央で白と黒に分かれていた。

 

《カオス・ソルジャー -宵闇(よいやみ)の使者-》

星8 闇属性 戦士族

攻3000 守2500

 

「そして《紅蓮魔獣 ダ・イーザ》の攻撃力は除外されたカードの数×400! このターンで新たに3枚除外したから、その合計は10枚! よって攻撃力は4000!」

 

 《黒竜の忍者》によって囚われていた怒りを示すかのように《紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう)ダ・イーザ》は金切声のような雄叫びを上げる。

 

紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう)ダ・イーザ》

攻 ? → 攻4000

 

「な、なんということだ……これでは舞さんとの約束が……」

 

 マグナムは帰還したレベッカの高火力モンスターたちに後退る。

 

 こんなことはあり得ないとでも言いたげな表情だ。だがレベッカの攻撃宣言がその意識を引き戻す。

 

「さぁ! これで止めよ!! 行きなさい! 《紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう)ダ・イーザ》!! 《混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)-終焉の使者-》! そして《カオス・ソルジャー -宵闇(よいやみ)の使者-》!!」

 

 《混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)-終焉の使者-》の破壊のブレスが

 

 《紅蓮魔獣(ぐれんまじゅう)ダ・イーザ》が生み出す灼熱の業炎が、

 

 《カオス・ソルジャー -宵闇(よいやみ)の使者-》の剣に内包したエネルギーが

 

 今一つとなって3人の忍者たちに向けられる。

 

 それに対し《青竜の忍者》は水の海竜を繰り出し、

 

 《赤竜の忍者》は炎の鳥を飛び立たせ、

 

 《白竜の忍者》が光の白竜を差し向けるが

 

 その忍術はレベッカの3体のモンスターから放たれた力の奔流に呑みこまれ、術者である3人の忍者をも呑みこみ、マグナムに着弾した。

 

「Oh! NoOOOOOO!! 舞さぁあああああああん!!」

 

 荒れ狂う爆風に一方的に愛する人の名を叫ぶマグナム。

 

ジョン・クロード・マグナムLP:2400 → → → 0

 

 だがそんな叫びも空しく、マグナムのライフは消し飛んだ。

 

「やったぁ!! 私の勝ちね! それに貴方も――」

 

 己が勝利に喜ぶレベッカ。そして互いの健闘を称えつつパズルカードを受け取りに動くが――

 

「舞さんとの約束がぁ!! デュエルがぁ!!」

 

 肝心のマグナム膝を突き首を垂れながら嘆き、レベッカの話などまるで聞いていない。

 

「えっと『舞さん』? ひょっとして孔雀舞の――」

 

「うぅ……これも愛の試練だとでも言うのですか……」

 

 頑張って会話を成立させようと奮闘するレベッカだが、マグナムは己が世界から帰ってくる気配などない。

 

「おーい――もう、じゃぁパズルカードは貰っていくわよ……レアカードの方は構わないから……」

 

 レベッカが軽く呼びかけても反応のないマグナムに「これ以上は付き合ってられない」と先ほどのデュエルの最後の攻撃の際に地面に落ちたマグナムのパズルカードを手に取ろうとするも――

 

「ならば! 私はこの試練を乗り切り舞さんの――」

 

 そのパズルカードを手に勢いよく立ち上がったマグナムの謎の宣言にレベッカのそこまで大きくない堪忍袋の緒が切れた。

 

「さっきから舞さん、舞さん煩いわよ! ほら! さっさとパズルカードを渡しなさい! 私もあんまりノンビリしてられないのよ!!」

 

 そのレベッカの剣幕にさすがにレベッカの存在を再認識したマグナムがか細い声で呟く。

 

「うぅ……情けを頂けませんか?」

 

「……レアカードは取らないんだから情けは十分でしょ……」

 

 この期に及んでパズルカードを渡さない腹積もりのマグナムにレベッカはイライラしながら返す。

 

 マグナムも愛する人に認められる為にバトルシティに参加したゆえに初戦でパズルカードを失い敗退する訳にはいかないのだろう。

 

「で、ですが! 私には約束が!」

 

「……あんまりごねる様ならスタッフを呼ぶわよ」

 

 そう言いながらレベッカは近くにいたKCの腕章を付けた浅黒い肌のいかにもゴツいKCスタッフを親指で指さす。

 

