マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
野坂ミホ、満を持して?の登場――後の出番? 知らんなぁ

乃亜、海馬のグヌヌ顔で大満足





第62話 狙い定めた獲物

 遊戯たちの出発の邪魔にならぬように羽蛾を引っ張ってきた竜崎だが先程まで騒いでいた羽蛾が嫌に静かになったことに気付いた。

 

――無理やり引っ張り過ぎてもうたかな?

 

 そんな竜崎の心配をよそに羽蛾はキリッとした表情で顔だけ振り向きながら竜崎に問いかける。

 

「なぁ竜崎、お前はこのままでいいのか?」

 

「急に何の話や?」

 

 首の襟の辺りを竜崎に引っ張られている構図ゆえにイマイチ恰好がつかない羽蛾。

 

 竜崎もその状態で問いかけられても上手く頭に入ってこない。

 

 だが羽蛾は竜崎の手の力が緩んだタイミングで上体を起こし言葉を続ける。

 

「よっと! ――俺たちは今のところ下っ端中の下っ端! ヴァロンや牛尾みたいに重要な仕事は回ってこない!」

 

「いや、そらぁあの人らの実力と信頼あってのもんやろ? そこは焦ってもしゃあないで」

 

 思ったよりも真面目な話だと考えた竜崎は羽蛾に向き合い、「今は」しょうがないと返す。

 

 しかし、羽蛾はニヤリと悪い顔を浮かべて拳を握りながら熱弁する。

 

「フフ、果たしてそうかな? 俺は知ってるんだよ。今回の大会はグールズを捕まえるためのモノだってな!」

 

「いや、それは結構色んな人らが知ってると思うけど……」

 

 その情報は知る者たちからすれば、かなり周知の事実である。

 

 

 グールズを狩るために集められたデュエリストは当然として、

 

 レアカードを得る為に集まったデュエリストもグールズの動向には気を配っている。

 

 さらにはグールズの総帥マリクとて罠だと勘付きながらも、遊戯への復讐の為にその罠に自身から飛び込んだのだから。

 

 

 そんな若干呆れを含んだ竜崎の視線に羽蛾は誤魔化すように声を上げながら、本題を話す。

 

「う、うるさい! そこで俺は考えたんだ! グールズのトップを俺たちで仕留めれば神崎さんの憶えも良くなるだろうってな!」

 

 確かに羽蛾の言う通り、グールズの総帥マリクを仕留められる程の実力は高い評価に繋がるだろう。

 

 しかし表のマリクに限定すればオカルト課でも対処が可能なデュエリストがいない訳ではない。

 

 それにも拘らずマリクの捕縛が任務として挙げられていないのは、単純なデュエルの実力ではなく千年ロッドの「洗脳」の力を警戒したためである。

 

 ゆえにその羽蛾の考えはオカルト課では除外された選択肢であった。

 

 

 しかしそれは情報が情報だけに羽蛾たちには伝えられていない。

 

「いや、そないな勝手なことしたらアカンやろ……ギースハンにまたドヤされんで?」

 

 勝手なことをしないように言い含められている竜崎にそんな羽蛾の提案は肯定できない。

 

「バカ野郎! ただ言われたことをするより、言われた以上の成果を上げた方がいいだろ! ――それにこのまま下っ端でいるよりも出世した方が良いカードがゲットできる!」

 

 羽蛾の言い分も確かに理解できる点があるとは考えるが、羽蛾の漏れ出た後半の本音の部分にどこかゲンナリする竜崎。

 

 

 ちなみに出世しようがしまいが支給されるカードに大して変わりはない。竜崎が言っていたように「実力と信頼」から判断されるのだから。

 

 

 

「そういうカードパワー云々よりもそのデュエリストに合ったモンが大事って教えて貰ったやんけ」

 

 ゆえに竜崎は羽蛾の行動を止めるべく忠告するが――

 

 

「お、お前、さっきから良い子ぶりやがって~!」

 

 カードパワーだけではデュエリストの本当の成長には繋がらないとの言葉も羽蛾には届かない。

 

