パラドックス・ツバインシュタイン博士・バクラ
「 「 「盛 り 上 が っ て き た ! !」 」 」
第61話 はっじまっるよー☆
童実野町の一角、多くのデュエリストがごった返していた。
それら全てのデュエリストはある大会の参加者。
そう、バトルシティの開幕が迫っていた。
そんな中で時計を見つつ待ち人を待つ遊戯たち一同。
周囲のデュエリストたちはそんな
だがそのデュエリストの中から遊戯に駆け寄る影が一つ。
「遊戯ー! 久しぶりね! 城之内は?」
「舞さん!」
その影の正体は孔雀舞。
孔雀舞は遊戯たち一同に城之内の姿がないことに気付き、キョロキョロと目的の人物を探し始める。
そんな若干落ち着きのない孔雀舞に本田が時計を気にしながら答えた。
「舞じゃねぇか。城之内ならもうすぐ着くって連絡があったぜ」
「やっぱり参加するんだ!」
その本田の答えに喜色満面な孔雀舞。
さらにそんな遊戯たち一同にさらに近づく人影。
「また会ったのう! 遊戯!」
海のデュエリスト、梶木 良太である。
「梶木君も!」
「
快活に挨拶を交わす梶木と遊戯。
そしてしばらく和気藹々と話す遊戯たち一同に待ち人の走る姿が映る。
「遊戯~! 済まねぇ、待たせちまったな!」
「城之内君! 遅かったね? ひょっとして忘れたんじゃないかって心配したんだよ?」
待ち合わせ時間に大きく遅れながら城之内が遊戯たちに合流した。
一応バトルシティにおいて「規定時間までに所定の場所にいなければならない」といったルールはない。
だが「大会のスタートは一緒に」との遊戯たちの想いがあったゆえに遊戯も一安心だと声を漏らす。
「悪りぃ悪りぃ、寝坊しちまってよ!」
「なんじゃい、城之内! 緊張でもしよったか? ガッハッハッハッ!」
両手を合わせながら軽く謝る城之内に梶木は冗談めかして笑い話に変える。
「違ぇよ! 梶木! 緊張どころかワクワクして眠れなかっただけだぜ!」
「城之内……そんな胸張って言うことじゃないでしょ……」
自信を持って言い返した城之内の言葉に若干呆れを見せる杏子。
だがそんな城之内を見つめる孔雀舞はそんな呆れは感じない。
デュエリスト特有の察知能力で城之内が
ゆえに一人のデュエリストとして孔雀舞は城之内に宣言する。
「城之内! 見ただけでアンタがかなり強くなってるのは分かる――だから戦うことになったらアタシはもうアンタを一人前のデュエリストとして全力で叩き潰すわ!」
その孔雀舞の瞳には決意が宿っていた――仲間ゆえの気遣いなど無用だと言わんばかりに。
「おう! そのときは全力でぶつかろうぜ!」
城之内も自身よりも先を行くデュエリストに認められたことを嬉しく思いつつ全力でその決意に応えた。
そんな城之内の決意を見守る遊戯の視界に見知った顔が映る。
「あっ! 竜崎君! それに羽蛾君も!」
その声で遊戯の存在に気付いた竜崎は羽蛾を置いて遊戯の傍に近づき、最後にこっそりと耳打ちする。
「おっ! 遊戯やんけ! ……
「いや、レベッカとはそんなんじゃないって……」
遊戯はそろそろ竜崎の勘違いを正そうかと考え始めるが――
「なんや、やっぱり牛尾ハンが言うようにあの嬢ちゃんの片思いか……難儀なこっちゃ」
既にその勘違いは牛尾の手により解かれていた。先程の竜崎のやり取りはただの確認だったようだ。
そして遊戯は力なく言葉を零す。
「うん、でもあまり強く言えなくて……」
レベッカは聡明な点があれどまだまだ小学生。ゆえに心優しい遊戯は自然と使える言葉が制限される。
遊戯自身も恋愛に不慣れな点も問題であった。
「そうなんか……まぁあの嬢ちゃんは頑固そうやしな~」
竜崎も遊戯と共にレベッカと会った際の気の強い一面を知っているだけに陰ながら応援するしかない。
