初代しか知らない人に向けてのデュエル用語紹介
リリース
初期の遊戯王では「生贄」と定義されていたが
様々な諸事情で遊戯王5D's辺りから「リリース」に変更された
それに伴い「生贄召喚」も「アドバンス召喚」に変更されている
前回のあらすじ
絶対に許さねえ! 俺ルールゥウウウ!!
あるデュエルリングの一角、黒いコートとフルフェイスのヘルメットのようなものをかぶった神崎は「とうとうこの時が来たのか」と内心頭を抱えていた。
神崎がこのような恰好をしている訳は――少し前に遡る。
いつも通りに取引に来た神崎に対し、相手が契約の際に「デュエルに勝ったらこちらの条件をすべて飲んでもらう」などと言い出したからである。
「またか……」と思いながらもこういったデュエルから逃げる人間をKCの株主が好まないため受けるしかない現状がある。
ゆえに神崎は「KC側が勝利した場合は本来の契約よりいろいろと割高にする」といった相手側にもデメリットを与えることで極力勝負を避けようとしているのだが相手側が勝負を降りたことは今まで一度もない。とんだ「デュエル脳」だ。
その勝負の方式はそれぞれデュエリストを3人用意した団体戦による勝ち抜き戦形式で戦うものである。
だが、雇っていた2人のデュエリストが相手方の最後のデュエリストに敗れたため後がなく、敗北した際の損害を防ぐため、前世の知識と様々なカードを集められる立場を用いて確実な勝利を得るために神崎はこの場に立ったのである。
そんな神崎が素性を隠すかのような恰好でデュエルリングにいる訳は正体を隠すことで神崎が闇のアイテムを持つデュエリストと闇のゲームのターゲットにされるのを防ぐこと、
そして「謎のデュエリスト」という強キャラ感を出し「心理フェイズ」でのアドバンテージを期待してのものである。
そうこうしているうちに相手方のデュエリストも到着し「デュエル」が始まろうとしていた。
相手方のデュエリストはその筋肉質な肉体を前面に押し出し相手を威嚇する。
「俺の名はマッドドッグ犬飼。テメェを倒す男の名だ! よく覚えときな!」
だが神崎は緊張のあまり声が出ない。
「……チッ、だんまりか。まあいい、行くぜ……デュエル!!」
そんな神崎をよそにデュエルが始まり「デュエルリング」により先攻後攻が決められる。
「テメェの先行だ」
わざわざ教えてくれるマッドドッグ犬飼――実は面倒見がいい人なのかもしれない。
だが神崎はそれどころではなかった。
カードを引く前に手札を見た神崎の心は折れそうになっていた。その手札は緑一色、すべて魔法カードでありその内容は――
《二重召喚》
通常召喚を2回行える
モンスターがいないのにどうしろと!
《帝王の開岩》
アドバンス召喚成功時、特定のモンスターを手札に加える
だからモンスターがいないのにどうしろと!
《帝王の凍気》
特定のモンスターが自分フィールドに存在する時、セットされたカードを破壊
だからモンスターがいないという(ry
《真帝王領域》
モンスターの強化と手札のモンスターのレベル操作
だからモンスターが(ry
《進撃の帝王》
このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分フィールドのアドバンス召喚したモンスターは効果の対象にならず、効果では破壊されない。
だからモン(ry
……なん……だと!? と思わざるを得ない酷い手札事故であった。
デッキを試運転した際に此処まで酷い手札事故を起こさなかっただけに、神崎の動揺は大きい。念のためにデュエルマッスルを鍛えていたのだが足りなかったようだ。
そしてこのドローに全てをかける必要が出てきた。まだデュエルは1ターン目である。
「私のターン……ドローッ!!」
変声機により加工された声が木霊する。
――ドローカードかサーチカードかモンスターカードか攻撃を防ぐカード 来い!!