 そして竜崎から距離を取り、指を差しながら羽蛾は竜崎から距離を取りながら捨て台詞のような言葉を続ける。

 

「折角同期のよしみで誘ってやったのに! なら俺だけで手柄立ててやるからな! 後で後悔しても知らないからな!」

 

 怒りながら竜崎を置いて走り去る羽蛾。

 

「お、おい羽蛾! そんな勝手したらアカンって――ああ、行ってもうた……」

 

 咄嗟に追いかけようとする竜崎だが、持ち場を離れるわけにはいかないことを思い出しつい立ち止まる。そして羽蛾に向けて伸ばした腕だけが空しく空を切った。

 

 その体勢でしばらく固まっていた竜崎。

 

 だが羽蛾の件を放っておくわけにはいかず、おずおずと通信機に手をかける。問題が起こればまずは報告――報連相は大事だ。

 

「こりゃあ一応連絡せなアカンよな? 同僚売るみたいで気が引けるんやけど……もしもし、乃亜ハン?」

 

 暫くして通信機から乃亜の声が聞こえる。竜崎にとって年下の上司ではあったがオカルト課では大して珍しくもない光景だ。

 

 そして若干の呆れと共に乃亜がからかうように口火を切る。

 

『なんだい竜崎。早速トラブルのようだね』

 

「ああ、分かってまいます? 実は――」

 

 その乃亜の察しのよさに竜崎はやり難そうにしながら羽蛾の一件を話していく。

 

 正直言って竜崎はどんな叱責を受けるか気が気ではなかった。

 

「――ってことがありまして、アイツ止められへんかったんですわ。すんません……」

 

『そうか……』

 

 事情を話し終えた竜崎に興味なさげに返す乃亜。

 

「こんなこと言うのもアレですけど、あんまりヒドイことにせんとってくれませんか? 羽蛾のヤツも悪気は――多分ないと思うんで」

 

 その冷たい声色に竜崎は思わず羽蛾を庇うように言葉を並べる――何だかんだで竜崎にとっては腐れ縁であった。

 

『フム、そうだね。キミが羽蛾の分まで働くと言うのなら構わないよ。さすがに何らかのペナルティが降るだろうけど』

 

 そんな竜崎の言葉にどこか笑いながら返す乃亜。大事にはしないようだ。

 

「……ハァ、よかった――あっ! え~と、寛容なご配慮に感謝します?」

 

 思わず安心するようにため息を吐き、慣れない畏まった言葉を返す竜崎。

 

 そんな竜崎に乃亜は面白そうにIF(もしも)を語る。

 

『フフ、構わないよ――それにもしもグールズのトップを捕らえられれば彼の評価は一変するだろうけどね』

 

「その言い方やとワイらでは無理っちゅう風に聞こえるんですけど」

 

 乃亜の鼻に付く言葉――そんなIF(もしも)はありえないとでも言いたげだ。

 

 それゆえに竜崎は少しの不機嫌さを込めた言葉を返す。

 

『さぁ、どうだろうね――健闘を祈るよ』

 

 だが聞く気はないとでも言いたげなそんな乃亜の言葉と共に通信は切られた。

 

 

 

 

 

 通信機を仕舞いつつ竜崎は苦悩する。

 

 ダイナソー竜崎。

 

 全国大会準優勝者であり、決闘者の王国(デュエリストキングダム)でもベスト8に名を連ねたデュエリスト。

 

 デュエリストとして輝かしい栄光である。

 

 

 ゆえに遊戯や、海馬、ギースなどの一線級のものたちには届かなくとも、竜崎もある程度の強者としての自負が()()()

 

 

 だがそんな「自負」もKCのオカルト課にて粉々に砕け散る。

 

 

 右を見れど左を見れど、(竜崎)を超える強者ばかり、そして牛尾による厳しい訓練過程を終了しても その差が明確に縮まったようには感じられなかった。

 

 竜崎自身が確実に成長した実感があるにも拘わらずに、だ。

 

 

 端的に言って竜崎は自身が井の中の蛙であったことを悟らざるを得なかった。

 

 羽蛾の焦る気持ちも竜崎には痛い程に理解できる。

 