 

 そのKCスタッフことアヌビスはもう一人の回収班の合流を待っている模様。待つのは嫌いなのか遠目から見てもイライラしている雰囲気が見て取れる。

 

 

 そんな姿を視界に収めたマグナムはすっとパズルカードをレベッカに差し出した後、肩を落としながらトボトボと去っていく。

 

 そんな姿を尻目にレベッカは手元のパズルカードに目を落とした。

 

「これでパズルカードは2枚……海馬の奴は本戦に必ず上がってくるでしょうし、早いとこ6枚集めて本戦で戦うのが一番の近道ね! ダーリンにも会えるでしょうし!」

 

 そう言いながら拳を握るレベッカ。

 

 過去に遊戯と共にKCに突撃し、竜崎によって伝えられた胡散臭い情報が確かなものだと判明したことで、レベッカは海馬とのブルーアイズ問題に決着をつけるべく動き出していた。

 

「首を洗って待ってなさいよ! 海馬! おじいちゃんのブルーアイズはそう簡単に渡せないんだから!!」

 

 自身への意気込みを空に咆えたレベッカ。

 

 

 そう、着々とデュエリストたちは本戦へと辿り着くべく突き進んでいるのだ。

 

 強者たちの集うステージ(本戦)へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そのステージ(本戦)を目指すデュエリストの一人の城之内は――

 

 周囲を注意深く見渡す双六の背に何度目か分からぬ言葉を投げかけていた。

 

「なぁ、爺さん、強いデュエリストはいたかー?」

 

「いや、まだじゃ! せめて『名持ち』くらいでないとお前さんの目指す真のデュエリストには辿り着けんぞい!!」

 

 そんな待ち草臥れた様子の城之内に双六は最高の対戦相手を見つけるべきやる気を募らせていた。

 

 しかし城之内は聞き慣れぬ言葉に疑問が浮かぶ。

 

「『名持ち』? 何だそれ?」

 

「えっ、城之内君は知らないの? デュエリストなのに?」

 

 だがデュエリストでもある御伽は思わず城之内に聞き返す――知らないことが信じられないような面持ちだ。

 

「えっ、御伽は知ってん――いや、知ってるぜ! ほらアレだろ! えー、ほら!」

 

 そんな常識的なこととはつゆ知らず、つい見栄を張る城之内。その城之内の肩に手を置いた本田は力なく返す。

 

「いや、城之内……ここは素直に聞いとこうぜ?」

 

「なぁにそう大して難しいもんでもないぞい――いわゆる『ダイナソー竜崎』や『インセクター羽蛾』の『ダイナソー』や『インセクター』の部分じゃの」

 

 双六はデュエルの手解きはしたがこの手の情報は教えていなかったと城之内に意気揚々と説明を始めた。

 

「ある程度の実力があればそういった『通り名』が付くんじゃよ。自分で名乗ったり、周りが名付けたりと色々あるんじゃ」

 

 その双六のザックリとした説明に成程と理解を示す城之内・本田・杏子の3名。

 

「へー、そうなんだ――やっぱりそっちの方が強いの?」

 

 そんな杏子の素朴な疑問も――

 

「ウム、実力がないと『通り名』は定着せんからの。中には『通り名』なんぞ関係なく強いものもおるが、そういったデュエリストはあまり知られておらんことが多いんじゃ」

 

「ってことは『名持ち』を探した方が強えぇ相手と闘いやすいってことか!!」

 

 双六の回答に指をならしながら合点がいったと城之内は頷く。

 

「うむ、その通りじゃ」

 

 そしてその城之内と共に頷く本田が城之内の背を叩きながら言い放つ。

 

「なる程なぁ……城之内、お前にも早く『通り名』が付けばいいな!」

 

 デュエリストにとって『通り名』はいわゆる一定のラインを超えた強者の証――城之内の目指す「真のデュエリスト」の良い指標になるであろう。

 

 そんな本田の言葉に杏子はふと思いついたように言葉を零す。

 

「そういえばこの大会ってテレビで放送されるんでしょ? 城之内も有名になれば『通り名』が付くんじゃない?」

 

