マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
乃亜屈辱の記憶
お巡りさん「もうすぐ親御さん来るからね~ あっ! ジュース飲む?」
乃亜「(#^ω^)ビキビキ」

ラー「ウルトラ上手に焼けました!」

おれは人間を超越するッ! 冥界の王、おまえの力でだァ──ッ!
からの
ダークシグナー フライング出演



第43話 やっぱり我が家は落ち着く……筈

 

 地下工場の後始末を終えKCに帰還した神崎はアヌビスを社員寮に案内したあと、そのまま研究室へと向かいツバインシュタイン博士の元にいた。

 

「ツバインシュタイン博士、これが今回の精霊の鍵の起動データです」

 

 そう言って鍵のデータを渡す神崎。

 

「おや? これはMr.神崎、お久しぶりです。今回の留守は随分と長かったですね? この起動データはありがたく使わせてもらいます。御用はこれだけですか? 他に必要なものでも?」

 

「いえ、必要なものは今の所は何もありませんよ。今回はデータに加えてお土産をお持ちいたしました」

 

 神崎の「お土産」という言葉にツバインシュタイン博士のテンションは一気に上がる。

今までの「お土産」にハズレがなかっただけに高ぶる気持ちを抑えられない。

 

「ほう! お土産ですか! 今度は一体なんですかな!」

 

「今回はコレになります」

 

 ツバインシュタイン博士に渡されたものは袋に入ったクリスタルの破片と赤い宝玉。

 

「これは一体なんですかな? 何かの破片のようですが……」

 

 その袋を受け取り破片の一つを手に取ったツバインシュタイン博士は近くの照明の明りに透かしながら色々な角度で観察する。

 

「これは『光のピラミッド』という千年パズルと対を成す闇のアイテムの破片になります――つまり千年アイテムと言って差し支えないでしょう」

 

 だが続く神崎の言葉にポカンとした表情を浮かべ固まった。

 

「えっ? 今なんと?」

 

「千年パズルと対をなす闇のアイテム『光のピラミッド』です」

 

 その神崎の言葉にツバインシュタイン博士の意識は帰還する。

 

 だがいまだに信じられないような顔をして神崎にまくし立てた。

 

「ほ、本当ですか! こ、これがその! し、しかし危険がど、どうとかで!」

 

「落ち着いてくださいツバインシュタイン博士。これの安全は保証されています。それに砕けてしまっていますが、破片は全て揃っている筈です」

 

 慌てて質問するツバインシュタイン博士を神崎はなだめつつ、問題の無いことを明かすがツバインシュタイン博士は震える手でクリスタルの欠片を持ちながら再度確認する。

 

 千年アイテムの研究を半ば諦めていただけに信じられない。

 

「よ、よ、よろしいのですか! こんなものを研究させてもらって! 千年アイテムを直接研究することをあれ程禁じてらっしゃったのに!」

 

「ええ、ですがコレについてはもう問題ありませんよ。しかし、くれぐれも――」

 

 ツバインシュタイン博士の一目でわかる尋常ではない精神状態に危険なものを感じ取った神崎は念を押そうとするが――

 

「もちろんわかっております! より安全に細心の注意を払って研究させてもらいます!」

 

 ブンブンと首を縦に振るツバインシュタイン博士に、もはや何も言えない。

 

 最後に逐一状況を報告するように言い含めて神崎は研究室を後にした。

 

 その姿を見事なお辞儀で見送るツバインシュタイン博士――クリスタルの欠片はしっかりと手に握られていた。

 

 そして見送りが終わったツバインシュタイン博士は研究員たちに檄を飛ばす。

 

「君たち! 今までの研究……Mr.神崎の要望以外を全てサブに回すんだ! 今日、いやたった今からコ レ(光のピラミッド)の研究をメインに行う! まずは破片からの復元に取り掛かる! 忙しくなるぞ!!」

 

 研究員たちのキレイに揃った返事を聞きながらツバインシュタイン博士はより強く思う。

 