 だが竜崎は羽蛾と共に言われたギースの言葉を思い出す。

 

 

――まずは一歩ずつ確実に進め。我々凡人に立ち止まっている暇はない。

 

 

 オカルト課の最初期から在籍しているギース。竜崎から見てもかなりの実力者であったが、そんなギースでさえ自身は「凡人」であると言い切る程のオカルト課の面々の才能。

 

 その新たな社員が来るたびにその相手との比較が常に付きまとっていたギースの言葉は竜崎に確かな「芯」を与えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 KCの管制室で竜崎との通信を終えた乃亜は椅子に座りながらヤレヤレと首を振る。

 

「早速、独断専行……か」

 

 呆れを見せる乃亜に補佐として斜め後ろに立つBIG5の《サイコ・ショッカー》の人こと大門小五郎が先程の決定に意を唱える。

 

「乃亜様。(羽蛾)の処遇、あれでよかったので?」

 

 咎めるような大門の言葉――明確な命令違反ゆえに直ぐにでも連れ戻すべきとでも言いたげだ。

 

 だが乃亜はモニターを見ながらポツリと言葉を落とす。

 

「確かに(羽蛾)の行動自体は褒められたものではないね」

 

「でしたら――」

 

「でも彼自身(羽蛾)が気付いているかどうか分からないけど、その行動の本質に在るのは『忠誠心』だよ」

 

 乃亜は嗤う――恐らくこれは神崎にとって「想定内」の出来事なのだと。

 

 実際は全然「想定内」ではないので神崎がこの場にいれば何が何でも止めるだろうが、今は役者(アクター)として童実野町に繰り出している――無理な相談だった。

 

「勝手な行動をしているにも拘わらず……ですか?」

 

 そうとは知らない大門は「命令違反」が「忠誠心」に何故繋がるのかが分からない。

 

 そんな大門を横目に乃亜は自嘲気な笑みと共に説明を加える。

 

「ああ、そうだよ。鼻先にぶら下がったエサ(承認欲求)欲しさにご主人様の期待に応えようとせっせと走り回っているのさ」

 

 そして乃亜は大門に釘を刺す。

 

「だから好きにさせて置くといい」

 

 大門は考える。この羽蛾の行為が「想定内」だとすればその目的は――

 

「捨て駒……ですか」

 

 程よい実力者をグールズにぶつけての威力偵察と言う名の「捨て駒」にすることが目的だと考え付く大門。

 

 だが乃亜はそれは違うと嗤う。

 

「神崎はそんなことは命じないよ。彼は()()()()()()を避けるタイプのようだからね」

 

 電脳世界越しの時からのそれなりの付き合いゆえの乃亜の考察。

 

「といってもそれは善意とは程遠い――使えるものは擦り切れるまで大事に使うのさ」

 

 なお実際は「社員を大切にするホワイトな企業を目指している」だけだったりするのだが。

 

「だから父さん(剛三郎)を生かしている――僕の鼻先にぶら下げるエサとして、そして過去のKCの軍事産業時代の憎しみを今のKCから逸らす為の『生贄』として……ね」

 

 目を伏せながら告げる乃亜。

 

 だがこれも実際は「すれ違った親子仲を修復出来たら」、そんな善意なのだったりするのだが。

 

「乃亜様は……それで、それでいいのですか?」

 

 またまたそうとは知らない大門は目を伏せた乃亜から見えないように拳を握りしめながら乃亜に問いかける――答え次第では覚悟を持って行動すると剛三郎に誓って。

 

「彼は――敵は作れど、明確に『敵対』はさせないんだ」

 

 だが乃亜は大門の問いかけには答えずに乃亜自身が見定めてきた神崎の人となりを語る。

 

自分(神崎)を害せば、害した相手の今ある全てを奪う。いや、取り上げるかな?」

 

 そして乃亜は椅子からのけ反り背後の大門を逆さまに見やる。

 

「大門――君だって僕と同じだろう? 君の場合はその『地位』と『生き甲斐』かな?」

 

 そういって大門を見やる乃亜の顔は大門を嗤っていた。「お前に何が出来る」とでも言いたげに。

 