 バトルシティの開会式での様子を思い出したゆえの杏子の言葉だったが、「知名度」を上げるにはまさに持って来いである為、城之内には十分にチャンスがあった。

 

「いやー俺も参加してりゃぁ『通り名』で呼ばれて静香ちゃんに良いとこ見せられたかもしれねぇのに、惜しいことしちまったぜ」

 

 そう言いながら本田は親指と人差し指を伸ばして自身の顎元に置き、ここにはいない静香に決めポーズを向ける――ここに本田の師、牛尾がいれば呆れた顔を浮かべるだろう。

 

 しかしその本田から出た見知らぬ名前に御伽は疑問符を浮かべた。

 

「『静香ちゃん』って?」

 

「ん? そういやぁ御伽には紹介してなかったな。俺の妹だよ」

 

「城之内君の妹さん? どんな子なんだい?」

 

 その城之内の説明だけでは人物像が見えなかった御伽は詳しく尋ねた。

 

 ちなみに現在の御伽の城之内の妹のイメージは城之内と同じくオラオラな印象である。

 

 だが説明を続けようとした城之内を遮るように本田が身を乗り出し御伽に迫る。

 

「それがよぉ、城之内のヤツとは似ても似つかねぇ良い子でよぉ!」

 

「まったく、本田……オメェは静香の話になっと――」

 

 その本田の姿に呆れ半分で本田を御伽から引き離す城之内だったが――

 

 

「お兄ちゃーん!」

 

 

 そんな城之内にとって聞き慣れた声が聞こえる。だが城之内にとってここにはいる筈もない存在だ。

 

 ゆえに本田の話から思い出してしまったのだろうとかぶりを振る。

 

「ほら、お前が静香の話を始めっから静香の声が聞こえて――」

 

 そして若干のホームシックな気分になってしまったと、本田に文句の一つでも言ってやろうとするが――

 

「お兄ちゃんっ!」

 

 その言葉と共に肩に手を置かれた感覚から思わず城之内は振り向く。その先にはいる筈のない姿が。

 

「――って静香!?」

 

 思わぬ尋ね人に目を白黒させる城之内だが、その静香の後ろに続く見知った顔にも更なる驚きを見せる。

 

「それに牛尾に……遊戯の言ってた北森さん? だっけっか?」

 

「おう――こないだ振りだな、オメェら」

 

「え、えっと、初めまして『北森 玲子(れいこ)』と申します……」

 

 軽く手を上げ返す牛尾に緊張交じりにペコリとお辞儀をして自己紹介を返す北森。

 

「お、おう、此方こそ初めまして」

 

 反射的にお辞儀で返す城之内。

 

 そして頭を上げた城之内に静香も挨拶に加わる。

 

「久しぶり、お兄ちゃん!」

 

 そう笑って兄、城之内に笑いかける静香。しかし城之内が口を開く前に本田が元気よく声を上げる。

 

「静香ちゃん!! ――ってアレ? その腕の奴って」

 

 だが本田の目に映った静香の左腕の機械。それは本田もよく知る――

 

「はい、デュエルディスクです!」

 

 そうデュエルディスク。

 

 城之内たちの知る静香はデュエリストレベル5どころかデュエリストですらない。

 

 ゆえに静香の腕のデュエルディスクを震える指で差しながら城之内が代表して問いかける。

 

「な、なんで静香が――」

 

「どうしたの、お兄ちゃん? デュエリストレベル5以上の人には無料で配布されてるでしょう?」

 

 何を当たり前のことを聞いているのか、といった面持ちで答える静香。

 

 しかし城之内たちが知りたいのは「そこ」ではない――のだが城之内は続く言葉が出てこない。

 

 そんな混乱する城之内と本田を見かねてか杏子が状況を整理するべく静香に問いかける。

 

「えーと、静香ちゃん――デュエル始めたんだ?」

 

「はい! 決闘者の王国(デュエリストキングダム)が終わった後から始めて――術後の検査の時にKCのデュエリストの皆さんに教えて貰ったんです!!」

 

 その静香の答えに成程と納得の表情を見せる杏子――KCのデュエリストは牛尾を含めて実力派揃いゆえにどうにかなったのだろう、と。

 

 

 だが納得出来ないものもいる。

 

 そう、静香にデュエルを教えつつお近づきになろうとしていた本田である。

 