そんなもはや何でもいいんじゃないのかと思わせる思いを込めてドローしたカードは
《帝王の深怨》
特定のモンスターを相手に公開し、「帝王の深怨」以外の「帝王」魔法・罠カード1枚を手札に加える。
だからモンスターがいない(ry
――お望みのサーチカードですよ(笑)
そんな運命の女神が微笑む姿を神崎は幻視した。
「……ターンエンド」
どうしようもないのですぐさまターンエンドした神崎は手札事故を悟られぬよう堂々とした姿勢を貫く。そこには少しでも警戒してくれれば御の字だという思いがある。
そんな姿を見たマッドドッグ犬飼はカードを引き何もせずにターンを終える「ドローゴー」に対して不気味さを感じていた。
対戦相手はあの大企業KCが用意した最終兵器、さらにはあの異様な風貌――何かあるに違いないと感じ警戒しながら動く。
「俺のターン! ドロー!」
犬飼の手札は悪くはなかった。
「俺は永続魔法《ウォーターハザード》を発動! 自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札からレベル4以下の水属性モンスター1体を特殊召喚できる。来い! 《アビス・ソルジャー》!!」
呼び声と共に水中から飛び出すエフェクトと共に三叉槍を持った鯨の魚人が現れ、対戦相手に槍を向け威嚇する。
《アビス・ソルジャー》
星4 水属性 水族
攻1800 守1300
「そして《ウミノタウルス》を通常召喚!!」
さらにウミウシの魚人が斧を振り上げながら現れ、《アビス・ソルジャー》の持つ槍に己の斧を軽快に打ち合わせ互いを鼓舞する。
仲が良さそうである。
《ウミノタウルス》
星4 水属性 水族
攻1700 守1000
まだまだ犬飼のターンは続く。
「さらにフィールド魔法《伝説の都 アトランティス》を発動!」
フィールドが海中神殿へと姿を変える《アビス・ソルジャー》と《ウミノタウルス》はその中を軽快に泳ぎどこか楽しそうであった。
「これによりこのカードがフィールド上に存在する限り、お互いの手札・フィールド上の水属性モンスターのレベルは1つ下がり、さらにフィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップする!」
犬飼のフィールドのモンスターは全て水属性。よって強化が適用される。
《アビス・ソルジャー》
星4 攻1800 守1300
↓
星3 攻2000 守1500
《ウミノタウルス》
星4 攻1700 守1000
↓
星3 攻1900 守1200
「バトルッ!! 《アビス・ソルジャー》と《ウミノタウルス》の2体でテメェにダイレクトアタックだ!!」
さっきまでのほのぼのはどこへやら。2体の魚人がそれぞれの武器を持ち水中で背中を合わせで回転しながら突撃。大きくライフを削った。
謎のデュエリスト(笑)LP:4000 → 2000 → 100
だが神崎は動じない。ライフが残ったことに内心安堵することしかできない。
その姿に犬飼は手札誘発のカードでも握っている故の余裕かとも考えたが、攻撃を受けライフがたった100になったにも関わらず相手からは何のリアクションもない。
そんな相手に犬飼は不気味さを感じつつも「相手のライフはたったの100、有利なのは俺だ!」と自分に言い聞かせカードを伏せる。
「カードを2枚伏せターンエンドだ!」
目論見どおり精神的に有利に立っている謎のデュエリスト(笑)こと神崎だが、神崎自身もまた精神的に追い詰められていた。
手札には現状使いようのないカードで溢れており、次にドローするカードによっては何もできぬまま敗北する可能性があった――せっかく大物感を出して登場したのが水の泡である。
ゆえに神崎はこのドローに全てをかける。
前のターンにかけた全てはなんだったのか……
「私のターン……ドローッ!!」
本デュエル2度目のすべてをかけたドローで引いたカードは緑色――つまり魔法カード。
これは終わったのではないだろうか。
――まだだ! カードを確認するまでは!!
と「シュレディンガーの猫」に似た謎理論を持ち出しつつ引いたカードを確認すると……
《汎神の帝王》
「汎神の帝王」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):手札の「帝王」魔法・罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。
自分はデッキから2枚ドローする。
(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。
デッキから「帝王」魔法・罠カード3枚を相手に見せ、相手はその中から1枚選ぶ。
そのカード1枚を自分の手札に加え、残りをデッキに戻す。
もう一度全てをかけたドローをする必要が出てきたのであった。
「私は通常魔法《汎神の帝王》を発動。手札の「帝王」魔法・罠カード《帝王の凍気》を1枚捨てて2枚ドローする」
「……ドローッ!!」
本デュエル3度目の全てをかけたドロー。全てってなんだっけ?