 そしてのけ反った上体を戻した乃亜は呟くように大門に言い放つ。

 

「彼に明確に『敵対』しなければみんな『幸福』なのさ――『これでいい』と諦めを誘う」

 

 実際の神崎は「クリーンな職場作り」の為に福利厚生を頑張って充実させているだけである。

 

 だが相変わらずそうとは知らない乃亜は未だに「敵対」しようと足掻く男を思い出し嗤う。

 

「瀬人は色々頑張っているようだけど――モクバの状態を見るに時間の問題かな?」

 

 戦わないことが正解だと気付かない海馬を嗤う乃亜。

 

 

 だがそんな乃亜は己の本当の状態に気付いてはいない。

 

 その海馬に向ける感情は「優越感」ではなく、「嫉妬」であることを。

 

 

 立ち向かうことを止めた乃亜と諦めない海馬――どちらがKCの長として正しい選択なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 童実野町の一角の路地裏で蠢く集団があった。

 

 彼らはカードプロフェッサー。今回のバトルシティでグールズ捕縛の依頼を受けた者たちの中の1グループ。

 

 そのカードプロフェッサーたちはタッグデュエルの可能性も加味して前もって決めて置いた2人一組となっている。

 

「さてと、それじゃあ行くとするか――獲物は早い者勝ちだぜ?」

 

 そんな中でデシューツ・ルーが代表して仕事の始まりを告げ、この童実野町にカードプロフェッサー(ハンター)たちが解き放たれた。

 

 

 だがそうして走り去るカードプロフェッサーの中でその場から動かない影が二つ。それらは車椅子に乗るマイコ・カトウと腕に巻いた米国旗がトレードマークのテッド・バニアス。

 

 デッキ相性の良さで相方になったテッド・バニアスはマイコ・カトウが車椅子に乗るゆえに走りだせなかったと考え車椅子を押そうと手をかけるが――

 

「テッド――申し訳ないけど、私のワガママに付き合って貰えないかい?」

 

 マイコ・カトウの鋭い視線と共に放たれた言葉にテッド・バニアスの動きが止まる。

 

 有無を言わせぬとまで感じられる歴戦のデュエリストの視線。

 

 だがテッド・バニアスも依頼を受けた身として二つ返事で引き受ける訳にはいかない。

 

「こ、今回の依頼に支障がでるようなことは『カードプロフェッサー』の一員として、じゅ、受理出来ねぇぜ」

 

 精一杯のテッド・バニアスの抵抗にマイコ・カトウはクスクスと笑いつつ困ったような仕草をしながら説得を始める。

 

「フフッ、それを言われると困るわねぇ――でも、テッド。貴方にとってもメリットのある話なのよ?」

 

「俺に?」

 

 オウム返しのように聞き返すテッド・バニアス。

 

 今のテッド・バニアスにはマイコ・カトウの言葉の真意が読み取れない。

 

 そんな様子を見ながらテッド・バニアスの意識を引き込むようにマイコ・カトウは言葉を重ねる。

 

「ええ、そうよ。貴方は将来プロ入りして全米チャンプ、キース・ハワードと戦いたいんでしょう?」

 

「? それと婆さんの『ワガママ』がどう関係するんだよ?」

 

 テッド・バニアスの夢――憧れの男(キース)との一騎打ち。

 

 だがそれはカードプロフェッサーたちには周知の事実である。ゆえに何故このタイミングでその話が出るのか分からず頭に疑問符が浮かぶテッド・バニアス。

 

 

 最初に自身が言った「依頼に支障がある場合」のことなど抜け落ちた様にマイコ・カトウの提示する「メリット」が気になり始めている様子だ。

 

「私は一人のデュエリストとして試しておきたいことがあるのよ。それを貴方に特等席で見せて上げられる――『ソレ』がメリットよ」

 

 マイコ・カトウから告げられる明確さの欠片もない不確かなメリット。

 

 だがテッド・バニアスは「ソレ」を無視できない。

 

 

 しかしテッド・バニアスはすんでのところで頭を振り、マイコ・カトウの提案を拒否するように断る為の理由を探す。

 

