ヴァロン「サ店に行くぜ!(サ店に行くとは言っていない)」
ゲームセンターに辿り着いた一同――緑の蜘蛛のオブジェクトが飾られた「BIG WED」と書かれた看板が目に付く。
その店内は音楽と人々の喧騒で賑わっている。
「随分と騒がしいところだな……」
神官として宮仕えだったアヌビスにとってこういった喧騒は珍しいものであった。
「そうかな? これくらいは普通だと思うぜい?」
「早速、色々と回ってみるか!」
アヌビスに色々と説明するモクバを余所にヴァロンは空いているゲーム機の方へと向かっていった。
まずはガンシューティング。
「射手のゲームか」
「ああ、そうだぜい! 出てくる敵をやっつけるんだ」
まずは見に徹するアヌビスとゲームの説明をするモクバ。
そしてプレイヤーとなった乃亜は画面内に次々と現れるゾンビたちを最小限の動きで銃殺していく。
そしてヴァロンの方の画面は――
「お! お? うぉおおお!! 弾がでねぇ!」
「ヴァロン! リロード! リロードしなきゃ!」
画面一杯にゾンビが溢れていた。
「い、いやだって弾倉が出てこない!」
オモチャの銃を分解し出す勢いのヴァロン。
「画面の外に向けて撃てばリロードできると説明されていたが?」
「はぁ!? そんなことすればギースにぶっ飛ばされるだろ!」
ルール説明を見ていたアヌビスのアドバイスについリアル思考で返すヴァロン。
過去のKCでは銃の扱いも教えられていた。今現在は新体制の元でゴム弾などに変更されたが基本的な銃の扱いについては変わらない。
そのためヴァロンの言うとおり確かに銃を扱ううえではタブーな行為ではあるが――
「ヴァロン、これはゲームだろう?」
当然ゲームである。気にすることではない。
乃亜は呆れ顔だ。
そしてゾンビに食われたヴァロンの操るキャラクターを余所に乃亜は単身大型の異形へと銃弾を放ち続け、「Complete」の文字が画面に現れる――ゲームクリアだ。
「まぁ、こんなものかな?」
「スゲェぜい! 乃亜! ノーミスだ!」
弟の純粋な賛辞に気分を良くしつつ、銃をクルンと回転させ銃身を持ち、アヌビスにグリップを差し出す乃亜――選手交代である。
「キミもやってみるかい?」
「いや、辞めておこう」
だがアヌビスは拒否する。
画面上のゾンビが過去の己のミイラの状態とダブって見えたせいか気分が乗らない。
そんなアヌビスを余所にモクバは落ち込むヴァロンに近づく。
「ヴァロンはこういうの苦手なんだな!」
そしてモクバのそんな言葉にヴァロンは神妙に返す。
「でもよモクバ――殴った方が早くないか?」
ヴァロンの身体能力を考えれば確かに早そうではある。
「いや、これそういうゲームじゃないだろ……」
だが趣旨が違う。ゆえにモクバもどこか呆れ顔だった。
次にレースゲームに興じる3名。モクバはアヌビスのアドバイザーとして後ろに立つ。
そしてレースが始まるが――
「やるな乃亜! 俺に此処までついてくるとはな!!」
ヴァロンの操るバイクがコーナーを攻める。
「その余裕、いつまで続くか見もの……だね!」
乃亜の操るスポーツカーも後に続き追い上げる。
「アヌビス、曲がる時は少しブレーキを踏むと良いんだぜい!」
壁に車体を擦り付けながら進むアヌビスの操る軽トラック――「強そう」との理由で選ばれたマシンだ。
乃亜とヴァロンとの間にかなりの距離が離れているためかモクバも急かすつもりはない。
しかし初心者のアヌビス相手に容赦のない2人である。
「ブレーキ? 確かこっちを踏むんだったな」
全力で踏まれるブレーキ――少しって言ったのに……
そしてその急に踏まれたブレーキによりスピンするアヌビスの操る軽トラ。
「ちょっ! 踏み過ぎ! 踏み過ぎだから!」
全開でブレーキを踏めばこうもなろう。
「ん? ならアクセルを踏むか――」
モクバのアドバイスに従いブレーキを離し、素早くアクセルを踏み直したアヌビス。
するとアヌビスの操る軽トラはコースの端に激突して宙を舞いコース外へと旅立った。
空中で無駄に回転するエフェクトが哀愁をさそう。
だが旅立った先はゴール手前。
「!? ショートカットだとぉ!!」
驚きを見せるヴァロン――最終ラップゆえに眼中になかったアヌビスの思わぬ反撃だった。
そのまま車体を転がしながらゴールするアヌビスの操る軽トラ。
アヌビスの画面には表彰台にて軽トラのドライバーのおっさんが優勝カップを掲げはしゃいでいる。
「バカ、な……この僕が、こんな形で負けるなんて……」
無駄に敗北感に打ちひしがれる乃亜。
だが当のアヌビスは状況がよく分かっていなかった。
何とも歯切れの悪い勝負である。
その後も一同は様々なゲームを楽しむ。
「モグラ叩き」でモグラ型の機械の紙一重な回避技術に翻弄され、
「エアホッケー」にて円盤が壊れないのが不思議な程に高速で打ち合われる円盤にモクバが完全に戦力外になったり、
「パンチングマシーン」を轟音と共に吹き飛ばすも、何食わぬ様子で戻ってきた機械に点数を告げられたりした。
このゲームセンター……どうなっていやがる!?