そうして遊戯と共に頭を悩ませる竜崎に気付いた城之内が
「おっ! 竜崎じゃねえか! お前ともちゃんと決着を付けてぇと思ってたんだ!」
「そら楽しみやな、城之内! ……って言いたいとこやけど今回は無理なんや、堪忍な……」
その城之内の勝負の誘いに竜崎とてキチンと己と向き合ったデッキで再戦と行きたかったが、それは出来ない事情があった。
「ん? どうしてだよ?」
当然の疑問をぶつける城之内に「どこまで話していいものか」と悩む竜崎を押しのけ、羽蛾が得意げに語りだす。
「今回の俺たちは正しくはこの大会の『参加者』じゃないからね」
「羽蛾君、それって?」
意味深な羽蛾の言い方に遊戯が問いかけ周囲もその話に加わる。
「俺たちはこの大会の参加者の間でのトラブル解決を頼まれているのさ!」
「お、おい、羽蛾! あんまり内部事情バラすようなマネしたらギースハンにドヤされっで!」
自慢するようにそれなりに深い部分まで話し始める羽蛾。
そしてそれを必死に止める竜崎――情報の重要性はイヤと言うほど教えられてきたのだから。
だが羽蛾も羽蛾なりに線引きはしている。
「これくらい大丈夫だよ。大体ここにいる奴らはいわゆる『不正』ってのとは程遠い連中なんだ問題はないさ」
「『不正』?」
遊戯たち一同を代表するように頭に疑問符を浮かべる杏子。
そんな一同の疑問に羽蛾は得意げに話を進める。
「この大会ではレアカードが賭けられるからねぇ。不正してまで勝ち上がろうとするヤツが出てくるってことさ!」
「そうなの竜崎君?」
思わず竜崎に確認を取る遊戯。
そんな遊戯の問いに言い難そうに答える竜崎。羽蛾の言うとおり信用できるデュエリストたちではあったが、だとしても言いふらすような内容でもない。
「……ああ、そやで。そういうヤツらを見つけてとっちめるんが今回のワイらの仕事や。内緒って訳でもあらへんけど――言いふらさんといてな?」
最後に申し訳程度の「口止め」を頼む竜崎。
遊戯たち一同は快く了解の意を示した。
だが突如として周囲に巨大な影が差す。
一斉に上を見上げる周囲のデュエリストたち――デュエリスト特有の状況把握能力である。
その影の原因は空高くに浮かぶ飛行船。そしてそこから飛び降りる人影が一つ。
その人影が纏う白銀色のコートは風圧により無駄に棚引く、距離的に顔は確認できないものの誰がどう見ても海馬だった。
――何やってんだ社長。
周囲のデュエリストの心が一つになった瞬間である。
そして白銀色のコートの背中側から噴射されたブースターにより落下速度を落とし、いつのまにやら海馬の側近、磯野を含めた黒服たちの作った空間に着地する海馬。
その後、磯野がマイクを背中のブースターをパージした海馬に手渡す。
「
大音量で町中に響き渡る海馬の声。
またまたいつのまにやらその海馬の姿を撮影機材で撮る磯野含めた黒服たち、その映像はリアルタイムで飛行船に取り付けられたモニターに映写されている。
周囲のデュエリストたちを置いてけぼりにしながら海馬は演説するかのように声を張り上げる。
「早速このバトルシティの説明に入りたいが――今回の俺は一参加者に過ぎん! ゆえに副社長であるモクバが説明する! 心して聞くがいい!!」
力強く宣言する海馬の姿はまるで子供の晴れ舞台をその子供が恥ずかしくなるレベルで祝う親のよう。
そして飛行船に映った海馬の映像がモクバの映像に切り替わった。
モクバは兄、海馬の期待に応えるべく早速仕事にかかる。
『兄サマに代わり早速俺が大まかなルールを説明させてもらうぜい!』
画面上のモクバはどこからかデュエルディスクを取り出し、画面の向こう側の参加デュエリストたちに提示する。
『今日この童実野町に集まったバトルシティの参加者はKCが開発した――この「デュエルディスク」を持った
