前回のあらすじ
死亡フラグは立てるもんじゃないね! (* - ω - ) ウンウン
デュエルに敗北したレアハンター。だが突如としてその額にウジャドの瞳の文様が浮かぶ。
「バ、バカな……この私が――アガッ、ガガガ!」
そして頭を押さえて苦しみ、のたうち回るレアハンター。
やがてレアハンターの頭の中に声が響く。
――まさか刺客でもないそこいらの見回りデュエリストに負けるとはね……お前には失望したよ……
その声の主はグールズの総帥マリク。千年ロッドの力にてレアハンターの頭に直接声を送っていた。
「マ、マリク様……お許し――」
「おい! どうした! 大丈夫か!」
苦し気に許しを請うレアハンターに「気をしっかり持て」と牛尾が心配するも聞こえてはいない。
「あ、頭が割れ――」
――お前は用済みだよ。
そのマリクの言葉と共にレアハンターの頭の中で何かがプツンと切れる音がした。
「しっかりしろ! 今、医者を呼んで――」
そんな牛尾の呼びかけも空しくレアハンターはパタリと倒れ伏す。
咄嗟に受け止めた牛尾はレアハンターをゆっくりと地面に寝かせ、様子を窺った。
「――命に別状はねぇみてぇだな……」
牛尾が軽く調べた限りではレアハンターの肉体的な問題はなかった。だがどう見ても他の部分に問題があることは明白だ。
「コイツが千年アイテムの力って奴か……」
牛尾はツバインシュタイン博士の言っていた言葉を思い出す。
――洗脳、それはつまり脳というデリケートな部分に千年アイテムの力が作用している訳です。当然、大変危険が伴います。
ツバインシュタイン博士から事前に情報を得ていたとはいえ、実際に目の当たりにするのは別物だ。ゆえに精神的なショックが大きい牛尾。
だがこの手の専門的な知識のない牛尾にこれ以上の対処は出来ない。
それゆえ至急通信を試みた――治療であれ何であれ、早いに越したことはないのだから。
「此方牛尾。グールズの名持ちを確保した――が、様子がおかしい。回収班を頼む。直ぐに博士のとこに連れて行きたいんだが……」
矢継ぎ早に要件を伝えた牛尾。
グールズという犯罪組織の一員であっても、ゴミのように使い捨てられたレアハンターを見たせいか牛尾の目に同情の色が映る。
そしてグールズのトップ、マリクへの怒りの感情ゆえか思わず拳を強く握った。
しかしその牛尾の怒りを遮るように通信機からギースの声が届く。
『安心しろ、アメルダからおおよその話は聞いた。既にアヌビスを向かわせている』
いつも冷静なギースの声に牛尾は感情的になっていた心を整え、ダメ元で尋ねる。
「了解。相変わらず仕事が早いっすねぇ――あと一応聞いときたいんですけどギースの旦那の力でどうにかなりませんかね?」
『難しいだろうな……これまで捕縛してきたグールズ相手にも効果的に作用しているとは言い難い。他に何かあるか?』
オカルトにはオカルトとギースの「精霊の力」で何とかなるのではと考えた牛尾だが、「精霊の力」と言っても万能なものではない。
ゆえに牛尾の望んだ答えではなかったが、いつもと変わらぬギースの姿勢に牛尾の頭も冷えてきた。
「いえ、他は問題なさそうです。下級構成員らしきヤツらがそれなりにいますが、こんくらいならどうとでもなります」
『そうか。だが何かあれば直ぐに連絡しろ』
「了解。以上通信終わりっと」
そう最後に告げて通信を終えた牛尾。
そして周囲を見渡すと牛尾を囲んでいたレアハンターが連れていたグールズの下級構成員たちは心ここに在らずといった様相で立ち尽くすのみ。
「んでもって、
その言葉を最後に重い腰を上げるように肩を回した後、グールズの下級構成員たちを拘束していく牛尾。
やがて全員を拘束し終えるころに牛尾の近くに護送車が止まった。
「おう、来たか。今終わったとこだ――」
そして護送車から降りてくるのはアヌビス。そこに北森の姿はない。
そのアヌビスの姿に牛尾は疑問を抱く。
「ん? アヌビスだけか? 北森の嬢ちゃんはどうしたよ?」
アヌビスは北森と捕らえたグールズを詰め所まで運ぶ回収班の1組であり、共に行動していた筈だったにも関わらずこの場にはいない。
しかしそんな牛尾の疑問を聞き流すようにアヌビスが口を開く。
「牛尾、貴様に新たな任務だ」
「任務? 北森の嬢ちゃんがいねぇ事と関係あんのか?」
「それについても『現場についてから話せ』、とのことだ。さっさとコイツらを積み込むぞ」