そんな風にゲームセンターを一通りまわり終えた一同により騒がしい人混みが目に入り、観客となっていた他の客の賛辞が聞こえる。
「すげぇまた勝ったぜ!」
「ここらじゃステップジョニーは最強だな!」
その賛辞を一身に浴びる焼いた浅黒い肌にドレッドへアーの赤いシャツの男、ステップジョニー――観客の反応を見るにここらでは有名なのだろう。
「なんの騒ぎかな?」
「舞踊か? 異国の踊りは分からんな……」
不思議そうに眺める乃亜に興味深そうに見学するアヌビス。
「ならやってみようぜ! アヌビス! すいませーん! 次、交代お願いしまーす!」
そのアヌビスの反応を見たモクバはステージに向け順番の確保のために声を上げる。
「ん? なんだ? 挑戦者か? ははっ! ガキは家でおままごとでもしてな!」
だがステップジョニーの対応はよろしくないモノだった。
「なんだ、アイツ? よし――」
肩をグルグルと回し始めたヴァロンだが、それよりも早く乃亜が上着をモクバに預け悠然と歩み出す。
「なら僕が挑戦させてもらおうか」
「お、おい乃亜! 別に俺は――」
咄嗟に乃亜を止めようとするモクバだが――
「なぁに、僕の可愛い弟を侮辱したお山の大将を懲らしめるだけさ」
乃亜とて譲れないものがある。
なおも止めようとしたモクバをアヌビスが止め乃亜に確認を取る。
「勝算はあるのか?」
「誰にものを言っているんだい?」
乃亜はそんな自信に満ち溢れた言葉と共に壇上へと上がっていった。
「おいボウズ。今すぐ謝るんなら許してやってもいいぜ?」
壇上に上がった乃亜にステップジョニーは嗤いながら挑発する。
「おや、優しさのつもりかい? 笑えるね。なら一つ聞いてもいいかな?」
「なんだ? まさかダンスのコツか?」
「なに簡単なことさ――君は何を目的として踊るんだい?」
「ハァ? 決まってんだろ。モテるからだよ」
唐突な乃亜の質問に笑って返すステップジョニー。
「成程ね。なら気にしなくてもいいか……」
「何の話だよ」
乃亜の呟きにその質問の意味を推し量れなかったステップジョニーは苛立たしげに問いかける。
「なぁに、ただ君が二度とダンスを踊れなくなっても問題はないかの確認さ」
「プッ! ガキが何言ってやがんだ」
語られた乃亜の言葉にステップジョニーは失笑を禁じ得ない。
「ああ、でも僕は優しいから今すぐ君が謝罪するというなら――モクバの、弟の返答次第では許してあげても構わないよ――君も無様な姿は晒したくないだろう?」
「テメェ!!」
だがその後の乃亜の挑発に怒りと共に一歩踏み出すが、その踏み出した一歩と共に流れる音楽。
ダンスバトルの始まりを知らせるゴングにステップジョニーはすぐさま所定の位置に戻り踊り始めた。
乃亜もそれに追従するかのように踊りだす。
「ここまで二人ともパーフェクトだ!」
「ジョニーといい勝負だぜ!」
そんな観客の声に焦りを覚えたステップジョニーは意地の悪い顔と共に乃亜に向けて足を突出し妨害工作に出る。
「おや、足場の提供ご苦労様」
しかしステップジョニーの足を足場に空中でトリックを見せる乃亜。
当然ステップジョニーのバランスは崩れミスが出る。
この時点で既にステップジョニーの敗北が決まる――ミスせず踊り続ける乃亜にミスをしたステップジョニーは追いつくことはできない。
ゆえにステップジョニーはその後も乃亜の妨害を続けるしかなかった。
だがそんなステップジョニーの妨害のすべてを逆にダンスに利用する乃亜。
「あの坊主、ステップジョニーをアシスタント扱いしてやがる……」
観客もその異様な光景に魅入っていた。
そして曲が止まり、ゲームが終了する。勝者は勿論――
「あの坊主、ステップジョニーに勝ちやがった!」
息も絶え絶えなステップジョニーに対して汗の一つもかいていない乃亜。
ステップジョニーのダンスの全てが完全に利用されていた――完全敗北である。
――レ、レベルが違いすぎる……
膝を屈し内心で悔しさに塗れるステップジョニー。
暫くは立ち上がれそうにない。
そんな姿を一瞥した乃亜は壇上を降りモクバたちの元へ帰還する。
「スゲェぜ、乃亜! ダンス得意だったのか!」
モクバから称賛の声と尊敬の眼差しを向けられる乃亜――悪い気はしない。
