キース「トゥーン・リボルバー・ドラゴン、結構いい感じだな……」
サクリファイス「もうGXまで出番なさそうだし、しばらくは井戸で昼寝でもするかぁ!」
サウザンド・アイズ・サクリファイス「そだな!」
ネクロフェイス「賛成ー!」
ペガサスのライフが0になりデュエル終了のブザーが鳴る。
だがMr.クロケッツはいまだにペガサスの敗北が信じられない。
そんなMr.クロケッツの後ろからそっとマイクを取り壇上に上がるシンディア。
そして静かに宣言する。
「そこまでです。このデュエルの勝者は――キース・ハワード氏です!」
伝説が今ここに再臨した。
勝利者であるキースに近づき手を差し出すペガサス。
「キース、とても素晴らしいデュエルデシタ――デュエルが終わったと言うのにワクワクが止まりマセーン。ワタシがこの大会を開催したのは間違っていなかったようデース! そうデース! 握手してもらえまセンカ?」
茶目っ気を含んだペガサスの要望にキースは快く応える。
「ああ、あの時の借りをようやく返せたぜ……」
互いを讃え合う2人。
「負けたことがとても悔しいデース! こんな気持ちはいつ以来か分かりマセーン!」
朗らかに笑いながらペガサスは互いを全力でぶつけあえるライバルの存在を1人のデュエリストとして喜んだ。
そんなペガサスにキースはニヒルに笑いながら応えた。
「なら今度はテメェがチャレンジャーとして挑みに来な――チャンプとして、そして1人のデュエリストとして相手になるぜ」
「What? ワタシが? Oh! それも楽しそうデース!」
今のキースの力強さは多くのデュエリストたちとぶつかり合った素晴らしき絆の賜物。その世界に自身を投じてみるのも面白そうではあるとペガサスは考える。だが――
「お誘いはありがたいデース……ですがワタシはカードを生み出す――イエ、向き合うことも好きなのデース! 故にその件は保留としマース!」
ペガサスはデザイナーとしても第一線で戦いたかった。
その言葉に視界の端でホッとする月行――テレビの前のペガサスミニオンも同じ気持である。
そんなペガサスにそっと寄り添ったシンディアもキースに感謝を示す。
「キースさん、今回は本当にありがとうございます。ペガサスに最高のデュエルを届けてくれて……」
「なぁに……俺様はただ1人のデュエリストとして全力で臨んだだけだ」
キースに感謝されるほどのことじゃないと伝えられても、シンディアは小さく苦笑しながら伝える。
「それでも私にあるのは感謝の気持ちだけです――ありがとうございます」
こうしてペガサス島での大会――
帰りの船に向かう遊戯たち、そんな彼らの行く手を遮るように海馬が仁王立ちしている。
「俺たちになんかようか、海馬?」
代表して用件を聞いた城之内。だが返ってきた言葉は辛辣だった。
「馬の骨である貴様に用はない……」
「なんだと! 海馬ァ! てめぇ!」
「まあまあ落ち着けよ、城之内」
海馬の挑発に憤慨する城之内。そしてそれをいさめる本田。
そんな2人を無視して遊戯に歩み寄り海馬は宣言する。
「遊戯! 貴様に言っておくことがある! 今回のデュエル、敗れはしたが俺達のデュエルはまだ終わってはいない!」
そして遊戯を力強く見据え締めくくる。
「俺と貴様の戦いのロード、またいずれ交わることだろう! その時まで貴様に勝利を預けておいてやる!! 行くぞ! モクバ!」
「うん、兄サマ! お前らもまたな!」
そうして海馬兄弟はヘリで待つ磯野の元へ向かった。
その後ろ姿を見つつ本田は呟く。
「相変わらず嵐みてぇな奴だな……」
「でも海馬君がカードの心を分かってくれてうれしいよ!」
「そうか~? あんまり変わってねぇように見えっけどな……」
遊戯の祖父が伝えたかったことを海馬が解ってくれたと遊戯は喜ぶが、城之内は懐疑的である。彼の眼にはあまり変わったように映らない。
そこに獏良があることを思い出す。
「そういえば準優勝者にも賞金は出たんだよね? 城之内君の妹さんの手術費用に使う筈だったけど、必要なくなっちゃったし――遊戯君の賞金はどうするの?」
「そういやそうだな。すげぇデュエルの連続で忘れちまったぜ。どうすんだ遊戯?」
本田が遊戯に尋ね、城之内が続く。
「別に遊戯の好きにすりゃいいだろ……でもかなりの金額だしなぁ」
お金の大事さを知る城之内は思わず、自分だったら――そう考えてしまう。
「もうお兄ちゃんったら……」
そんな兄の姿に静香は苦笑を返す。
「ならじいちゃんと相談してみるよ」
そして遊戯は自分だけでは判断できないと年長者である祖父の知恵をかりることにした。
そんな中、今まで沈黙を保っていた孔雀舞が遊戯たちに言葉を掛ける。
「さてと、悪いけどアタシは先に船に戻らせてもらうわ」