思ったより普通なモクバの説明に海馬の登場シーンのインパクトから帰還していく参加者たち。
『だから町のどこでもデュエリストが出会えばそこがデュエルの舞台になるんだぜい!』
進む説明――どこかデュエリストたちが物足りなさそうにしているのは気のせいなのか。
『さらに詳しい説明は今大会のキャンペーンガールの人と一緒に説明していくぜ!』
そして飛行船に映ったモクバの隣に現れる青い薄紫の長髪をポニーテールに結い上げた女性が現れた。
『ご紹介に預かりました! このバトルシティキャンペーンガールに任命された私! 「野坂ミホ」がモクバ副社長と共にルール説明を行いたいと思いまーす!』
「 「ミホちゃん!?」 」
その顔は遊戯たちの知った顔――クラスメートである「野坂ミホ」だった。
思わず「何で!?」と騒然となる遊戯たち。特に本田の動揺が凄まじい。
だがそんな遊戯たちの動揺を余所に飛行船に映し出された野坂ミホはモクバと共にルール説明を進める。
そして口火を切るモクバ。
『参加者のみんなは各自持参した規定枚数のデッキを使い、負けた人は勝った人にレアカードを1枚差し出さなきゃならないんだぜい!』
『つまり勝ち続けたデュエリストはそのレアカードでデッキを強化できるんですね!』
モクバの説明に注釈を入れていく野坂ミホ。緊張も見られず慣れたモノだ。
『そうなんだぜい! そして勝ち残った8名のみが決勝に進むことができるんだ!』
『その場所は何と! 海馬社長ですら知らされておりません! 一体どこなんでしょう、モクバ副社長!』
オーバーに驚きながら説明を促す野坂ミホの問いにモクバは勿体ぶるかのように間をおいてから元気よく答える。
『その決勝戦が行われる場所は――勝ち抜いたデュエリストだけが分かるんだぜい!』
『その心は!』
『みんな! デュエルディスクと一緒に渡された透明なプレートを見てくれ! そいつは「パズルカード」っていうんだぜい!』
『みなさーん! コレのことですよー!』
モクバの説明する「パズルカード」の実物を野坂ミホはどこからか取り出し画面の向こう側へのデュエリストたちに見えやすいように提示する。
『このパズルカードをデュエルに勝って6枚集めてデュエルディスクにセットすると地図が映し出されるんだ!』
その説明補足を入れるようにデュエルディスクの5か所の魔法・罠ゾーンとフィールド魔法ゾーンにパズルカードを置く図が画面に映し出された。
『おお! それが決勝の舞台になる訳ですね!』
『その通りだぜ! 予選はレアカードと一緒にこのパズルカードを賭けて戦うんだ!』
そしてモクバは重要事項を伝えるため若干神妙な面持ちで気を引き締める。
『でも6枚集めればいいって訳でもないんだ……』
『と言うと?』
『決勝に進める8名は先着順なんだぜい! だからモタモタしてるとパズルカードを集め終わっても決勝に出れなくなっちまうこともあり得るんだ!』
『つまりスピードも求められると!』
野坂ミホも重要な情報ゆえに強調するように念押しした。
『ああ! そうだぜい! 以上が「バトルシティ」の大まかなルールだ! もしも今の説明で分からないことや、さらに詳しいルールを確認したいときはKCのスタッフが町を巡回してるからその人たちに聞くと良いぜい!』
『今、モクバ副社長が付けているこのKC印の腕章が目印ですよ!』
大まかな大会の説明を終えたモクバはバトルシティの間はKCのスタッフが町を巡回していることを明かす。
野坂ミホもそのスタッフたちのトレードマークである腕章を指さした。
『では海馬社長、大会開始の宣言をお願いします!』
そして大会開始の宣言のため、再び飛行船の映像が海馬のモノへと映り変わる。
撮影機材を向ける磯野からのOKサインに海馬はカメラに指さしつつ力強く宣言する。