「なにこの程度、訳は無いさ」
乃亜はその内心を心に仕舞い対応する。
乃亜にとってこの程度は既に知識として知ったもの、身体の動かし方の学習も既に肉体を得た段階で済ませている。
後は多少の誤差を直すだけであり、取り敢えずの見本を有効活用したけだった。
「どうする?」
呆然とするステップジョニーを目線で追いモクバたちに尋ねるアヌビス。
「いや、俺はもういいよ。これ以上はさすがに可哀想だぜい」
「まぁこんだけ恥をかいたら大人しくなるだろ」
だがモクバとヴァロンはマナーの悪さを諌めるにしては「やり過ぎでは」との思いからこれ以上の追及は避けた。
新たなレジェンドの誕生にボルテージを上げる観客を余所に速やかにゲームセンターを後にする一同――今更ではあるが騒ぎは厳禁だった。
一通り遊び終えたアヌビスたち一同は帰路につくが――
「おい! 待ちな!」
その4名の背後から声がかかる――何とか立ち上がれたステップジョニーである。
「恥をかかされた腹いせかい? 呆れて言葉が出ないよ」
乃亜の溜息混じりの言葉が聞こえていないのか黙ったまま距離を詰めるステップジョニー。
咄嗟に前に出るヴァロンとアヌビス。
それでもなお距離を詰めるステップジョニー。今の彼の目には乃亜しか映っていない。
――騒ぎを起こすのは面倒か……
腰のデッキケースに手をかけ、アヌビスの新たな力が今振るわれ――
「俺を弟子にしてくれぇええええ!!!」
なかった。
突然のステップジョニーの土下座ッ! 圧倒的土下座ッ!
周囲の空気が静まり返る。
「これは…………想定外だね」
「どうするよ、乃亜?」
対応に困る乃亜とヴァロン
モクバは驚きのあまり目をぱちくりさせている。
だがステップジョニーは止まらない。
「俺はアンタのダンスに惚れ込んだんだ! アンタを妨害した俺のダンスはとてもじゃねぇが見れたもんじゃなかった。だけどよ!
それはステップジョニーの憧れの舞台を連想させた。
「アンタのダンスは俺の目標を――夢を思い出させてくれたんだ! だから俺はそんなアンタに教えを乞いたい!!」
先程のダンス時と比較して凄まじい変わり身である。
原作でも杏子の軽い説教で憑き物が落ちたかのように改心していたステップジョニー。
実は素直ないいヤツなのかもしれない――そんな訳はないか……
そんなステップジョニーにゆっくりと近づく乃亜。
「立つんだ」
「…………? ああ!!」
乃亜の言葉にすぐさま立ち上がるステップジョニー。願いが通じたと考えたのかその瞳に期待が満ちる。
「姿勢が悪い。体幹がズレてる。筋肉量も足りない。身体も固いね」
次々と出されるダメだし――師の言葉を一字一句聞き逃さぬように集中するステップジョニー。
「圧倒的に基礎的な部分が足りていない」
「申し訳ないです!」
真摯に頭を下げたステップジョニーの頭上から声が発せられる。
「――君は今まで何をやってきたのかな?」
心を折りにいく声が。
「そ、それは……」
純粋にただ尋ねられた乃亜の言葉にステップジョニーは言葉に詰まる。
遊びにかまけて大した修練も積んでいないのだから。
「憧れの舞台? 目標? 夢? 君は自分が何を言ってるのか分かっているのかい?」
乃亜は過去に文字通り「身体」を失った。
「身体さえあれば」そう思ったことは1度や2度では足りない。
ゆえに「健康な身体」を持つステップジョニーが大した努力の跡もなく「夢」だけを語る姿は酷く乃亜の癇に障るものだった。
「弟子入り以前の問題だよ。考慮に値しない」
冷たく突き放すような言葉と共に乃亜はステップジョニーに背を向けモクバの元に戻っていった。
「の、乃亜。言いすぎじゃ――」
「そんなことはないよモクバ。じゃぁ行こうか」
戻ってきた乃亜を迎えたモクバの心配するような言葉に「優しい兄」の顔で乃亜は笑いかける。
「お、おう」
引き気味のヴァロン。そして無言で続くアヌビス
「ご指導ありがとうございましたぁあああ!!」
再び勢いよく頭を下げるステップジョニー。
そんな混沌とした状態でアヌビスの「テスト」改め、「現世を謳歌する」街の散策はこうして終わりを迎えた。
そしてKCへの帰り道。モクバは思い出したようにヴァロンに問いかける。
「なあヴァロン、今回は奢ってもらったけど――大丈夫なのか?」