牛尾の疑問も封殺し、乱雑にレアハンターを含めたグールズ構成員の数人を担ぎ護送車に乗せていくアヌビス。
その雑さはレアハンターが倒れるまでの経緯を実際に目の当たりにした牛尾にとって無視できるものではない。
「お、おい、一応ソイツは病人みてえぇなモンだぞ!」
「だからどうした? そもそもコイツらの状態は精神的なものだ。肉体的な配慮など必要ない」
思わず腕を取って止めようとした牛尾だがアヌビスの対応はどこまでも冷たい。いや、どうでもいいとすら思っているように見える。
「いや、医者でもねぇ俺らが下手打ったら危ねぇだろ?」
「何も知らぬお前と一緒にするな――ことコイツらの状態に関しては我の方が理解は深い」
牛尾のもっともな言葉もオカルト関係に詳しいアヌビスには通じない。
「そうなのか? なら、もしもの時は頼りにさせて貰うぜ」
「フン、もしもなど起こり得んがな」
そう言いながら最後のグールズを護送車に積み込んだアヌビスは早々に護送車の運転席に向かっていく。
「頼もしいこって」
そのアヌビスの後ろ姿にそう呟きながら牛尾は護送車に乗り込むべく後ろに続いた。
そうして護送車に揺られること暫くし、目的地に到着。やがてアヌビスは護送車から降り牛尾もそれに続く。
そして護送車に背を預けて待ちの姿勢になったアヌビスに牛尾は問いかけた。
「そろそろ任務の内容くれぇ話してくれてもいいんじゃねぇか?」
その牛尾の問いかけに、アヌビスは面倒そうに返す――これから来る待ち人に説明させるつもりだったゆえに。
「――ある人物を城之内 克也の元まで移送。その後、彼女の護衛に付けとのことだ」
その言葉を額縁通りに受け取るなら「ただの道案内+護衛」。
それなりに動ける立場の牛尾に回ってくる任務ではない。
ゆえに牛尾は頭を掻きつつ面倒くさそうに呟く。
「彼女ってことは女か? この忙しい時にどこの金持ちだよ……」
ただでさえオカルト課の人間はグールズの対処に追われているというのに一個人の護衛などに人員を割く理由が牛尾には分からない。
先ほどのレアハンターが倒れるまでの経緯を見た牛尾からすれば一刻も早くグールズという組織を潰す為に動きたい思いが強い。
「アヌビス、わりぃが辞退させちゃくれねぇか? 乃亜のヤツには俺から言っとくか――」
ゆえにアヌビスにそう言いつつその場を立ち去ろうとする牛尾。
しかしアヌビスは何も答えない。
そんなアヌビスの態度に内心で苛立ちを募らせた牛尾がアヌビスの方に一歩近づこうとするも――
「牛尾さん! 今日はよろしくお願いします!」
そんな若干場違いな明るい声に遮られた。
牛尾はその声の主が誰なのか直ぐに分かるも、その向けられた言葉の意味を理解するのに若干の時間を要した。
「ん!? 城之内の妹さんじゃねぇか――すまねぇがちょっと待ってくれ、」
そして牛尾は何とか言葉を絞りだし、アヌビスを引っ掴んで声の主、城之内の妹、川井 静香から距離を取る。
その行動に対しアヌビスは牛尾の腕を振り払いつつ面倒そうに場所を移し、ある程度の距離が離れたところで牛尾は静香をチラと見ながら小声でアヌビスに尋ねた。
「おい、アヌビス。なんで城之内の妹さんが此処にいんだよ……まさか護衛って――」
「お前の考えている通りだ。報告ではグールズにマークされているらしい。ゆえにお前たちにガードさせろとの乃亜からの指示だ」
小声で話す牛尾の言葉を遮り、声量を抑える気もなく返すアヌビス。
「なんでマークされてんだよ! さすがにレアカード持ってるだけじゃ説明がつかねぇぞ!」
小声で声を張り上げる矛盾した話し方を器用に続ける牛尾の疑問は当然だ。
グールズという組織に一個人単位で狙われることなど早々ない。
余程のレアカードを持つか、金銭的な目的で狙われる可能性がある程度だ。ただの一般人である静香はそのどちらにも該当しない。
「さぁな、グールズ共の力の入れ様からして余程重要らしいが――後の詳しい理由は奴らに聞け」
「それが出来りゃぁ苦労はしねぇよ……んで、何で態々俺が選ばれたんだ?」
アヌビスの突き放すような答えにため息を付きながら牛尾は切り口を変える。
「顔見知りで尚且つ、ある程度の気心の知れた仲だからだろう」
「だったら北森の嬢ちゃんがいれば――」
態々仕事に勤しむ牛尾を連れ出してまで護衛に付かせる意義が牛尾には見いだせない。
