前回のあらすじ
乃亜、召☆喚!!
羽蛾と竜崎、仲良く入社
シャーディーにしわ寄せが迫る!! の3本でした。じゃんけん、ポン! ウフフフ
とある屋敷に元海馬邸執事である小柄な老人に案内されるBIG5の一人、剛三郎の側近だった大門小五郎は目当ての人物との面会に漕ぎつけた。
「お久しぶりです。剛三郎様」
そう、大門は海馬剛三郎の元に訪れていた。
「よせ、既に儂は社長の座を追われた身、ただの老いぼれに過ぎん。それで今の儂に何の用だ」
剛三郎の話し、動く姿を見て大門は確信する――本人だと。
大門は神崎が匿っていると聞いていたが実際に目にするまでどこか信じられなかった。
だがその疑念も払拭された。ゆえに大門は用件を切り出す。
「今日はお伝えしたいことがあって参りました――」
「それは乃亜の治療が完了した件か?」
意を決して伝えようとした大門の言葉を先読みするように剛三郎は当てて見せる。
「ッ! どこでそれを!」
乃亜の復帰を今の剛三郎に知る術は無い筈だった。
「その反応を見るに本当のようだな……フン、神崎のヤツがわざわざ連絡してきた――まったくどこまでも読めぬ男だ」
本来この情報はこれ程あっさり剛三郎に伝える必要のないものだった。
乃亜の復帰の事実は剛三郎がいらぬ野心を巡らせるきっかけになりうるのだから。
ゆえに情報をせがまれても「治療中」や「安らかに息を引き取った」などと言っておけば今の剛三郎に追及する手段などないにも関わらず情報の開示。
乃亜を使い剛三郎が再び権力を取り戻そうと画策するとは考えないのだろうか……考えないんだろうな……
「それで大門、お前から見て乃亜の様子はどうだった――何かおかしな素振りはあったか?」
剛三郎は自然体を装い大門に尋ねる。乃亜のことを碌に見もせず利用していた剛三郎は自身が既に親と名乗れぬ有様だと分かっていながら聞かずにはいられない。
「いえ、とくには……我々が見た限り熱心に業務をこなしておられましたが……」
大門の言葉に嘘はなかった。大門とは長い付き合いだったゆえに剛三郎にはその言葉が真実だとはっきりと分かる。
だが確認するべきことはまだある。
「『儂に誇れるようになったら会いに来る』だったか?」
乃亜の「今、剛三郎に会わない理由」――神崎から聞かされたそれはさすがに嘘だと剛三郎は思っていた。
「!? ええ、そう仰っておられました。まさかそれも――」
「そうだ。ヤツに聞かされた――父親冥利に尽きるだろうとな」
――まさか本当だったとはな……
剛三郎は大門の様子を見てもまだにわかには信じられない――自身のしでかしたことの大きさゆえに。
「用件はそれだけか」
強い口調で突き放すように大門に確認するが、実の所、剛三郎は緩む頬を隠すので必死である。
だがそんな気分も次に続く大門の言葉に吹き飛んだ。
「いえ、もう一つ――KCに戻られる気はありませんか? 我々BIG5の中でも意見が分かれておりますが――」
大門は乃亜と剛三郎、この2人の力を合わせれば、あの海馬瀬人とて敵ではないと考えての提案だったが――
「よせっ!!」
かつてない程の形相で話を遮った剛三郎の剣幕に言葉が詰まる――大門は長く剛三郎に付き従ってきたがこんな剛三郎を見るのは初めてだった。
「しかし――」
「よせと言った筈だ!! ……どこで聞かれているか分からん――それに大門、何故儂が今生かされていると思うか考えてみろ」
なおも話を続けようとするが、問いかけられた剛三郎の問いに考え込む大門。そして出した結論は――
「それは神崎もいずれは海馬瀬人を排し、剛三郎様と乃亜様で共にKCをあるべき――」
そこまで話したところで剛三郎は「バカバカしい」と言わんばかりに鼻を鳴らす。
「フン、ありえんな。絶対にありえん。ヤツが瀬人に対して何を求めているのかは知らんが、仮にそれが終わったとしても……そこに儂が返り咲くことなど絶対にありはしない」
今の剛三郎は「生かしてやるから黙って座っていろ」と、神崎に命を握られている状態であると考えている――酷い誤解だ。
さらにその剛三郎の心を殺さぬように逃げ道のように与えられた己の「役割」。今それを果たせと言う声と笑みが見える――気のせいです。
「でしたら何故――」
答えに辿り着けぬ大門に剛三郎はヤレヤレと言いたげに首を左右に振る。
「分からんのか、『今のこの状況が』、これこそがその答えだ」
そう言われて大門は「今のこの状況」について考える。「ただ海馬瀬人を失脚させる」ための相談を――
――海馬社長のもとで力を振るうと「約束」した筈です。
そんな言葉を大門は思い出す。
「!? まさかっ!」
「ようやく気づいたか……今の儂は『踏み絵』といったところだ――『裏切り者』を炙り出すためのな。大門、それにお前はまんまとかかった訳だ」