「牛尾ォ!」

 

 そんな泣きべそをかきそうな面持ちで牛尾に詰め寄る本田――KCの事情に詳しい牛尾から、そんな話は聞いていないのだから。

 

「いや、俺じゃねぇからな――多分、他のヤツらだ」

 

 そんな本田から少し距離を取りながら返す牛尾。

 

「同僚なのに知らなかったのかよぉ!」

 

 もはや涙腺が崩壊しそうな本田――若干の下心ありきとはいえ、かなり頑張っていただけにダメージも大きい。

 

 その姿に牛尾は頬を掻きながら本田を落ち着かせるべく言葉を探す。

 

「その時期はオメェにデュエル教えてたろ? 俺はその間は他の奴らとは疎遠だったからな~」

 

 若干、言い訳染みた牛尾の言葉。

 

 牛尾もまさかこんなに早く静香がデュエリストになるべく動き出し、デュエルの実力の合格ラインを突破するとは思ってもみなかった。

 

 ゆえに牛尾も困り顔だ。

 

 本田とて牛尾に付きっ切りで教えて貰い、世話になった身とはいえ感情の方は別だった。

 

「クッ! それもそうだ……でもどうせだったら俺も静香ちゃんと一緒にデュエルを教わりたかったっ……!!」

 

 そう言いながら本田の脳内には静香と共に切磋琢磨する自身の姿が浮かぶ。あり得たかもしれないIFの光景――若干、本田にとって都合がいいのはご愛敬だ。

 

 

 そんな本田はさておき、事の真相に辿り着かんと杏子は己が予想を問いかける。

 

「あっ! ひょっとして北森さんが静香ちゃんのデュエルの師匠だったりするの?」

 

 その北森に振られた杏子の問いかけに、まさか自身に話が振られるとは思っていなかった北森は慌てつつ答えるが――

 

「えっ! そ、それは、その――」

 

 上手く言葉にならない。

 

 そんな姿に杏子たちが注目したことも相まってさらに言葉は出なくなる。

 

 しかしその北森のフォローをせんと静香がその間に入った。

 

「はい! こちらの玲子さん『も』、私のデュエルの師匠になります!」

 

 そう北森の代わりに答えた静香だったが、その答えに杏子は疑問が浮かぶ。

 

「『も』ってことには他にもいるの?」

 

「そうなんです! 後は、乃亜君やヴァロンさんにアメルダさんとギースさんに佐藤さんにみどりさんにそれから――」

 

 静香の口から呪文のように流れていくデュエリストの名前。杏子が知るのはヴァロンと乃亜の名くらいだ。

 

 

 ちなみに当初は杏子の言う通り、同じ女性で年齢も近い北森がデュエルを教えていた。

 

 だがオカルト課の近くでデュエルを教えていた為、当然オカルト課の人間の目に留まる。

 

 そこに仕事が立て込んだ時の北森を待つ静香を見かねて手の空いているオカルト課のデュエリストが代わりに教えている内にいつの間にやら師匠が増えていったのである。

 

 

 それだけなら問題はなかったのだが、師匠ごとにデュエルの方針が違うため静香が混乱。

 

 北森を頼った静香だが北森自身も人に教える行為に慣れておらず、急遽神崎がバトルシティの開催準備の傍らカリキュラムを組むことになり、忙しくなったのは余談である。

 

 そのカリキュラムを以て数多くのデュエリストが静香の師匠となったのだ。

 

 

 そして「何人いるんだよ」と思ってしまう静香の師匠’sの紹介に杏子はストップをかける。

 

「OK――分かったわ。 つまり沢山いるのね?」

 

「はい! 皆さん親切な方ばかりでした!」

 

 入院歴の長かった静香にとって多くの人間との関わりは新鮮なものであった。

 

 そんな静香の輝く笑顔に本田と御伽は見惚れていたが、本田は思い出したように静香の腕のデュエルディスクを指さす。

 

「そうだ! デュエルディスク! デュエリストレベルはそんな直ぐに上がるもんじゃねぇって牛尾が――」

 

 そうデュエリストレベルは数回デュエルしたところで劇的に上がるものではない。

 

 だが何事にも例外はある。

 

「『認定試験』を受けたんです!」

 