「ふぅん、ではデュエリスト共よ! この町に潜む敵を探しにいくがいい!!」
その海馬の宣言と共にデュエリストたちは腕を突き上げ大喝采を上げる。
それにより童実野町の一角がデュエリストの闘志により震えた。
バトルシティが開始され、周囲が熱を帯びる中、城之内もその熱に当てられ遊戯と肩を組む。
「よっしゃぁ! やってやろうぜ、遊戯!」
だがそんな城之内の背後からいつもの挑発するような声が響く。
「ふぅん、貴様程度の凡骨が勝ち上がれる程ヌルイ大会ではないわ!」
「うおっ! 海馬、いつの間に!」
ついさっきである。
大会挨拶を済ませた海馬は宿命のライバルたる遊戯の元へ馳せ参じていた。
しかし城之内も言われっぱなしは趣味ではないため挑発を返す。
「へっ! 言ってな! 決勝でテメェの度胆を抜いてやるぜ!」
「良い顔つきになったじゃない、城之内!」
「まったくだぜ。前まではムキになって噛み付いてたのに、成長したなぁ~」
城之内を認める孔雀舞の言葉に本田は海馬に挑発されるたびに心を乱していた過去を思い出し、その成長ぶりに感慨に耽る。
「そう言えばモクバ君は? 一緒じゃないの?」
だが杏子の放った何気ない一言に海馬の雰囲気に剣呑としたものが混ざった。
「…………モクバは大会運営に当たっている。俺とは別行動だ……」
表向きは社長たる海馬が大会に参加してしまっているので副社長たるモクバが主催であるべきだという乃亜の主張によるもの。
だが実際には乃亜から海馬へ向けての嫌がらせに重きが置かれている。
海馬の脳裏に思い出されるのは――
――じゃあ一緒に大会運営頑張ろうか、モクバ。
などと言ってモクバと仲が良さげなところを見せ付けてくる乃亜。その瞳には明らかな優越感があった。
そしてモクバにも――
――兄サマ 「
海馬が軽く疎外感を覚える言葉を言い放たれた。モクバに悪気はないのだが……
そんな海馬の様子を察した竜崎は成程と手を叩く。
「あぁ~成程、それで社長の機嫌が悪いんかー」
だがそれは地雷だ。
「黙れ! ヤツの飼い犬風情が!」
いつもの数割増しな覇気が竜崎に向けられる。
思わずたたらを踏む竜崎。
「か、飼い犬って、酷い言われようやな……」
凹む竜崎。立場上強く言い返せない点もその感情に拍車をかける。
ただ、言い返したとしても海馬はそんな挑戦的な姿勢を好むため問題はないと言えば問題はないのだが。
そんなやり取りが行われる中、磯野たちから撮影機材を引き継いだ黒服たちを引き連れ遊戯に突撃する集団が一つ。
その集団の先頭を行く野坂ミホは遊戯に向けてマイクを差し出した。
「早速ですが、今大会優勝候補の筆頭!
オーバーなアクションと共に言葉を紡ぐ野坂ミホ。
「実は私のクラスメイトなんですよ~! 武藤遊戯くんでーす! さぁ武藤さん! 何か一言お願いしまーす!」
参加デュエリストの中で今一番話題になっている遊戯に野坂ミホはいわゆる
大舞台に慣れていない遊戯は戸惑うが野坂ミホは気にせずグイグイと進む。
そして遊戯は堪らず――
「えっ! ちょっと……ゴメンッ! もう一人のボク! パスッ!」
「おい! 相棒! ――出てこないな……」
もう一人の遊戯へと人格を交代する。
再度、人格交代を試みるもう一人の遊戯だが全力で拒否された。
「武藤さん?」
明らかに様子の変わった遊戯に首を傾げる野坂ミホ。
「一言か……」
このままという訳にはいかないため遊戯は一瞬考え込み――
「俺は俺のデュエルでベストを尽くすだけだぜ!」
いつも通りの自分で答え、握った拳をカメラに向けた。
「芯の籠ったお言葉! 大変ありがとうございまーす!」
感謝の意を込め軽く頭を下げる野坂ミホ。
そして遊戯の隣に立つ海馬にもマイクを向ける。