「試す? 何を? それに今回の仕事のグールズの捕縛は――」

 

「それはあの子たちに任せるわ――ヤル気も十分のようだからね。それに私の用事が終わった後にキチンと仕事は果たすわよ?」

 

 マイコ・カトウ自身の目的は何一つ明かさない。

 

 それでいてその提案を受けても問題なく、テッド・バニアスが興味を引かれるような内容がずらりと並べられて行く。

 

 その並べられた内容に、ある程度の頼みなら聞いてもいいとテッド・バニアスは考え始め――

 

 そして頭をガシガシとかいた後、テッド・バニアスは降参の意を示すように両の手を少し上げた。

 

「分かった、分かったよ、降参だ――ったく婆さん、俺がこういう駆け引きを苦手だって知っててやってんだろ?」

 

 その言葉通り、テッド・バニアスは仲間内でのお遊びギャンブルで賭けた菓子やら嗜好品やらを巻き上げられている――ようはギャンブルなどの駆け引きの類が苦手だった、

 

 眼前のマイコ・カトウにも「孫のお土産に」との名目でかなり巻き上げられている。

 

「さ~てどうだったかしらねぇ?」

 

 そんな出来事を思い出し不貞腐れるテッド・バニアスにマイコ・カトウは素知らぬ顔でとぼけて見せた。

 

「アンタには敵わねぇな……」

 

「フフッ、それじゃあ納得もしてくれたみたいだから――まずは『パズルカード』を集めないとねぇ。数は――」

 

 溜息を吐きつつ、マイコ・カトウの説明を聞きながら車椅子を押すテッド・バニアス。

 

「手元に1枚残す分を引いて4枚もあれば十分かしらねぇ」

 

 だがそのマイコ・カトウの説明にテッド・バニアスは疑問を覚えた。

 

「? そんなに『パズルカード』集めてどうすんだ? 俺ら(ハンター)は本戦にはどうせ出れねぇだろ?」

 

 今回の依頼「グールズ狩り」に参加したデュエリストたちに課せられた条件の一つ。

 

 パズルカードを6枚集めても本戦に出てはいけない、という条件。

 

 雇われた彼らに「仕事」以外にいらぬ欲を出させないためのモノである。

 

 

「そうね。『私らは』出られないねぇ」

 

 だがそんなテッド・バニアスの当然の疑問に人差し指を立てながらマイコ・カトウは悪戯っぽく微笑む。

 

「だから惜しくはないのよ」

 

「惜しくない?」

 

 マイコ・カトウの「惜しくない」との言葉にテッド・バニアスは「ワガママ」の正体の方向性が見え始めた。

 

 その様子を見てマイコ・カトウはギラリと眼光を光らせ、何かに手を伸ばすような仕草と共に誓うように呟く。

 

「私ももう歳だからねぇ……この機会を逃したくないのよ」

 

「その機会って――」

 

 そんなテッド・バニアスの疑問にマイコ・カトウは優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海馬は狙う獲物を探しひた歩く。だが突然歩みを止め、自身の背後に向けて挑発するように言葉を放った。

 

「ふぅん、いい加減出てきたらどうだ」

 

 

 その海馬の言葉に路地から一人の()()が無言で姿を現す。

 

 

 その老人は「双」の文字のバンダナがトレードマークである武藤遊戯の祖父、双六。

 

 しかしそこにいつもの朗らかな店主の姿はない。

 

 あるのは鋭い眼光で海馬を見据える一人のデュエリストのみ。

 

「なんだ? また『カードの心』とやらでも教えに来たのか?」

 

 見知った顔ゆえに過去に対峙した原因を上げて挑発する海馬。

 

 だが双六はいつもらしからぬ力強い口調で海馬に対峙する。

 

「いや、君にはもうその必要はない。既に分かっているようじゃしな。儂は――」

 

 そして双六は()()()()()()()()を付けた腕を前に突き出し宣言する。

 

「海馬君。君にデュエルを申し込む。儂は『パズルカード』は1枚賭けよう、じゃが君の『パズルカード』は必要ない、そしてアンティには――」

 