「なんだよ、行っちまうのか?」
まだ船の出港まで時間はあるため、仲間内で騒いでいたい城之内は引きとめるように返す。
「ええ、少し1人で考えたいこともあるしね」
だが孔雀舞はそれをそっと突き放すように断った。
孔雀舞は少し前の自身を思い出す。
彼女は自分は強者だと思っていた――だから1人で生きていけると考えていた。
だが世界は広い――上には上がいる。
キース・ハワード、全米チャンプ。
孔雀舞は自身の流れ者の気質故に戦う機会こそなかったが勝算はあると判断していた。
だが結果は終始キースのペースのままデュエルを進められた――惨敗と言っていいだろう。
そしてそんなキース相手にどこかでデュエリストとしてはまだボウヤだと思っていた城之内の思わぬ善戦。
新たな世代は唐突に芽吹く――下のものもいつまでも下にいるわけではない。
「アンタたちといるのも悪くはなかったけど――やっぱり、なんでもないわ」
――今のままだとただ寄りかかるだけになっちゃいそうだから、ね。
そんな弱みを孔雀舞は言葉にはできなかった。そして言い直すように言葉を続ける。
「別にアンタたちが嫌いになったわけじゃ無いわ。ただアタシはアンタたちと対等でありたいから――今は距離を置かせてもらうだけ……まぁ――」
そして軽くウインクしながら締めくくった。
「――アタシのワガママみたいなもんよ」
「それって――」
「舞さん! この大会では色々とありがとう! またいつかデュエルしようね!」
そんな言葉に何か言おうとする城之内をデュエリストとして孔雀舞の心情を感じ取った遊戯が止め、応援するように言葉を贈った。
「そうね。またいつか会いましょう」
立ち去った孔雀舞を見ながら城之内はどこかデュエリストとしての壁を感じていた――遊戯には分かった孔雀舞の気持ちが城之内にはまだはっきりと見えなかった故に……
そしてその後、本戦に残ったデュエリストに後から送られるペガサスが選び抜いたカードの話を続けていた遊戯たちにMr.クロケッツのアナウンスが耳に入る。
『皆様、まもなく船の出港時刻になります。準備がまだの方はお急ぎください』
アナウンスを聞き遊戯たちは自分たちの故郷を思い浮かべた。
「みんな帰ろう! 童実野町へ!」
一足先にヘリでKCまで戻る海馬兄弟。
そんな中、何か言いたげなモクバに海馬が問う。
「どうしたモクバ。何か言いたいことでもあるのか?」
「えっとあの、兄サマ、遊戯とのデュエル……残念だったね……」
「なんだ、そんなことか。確かに敗れはしたがあのデュエルで遊戯の実力は見切った。次に戦うときは奴に敗北を叩きつけてやる……」
「だよね! 兄サマ」
兄である海馬が落ち込んでいないかと心配だったモクバは海馬の勝利宣言ともとれる言葉を聞き安心するのであった。
そんなモクバの顔をみて海馬もまた弟の不安を取り除けて満足げだ。
確かに今回のデュエルで遊戯の実力を見切った海馬であるが、まだ勝利を確信することはできてはいない。
そして倒すべき相手が1人増えた――そして今の己ではまだ届かないだろうと……
だがどちらも「まだ」である。来たるべき戦いにそなえ牙を研げばいいだけのことだと海馬は手元の試作型デュエルディスクに目を落とした。
そんな心温まる?やり取りを聞きながらへリの操縦をする磯野は思わず目頭を押さえる。
ここ最近で涙腺が緩んできているようだ。
童実野町に帰る船の中でテーブルに突っ伏し竜崎は名刺を眺めていた。
――ぜひ専属デュエリストとして――
そう言って名刺を渡してきたKCに所属する神崎という男について竜崎は考えたことを口に出す。
「なんでワイなんやろな~」
竜崎の懸念はそこにあった。
今回の大会でベスト8に残りはしたものの結果はトーナメント1回戦負けである。
社長である海馬瀬人やアメリカに本拠地を置くキースはともかく。
なぜ準優勝の遊戯や全米チャンプを相手にあれだけのデュエルをした城之内でもなく、自分なのだろう、と。
「なんも考えへんかったら、普通にエエ話なんやけどな~」
大企業KCの専属デュエリストともなれば様々な面で優遇されることは容易に見て取れた。
「でも結構悪い噂あるしな~」
だが神崎という人間が引っかかる。風の噂程度だが後ろ暗いものがあるらしい。
しかし神崎という人間を実際にみた竜崎には只の人のよさそうな人間にしか見えなかった。
「まぁ、話ぃ聞くだけ聞いてみるか……天下のKCやし、いきなりどうこうされるっちゅうことはないやろ!」
竜崎は背伸びをしつつ、とりあえずの結論をだす。その一歩は彼の運命を大きく変えることになる。
童実野町に帰る船の中で全国大会優勝者に割り振られた部屋で羽蛾は不気味に笑いながら名刺を眺める。