「では海馬社長も何か一言お願いします!」
だが海馬はその向けられたマイクをぶんどり、カメラに近づき指を突き付け宣言する。
「この大会に参加する全てのデュエリストよ! 心して聞くがいい!! 俺はこの大会で3つの大いなる力を束ね、『デュエルキング』として君臨してみせる! 精々、首を洗って待っているがいい!!」
言いたいことを言い終えた海馬はマイクを野坂ミホに放り投げ遊戯の元へと戻り――
「おっとっと…………海馬社長の熱いお言葉でした!」
そのマイクを何とかキャッチした野坂ミホはカメラに向けて予め決められていた流れを取っていく。
「では私たち現場スタッフはこのまままだ見ぬ名勝負を探し! この童実野町に繰り出していきたいと思いまーす! では、いってきまーす!」
そしてどこかに駆け出す仕草を見せ、撮影機材を持った黒服たちを見やる野坂ミホ。
暫くして黒服から「OK」の合図が出たと共に脱力する。
どうやら今撮る分を終えたようだ。
暫くの休憩時間を得た野坂ミホは遊戯たちの元へと向かう。
「みんな~久しぶり~!」
「ミホちゃん!」
そんな野坂ミホに真っ先に反応する本田。身体に染みついた悲しい男の性である。
「あれ? 本田くん? 大会に参加してたんだ? あっ! ひょっとして獏良くんも来てるの!?」
そんな本田を今見つけたと言わんばかりの野坂ミホ。
そして獏良を探し出す野坂ミホの態度に終わった恋とはいえ本田の心は確かなダメージを受ける。
ちなみに当然のことながら本田は大会には参加していない。
本田の背中を励ますようにさする城之内――本田の状態が手に取るように分かったゆえにその眼差しは優しげだ。
ダメージから復帰しない面々をしり目に杏子が代わりに野坂ミホの質問に答える。
「獏良君のことだけど、私たちも誘ったんだけど断られちゃって」
今回のバトルシティで暗躍する闇の人格たるバクラからすれば遊戯たちと常に行動するメリットがあまりなかったゆえの判断だろう。
「な~んだ。残念」
「バトルシティの関係者なら参加してるヤツくらい調べられねぇのか?」
目に見えてションボリする野坂ミホに本田を慰めながら城之内から尤もな意見が飛び出すが――
「うん、私もそう思ったんだけど、個人情報っていうのかな? そう言うのは上の方の人しか知らされてないみたい」
それはただの
状況の読み込めない竜崎がふと思い出し、ほとんど無意識に言葉としてポロリと零れる。
竜崎が見た
「『獏良』ってひょっとして真っ白な毛ーした兄ちゃんのことか?」
「何か知ってるの! 竜崎くん!」
何か知っていそうな竜崎に凄まじい速さで野坂ミホは竜崎の両肩を掴みガクガクと揺らしだす――恋する乙女は強いのだろう。色んな意味で……
「おわわっ……いや、知ってるって訳やないけど……」
竜崎にとって獏良はギースより「絶対に近づくな」と厳命されていたデュエリストである。
正確には裏人格である「バクラ」だが、竜崎は知らされていない。
だが詳しい情報は何も知らされていない竜崎とてギースの様子からかなりのレベルの「危険人物」なのだと推測していた。
ゆえにそんな獏良の情報を明かしていいモノかと悩む竜崎にかなりの剣幕で詰め寄る野坂ミホ。
「大瀧さんも牛尾くんも教えてくれなかったの! 何か知ってるなら――」
――あ、これ絶対言ったらあかんヤツや……
竜崎は野坂ミホのその言葉で全てを悟った。
KCの幹部、BIG5の一人、ペンギン大好き大瀧と、何かと様々な仕事を任されている立場の牛尾が押し黙った事実に思わぬ地雷を踏みかけていたことを悟る竜崎。
どうにかして誤魔化さねばならない。誤魔化せなかった場合など竜崎は考えたくない。
「い、いや~ついさっきここまで来る途中、ペガサス島で遊戯らと一緒におった白い毛ーの兄ちゃんを見かけてな! そ、それでや!」