狙われているのならKCの建物内に保護する手もあり、護衛なら北森一人を付けて逃げに徹しておけばグールズに掴まる心配もない。
「勿論北森もお前と共に護衛に付く」
「俺と嬢ちゃんで? 護衛にしちゃぁ過剰戦力な気がすんだが……」
アヌビスの説明を聞けば聞くほど、牛尾にはこの任務を出した乃亜の意図が読み取れない。
それゆえに眉間に皺を寄せる牛尾。そうやって頭を捻るも答えは出ない為、他の疑問を先にぶつける。
「なら城之内のとこに連れて行く理由は妹さん関連か?」
「ああ、そうだ」
「その後、護衛に付くにも理由はどうすんだよ? 俺らが仕事してねぇとさすがに不自然だろ?」
一個人にKCスタッフである牛尾たちが付きっ切りの状態はいらぬ誤解を他の参加者やグールズに抱かれかねない。
それゆえの牛尾の発言――どこまでもこの任務に乗り気ではないことが窺える。
「それも問題ない――『お世話になった皆さんへの恩返し』の為に今大会の業務を手伝うという扱いになるらしい」
「内容は?」
乃亜が考えたであろう理由に、よくも口から出まかせが並ぶものだと牛尾は関心半分、呆れ半分な面持ちで返す。
「偵察班という名のパトロールもどきだ」
だがそのアヌビスの言葉に牛尾はこの任務の意味を理解する。
狙われている人間を最小限のガードでグールズが蔓延る個所を連れまわす。つまり――
「おい待て――それって妹さんをグールズの奴らを誘き寄せるエサにしようって魂胆か?」
先ほどの態度と打って変わって目に見えて怒気を見せる牛尾。
しかしそれに対するアヌビスは冷淡だ。
「だったらどうした? 多少腕っぷしが立つ程度の素人の中に置いておくよりは余程いいだろう。人質にでもなられる方が面倒だ」
「ならKCにでも置いときゃいいだろ!」
牛尾がアヌビスに掴みかからんばかりの勢いで言葉を荒げる――周囲に聞こえないように声量を上げているところを見るにまだ辛うじて牛尾の理性は仕事をしていた。
「グールズが何故川井 静香を狙うかが分からない以上、他の人間にターゲットが変わるだけの可能性が高い」
しかしいくら牛尾が不満を見せようともアヌビスにはどうすることも出来ないゆえにただ事実だけを並べる。
一人を安全地帯に匿い、他の人間を見放すか
一人を護衛付きで泳がせ、他の人間に目がいかないようにするか、その2択だ。
そのアヌビスが突き付けた選択に牛尾は感情のままに言葉を吐きだそうとするも既のところで呑みこみ――
「クッ! ………………いや、了解だ」
そして肩を震わせながら牛尾は後者を選んだ。
辛うじて納得を見せた牛尾にアヌビスは少し離れた静香の方に向きを変えながら言い放つ。
「もういいだろう――そろそろ戻るぞ、これ以上はさすがに不審がられる」
そのアヌビスの懸念通り、静香は牛尾の様子を窺っている。傍にいる北森が必死に意識を逸らそうとしているがあまり効果があるようには見受けられない。
歩き出すアヌビスの後に続きつつ牛尾は他愛のない質問をぶつける――他に意識を向けることで熱くなった頭を冷ます目的で。
「オメェの回収班の任務どうすんだよ? 1人じゃ回せねぇだろ?」
「他がカバーにつく。運転手さえいれば後は我だけでどうとでもなる」
その牛尾の意図をくみ取ったアヌビスは面倒そうに相槌を打つ。
「何で黙ってた?」
「お前は武藤 遊戯の周辺に対して過敏だからな――その為だろう。だがここまでお膳立てされた以上、文句しか言えまい」
続く牛尾の問いかけに対するアヌビスの返答に牛尾は頭をかく。
神崎は今現在オカルト課の指揮に付けない、というよりは連絡すらつかない――いつもの留守だ。
実際は
よってこの筋書きは乃亜が描いたもの、そのことに牛尾は頭が痛くなる。誰の影響なのかが嫌でも分かるゆえに。
「あ~そうかよ、都合よく使われちまってんなぁ……」
そう言って頭を押さえながらため息を吐く牛尾。精神的にかなり余裕が出てきたようだ。
「何を言う。両手に花ではないか、よかったな」
ゆえにアヌビスも軽口で返す。
「言ってくれるぜ、確実に厄介事じゃねぇか」
その牛尾の言葉を最後にアヌビスは護送車に乗り込み走り去っていた。
その護送車を見送った3名。そして見送りが終わると静香は牛尾に向き直り姿勢を正す。
「牛尾さん! ――じゃなかった牛尾先輩! 今日はよろしくお願いします!」
固い言葉で話しつつ敬礼のような仕草で牛尾と向かい合う静香――彼女の中ではオカルト課はどう映っているのだろうか……