 これだからここでの研究はやめられない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 ツバインシュタイン博士がもはや疑うことなくマッドサイエンティストになった事実に手綱をしっかりと握らなければと思いつつ仕事部屋に向かう神崎。

 

 だが神妙な面持ちのギースがその行く手を遮るように立ちはだかる。

 

「おや? どうかしましたか?」

 

 用件を伝えようとしたギースだが、神崎のいつもと変わらぬ「楽」一択の表情を前にギースはどこか違和感を感じていた。

 

 ギースはその違和感が明確には分からない――元々あった「歪み」が大きくなったような、なんとも言えぬ感覚。

 

 その感覚の正体を思わず探るが――

 

「ギース、用件はなんですか? 言い難いことならば――」

 

「!? 申し訳ありません! 用件は――」

 

 相手の言葉に我に返ったギースは先程の違和感を気のせいだと思考の隅に置いておき、用件を伝える。

 

 将来、この時の判断を後悔することになることも知らずに。

 

「――内密にお尋ねしたいことが」

 

「おや、なんでしょう」

 

 神崎はギースが積極的に質問してくることは珍しいと思いながらもイエスマンな気のあったギースの心境の変化は喜ばしいものだと続きを促す。

 

「お尋ねしたいのは『神のカード』についてです」

 

 ギースはこの「神のカード」について疑問が多々あった。

 

 何故その存在を知っているのか

 

 何故その所持者を正確に把握しているのか

 

 何故そのカードを犯罪組織が所持しているのか

 

 何故そのことを調査しているギースですら知りえないことを神崎が知っているのか、

 

 疑問は尽きない。

 

 

「その『神のカード』がどうかしましたか?」

 

 続きを促す神崎を見つつ内心ギースは確信していた。

 

 己に与えられた任務が「調査」ではなく「確認作業」だということに。

 

 神崎が「何らかの方法」で手にした情報が正しいのか否かのすり合わせ。

 

 そして意を決して問いかける。

 

「貴方は神のカードをどうするおつもりなのでしょうか?」

 

 神崎はどこまで話したものかと逡巡する素振りを見せた後、ある程度の情報を開示する。

 

「君も知ってのとおりあのカードは強大な力を持っています。ゆえに然るべき対処が必要です」

 

「そうです、か……」

 

――やはり狙いは「神のカードの力」か……

 

 ギースが発見した焼かれた男は恐らく「神のカード」に焼かれたことを直感しているためその危険性を直に感じていた。

 

 

 過去にギースは神崎に迫害の暗闇から救ってもらった恩義がある。たとえ怒りを買うことがあってもここは進言し、何が何でも止めるべきだとギースは重い口を開く。

 

「あのカードの力を求めるのなら重々承知でしょうが警告させて頂きます。あのカードの力は人の身で――」

 

 その結果「処分」されてもギースに悔いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いりませんよ?」

 

 だがそんな覚悟はギースにとって予想外の一言で霧散する。

 

 

 神崎にとって「神のカード」はヒエラティックテキストを読めようが読めまいが必要ない。

 

 神特有の強固な耐性は魅力的だが武藤遊戯と敵対してまで必要とするものではなかった。

 

「ゑ?」

 

 呆然とするギース。

 

 今まで神崎に与えられてきた任務をギースなりに受け止め辿り着いた結論の全否定。

 

 その否定にギースは「やっぱりこの人分からない」と自身の頭をつい押さえた。

 

「積極的なグールズに対しての行動は『神のカードの力』を求めてのことではなかったのですか!?」

 

 ギースは思わず素が出そうになりながら普通に質問してしまう。

 

「? ええ、違います」

 

 そんな意図など欠片もない神崎からすれば疑問しかない。

 

「しかしあのカードは強力な力を持っています! あんな犯罪者どもが持っていていいものではないでしょう!!」

 

 「神のカード」に手を出すのは止めておいた方がと説得するはずが、手に入れなければならない理由を話すギース――まだ混乱から立ち直っていない。

 

「ですのでグールズを捕え、神のカードを回収しあるべき場所に返す。そのためにグールズを追っています」

 

 思わず「普通すぎる!」と考えてしまうギース。

 

