マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
特定の個人の胃の平穏を破壊して得た幸せ――知らぬは本人ばかり

ペンギンとモクバ……海馬社長の癒し倍☆増!




第56話 パーティーのお誘い

 ある巨大なホールの一角で多くのデュエリストが集まっていた。だが彼らは表世界のデュエリストらしからぬ風貌の者たちばかり。

 

 そんな中、黒いパーマの長髪が特徴的な男、デシューツ・ルーが周囲を見回し、軽い口調で笑う。

 

「オイオイ、『迷宮兄弟』に『闇のプレイヤーキラー』、『死の物真似師』に他にもゾロゾロ――ハハッ、まるで裏世界のデュエリストの見本市だな!」

 

 そんなカードプロフェッサーの一人の言葉に他のカードプロフェッサーたちも世間話でもするように話に花を咲かせる。

 

「それだけ大きな案件ということです――KCがこれほど本腰を入れたとなると、グールズの連中もこれまででしょう」

 

 軍服を着こんだカードプロフェッサーの男、カーク・ディクソンもグールズの末路を思い浮かべ暗い笑みを浮かべた。

 

 

 しかしそんな和気藹々とした彼らの会話とは対照的に片側だけ前髪を下ろした髪型が特徴の男、テッド・バニアスがカードプロフェッサーのまとめ役である車椅子の老婆、マイコ・カトウに尋ねる。

 

「……でもよ、婆さん。何で今回の仕事受けたんだ? あれだけKCには関わらないようにしてたのに……」

 

 その瞳にはどこか不安が垣間見えた。

 

 

 だがマイコ・カトウが口を開くより先にゴスロリ風のドレスを着た金髪のショートカットの女性、ティラ・ムークがヤレヤレと溜息を吐きながら答える。

 

「バカね。今回の『グールズの始末』は裏の総意と言っても過言じゃないわ。だからコレ(グールズの始末)に参加しとかないと後で何言われるか分からないわよ」

 

 そんな溜息混じりのティラ・ムークの言葉にロックンローラー風の恰好をした男、ピート・コパーマインはその特徴的な笑いと共に注釈を入れる。

 

「ニャハハハハ――それに『グールズ』は裏の流儀も守らず手当たり次第に暴れてるからね。ボクらみたいな裏稼業のデュエリストもイイ迷惑だよ」

 

 だがカードプロフェッサーのまとめ役、マイコ・カトウが危惧しているのはそんな事ではなかった。

 

「……私はKCよりも神崎って男が気に入らないのさ。大抵、金や権力を手にした人間の考えることは一緒。でもねぇ、あの男は『異質』過ぎる――まだ剛三郎の方が可愛げがあったわ」

 

 マイコ・カトウが関わらないようにしていたのはKCではなく、今回の依頼主の方だった。

 

 神崎は「平穏に生きる」ためにまだ見ぬ未来の世界の危機に奔走しているだけだ。

 

 だが未来の危機など知らぬ人間からすれば行動基準が計り難い歪な人間に見えてしまう実情があった――悲しいすれ違いである。

 

 

 しかしそんなマイコ・カトウの心配は無用だと頭にターバンを巻いた盗賊風の恰好の男、メンド・シーノが豪快に笑う。

 

「だッハッハッハ! カトウの婆さんは気にし過ぎなんだよ! グールズなんて数だけ多い安モン狩るだけでタンマリ金が入るボロい仕事じゃねぇか!」

 

 そのメンド・シーノの意見に逆立てた髪型が特徴の男、ウィラー・メットも同調する。

 

「そうだぜ。悪評はあれどスジは通す人みてぇだし大丈夫だろ?」

 

 そんな2人の意見に他のカードプロフェッサーよりも年齢が低い左右に尖った針のような髪が伸びる少年、クラマス・オースラーの笑い声が木霊する。

 

「ケッケケケケ! それに気前のイイ依頼主って聞いてるし、報酬もタンマリ貰えそうだな! こりゃ『ツイてる』ぜ!」

 

 だがそんなまだ見ぬボーナスに心躍らせるクラマス・オースラーにハイテクマリオネット使いの男、シーダー・ミールが芝居がかった口調でキリッと仲間を諌める。

 

