ドロー力を超えた純粋な
クマを
海がいくら荒れようともデュエルマッスルの前には
漁師は海で拾った。一体何のフィッシャーマンなんだ!!
過酷な修行により鋼の肉体を得た神崎は修行帰りに助けた漁師を治療させ家族の元に帰させ、その後はいつものように社畜よろしく忙しく働いていた。
将来のデュエル戦士たちにデュエリストとはなんたるかを指導したり、
豪華客船の沈没に立ち会い救助に向かったり、
エジプトの墓守の一族の捜索をしたり、
パラディウス社やシュレイダー社の株式を買い漁ったり
BIG5の5人組とそれぞれ交流を深めたり、
剛三郎に「オカルト」に関して睨まれたため、表沙汰にならないように取り計らったり、
幼少期の海馬兄弟への味方アピールを示してみたり、
世界の各国で修行に明け暮れつつ、リアルファイトしたり、と
そうこうしている内に月日は流れ――――
遂に海馬は剛三郎を引き摺り下ろし、『力』――KCのトップである社長の座を手にした。
だが「拍子抜けだ」と海馬瀬人は追い詰めた剛三郎を見て思う。
海馬瀬人が社長になるために行った様々な根回しは驚くほどあっけなく終わった。
剛三郎の腹心の部下であるBIG5もその爪を捥がれ、牙を折られ飼いならされた者たちを手中に収めるだけの作業に歯ごたえなど感じようもなく、言いえぬ気味悪さだけが感じられる。
その思考に割って入るように敗北を悟った剛三郎は遺言代わりに瀬人に語りかける。
「瀬人、最後に一つ忠告しておこう」
「ふぅん、なんだ命乞いでもするつもりか?」
敗者の剛三郎を嗤う海馬。しかし剛三郎は意に介さず言葉を放つ。
「ヤツは殺しておけ――アレは貴様の手に負える男ではない」
剛三郎の言う「ヤツ」――海馬瀬人がまだ一介の若造、子供と言ってもいい評価しかされていなかったにもかかわらず、誰よりも早く自身を売り込みに来た男。
「何を言うかと思えばそんな事か――所詮負け犬の遠吠え、貴様の手に余れど、俺の手に余る道理などない!!」
「ククク……ハッハッハッハ」
その海馬の返答に剛三郎は笑う――知らず知らずのうちに掌の上で踊らされていた海馬 瀬人と己自身に。
「……何が可笑しい」
その敗者とは思えぬ態度に苛立ち気に剛三郎を睨む海馬。しかし剛三郎は堰を切ったように語りだす。
「ヤツと最初に会った時、KCの社長は瀬人お前にこそ相応しいと言っておったわ。まだ小僧だったお前こそとな! つまりはこの状況そのものが奴の掌の上――お前も儂も奴の思惑から何一つ逃れられてはおらん!!」
そして剛三郎は窓際に近づき――
「だが儂は奴の思惑から逃れる。儂自身の「
その発言と共に剛三郎は窓を突き破り落ちる。この高さでは確実に死ぬ。
だが剛三郎は「これでヤツの呪縛から解放される」と不思議な安心感に瞳を閉じた。
そしてその安心感は「ボフッ!」という音とともに身体にも伝わる。そのフンワリとした感触はそのまま眠ってしまいそうになる魔力を秘めていた。
剛三郎は思う――「何かがおかしい」と。
そして目を開けると自身がふかふかのマットの上にいることに気付き、今現在の状況に理解が及ばぬまま呆然としている剛三郎に声がかかる。
「困りますね。勝手に死なれては」
「神崎っ!!」
また貴様か! ――その思いを籠め、神崎を睨み名を叫ぶ。しかし神崎は意に介した様子もなく言葉を続ける。
「あなたには最後の大仕事をお頼みしたいので」
「……ふん。すでに敗者である儂に一体何が出来るというのだ」
「辞めてもらいます」
「何を言って……」
「ですから、すべての責任を取って社長の座から退場していただきます」
「……なっ!」
剛三郎は理解が追い付くのに時間を要した――理解したくなかったともいえる。
KCは大企業である。さらに軍事産業という後ろ暗い面が多々ある部門のすべての責を個人で負うなど想像することもできない――狂っている。
「ふざけるなっ!!」
剛三郎は懐から愛用の特別性の銃をぬき、神崎に照準を合わせる。
――やはりあの時殺しておくべきだった。
あの時しなかった選択を今、剛三郎は決行する。
護衛の黒服たちが行動するよりも剛三郎が引き金を引く方が早かった。
そんな中、銃を向けられ剛三郎の意思ひとつで死ぬこの状況でさえまだ笑っていられる神崎に対し殺意をもって引き金を引く。
しかし神崎に変化はない。
――外したのかっ、この距離で!?