 ギースの知る神崎はただ「悪い人を捕まえよう!」で終わる筈が無い。もっと混沌としたものが渦巻いている筈だ! と――酷い言い掛かりだ。

 

 

 そんな考えのせいかようやく頭が冷えてきたギースは力なく尋ねる。

 

「……成程分かりました。しかしあれ程巨大な力を持つカードを一体誰に? ペガサス会長でしょうか?」

 

「『所持者』の元へ返します」

 

――『所持者』を明かす気はないのか……

 

「そう、ですか――根拠のない憶測で呼びとめてしまい申し訳ありません……」

 

 自身の領分ではないところに踏み込んでしまったケジメなのか最後に頭を下げるギース。

 

「構いませんよ。あまり詳しい話をしなかった此方に落ち度があります」

 

「いえ! それは私が知る必要がないとのご判断ゆえのもの! 問題はありません! ではこれで失礼させてもらいます!!」

 

 最後にそう言って踵を返すギースを見ながら神崎は胃が痛んだような気がした。

 

 やっぱり部下の忠誠心が重い……と。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてようやく自身の仕事部屋に戻る神崎。

 

 そこには乃亜と牛尾が書類片手に仕事をしていた。

 

「おかえり神崎。君の留守の間大きな問題はこれといってなかったよ」

 

 帰ってきた神崎に何も問題がなかったことを得意げに告げる乃亜。

 

 そして牛尾はそんな乃亜の頭をポンポンと軽く叩きながら神崎に乃亜の仕事ぶりを報告する。

 

「しっかしコイツは優秀ですね~俺の出番なんざどこにもありませんでしたよ」

 

「頭を叩くな! まったく……」

 

 頭を軽く叩く牛尾の手を振り払いながら乃亜は牛尾に苦情をもらす。

 

 そんな2人を見て神崎は内心で思わず微笑ましくなった――年の離れた兄弟のようだ、と。

 

「随分と仲良くなったようですね。これならこれからの留守の時も安心です」

 

「はっはっ! 任せてくださいよ!」

 

「どこをどう見れば仲良く見えるのかな?」

 

 留守は安心。の部分に豪快に笑う牛尾に、

 

 仲が良い。の部分に不満を見せる乃亜。

 

 やはり神崎には微笑ましく見えた。

 

 

 いまだに不満を見せる乃亜に神崎は告げる。

 

「乃亜、近々海馬社長へ顔見せに行きますので心の準備をしておいてください」

 

「心の準備? そんなものは必要ないよ。必要なのは瀬人の方じゃないかな?」

 

「感動の兄弟の再会って奴ですか! よかったじゃねぇか乃亜!」

 

 準備など不要と、不敵に笑う乃亜に、祝う牛尾。

 

「部外者は黙っていてくれないかい?」

 

「そう固いこと言うなって! 同僚のめでてぇ時ぐれぇ祝わせな!」

 

 冷たくあしらう乃亜だが牛尾は笑いながら乃亜の背中をバシバシと軽く叩く。

 

 

「そう言えば牛尾君、君が教導している2人の仕上がりはどうですか?」

 

 だが神崎の問いかけに牛尾は固まった。

 

「あ、ああ、あいつらなら少しはマシになりましたよ。いっぱしになるまで後もう一歩ってところです」

 

 まだ羽蛾と竜崎の訓練は完了していないことに思わず言葉を詰まらせる牛尾。

 

 そんな牛尾を意地の悪そうな笑みで乃亜は笑う。だが神崎は――

 

「そうですか。乃亜のこともお願いした手前、どうなっているかと思いましたが――まだ時間はありますので後一歩なら問題ないでしょう。引き続きお願いします」

 

 まだ時間があることも相まって特に言及はしなかった――実際大して急を要する案件でもない。

 

「りょ、了解です! じゃ、じゃあ俺はそろそろアイツらの訓練に戻りますんで!」

 

 その神崎の姿に薄ら寒いものを感じ取った牛尾はそそくさと駆けていった――神崎の気遣いは報われなかった。

 

 