そんないつもよりも若干緊張の面持ちの静香に北森はその緊張を解こう試みる。
「まだ気が早いですよ、静香さん。業務はお兄さんの城之内さんに目的のモノを手渡した後になりますから」
――いや、タイミングの問題じゃねぇと思うんだが……
牛尾は内心でそう思いつつ、静香の緊張の和らぐ姿に思考を放り投げた。
そして早速任務を果たすべく北森に牛尾は尋ねるが――
「で、肝心の城之内の場所は――」
「はい、ちゃんとギースさんに聞いておきました! では行きましょう!!」
妙に気合タップリの北森が牛尾の言葉を遮りつつ先導する。
そしてすぐさまその後に続く静香を見つつ、牛尾の中で疑問が浮かぶ。
――あの2人、いつの間にあんなに仲良くなったのかねぇ……
牛尾の知る歓迎会での2人の様子よりもその精神的な距離は近くなっているように見受けられた。
KCの管制室で慌ただしく情報が飛び交う中、大門がアヌビスからの情報を乃亜に報告する。
「北森・牛尾の両名が目標を連れ行動を開始し始めたそうです」
「そうかい、なら後は彼らに任せればいいよ」
その大門の報告に興味なさげに返す乃亜。しかし大門は気が気ではない為、乃亜に再度確認を取るように尋ねる。なぜならこの決定は――
「…………乃亜様、よかったのですか? 神崎の方針を無視するような――」
「分かっているよ、大門」
だが乃亜は大門の疑問を封殺するように言葉を遮る。
このバトルシティにおいて神崎から乃亜に与えられた情報は数あれど、乃亜が注目したのは3つ。
1つ目は、「グールズの首領、マリクは神のカード及び、武藤 遊戯を狙っている」こと
2つ目は「その為、海馬、遊戯両名の周辺の人物が狙われる可能性がある」こと
3つ目は「童実野埠頭に爆発物が仕掛けられる可能性が高い」こと
乃亜はこの3つの情報こそ重要であると見ていた。
そして乃亜は椅子の上で頬杖を付きながら大門を見る。
「だけどね、大門。状況が変わったんだよ――少しばかりグールズを追い詰め過ぎた」
その乃亜の言葉の通り「グールズの捕縛」という一点においてはかなりの成果が挙げられている。
しかし、そうして追い詰め過ぎた結果、グールズというよりもマリクはその構成員を使い捨てるように行動し始めた。
それはグールズという組織はマリクと千年ロッドさえ残ればいくらでも再建が可能な組織ゆえの無謀な動き。
さらに乃亜はオカルト課の留守を預かったものとして不測の事態があっても臨機応変に対応しなければならない。
「
グールズの暴挙が表側に噴出すればこの大会、バトルシティに払拭できない程のダメージが残ることは明白。
そうなればどうなるか分からぬ乃亜ではない。
「それは大会を開催したKCの立場としては何としてでも阻止しなくちゃならない。此方で情報統制を取るにも限界があるからね」
「ですが、ここは神崎と連絡を取るべきかと……」
しかし乃亜の補佐に付く大門は弱腰だ。失態の責任問題などが頭をよぎる。
「何だい、大門――僕はそんなに頼りなく見えるのかな?」
そんな大門に対し意地の悪い顔で返す乃亜。
「い、いえ! そういう訳では!!」
反射的にそう返した大門の言葉に満足気に笑う乃亜。
「なら問題ないね。それに残念だけど神崎とは連絡は取れていないよ」
ちなみに仮に「留守」中に問題が起きても神崎が戻って来た際に「留守」を預かったものに責任云々を問われることはない。
しかしそう説明したギースが続けた言葉が乃亜の脳裏に蘇る。
――だがお前がもし「ソレ」に甘えるような輩なら私が叩き出すがな。
そんな過去を思い出した乃亜は獰猛に笑う――望むところだ、と。
「問題は割り振るべき個所の戦力の不足――ならやりようはあるさ」
乃亜が削ったのは城之内たちの護衛。
グールズに狙われる可能性が示唆された人間の中で城之内たちは腕っぷしの強さから自衛が出来る存在であることが乃亜にこの決定に踏み切らせる。
そして後は人質になりそうな「足手まとい」を一か所に固めるべく牛尾を動かした。
よってグールズたちの行動で問題が発生するのはこの2か所から、仮にそれ以外で起こっても浮いた人員でカバー出来る――これが乃亜の敷いた布陣だった。
「神崎、悪いけど――ここからは僕のやり方でいかせてもらうよ」
そう独り言ちた乃亜に言葉を返すものはいない。
デュエルまでたどり着けなかった……だと!?
なので
牛尾さんの冒険はこれからだ!!(終わらないけど最終回感)