ドローした2枚のカードを見てやっとモンスターを召喚できると神崎は安堵する。どんなデュエリストも普通に行えることなのだが。
「さらに墓地の《汎神の帝王》の効果を発動。このカードを墓地より除外し、デッキから3枚の『帝王』魔法・罠を見せ1枚を相手が選びそのカードを手札に加える。私が選択するのはこの3枚」
フィールド上に3枚のカードが浮かび上がる。
「墓地から
――なんかゴメン……
そう思いながらも相手が選ばなければデュエルが進まないので持つしかない神崎。だがその風貌も相まって犬飼からすれば「選べ」と威圧しているようにしか感じられない。
「……クソッ! 俺は《帝王の烈旋》を選ぶ」
《帝王の烈旋》を手札に加え、淡々とデュエルを続ける。だがその内心は犬飼のセットカードにビビりまくっていた。
「永続魔法《帝王の開岩》と《進撃の帝王》を発動。《天帝従騎イデア》を召喚。その効果によりデッキから《冥帝従騎エイドス》を特殊召喚」
フィールドに呼び出されるは白銀に輝く鎧を身に纏った従騎士。その騎士は天に手を掲げ、そこから漆黒の従騎士が降り立つ。
《天帝従騎イデア》
星1 光属性 戦士族
攻 800 守1000
《冥帝従騎エイドス》
星2 闇属性 魔法使い族
攻 800 守1000
「《冥帝従騎エイドス》の効果により私は通常召喚に加えて1度アドバンス召喚をすることができる。さらに速攻魔法《帝王の烈旋》 を発動。その効果によりこのターン、相手モンスター1体をアドバンス召喚のためにリリースできる」
「なんだとっ!」
犬飼の驚きをよそに《ウミノタウルス》周辺につむじ風が舞う。
「私は《ウミノタウルス》と《天帝従騎イデア》をリリースし――」
フィールドに身を切るような冷気が吹きすさび、その冷気が一ヵ所に集まってゆく。
「《凍氷帝メビウス》をアドバンス召喚」
その冷気の中の氷塊が砕け、氷のような鎧を身に纏い、マントを翻し現れたその姿はまさしく「帝」の名に恥じぬ姿であった。そして《凍氷帝メビウス》が手を前に突き出す。
《凍氷帝メビウス》
星8 水属性 水族
攻2800 守1000
「永続魔法《帝王の開岩》と墓地に送られた《天帝従騎イデア》、さらに《凍氷帝メビウス》の効果発動」
何もできない状態だったはずの手札が……デッキが……今回りだす。
「アドバンス召喚の成功により永続魔法《帝王の開岩》のサーチ効果を発動、
その効果にチェーンして、墓地に送られた《天帝従騎イデア》のサルベージ効果を、
さらにその効果にチェーン《凍氷帝メビウス》の魔法・罠カードの破壊効果を発動」
驚きから帰還した犬飼が慌ててカードを発動する。
「ッ! そうはさせるか! 《凍氷帝メビウス》の効果にチェーンして
だがカードは凍りついており微動だにしない。
「何故だ……何故発動しねぇ!」
動揺を露わにする犬飼に注釈を入れる神崎。
「《凍氷帝メビウス》が水属性モンスターをリリースしてアドバンス召喚したときこの効果の発動に対して相手は選択されたカードを発動できない」
「……ッ! 俺の《ウミノタウルス》は水属性……」
驚き呟く犬飼を余所に神崎は機械のようにデュエルを続ける――キャラ作りお疲れ様です。
「チェーンの逆順処理に移行。
《凍氷帝メビウス》の効果によりフィールド上の魔法・罠カードを3枚まで選択して破壊できる。永続魔法《ウォーターハザード》と2枚のセットカードを破壊」
《凍氷帝メビウス》が突き出した手を握ると凍りついた《ウォーターハザード》、《海竜神の加護》と次々に破壊される。
そして最後の1枚であるレベル4以上のモンスターの攻撃を封じる《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》も破壊され、周囲に寒々とした空気が吹きすさぶ。
「次に《天帝従騎イデア》の効果により除外されている《汎神の帝王》を手札に加え、
最後に《帝王の開岩》の効果によりデッキから《怨邪帝ガイウス》を手札に加える」
2体目の帝が手札に加わる。呼び出す準備はもう出来ている。
「手札から通常魔法《帝王の深怨》を発動。手札の《怨邪帝ガイウス》を公開し、デッキから「帝王」魔法・罠カード――《真源の帝王》を手札に加える。再び通常魔法《汎神の帝王》を発動し《真源の帝王》を捨て、2枚ドロー」