「おっと、そろそろおしゃべりはお仕舞だ――お出ましの様だぜ? 俺の『ハイテクマリオネット』デッキに見合う仕事だと良いんだが……」

 

 他のカードプロフェッサーの「何故お前が締める」との無言の視線は自分の世界に篭るシーダー・ミールには届かない。

 

 

 そして壇上に一人立つのはギース。

 

「今回の依頼の説明をさせてもらうギース・ハントだ。短い間だろうがよろしく頼む」

 

 軽い挨拶と共に集まった裏世界のデュエリストを見て「かなり集まったものだ」とギースは感慨深げに眺めた。

 

「さて、君たちに畏まった挨拶は不要だろう? 早速、仕事の話に入ろう――依頼内容は『グールズの構成員の捕縛』だ」

 

 ギースの後ろの壁にプロジェクターによってグールズの構成員の黒いローブ姿の人間が映し出される。

 

「君たちも知っての通り、彼らは()()()()()から『邪魔』と判断された。ゆえに我々を含めた君たちとで今回その掃除にあたる」

 

 演説するかのようにギースは話を続ける。

 

「勿論、君たちがボランティア精神でここに集まったとは思っていない、ゆえに始めに報酬の話をしておこう」

 

 ギースの『報酬』との言葉に周囲のデュエリストたちがザワザワと期待に胸を躍らせる。

 

「『様々な方々のご厚意』をコチラで纏めさせてもらった――だが君たちに『確定報酬』などと言った『甘えた』ものなど不要だろう?」

 

 そしてギースが指を鳴らす。それを合図にギースの背後の壁に映った映像が切り替わった。

 

「――よって報酬は捕えたグールズの構成員の質によってコチラで決めさせてもらった」

 

 壁に映し出された報酬の一覧に会場にどよめきが広がる。

 

 グールズの下級構成員から名持ち、さらには副総帥、総帥と位が上がるにつれ値段は上がっていく。

 

 そして総帥の値段は他とは桁違いだ

 

「ヒュー! 天下のKC様は太っ腹だねぇ」

 

 デシューツ・ルーは『様々な方々からのご厚意』を出し惜しみしない報酬に感嘆の声を上げる。

 

 周囲もその高い報酬に色めき立つ。だが――

 

「まぁて、私の依頼料金は前払いで依頼者の給料三か月分と決まって――」

 

 丸い縁の黒い帽子に黒いデュエル・コートの男が特徴的な話し方で抗議を入れた。

 

 だがギースは取り合わない。

 

「前金はこちらで用意したカード1枚だ。納得できなければ辞退してもらって構わない。依頼の辞退によるペナルティはないので安心してくれ」

 

 そして丸い縁の黒い帽子の男に「割り当てられた」カードを手渡す。

 

「これが『キミ』のカード(前金)だ」

 

「なぁにを――ッ! こ、このカードは!!」

 

 なおも抗議を入れようとした黒い帽子の男だったが、その「割り当てられた」カードを見てその動きを止める。そのカードは自身のデッキにピッタリと当てはまる一枚。

 

「どうした、辞退するのか?」

 

 辞退するのならカードを返せと言わんばかりに手を差し出すギース。

 

 

 黒い帽子の男はそっと懐にカードを仕舞い込む。それが答えだった。

 

「他に報酬の条件に納得できないものはいるか? この依頼を受けないと言うなら今この時が最後のラインだ」

 

 ギースは忠告の言葉を入れるが誰も動かない。大半のデュエリストが報酬に目をくらませている。

 

「――いないな。では依頼に関しての詳しい条件に移らせてもらおう。まず――」

 

 そうして次々と条件が提示されるが、どれもデュエリストからすれば大したものではない。

 

 そして依頼の詳しい内容を話し終えたギースは念押しするように再度言葉を放つ。

 

「以上だ。諸君らも分かっているとは思うが――下らぬマネはしないことを奨めておく。では前金を受け取りに来てくれ」

 

 こうして裏世界のデュエリストたちによるパーティーのお誘いは幕を閉じる。

 