値段の張る類のことはしていないとはいえ、それが4人分ともなればそれなりのお値段である。
だがヴァロンは気にせずポケットマネーで支払いを済ませた。
ゆえのモクバの問いだったが――
「ああ、安心しろよ。経費で落ちるからな」
「なんで経費で落ちるんだよ……」
遊びの代金が経費で落ちる訳がないだろと思うモクバ。
だが当然タネはある。
「今回の任務っつーか目的はコイツ、アヌビスに街を散策させることだからな」
「なんでそんなことするんだ?」
モクバの当然の疑問――福利厚生にしてはいささか風変わりだ。
「ボスが連れてくるヤツの中には孤児だった俺みたいな、いわゆる社会常識ってヤツがいまいち分かってないヤツとかもいるからよ」
ヴァロンは昔を懐かしむように語る――自身もギースに連れられ色々と回ったものだ、と。
「そう言う新人が来たときは誰かがこうやって街を散策させるんだよ。親睦会の一環も兼ねてるらしいぜ?」
だからと言って豪遊すれば人罰が下る。具体的にはギースにどやされ自腹を切る羽目になる。
「ふん、どうだかな」
だがアヌビスは神崎に受けた仕打ちから懐疑的だ。
「そんなこと言うもんじゃねえぞ、アヌビス。俺はあの人が何考えてんのかさっぱり分からないが――人の道理に反することはしないってのは分かってるつもりだぜ?」
そんなヴァロンの言葉に内心で「どこがだっ!」とツッコみを入れるアヌビス。
世界の破壊は止められて当然なのは脇に置いておこう。
「人の道理か……それも怪しいものだけどね」
乃亜は自身の「身体」のことを知るゆえにいまいち納得できない。
「そっか……神崎も色々頑張ってんだな」
だがモクバはその「良心」が感じられる話に海馬が何故神崎を敵視するのかが益々分からなくなる。
そしてモクバは決心する「自身が仲を取り持とう!」と、無謀である。
そんなモクバを見てアヌビスは申し訳なさそうに切り出した。
「しかしモクバの悩みは解決できなかったな……」
「いや、いいよアヌビス。どうせ俺じゃぁ兄サマに大したことはして上げられないから……」
言葉とは裏腹に落ち込みを見せるモクバ。
だがそんなモクバにヴァロンは元気よく問いかける。
「なぁモクバ! 今日は楽しかったか?」
「え? そりゃあ楽しかったけど……」
要領をえないヴァロンの言葉にモクバは戸惑いながらも肯定する。
「そうだね。僕も久々に気分をリフレッシュできたよ」
「成程な、そういうことか……」
追従する乃亜。理解を見せ頷くアヌビス。
モクバからすれば訳が分からない。
「な、なんだよ。みんなして……それが何なんだよ!」
そんなモクバにヴァロンたちはタネを明かす。
「たまにはこうやってパーっと遊べば気が晴れるもんさ!」
「それは海馬瀬人にも程よいガス抜きになるだろう」
「瀬人はモクバ――君を誰よりも大事に思っているからね。その効果は
3人の言葉の意味をゆっくりと理解したモクバは恐る恐る尋ねる。
「……そうなのか?」
「おうよ!」
そんなヴァロンの力強い肯定にモクバはいてもたってもいられなくなり走り出す。
「じゃあ俺、早速兄サマのとこに行ってくるぜい!!」
「ああ、行って来い」
「社長によろしくな~」
こうしてモクバの悩みは解消され、後の3人は遅れてKCに帰還していった。
「兄サマ! 久しぶりに俺とチェスしようぜ! ダメ……かな?」
そんなKCの社長室でやり取りの結果がどうなったかなど、もはや語る必要もないだろう。
今回の話はアヌビスの話の筈がこれだと完全にモクバの話ですね(笑)
本編とは全く関係ありませんが
遊戯王VRAINSのリンク召喚のエフェクトを見てて思ったんですが
「上に飛んで」謎空間で浮かぶよりも
ボードでデータの波に乗るデュエリストの「前」にゲート展開して
素材モンスターがキメポーズとりながら先にリンクマーカーに飛び込んで
その後でデュエストがボードに乗ったままゲートをくぐり
アクセルシンクロ風にリンクモンスターと共にゲートから飛び出した方が
スピード感があってカッコいい気がする!
これならデータの波から落ちた時にリンク召喚で復帰! みたいなことも!
……作者はバトルシティ編ほっぽり出して何を考えてるんだろう……(反省)