大門の顔に絶望が浮かぶ。だが「そんなわけはない」筈だった。なぜなら――
「そ、そんな筈は――」
「落ち着け大門。貴様はどうやってここを知った」
「そうです! この場は神崎がセッティングしたもので――」
ここに大門を案内したのはほかでもない神崎だ。ゆえに「そんなわけはない」筈だと大門は考える。
「裏切り者」を炙り出すのが目的ならば「剛三郎」の居場所を探った段階で確定的に「黒」であるのだから。
それを聞いた剛三郎は己に割り振られた役割を果たす。
――まったく忌々しい男だ。
「なら安心しろ、大門。恐らく今回の一件は乃亜の存在で浮足立った貴様ら『BIG5』に釘でも差しておけと言うことだろう……」
「そうでしたか……」
安心した様子を見せる大門だが、その胸中にはまだ不安がくすぶる。それに見かねた剛三郎は励ますように言葉を続ける。
「まだ心配か? 安心しろ、ヤツはそう短絡的な行動は起こさん――今の儂でさえこうして生きているのだからな……」
剛三郎が知る神崎は血も涙もない男だが、逆にターゲットにされない限り余程のヘタを打たなければ直接的な被害はないに等しい。
しかし、そのターゲットにされる基準が全く分からない点が恐ろしくもある。
昨日までの仲間を今日あっさりと切り捨てるような精神性――剛三郎もそれに見舞われたゆえに。
さらに剛三郎はその余程のヘタを打ったモノを見たことがない。「既にこの世に存在していないだけかもしれんがな」と自嘲気に笑う――何度も言うが誤解である。
「今の貴様に出来るのはさっさとKCに戻り乃亜を支えてやれ……儂にはもうできん仕事だ――頼んだぞ」
剛三郎は過去を振り切るように大門に願い出た。
「ハッ! 了解しました。この命に代えても」
大門はその海馬剛三郎の最後の命令を心に刻む――何だかんだでKCは安泰であろう。
その乃亜はというと――
「神崎、今後正式採用されるデュエルディスクの件なんだが――」
業務中であった。そして神崎の仕事部屋の扉をノックしながら入室した乃亜を出迎えたのは――
「ん? 乃亜じゃねぇか。探す手間が省けてちょうどよかったぜ」
書類片手に部屋を出ようとしている牛尾だった。
「探す? 僕に何か用かい? すまないけど僕の要件が済んでからにしてくれないかな?」
乃亜は牛尾の横を通り過ぎ神崎を探すがこの部屋には見当たらない。
「そう言うなって、どうせ神崎さん捜してんだろ? 俺の用事もあの人がらみだ。お前に今回の留守を任せるだってよ」
「今回? どういうことかな? 今の発言だと度々留守にすることがあるように聞こえるけど?」
神崎はKCを離れることが多い。
スカウトや特定の人物との接触、他の人間に任せ辛い「オカルト」部分の対処や謎のデュエリスト(笑)としての活動など、その仕事は多岐にわたる。
だがその大半が部下に話せない事柄を多分に含んだものがあるため、「少し出かける」程度の情報しか与えられない実情があった。
「まぁあの人はあれでなかなか忙しいみてぇだしな。でもいつも必要になるモンは全て揃えてくれてっから後は指名されたヤツが代理で指揮とるだけだ」
そして牛尾は若干言い難そうに考えた後で話を続ける。
「いつもはギースの旦那が仕切ってたんだが、今回は別件でいねぇからお前さんに話が回ってきたわけだ」
「僕がギースの代わり? 少し面白くないね」
ギースがいないため「仕方なく」とも取れる言葉に僅かに不満を覗かせる乃亜。
「そう怒んなよ……ほらオメェはまだ若ぇんだからその辺を考慮したんじゃねぇか? ああ、そういや見た目通りの歳じゃなかったんだっけか?」
「そうさ、瀬人に出来る会社経営が僕に出来ないわけがないだろう? 後、子供扱いは止めてくれ」
乃亜はかつてはKCの後継者と言われていた。ゆえに今のKCの後継者海馬瀬人に対抗心を燃やしている。海馬瀬人に出来て自分が出来ないわけにはいかないのだと。
「おうおう自信がおありのこって……だが俺もまだ此処に来て日の浅いオメェのサポートを言いつかってるんでな、丸投げってわけにはいかんのよ。それに今後の留守は基本的にオメェに任せる旨も伝えられたしな」
「おや? まだ新入りの僕にそこまで権限を与えてよかったのかい?」
その言葉に長年神崎の部下であった古株のギースよりも上の扱いだと感じとり、一応問題がないのか牛尾に問いかける乃亜。
「これが大丈夫なんだよ。この部署は実力主義なKCの中でも異色だからな。それにギースの旦那は別件の方に回されるみてぇだし、適材適所だとよ」
牛尾のその発言によりギースの方が任せられる仕事の範囲が大きいと感じ取る乃亜。
「…………そうかい。なら可能な限り頑張らせてもらうよ」
新参者の乃亜に大よその全権を預ける神崎の行為。
それは果たして信頼の証かそれとも――
――この僕を試すつもりかい、神崎?