そんな剛三郎の考えを振り払うかのように銃声は続く。
「何故だ……」
後に残ったのは弾切れを起こした銃とそれを震えた手で呆然と持つ剛三郎、困惑する黒服たち、そしてそんな中でも笑みを浮かべ続けている神崎だけだった。
そんな中思わず漏れ出たといった風な神崎の言葉が耳に入る。
「ふむ、正常に動作しているようですね」
「貴様っ! 何をしたっ!」
「表舞台から去る貴方には知る必要はありません。では手筈通りに……」
問い詰める剛三郎をよそに神崎は黒服たちに指示をだし部屋を後にする。
こうして剛三郎は社会的にすべてを失った。
神崎は自室に戻りその場にへたり込む。
――死ぬかと思った。
それが今の彼の偽らざる胸中であった。
大型の野生動物と正面切って戦える男が何を言っているのかとも思うが「銃」は武器である――本能的に恐れたのであろう。
剛三郎に銃を向けられた時、とっさに闇のアイテムを発動し、「闇のゲーム内ではオカルト的な力以外ではダメージは受けない」ことを利用しあの場を乗り切ったが、安全だと分かっていても生きた心地がしなかったのである。
だがその甲斐あって「剛三郎を無事隠居させることに成功した」と神崎は思う。
最後に見た剛三郎は完全に心が折れていた。あれでは再び何かを仕掛けてくることもないだろうと考えた。
しかし神崎はへたり込んでばかりもいられない。大きな問題の一つを片付けたといっても「原作」での問題はまだまだ山のようにあるのだから。
歓声湧くデュエル・スタジアムを前にバンデット・キースことキース・ハワードは苛立っていた。
新たに生まれ広まった「デュエルモンスターズ」の生みの親であるペガサス・J・クロフォードとの対戦ができると聞いてチャンプとして挑戦しに来たのだが、実際にはプロモーションをメインにしており、双方が同じデッキを用いて戦う変則的なものだった。
それだけならばよかった。
だが対戦相手が問題だった。キースが対戦するのは観客の中から無作為に選ばれた子供である。ペガサスがアドバイスをするといってもキースの苛立ちは収まりそうにもない。
だがキースが苛立つ理由はそれだけではない。
――こんな勝負認められるか!
そう言ったキースにある提案をしてきた男、その提案は「その子供に勝利したらペガサスが勝負する」というものであり、悪くはない提案だったがキースには「勝てるはずがない」そう確信している男の目が何よりも腹立たしかった。
そうしてデュエルが始まり「さっさと終わらせてやる」と意気込むキースをよそに言葉無きペガサスのアドバイスと共にターン数が経過していきペガサスの声が響く。
「トムの勝ちデース!」
キースの敗北であった。
だがキースの戦略にミスはなかった。
しかし同程度の実力を持ち全く同じデッキを用いて勝負した場合に最後にものをいうのが「いかにデュエルモンスターズに愛されているか」である。
それは創造主たるペガサスにほぼ勝ちようのない要素。キースに勝利の女神が微笑むはずもない。
「危ないところデシタ」
握手を求めるペガサスにかろうじて応対するキースをよそにペガサスは語る。
「全米一のカードプロフェッサーでも始めたばかりの子供でもこのゲームにおいては皆同じスタートラインに立っているのデース」
そうペガサスは締めくくった。
こうして「デュエルモンスターズ」はより世界に広まっていく。
黒服「下の階でスタンバッてました」
キースの闇落ちを回避?