嘘である。竜崎はこのバトルシティで獏良を見かけてなどいない。
見かけていれば即座にギースに通報しなければならないのだから。
「そうなんだー!! これは距離を一気に縮めるチャンスかも!!」
そうとは知らず悪い顔で何やら恋の策略を巡らせる野坂ミホ。
竜崎は一先ずは誤魔化せたと額の汗を拭う。
そして野坂ミホの様子が落ち着いたタイミングを見計らって遊戯たち一同の当然の疑問を代表して再び杏子が尋ねる。
「でもミホはどうして『バトルシティ』に? モクバくんは『キャンペーンガール』とか言ってたけど……」
その杏子の問いに悪い顔を止め、遊戯たちに意味深な笑みを見せる野坂ミホ――恋する乙女怖えぇ……
「ふっふっふー! よくぞ聞いてくれました! ――そう! これは獏良くんを振り向かせるべく私が立てた完璧な計画なのぉん!」
渾身のドヤ顔である。
「計画って言われてもよ。大会に関わるのと、どう関係するんだ?」
だがそう言われても城之内には何が何だかさっぱり分からない。
そんな城之内に「しょうがないな~」と言わんばかりの態度を取りながら野坂ミホはその「恋の計画」を得意気に暴露する。
「簡単! 簡単! 私が有名になれば――きっと獏良くんの方が私を放っておかないでしょ?」
何ともフワッした計画であった。
その計画に対して一応の理解を見せる遊戯たち。そしてその中で唯一かなり限界な本田。未だに過去を振り切れていない。
だがそんな本田の救いの手となる黒服の合図が野坂ミホに届く。
「あっ! じゃあ私はそろそろ行かなきゃいけないから、みんなまたね!」
その合図を受け取った野坂ミホは遊戯たちに軽く別れの挨拶をして持ち場に戻っていった。
その野坂ミホの姿に先程の状況に追いつけなかった梶木は思わずポツリと言葉を零す。
「何ともパワフルな子じゃったのう…………まあ、それはそれとして――よし! そろそろ、ワシは相手を探しに行くとするかのう!」
そして大会の始まりを思い出しワクワクを抑えきれずに別れの挨拶と共に駆けだす梶木。
「じゃぁアタシも失礼するわ」
孔雀舞もまた対戦相手を求めて遊戯たちから離脱する。
「ふぅん、遊戯、今すぐ決着を付けてやりたいところだが、今の俺には狩らねばならんヤツがいる――ゆえに決着は決勝でつけるとしよう! 行くぞ、モクバ――クッ!」
決勝で待つとの言葉と共にいつものように立ち去る海馬だが、その背にはいつも一緒であるモクバはいない。若干調子を崩しつつも目的の獲物を探しにマントを翻した。
「ヒョヒョヒョ、俺がこの大会に参加していなかったことを幸運に思――」
「――じゃ! ワイらも仕事に向かうで羽蛾!」
「お、おい! 引っ張るな!」
去り際の羽蛾の言葉を遮るように竜崎は羽蛾を引き摺りその場を離れる――遊戯たちのいつものメンバーの邪魔にならぬようとの竜崎なりの配慮だった。
「よっしゃ! 俺も行くぜ! それじゃぁ遊戯! 決勝でな!」
城之内も遊戯と拳を打ち合わせ、それを合図に背を向ける。
「城之内だけだと心配だし俺も一緒に行くとするぜ。またな遊戯」
親友のよしみだと、城之内に付きそう本田。
「私も行くわ――もう一人の遊戯の記憶のこと頑張ってね!」
そしてもう一人の遊戯の記憶を探る邪魔にならぬよう杏子も城之内と共に向かう。
「ああ! 決勝で会おうぜ! みんな!」
そうして去りゆく仲間たちを背にもう一人の遊戯も背を向け、まだ見ぬ対戦相手を探しに向かって行く。
決勝の舞台で相見えることを信じて……
そんな遊戯たちを高所から見下ろす黒いコートとフルフェイスのヘルメットを付けたデュエリストの姿。
だがその姿はすぐさま掻き消えた。まるで初めからいなかったように……
さぁ、
良い
準備はいいかな~?