 後は会場で踊る日を待ち望むばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、一度本拠地に戻り今回の細かな約束事を決めるべく帰路につくカードプロフェッサーたち。

 

 だが車椅子をテッド・バニアスに押されながらマイコ・カトウはギースに渡された「パーティー」の招待状を見つつポツリとつぶやく。

 

「キナ臭い仕事だねぇ……」

 

「相変わらず心配性な婆さんだなぁ! ちっとばかし条件があるが金払いもいいじゃねぇか!」

 

 マイコ・カトウの心配も余所にメンド・シーノは未来の報酬を思い浮かべ、上機嫌だ。

 

「その条件もどちらかと言えばボクらを守るためのモノだからね」

 

 ピート・コパーマインも追従する――今回の依頼はかなり「おいしい」と言える部類である。

 

「それはそうなんだけどねぇ……」

 

 なおも依頼の裏側を勘ぐるマイコ・カトウにデシューツ・ルーが肩を落とす。

 

「だが、今の俺らはあんまり仕事をえり好みできる状況でもないしな……」

 

「確かそれって――『元』カードプロフェッサー、キース・ハワードの一件だよな? 俺が入る前のことだからあんまり知らないけど、ケッケケケケ!」

 

 クラマス・オースラーは年齢的にその一件の時期はカードプロフェッサーに所属していないゆえに他人事のように笑う。

 

 だがカードプロフェッサーに所属している以上、知っておくべきだと軍服の襟を正したカーク・ディクソンは確認するようにクラマス・オースラーに尋ねた。

 

「そんなに難しい話ではありません。クラマス、賭けデュエルの話は知っていますね?」

 

 その問いかけに、裏の人間で「賭けデュエル」を知らないのはいないだろうと呆れるウィラー・メット。

 

「いや、さすがにそんなもんはコイツでも知ってるだろうよ。ようは金持ち連中のお遊びさ」

 

 読んで字の如く、プロデュエリストなどのデュエルの勝敗を裏で賭けるギャンブル。

 

 限りなく黒に近い白扱い――いわゆるグレーゾーンな世界だった。

 

 説明を引き継ぐようにティラ・ムークが続きを話す。だがカードプロフェッサーたちにとってあまり思い出したい話でもない。

 

「そんな中で『勝ち続けるチャンプ』なんて『邪魔』以外の何物でもないわ」

 

 ギャンブルに於いて必ず勝つに近しい存在はギャンブルの利点を大きく損なう。そして裏工作を提案しようにも、そういった行為をキースは好まなかった。

 

 それゆえに関係者からすれば邪魔者以外のなにものでもない。

 

 

 そしてメンド・シーノは昔のその一件を思い出したのか興奮気味にクラマス・オースラーに顔を近づけ、声を張り力強く語る。

 

「昔は『裏の祭り』だったんだぜ? キースを倒して表舞台から引きずり下ろしゃ一生遊んで暮らせる金が手に入るってよ!!」

 

「お、おうっ! そ、そうなのか――でもそれで結局どうなったんだ?」

 

 そのメンド・シーノの勢いに押され気味なクラマス・オースラーは続きを促すが、ピート・コパーマインが最早説明は不要とでも言いたげに笑う。

 

「ニャハハハハ、それ聞いちゃうんだ……今もキースがチャンプでいることがその答えなのに……」

 

「ピートの言うとおりだ。あの人は全部、正面から薙ぎ倒しちまったのさ……!」

 

 ピート・コパーマインの言葉にキラキラした目で当時を振り返るテッド・バニアス――そんな彼の腕には米国の国旗が描かれたバンダナが巻かれている。キースのファンの証らしい。

 

「俺の『ハイテクマリオネット』デッキでも歯が立たなかったぜ……」

 

 そしてシーダー・ミールがデッキを撫でながら目を伏せる。キースに手も足も出なかった過去が彼には若干トラウマだった。

 

 

 そしてマイコ・カトウも昔を懐かしみつつ事の顛末を語る。

 

「懐かしい話だね――最後はお偉方もお手上げさ。結局はキースを賭けの対象にしない例外的な処置で一応は収束したのさ」

 

「その一件で『カードプロフェッサー』の名が落ちちまったのか?」

 