「『認定試験』?」

 

 静香の言葉にオウム返しのように返す本田。

 

 その本田に牛尾が説明を入れる。

 

「デュエリストレベルを上げるヤツだな――今回のバトルシティでデュエルディスクが配布されるに当たってレベル5の条件をクリアする為に実施されてたもんだ」

 

 オカルト課が実施した「チャンスは誰の手にも平等に」をモットーにした試験。

 

 実際はデュエルディスクをエサにまだ見ぬ強者を探す神崎の目的があったりするのだが、今は脇に置いておこう。

 

「そ、そんなモンがあるなら俺にも――」

 

 ついそう思ってしまう本田。だが牛尾とて本田に話さなかった理由もある。

 

「いや、そもそも俺はオメェがバトルシティに参加してぇとは知らなかったしな。それに――」

 

 そして本田がバトルシティに出場――もといデュエルディスクを欲したのを牛尾が知ったのは大会直前だ。

 

 そんな短い期間では――

 

「――ペーパーテストもある。童実野高でのオメェの成績を知る身としては無謀もいいとこだと思うがな」

 

――本田の残念なオツムを改革するには時間が足りない。

 

「くっ! ……何も言い返せねぇ!?」

 

 その事実に本田はがっくりと跪き頭を垂れる――もっと勉強しておけばよかった、と……

 

 

 そんな本田の姿に城之内は声をかけるのは逆に酷と判断し、静香に向き直る。

 

「それで静香は何で俺に? 応援か?」

 

 わざわざ応援しにきてくれた妹、静香に内心で嬉しく思う城之内だったが――

 

「ううん、違うのお兄ちゃん」

 

 その喜びは静香の手によって断ち切られる。若干ショックを受ける城之内。

 

 だがそんな城之内に静香はデュエルディスクにデッキをセットしながら続ける。

 

「お兄ちゃんに安心してもらえるように、私が強くなったところを見せたくって……」

 

 そしてデュエルディスクが展開され、静香の決意に満ちた視線が城之内を射抜く。

 

「私の挑戦――受けてくれる?」

 

 今、城之内の目の前にいるのは城之内の妹、静香ではない。

 

 ただ一人のデュエリストであることが城之内の目に見て取れた。

 

 ゆえにその答えなど決まっているとばかりに城之内は静香から距離を取る。

 

「へっ、成程な……知ってるか静香? デュエリストってのはな! 挑まれた勝負から逃げないんだぜ!」

 

 そしてデッキをデュエルディスクにセットしつつ静香と向かい合う城之内。

 

「じゃぁ勝負だ!!」

 

「うん、お兄ちゃんも全力で来てね!!」

 

 その静香の言葉に城之内のデュエルディスクもまた静香の闘志に応えるように展開した。

 

「 「 デュエル!! 」 」

 

 

 兄妹(けいまい)の想いが今、交錯する。

 

 

 






城之内君は妹を容赦なくぶっ飛ばすことが出来るのか!?

デュエリストは女、子供であっても手加減は侮辱に当たるぜ!!




~入りきらなかった人物紹介、その1~
ジョン・クロード・マグナム
アニメ版、遊戯王DMに登場

長身の二枚目のスーツで決めた伊達男。
性格はクールかつキザだが、時には強引な手段を用いる身勝手な一面も。

職業は富と名声を兼ね備えたハリウッドスターであり、デュエリストでもある。
忍者シリーズ映画の主演者であり、忍者ヒーローの通り名で呼ばれることも。

過去に孔雀舞とデュエルに敗北。その後、舞に惚れ込み婚約を迫っていた。

バトルシティで孔雀舞に再度挑むも敗北。

だが諦めきれずスタントマンを使って孔雀舞を拉致した――何やってんだ、ハリウッドスター。

しかしその後、スタントマンから逃れる過程でピンチに陥った孔雀舞を身体を張って助けた城之内の姿と孔雀舞の叱責により敗北を認めた。

~今作では~
プロといえどランク下位のレベッカなど余裕! と勝負を挑みぶっ飛ばされた。

そしてパズルカードを全て失う――よって予選敗退。

ちなみにレアカードはレベッカに見逃して貰えた。






静香の師匠の大勢の一人として一瞬だけ名前が出た人たち紹介

~入りきらなかった人物紹介、その2~
佐藤 浩二(こうじ) 
アニメ遊戯王GXに登場

丸い眼鏡に長い黒いくせ毛気味の長髪が特徴の男性。

元プロデュエリストでありGX時代ではデュエル・アカデミア講師。

生真面目な性格で口調も丁寧だが、少々融通が効かないところがあり頑固な面も。

自身の所有する未OCGカード「スカブ・スカーナイト」の精霊が見える。その信頼関係はかなりのもの。しかしGX作中の様子を見る限り他のデュエリストの精霊は見えない模様。