そんな内心を留めつつ、乃亜は己の仕事に取り掛かった。
とある地下工場で神崎は「謎のデュエリスト(笑)」の恰好で棺に入ったミイラを所定の場所に運んでいた。
所定の場所に運ばれたこのミイラの名は「アヌビス」、古代エジプトの王だった頃のアテムの時代に生きたままミイラにされた男。
早い話が遊戯王DMの劇場版「光のピラミッド」に登場したボスキャラである。
劇中では千年パズルの力を感じ取って蘇り、闇遊戯を海馬に倒させ、その後海馬を倒し破壊の王として君臨しようという計画を立てていた。
この話において神崎が注目したのは復活した際に「博物館のミイラが消失した」ことである。
つまりアヌビスにとってこの自分自身のミイラは自身が復活する上で必要不可欠なものであると神崎は考えた。
――話は戻る。
その所定の位置に置かれたミイラを確認した神崎はあるレバーを掴む。
「破砕機」の起動レバーである。ちなみにオカルトパワーにより出力が大幅に上げられている。
今回の計画は神崎が世界の危機を引き起こすアヌビスを確実に葬るためにアヌビスのミイラを手に入れ、それを粉微塵に粉砕し、アヌビスに物理的に冥界に帰っていただく計画であった――おい、デュエルしろよ。
そして起動レバーが引かれた。
アヌビスにとっての死の箱が音を立て動き始める。「ギャリギャリ」と音を立てて破砕機に呑みこまれたミイラ。
何かが砕ける音と共に断末魔のような叫びが聞こえる。
その声を聞いた神崎は破砕機の出力を上げた。
――擦り潰す
――すりつぶす
――スリツブス
もはや殺意を持って作動している破砕機。だがミイラことアヌビスも黙って砕かれている訳ではなかった。
破砕機の隙間から見えるミイラの細枝のような体は謎のオーラと共に筋骨隆々な肉体へと変化し、窪んだ眼の髑髏のような顔はくすんだ金の髪に浅黒い肌、そして親の仇でも見るような目で謎のデュエリスト(笑)の恰好をした神崎を睨んでいた。
だが破砕機は止まらない。
神崎は念のためと素性を隠すための恰好をしていてよかったと考えつつ、破砕機の出力をさらに上げる――もはや後戻りはできない。
だが不意に破砕機が止まる。
その破砕機の急な停止の真相は――当然アヌビスが闇の力をもって内部から破壊したからである。
アヌビスもまさかこんなところで闇の力を使うとは思っていなかったであろう。
破砕機の残骸からアヌビスが降り立ち神崎に敵意を向ける――無理もない。
「貴様……よくも我を…………ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
アヌビスの敵意が殺意に変わり闇の力が溢れるのを見た神崎はデュエリストに言葉は不要とデュエルディスクを構える――「物理的な手段は通じないだろう」とどこかで考えていたゆえにその対応は早い。
ちなみにこのデュエルディスクはBIG5のデュエルリング工場長を務める大田宗一郎から「良い一品ができた」と試作品の一つを頂いたものである。
そのデュエルの意思を見せた神崎の行為を無視し神崎に闇の力をぶつけようとするアヌビス。
彼のデュエリストとしての名誉のために言っておくと今現在アヌビスは怒りで我を忘れているだけである。デュエルを拒否したわけではない。
止まる気配を見せぬアヌビスに神崎は次なる手を打つ――それは人造闇のアイテムの使用の決断。そして素早く右手を正面に伸ばす。
「起動」
その言葉と共に手の甲から摩訶不思議な鍵のようなものが浮かび上がり、空間に軋みを生み出しゲームの舞台が生まれた。
そしてアヌビスと神崎の間に立つように厳かな椅子に座した黒い鎧を纏った幽冥の王が瘴気を放つ。
突如として現れた巨大なプレッシャーを放つ幽冥の王の姿に警戒を見せるアヌビス。
そして何も語らずその場に佇む神崎こと謎のデュエリスト(笑)――内心の動揺と戦うのに忙しいようだ。
すると2人の頭の中に声が響く。それは幽冥の王が発したものだった。
声は尋ねる。勝負の方法と賭けるものを――
いきなりではあるが――説明しよう!