 話を聞き終えたクラマス・オースラーの言葉にカードプロフェッサーの一同の顔に影が落ちる。

 

 

 しかし実際はカードプロフェッサー以外の裏稼業のデュエリストもどうにもならなかったゆえにそこまで名が落ちたわけではなかった。

 

 だが「裏世界にカードプロフェッサーあり」とまで言わしめた程ではなくなっている。

 

 それはその一件を起こしたのが「元」カードプロフェッサーのキースだったことも理由の一つかも知れない。

 

 

 そんな中、デシューツ・ルーはいつもの軽い口調を潜ませ力強く宣言する。

 

「そうさ、だから今回のグールズの件で再び俺たちの名を轟かせようじゃねぇか……!」

 

 

 カードプロフェッサーたちのそんな願いも「神」を討てば叶えられるだろう。

 

 

 

 

 

 勿論「討てれば」の話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神崎はKCの自室でカード片手にデッキ構築に励んでいた。

 

 大会運営の大部分をBIG5たちに任せられたゆえに他に回せる時間が取れたため、今の内にとせっせとデッキ構築を進める。

 

 テーブルに並ぶ、多くのデッキ――完成したものからデッキケースに仕舞い積み上げていく神崎。

 

 何故神崎がこんなこと(多くのデッキ構築)を行っているのかというと――

 

「このデッキは…………どうしたものか……」

 

 バトルシティという大会の仕組みが役者(アクター)に合わないからである。

 

 

 神崎の――否、アクターのデュエルスタイルは「相手のデッキの弱点を突く」もの。つまり対戦相手ごとにデッキを変えている。

 

 だがバトルシティの予選は不特定多数のデュエリストが闊歩する大会。それゆえに対戦相手は対峙するまで分からない。

 

 ゆえに「対戦相手が分かった段階からデッキを組む」ことが出来ないのだ。

 

 

 唯一の救いはバトルシティのルールにおいてデッキ編集が認められていることである。

 

 それはバトルシティにおいて勝者は敗者のレアカードを1枚入手しデッキを強化できるルールによるもの。

 

 それゆえに入手したレアカードがその勝者のデッキに合わない可能性を加味してのBIG5が定めた措置であった。

 

 

 ゆえに神崎は可能な限り対峙しうるデュエリストに対応したデッキをせっせと構築しているのであった。

 

 

 そしてその対峙しうるデュエリストには当然――

 

「――これで三幻神に対応するデッキとしては……多分大丈夫でしょう。『オベリスクの巨神兵』以外の効果が分からずとも対策の方向性はそこまで変わらない……筈」

 

 三幻神こと「神のカードを持つデュエリスト」も含まれている。

 

 

 何の対策もなしに対峙すれば文字通り只では済まない――デュエルロボが海馬から引き出したデータは神崎にとって大変ありがたいモノだった。

 

 

 そして神崎は新たなデッキを構築しつつ、バトルシティでどう動くかをおさらいするように呟く。

 

「マリクの表の人格を討てればよし。無理な場合は本戦で討てれば……よし。無理なら遊戯たちに任せる他ないですね……」

 

 そう言いつつも神崎は冥界の王の力を持っていたとしても「ラーの翼神竜」の精神を焼き切る闇のゲームのリアルダメージを防げるかどうか微妙な事実から目を背ける。

 

 対処法を用意すれど安心できる訳ではない――過信など以ての外だった。

 

 

「本戦のトーナメントでリシドが倒れる前にマリクに当たれば……」

 

 マリクの闇人格はリシドが倒れることで表のマリクから人格の主導権を奪い現れる。

 

 それゆえにトーナメントでの組み合わせを決める《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》を模したビンゴマシーンに仕掛けを施すことも神崎は考えたが――

 

「――ですがその手の裏工作はリスクが大きい」

 

 海馬にバレればただでは済まないことは明白だった。

 

 さらに世間に発覚すればKCという企業としても問題になる――本当にリスクが大きかった。

 

「バトルシティでの状況次第――つまり出たとこ勝負になると…………不安だ」

 

 そう言いながら神崎は思わず溜息を吐く。

 

 