 双六はこのバトルシティの本戦に向かうことなど考えていない。その目的はただ一つ。

 

 しかし海馬はその目的を察知し先回りするように双六の言葉を遮る。

 

「『《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)》を賭けろ』……か?」

 

「ああ、そうじゃ《青眼の白龍》を賭けて勝負じゃ!」

 

 力強い瞳で宣言する双六。

 

 

 海馬の持つ《青眼の白龍》は双六にとって親友、アーサーとの友情の証。

 

 それゆえに今日まで密かに昔の勘を取り戻すため、双六は鍛錬してきたのだ。

 

「ふぅん、老いぼれといえど俺のブルーアイズを狙うのならば容赦はせんぞ!」

 

 海馬の膨れ上がるデュエリストの闘志を前に双六は覚悟をもって誓う。

 

「もし儂がこの一戦に負けた時はきっぱりと諦めよう――すべて覚悟の上じゃ」

 

 それは自身を追い混む背水の陣。

 

 双六とて海馬の実力は深く知っている――それゆえの覚悟。

 

 その覚悟を心地よく感じつつ海馬はデッキをデュエルディスクにセットする。

 

「あの時のリベンジという訳か……いいだろう! かかってくるがいい!!」

 

 展開される互いのデュエルディスク。

 

「 「デュエル!!」 」

 

 

 互いの譲れぬ「魂のカード」を賭けたデュエルが今、始まる。

 

 






次回 元カレ VS 今カレ!!





~入りきらなかった人物紹介その1~
デシューツ・ルー
遊戯王Rに出演
カードプロフェッサーの一人。

遊戯王Rの作中では遊戯たちに最初に立ち塞がったカードプロフェッサー。

遊戯を「チビ」と挑発したりなど、攻撃的な性格。

だが、その一方でデュエルに敗北した後は遊戯の実力を素直に尊重し、本来であれば説明の必要がない「先に進むためアドバイス」等もあれこれ教えてくれた。

――今作では、
今作オリジナル話の過去のキースの一件により若干野心が上昇。




~入りきらなかった人物紹介その2~
テッド・バニアス
遊戯王Rに出演
カードプロフェッサーの一人。

眼の下の隈が特徴。

趣味はギャンブル。
遊戯王Rの作中ではキースに借金があった。

そしてデュエルの実力は
遊戯王Rでキースに「デュエルの腕前は自身に匹敵するとも思われるが、ここ一番に弱い」と評された。

一応、ペガサスの後継者と評された実力者、月行とのデュエルの際に
切り札たる未OCGカード「アサルト・リオン」をアドバンス召喚しなければ勝っていたので
評された実力はあながち間違いという訳でもなさそうである。

上述したプレイミスや

月行の使用した現在では禁止カードになる程の力を持った(作中では無制限の模様)《天使の施し》の使用を「手札事故」と見ていたりとプレイに隙がある模様

それが「ここ一番に弱い」ということなのかもしれない。


――今作では
遊戯王Rでキースと金銭の貸し借りが成立する程度の関係性が見受けられた為
今作のキースと裏の一件からキースの男気に惚れ込みファンになった。

そのためキースのファンの証である米国旗の入ったバンダナを腕に巻いている。

将来はプロの世界でキースとの何のしがらみもない一騎打ちをするのが夢。



~入りきらなかった人物紹介その3~
マイコ・カトウ
遊戯王Rに出演
カードプロフェッサーの一人。

眼鏡をかけた車椅子の老夫人。
ちなみにその車椅子にはデュエルディスクが組み込まれている――恐らく特注品。

デュエルディスクと乗り物?が一体化しているがDホイールではない。

普段は穏やか老婦人に見えるが腹の内はかなり強かな模様。

デュエルの実力は闇遊戯が敗北しかけたほどの強者。

そして対戦相手を「お前」や「貴様」等としか呼ばない闇遊戯が唯一「あなた」と呼んで敬意を表した人物。

孫が3人いる。

――今作では
夢を追う若者、テッド・バニアスを可愛がっている。

テッド・バニアスの趣味を普通のギャンブルから
カードプロフェッサー内でのお遊びギャンブルに軌道修正を図った張本人



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