このKCで極秘裏につくられた人造闇のアイテム――通称「精霊の鍵」はオカルトパワーを特殊な物質に込めて作られたものである!
起動した場合に一方のプレイヤーが「勝負の方法」か「賭けるものの大きさ」どちらか1つを決めることができ、もう一方のプレイヤーが残りを選ぶ。
さらにこの人造闇のアイテムがもたらすものは
勝負方法の公平化と
勝負している間のその勝負方法以外でのプレイヤーの安全の確保、
そして賭けるモノのレートの設定と平等化に
公平な審判の4つである。
その審判は込めた精霊の力により下級・上級・最上級の鍵があり、その込めた力に準ずる力を持った使用者が無意識にイメージしたデュエルモンスターズの精霊の姿を形作る。
今回の闇色の鎧を纏った王の正体は最上級モンスター《冥帝エレボス》だ!
神崎がアヌビスが冥界の王へとなることを知っているが故に「冥」繋がりで無意識にイメージしたのだろう――圧倒的に想像力が足りないよ。
ちなみに、下級の鍵には使用制限がかかり、より上位になればその使用制限がなくなるのだ!
再び話は戻る。
アヌビスは《冥帝エレボス》の力がこの空間を包み込んでいることを察知する。
そして《冥帝エレボス》を呼び出した男を倒せばこの空間が解除されるのだろうと当たりをつけた――その予想は半分正解であった。この空間はこの勝負が決すれば解除されるのだから。
状況把握に努めるアヌビスを余所に闇の力での攻撃を警戒した神崎は「勝負方法」の決定権を選択。
「勝負方法はデュエル」
その宣言を聞き遂げた《冥帝エレボス》はアヌビスに問いかける。
頭に声が響く――勝負方法に異論があるか否か、否ならば賭けるもののレートの決定と相手の何を欲するかを。
「デュエル――ディアハか! 我に異論はない! ならば我が勝利した暁には貴様の命――生命エネルギーを貰おう!」
アヌビスが怒りのままに神崎に賭けさせたものは「命」と同義語である。
言外に「死ね」と同意義の言葉をぶつけたアヌビスは、腕からデュエルディスクと思しきものを生み出し構える――彼もやっぱりデュエリストだった。
再び頭に声が響く――相手の決定に異を唱えるか否か、否ならば同程度のものまで何を賭けるかを。
神崎はどうにかして賭け金を下げたいと考えるが、アヌビスの怒りに燃えた様子を見る限り望み薄である。ゆえにアヌビスから神崎が必要なものを賭けさせる。
「…………全知識」
アヌビスを指さし可能な限り凄みを出しながら答える神崎――心理フェイズは重要である。
《冥帝エレボス》は了承の意を2人の頭の中に直接伝え、頬杖を突きながらもう一方の手を地面へとかざす。
すると2人と1頭を囲むように炎のような光が奔り陣が敷かれた。
――デュエル開始
精々楽しませろ、とでも言いたげな宣言が頭の中に響くと、2人のデュエリストはデッキからカードの剣を引き抜く。文字通り命を賭けたデュエルがここに始まった。
アヌビスさん劇場版での使用カード4枚ってさすがに少なすぎるよ……(泣)
しかも恐らくすべてが「特殊なカード」なのでピン挿し
よってアヌビスのデッキにかなり色んなカードを盛り込みます
今更ではありますがどうかご容赦を。