 いつもの万全を期したデュエルとは違い、状況がどう転がるか分からないバトルシティ。

 

 そんな中で本戦まで勝ち抜くことが出来るのか、

 

 三幻神を相手にどこまでやれるか、

 

 

 他にも不安の種を上げればキリがない。

 

 

 それゆえに神崎は新たなデッキを構築するため、カードを手に取った。

 

 

 不安が紛れると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とあるカードショップに遊戯たち一同と牛尾はある目的で訪れていた。

 

 その目的は――

 

「『城之内 克也』君のデュエリストレベルは……『6』だね。このデュエルディスクは君のものだよ」

 

 そう言って眼鏡の店員がデュエリストレベルの確認後に箱に入れられたデュエルディスクを城之内に手渡す。

 

「よっしゃぁ! デュエルディスク、ゲットだぜ!!」

 

 ピッピカチュウ! と言わんばかりの喜びと共にその箱を受け取る城之内。

 

 そう遊戯たち一同は、近日開催されるバトルシティの参加条件である「デュエルディスク」と「パズルカード」を受け取りに来ていた。

 

 

 そしてその2つはKCの系列店で「デュエリストレベル5以上」のデュエリストに無料配布されている。

 

 ちなみにデュエリストレベルの最高値は8である。なぜかデュエルモンスターズのモンスターの最高レベル12ではない。

 

 そしてあるドラゴンのレベルは8。ということは――いや、これ以上考えるのは止めておこう。

 

 

 喜ぶ城之内を余所に本田も店員に詰め寄る。

 

「なぁ、店員さん! 俺は! 俺はどうなんだ!?」

 

「『本田 ヒロト』君だね? えーと、君のデュエリストレベルは……『2』だね」

 

「なぁにぃ!!」

 

 デュエルディスクが無料配布されるレベル5には届かなかった本田。だが原作の城之内のように「馬の骨」と表記されていないだけマシである。

 

 その信じられないと驚く本田に牛尾から冷静なツッコミが入る。

 

「いや、オメェはこの前デュエル始めたばっかじゃねぇか」

 

「でもよぉ、牛尾! 俺も強くなってる筈だぜ!」

 

 確かに本田の言うとおりデュエルの実力は上がっているが――

 

「そうは言ってもまだ公式戦で1勝どころか1戦もしてねぇんならそんなもんだろ……」

 

 誰も知らなければ評価のしようもない。

 

「でもよ~」

 

 そんな本田の落ち込み様に思わず杏子は尋ねる。

 

「そんなにこの大会に出たかったの?」

 

「いや、遊戯や城之内も参加することだしよ。折角だから俺も、って」

 

 ちなみに遊戯のデュエリストレベルは最高値の8であった。

 

「ハ~そんなに大会に出てぇなら自腹で買うか?」

 

 だがこの段階でのデュエルディスクは結構なお値段である。ゆえに本田も渋り気味だ。

 

「いや~でもこの値段だとなぁ……」

 

「なら諦めな」

 

「でもよぉ! 男ならこの手のモン(メカ)は使ってみてぇじゃねぇか!」

 

 メカは男のロマンであるという本田の言い分を受け、納得を見せる牛尾。

 

「分からなくもねぇ理屈だな――だったら俺のデュエルディスク1回使わせてやっから今回はそれで我慢しな」

 

 弟子の頼みを聞くのも師匠の務めと牛尾は自身のデュエルディスクを手渡した。

 

「おっ! いいのか!」

 

「おうよ。オメェの晴れ舞台だ」

 

「よっしゃぁ! 城之内! これで俺とデュエルだ!」

 

 借り受けたデュエルディスクに本田は軽く飛び上がり喜びを表現する。

 

 そして対戦相手に城之内を選んだ。

 

「いいぜ、本田! 俺もコイツ(デュエルディスク)を試してみてぇと思ってたところだ!」

 

 快く応じる城之内――手に入れた新しいおもちゃは早く使いたいものだ。

 

「でも城之内君。この後はペガサス会長から届いた賞品のカードでデッキを練り直す予定じゃぁ……」

 

「なぁに、このデュエルの後でも問題ねぇさ!」

 