 そんな牛尾の背中を見つつ乃亜は神崎に問いかける。

 

「近々何かあるのかい?」

 

「ええ、それはそれは大きな動きがあります。ですので、動けるものを増やしておきたいのですよ。その時は乃亜、貴方にもよろしくお願いします」

 

「もちろんだよ」

 

 乃亜から見て笑みが濃くなったように見えた神崎に乃亜は力強く言い切る――本当は必要とされていないと感じながら……気のせいである。

 

 

 

 

 

 

 その後、乃亜から詳しい報告を受けた神崎は自室でアヌビスとのデュエルを思い出す。

 

 勝利は得たがあくまで「アヌビスの事前情報を知っていたこと」と「カードパワー」の差で勝ったに過ぎないと神崎は考える。

 

 そもそもアヌビスは海馬や遊戯を互いにぶつけ合わせ漁夫の利を得ようとしたデュエリストである。

 

 したがってデュエルに重きを置いたデュエリストという訳ではない。

 

 

 ゆえにいわゆる「真のデュエリスト」と言われる存在を神崎はより警戒する。

 

 その中で対峙する可能性が高い人物は大きく2人――二組織と言ってもいいかもしれない。

 

 

 

 その一方がイリアステルの1人、逆刹のパラドックス。

 

 他のイリアステルのメンバーもいるにはいるが対峙する可能性が一番高いのは彼であった。

 

 数々の歴史の変化(原作からの剥離)は未来を救おうとする彼らからすれば邪魔だと判断されてもおかしくはない。

 

 そしてそのパラドックスは遊戯・十代・遊星のドリームチーム相手に単身であと一歩のところまで追いつめる生粋の実力派デュエリストである。

 

 正面からデュエルは厳しいと考える。

 

 

 

 

 そしてもう一方がオレイカルコスの神によって操られたパラディウス社の総帥、ダーツ。

 

 一度世界を滅ぼし、新しい世界を作り出す事を目的としており、さらに闇遊戯ことアテムをそのために葬ろうと動くダーツだが、アテムがいなくなった場合大邪神ゾークが復活した場合に一番の対抗手段を失う。

 

 そしてオレイカルコスの神と大邪神ゾーク。どちらが勝利しようとも世界はどのみち滅ぶ。

 

 オレイカルコスの神が勝てば一応は今の世界の人々を犠牲に新しい世界が生まれる――だが結局は今の世界の住人である神崎は死ぬ。

 

 さらに最悪の場合オレイカルコスの神と大邪神ゾークが共倒れになりその余波で世界が滅ぶ。

 

 

 ゆえに神崎はダーツのラフェール・アメルダ・ヴァロンの三銃士集めを妨害。

 

 それに加え、パラディウス社そのものをダーツ、もといオレイカルコスの神が利用できない状況にするため、ちょくちょくパラディウス社に働きかけている。

 

 

 確実にダーツにとって目障りなので、いずれ対峙することは分かり切っていた。

 

 だが彼もまた遊戯・海馬のタッグ相手にあと一歩のところまで追いつめる程の実力を持つ。

 

 よってこちらも神崎は正面からデュエルするのは厳しいと考える――デュエルしたくない相手ばかりである。

 

 

 

 

 今後のことを考えて神崎にはやはり「デュエリストとしての成長」が不可欠だった――「冥界の王」の力を得ても根本的な部分は変わらない。

 

 つまり「カードの心」を知らなければならない。

 

 だがどうすれば「カードの心」を知ることができるのかが皆目見当もつかない神崎は「カードの心」と言うくらいなら「心」を鍛えればいいのだと結論付けた。

 

 そう! デュエルマッスル「心」バージョンである!!

 

 よってもっと過酷な環境に身を置き己の「体」、そして「心」を鍛えるべく動き出す――「冥界の王」の力のお蔭で多少の無茶はきく。

 

 

 違う、そうじゃない。

 

 

 そう言ってくれる誰かはどこにもいない。

 

 

 

 




原作 剛三郎「ドーマには関わるな……」

今作 剛三郎「関わるなと言っただろうが!!(目眩)」




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