プロデュエリスト時代は家族への仕送り為に自身の身を切り売りするような異常な数のデュエルをこなしていた。

しかしその無茶が祟り体調を崩すも無理を続けた結果、念願のタイトルマッチで力が出せず敗北し倒れた。

その一件を機にプロを引退しデュエルアカデミアの講師となる。



その後、教師を続けていたが三幻魔、破滅の光を打ち倒しアカデミアのカリスマとなった十代。

その十代の座学や理論に対する不真面目な授業態度に感化された生徒たちが同じように勉強への怠慢やデュエルに対する怠惰な姿勢が広まる。

その結果、授業崩壊を起こした。そして生徒たちに失望した佐藤は教職を辞する。

なお「十代に直接注意しない」、「授業が古くてつまらない」などと佐藤にも問題点があるといわれるが、だからと言って授業放棄するのは如何なものか。


その後、プロフェッサーコブラに唆され十代への刺客として立ち塞がる。

自身の影響力に頓着せずただ楽しむ為にデュエルする十代に憎悪し、デュエルの中で大きな力を持つ物には相応の責任が伴うことを説くも十代に敗れ、谷底に身を落とした。

その際に「いつか君にも心の闇がわかる」という言葉を十代に残している。

そんな佐藤のデュエルは十代の心に大きな闇を落とした。



~今作では~
自身の精霊に限定されるとはいえ精霊が見えること、

プロの世界でタイトルマッチに選ばれ、さらにはGX主人公である十代を追い詰めたそのデュエルの実力の高さから神崎にスカウトされた。


オカルト課の福利厚生の「これでもかッ!」という充実っぷりによって家族への仕送り問題諸々は力業で解決。


さらにオカルト課のマッスル訓練により健康で強靭な肉体を得て、今日も今日とて企業間デュエルなどで大活躍している。

それらの経験が柔軟な考え方を持つに至った――オカルト課の何かと濃い面々に慣れたともいう。

ゆえに「心の闇」になりそうなものは除去されたが、代わりに大人の汚い事情に詳しくなった――これもまた「心の闇」さ……


神崎に対する姿勢は「感謝はしているがビジネス的な関係」といったところ。
信頼はしていないが、だからといって邪見にもしないある意味珍しい存在。


ちなみに正式にオカルト課が発足した際の一期生。ギース・ハントと同期であり、ギースにデュエルの才能という壁を叩きつけた最初の人。




~入りきらなかった人物紹介、その3~
(ひびき) みどり
漫画版、遊戯王GXに登場

黒い髪のロングヘア―が特徴の女性。

デュエルアカデミア・オシリスレッド1年生の担任を務める女教師。

温厚で面倒見の良い性格だが、怒るとかなり怖い。

弟がおり、その弟、紅葉(こうよう)は漫画版、遊戯王GXの作中ではプロデュエリストであり世界チャンピオンだった。

デュエルの実力は上述した弟、紅葉(こうよう)が一度も勝ったことがない程の実力を持つ。



~今作では~
将来的に圧倒的なデュエルの腕前を身に着けることから神崎にスカウトされた。

(ひびき) みどりも将来は教師を目指していたゆえにオカルト課の教練に興味を持ち入社。

そしてオカルト課の理不尽なカリキュラムを味わった。

だが理不尽ながらも色々と考えられたカリキュラムに、学ぶものは多いと企業間デュエルの傍ら色々勉強している。

オカルト課の面々を相手にデュエルでしのぎを削ったり、
先輩のギースなどに色々相談する程にオカルト課に馴染んでいる。


神崎に対する認識は「変わった人」――オカルト課の訳ありのデュエリスト多さからきている認識。なお信頼している訳ではない。




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