 だが遊戯がこの後の予定に言及するが城之内は気にしない。

 

 デュエリストが挑まれたデュエルから逃げるようなことは出来ないのである。

 

 そして遊戯もそれを分かっているため深く言及することはしなかった。

 

 

「だったら、もうちっとばかし広い場所の方が良いな」

 

 場所を移すことを提案する牛尾。近場にある程度広い場所がなかったか遊戯たちは考えを巡らせる。

 

「なら近くの公園にでも行きましょ」

 

 その杏子の提案により、本田のデビュー戦の会場へと遊戯たち一同は向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして近場の適度な広さのある公園に辿り着いた一同は早速デュエルディスクを腕に装着する――

 

「よっしゃぁ! 早速! ――説明書を読むぜ!」

 

――のではなく、説明書を手に取る城之内。意外だ。

 

「牛尾! これどうやって動かすんだ!」

 

 本田は操作法を知っている人間、牛尾に尋ねるが――

 

「まずは自分でやってみな」

 

 拒否する牛尾。だが牛尾とて本田が憎くてやっている訳ではない。

 

 ただ今の牛尾には気になることがあった。

 

「遊戯、悪いが少し付き合え、聞いておきてぇことがある」

 

「なら私は城之内たちの所に行っておくわね」

 

 神妙な顔で告げられた牛尾の言葉にただならぬ雰囲気を感じ取った杏子は気を利かせ遊戯と牛尾を2人にすべく立ち去った。

 

 

 そして城之内の元に小走りで行く杏子の背中を見つつ遊戯は尋ねる。

 

「それで、ボクに何かようなの? 牛尾君」

 

「いや、そんなに大したことじゃねぇんだが――なんで今回の『バトルシティ』に参加しようと思ったんだ?」

 

 遊戯がデュエルディスクをKCの系列店に取りに行った時から牛尾には疑問だった。

 

 どこか遊戯らしくない行動だったゆえに。

 

「いっちゃあ悪いがレアカードを賭ける大会だ。オメェがそれ目当てだとはどうにも思え無くてな……」

 

「う~ん、それは……」

 

 牛尾の当然の疑問に遊戯は悩む。

 

 どこまで話してよいモノかと。なにせ自分(遊戯)のことではなく、仲間(もう一人の自分)のことなのだから。

 

「言いづれぇことなら無理には聞かねぇさ……ただ、ちっとばかし気になっただけだからな」

 

 牛尾はさすがに踏み込み過ぎたと反省する。

 

 過去の牛尾と遊戯たちのイザコザの一件を許してもらったとはいえ、今の牛尾に話せることではなかったのだろうと。

 

 

 そんな牛尾を見つつ遊戯は内心でもう一人の遊戯に問いかける。遊戯は話しても構わないと考えていたが――

 

――話してもいいかな? もう一人のボク。

 

――構わないぜ、相棒。今の牛尾は信用できる。

 

 もう一人の遊戯も今の牛尾を信ずるに値すると太鼓判を押す。

 

 互いに同じ気持ちだったのだと嬉しくなる遊戯。そして牛尾に話し始めるべく口を開く。

 

「ううん、話すよ。まず初めに言っておきたいんだけどデュエルしている時のボクは――」

 

「ああ、もう一人の人格ってヤツか? そいつなら知ってるよ」

 

 信じてもらえないかもしれない可能性が遊戯の頭をよぎったが、その点は問題なかった。

 

「え!? 何で知ってるの?」

 

「いや、『何で』って言われると……言い難いんだが……」

 

 思わず聞き返す遊戯に牛尾は頬を指でかきつつ言いよどむ。

 

 己の過去の過ちである。さぞ言い難いことだろう。

 

「ああ、そうだった! 牛尾君はもう一人のボクに会ったことがあるんだよね?」

 

「おうよ、さすがにアイツ(もう一人の遊戯)オメェさん(表の遊戯)が同じには見えねぇさ」

 

 過去を振り返り、ある程度察した遊戯に牛尾はつい困り顔を作る。まだ牛尾の中では処理しきれなかった想いがあるゆえに過去の一件は話し難かった。

 

「だったら話は早いね。実はもう一人のボクには記憶がないんだ――」

 