淡々とこなされていくデュエルに薄ら寒いものが奔った犬飼は思わず後ずさった。
「そしてフィールド魔法《真帝王領域》を発動。新たなフィールド魔法が発動されたことにより《伝説の都 アトランティス》は破壊される」
《伝説の都 アトランティス》が破壊されその瓦礫の中から玉座の間とも呼ぶべき空間が生み出される。神秘的な《伝説の都 アトランティス》と違い、押しつぶされてしまいそうなプレッシャーを放つ領域であった。
「その効果により手札の《怨邪帝ガイウス》のレベルをターン終了時まで2つ下げ、レベル6に、さらに通常魔法《二重召喚》 を発動。これによりもう1度通常召喚できる。《冥帝従騎エイドス》をリリースし、《怨邪帝ガイウス》をアドバンス召喚」
地面から水があふれ出るかのごとく闇が溢れ、その中から悪魔のような鎧をまとった魔王――否、「帝」が姿を現す。
《怨邪帝ガイウス》
星8 → 6 闇属性 悪魔族
攻2800 守1000
「《怨邪帝ガイウス》の効果発動。フィールドのカード1枚を除外し、1000ポイントのダメージを与える。《アビス・ソルジャー》を除外。
さらに闇属性モンスターをリリースしてアドバンス召喚したため、もう1枚除外できる。だがこの効果は発動しない」
《怨邪帝ガイウス》の両の手より瘴気が溢れ《アビス・ソルジャー》を飲み込む。《アビス・ソルジャー》は飲み込まれまいと足掻くも最後は力尽き沈んでいった。
マッドドッグ犬飼LP:4000 → 3000
「……ありえねぇ」
犬飼は呆然と呟く。つい先程まで勝利を目前としていたはずが今は敗北の足音が聞こえる。
「バトルフェイズ」
「負けるのか……この俺がっ!」
「《凍氷帝メビウス》と《怨邪帝ガイウス》で攻撃」
「なんでだっ……」
2体の「帝」から放たれる凍気と瘴気が混ざり合い犬飼を襲う。
「……クソが!」
マッドドッグ犬飼LP: 3000 → 0
デュエル終了後、神崎は項垂れる犬飼に振り向きもせず、ゆっくりと立ち去るその姿は圧倒的な強キャラ感を醸し出していた――実際は精神的余裕のなさから挨拶すらできなかっただけだ。
こうして何とか勝利した謎のデュエリスト(笑)こと神崎はもろもろの手続きを部下に任せ、自室で脱力していた――ギリギリであったと。
デュエルに勝ちはしたものの最終的にはカードパワーにかろうじて救われた結果であった。このままではいけないと考えた神崎は自身の状態を調査する。
その結果、通常時は問題なくデュエルできるが、いわゆる「負けた場合に何かを失う状況」になった途端ドロー力がガタ落ちすることが判明したのである。
試しにドローカードをふんだんに詰め込んだデッキでプロトタイプのデュエルロボとおやつを賭けてデュエルしたところ――
手札が
《リロード》――自分の手札を全てデッキに戻しシャッフルする。その後、デッキに戻した枚数分のカードをドローする。
と《打ち出の小槌》――手札を任意の枚数デッキに戻しシャッフルする。その後、デッキに戻した枚数分のカードをドローする。
――の3枚ずつになり、それらを発動させたときデッキに戻した手札がそのまま戻ってきたとき神崎は頭を抱えた。
1枚1枚手札が減り、同じカードが戻ってくるさまはもはやホラーである――酷いもんだ。
デュエルの結末は相手の手札を覗くピーピングを多用するデッキを用いたデュエルロボが神崎の手札事故っぷりにエラーを起こし機能を停止――無効試合である。
かなり鍛えていたと自負していたデュエルマッスル。だがまだまだ足りなかったようだと神崎は考える。
そのため自身のドロー力を鍛えるべく、「原作」での強者が肉体的に優れていることを参考にし「デュエルマッスル」を今以上に限界を超えて鍛えるべく山に籠ることを決心したのであった。
マッドドック犬飼って言われると「誰?」ってなるけど
カイザーに「グォレンダァ!」された人っていうと伝わる不思議
人物?紹介
プロトタイプのデュエルロボ
原作で海馬の《オベリスクの巨神兵》に殴り殺されるデュエルロボの試作型タイプ。
廃棄になるところを神崎が引き取りデッキ調整の際のデュエルの相手を務める。
オボミやオービタル 7のような自我はない。
次回 無人島0円修行