 そうして話されることの顛末。

 

 

 杏子とのデートの際に向かった博物館でイシズとの会合時に見たビジョン。

 

 そして神のカードの存在。

 

 「バトルシティ」に望む答えがあるとの言葉。

 

 

 すべてを話し終えた遊戯は覚悟を決めるように強く決心する。

 

「だからボクは『バトルシティ』に参加しなくちゃならないんだ――もう一人のボクのためにも……」

 

「成程な……そう言うことなら俺もKCの一員としてバトルシティには何かの形で関わるだろうからな、困ったことがあるなら出来る限り力になるぜ」

 

 牛尾はどこかで安心していた。

 

――あの人は関係なさそうだな……さすがに何でもあの人繋がりな訳がねぇわな。

 

 この遊戯の決定は他ならぬ遊戯自身が下したもの、ある第三者の介入がないのだと安堵する。

 

「うん、そのときはよろしくね!」

 

 そう言って笑う遊戯に牛尾は力強く了承した。

 

 

 

 

 

 

 そんな2人にデュエルディスクの大まかの機能を網羅した城之内たちの声が聞こえる。デュエルを始める最後の準備のようだ。

 

「まずはデッキのシャッフルだぜ、本田!」

 

 デッキを差し出す城之内。

 

 だが本田はデッキをデュエルディスクに収めたまま得意げに城之内に見せびらかすように指し示す。

 

「だがよぉ、コイツには『オートシャッフル機能』ってのがあるらしいぜ?」

 

 本田のデッキがデュエルディスクにより目にも留まらぬ速さでシャッフルされていた。

 

 その機械的な動きに「なんだかカッコイイ」と見つめる城之内――それに対して本田は渾身のドヤ顔である。

 

 謎の敗北感を味わった城之内は説明書を持つ杏子に問いただす。

 

「どうやんだ! 杏子!」

 

「落ち着きなさいよ……え~と、これをこうよ」

 

 呆れ顔で城之内のデュエルディスクを操作する杏子。

 

「おお! ハイテクじゃねぇか!」

 

 そして自身のデッキがシャッフルされていくのを感心そうに見つめる城之内。

 

 これにてデュエルの準備は整った。

 

「ならこれで準備はOKだな。遊戯~! 牛尾~! そろそろ始めんぞ~!」

 

 そんな城之内の呼びかけに遊戯と牛尾は応援のため杏子に並ぶように近くのベンチに腰かける。

 

「準備はOKだな! 行くぜ、本田!」

 

 そんな遊戯たち3人を見届けた城之内は本田と向かい合う。

 

「おうよ!」

 

「「デュエル!!」」

 

 こうして本田と城之内、明らかに実践経験が段違いの2人のデュエルが幕を上げた。

 

 




 先んじて言って置きますが城之内のデュエリストレベルが原作の「2(馬の骨)」から「6」に上げたのは社長ではありません

 大会運営に関わったBIG5の誰かさんです――ペェン!(くしゃみ)



 ちなみにキースの過去話は今作のオリジナルです

 デュエルモンスターズ創世記から全米チャンプなら、これ位のトラブルは跳ね返さないと!
 そんなエピソードになります。


~遊戯王Rと今作のカードプロフェッサーの違いまとめ~
まず
テッド・バニアスがキースのファンになった
遊戯王Rの作中でもお金の貸し借りが成立する程度の関係性はあったゆえの謎のファン化


そして所属メンバーの減少
カード・プロフェッサー・ギルド・ランキング
1位のリッチー・マーセッド
2位のデプレ・スコット

両名がペガサスの生存によりI2社に所属したままのため、戦力ダウン

さらに
城之内相手に実質勝利するカードプロフェッサーのニューフェイス
北森 玲子が神崎に先にスカウトされKCに所属したため戦力ダウン

さらに、さらに
キース・ハワードが全米チャンプになる前にカードプロフェッサーを脱退したため戦力ダウン

彼らが一体何をした


最後に――
カードプロフェッサーたちの個別の人物紹介については
かなり人数が多いので再登場時とさせて貰います――全員が出番が再度あるかは未定ですが


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