――ぜひ専属デュエリストとして――
そう言って名刺を渡してきたKCに所属する神崎という男について羽蛾は喜びを抑えられずに言葉をこぼす。
「ヒョヒョヒョ! 遂に、遂に俺の時代がきた、きた、きたー!」
羽蛾は大企業KCの専属デュエリストという肩書に心躍らせる。
羽蛾は今回の大会でベスト8に残りはしたものの結果はトーナメント1回戦負けである。
だが準優勝の遊戯でも全米チャンプを相手に善戦した城之内でもなく、羽蛾自身が選ばれたことが自分の才能がキチンと認められたのだと拳を握る。
「あの大企業KCの専属デュエリストともなれば、ヒョヒョー! 笑いが止まらないぜ!」
自身の明るい未来を想像し笑いが込み上げる羽蛾。
「神崎とかいう奴には感謝しないとな~! ヒョヒョヒョッ!」
羽蛾は人のよさそうな印象の神崎なら羽蛾自身が必要とするものを手にするのは容易そうだと考えた。
「ヒョヒョヒョー! 帰ったらさっそくKCに向かうとするぜ~! ヒョヒョッ!」
その思惑が実るかどうかは彼の選択次第になるであろう。
童実野町に帰る船を見届けたペガサスはペガサス城で思い耽っていた。
そんなペガサスに月行が声をかける。
「ペガサス様、I2社への帰りの準備が整いました」
だがペガサスは返答しない。
「…………ペガサス様?」
不審に思う月行。様子を見るため傍に近づこうとした月行に「パンッ!」と乾いた音が聞こえる。
「What! 何事デース!!」
その音に驚き、立ち上がって周りをキョロキョロするペガサスに家具の陰から両の手を合わせて音を出したシンディアが前に出る。
「やっと気が付いた? ペガサスったらキースさんとのデュエルが終わってからずっとこんな調子なの。だめじゃないペガサス、月行の話をちゃんと聞かなきゃ」
シンディアのしょうがない人だと言わんばかりの顔にペガサスは申し訳ないと続ける。
「Oh! 2人ともスミマセーン! まだあのデュエルの余韻が抜けきっていないのデース!」
「アナタもやっぱりデュエリストだから熱いデュエルに惹かれちゃうのね。妬いちゃうわ……」
そんなシンディアの言葉にペガサスは慌てて言葉を紡ぐ。
「イエこれは違うのデース、シンディア! これはアナタを蔑にしたわけではありマセーン! ……!? そうデース! しばらくはこの大会のような大きな案件もありまセン――」
矢継ぎ早に話すペガサスにシンディアは優しい笑みを浮かべながら安心させるように言う。
「フフッ、そんなこと言わなくてもわかっているわ、ペガサス。私だってデュエリストですもの――それに私のデュエルの腕も上達してるはずだから、次勝負する時はちゃんと全力を出してね?」
デュエリストとして全力で戦ってほしいというシンディアの願いに困るペガサス。
「これは痛いところを突かれてしまったようデース!」
そんな朗らかに笑うペガサスの姿を眺めながらシンディアはペガサスの休暇の件である考えを思いつく。
「そうだわ! 久しぶりにお休みが取れるなら、みんなと一緒にピクニックにでも行かない? たまには家族みんなの時間も必要よ?」
「ナイスアイデアデース! それではどこか良さそうなところをチェックしておきマース!」
手を合わせていい考えだと提案したシンディアにペガサスも同意する。
そんな中、月行は自信を持って宣言した。
「御二人が留守の間のI2社のことはお任せください」
「? 何言ってるの? アナタたちも行くのよ――月行? 夜行たちと一緒に――それとも私たちと一緒は……イヤ?」
悲しそうに問いかけるシンディアに月行は慌てて否定する。
「い、いえとんでもございません! ですが本当によろしいのですか……」
「貴方はそんなこと気にしなくていいのよ」
月行にそっと笑いかけるシンディア。
「そのとおりデース! 親子一緒に楽しむことだって重要なことデース! そうときまれば善は急げデース! さっそくI2社に戻りマース!」
話は纏まったとペガサス城を後にI2社へ向かうペガサス一行。
部屋の外で待機していたMr.クロケッツはこの幸せを守っていこうと決意を新たにした。
大会の後始末を終え積もる話もあるだろうと牛尾を遊戯の元へ送り、そしてKCに帰る神崎は考えを纏めるようにひとりごちる。今回は想定外のことが起こりすぎた。
「さて、想定外の出来事はあったものの興業としては成功といっていい――想定外の産物となったキース・ハワードにも一応の恩は売れた」
大会の結果様々な面でKCが潤うことは容易に想定できた。
そしてキースの全米チャンプとして動き難いであろう状況での今大会の招待と諸々の手続き――恩と言えなくもない。
「そして『武藤遊戯』いや、『アテム』と言うべきか……成長を促すべきか? いや、『雑味』になりそうなものは排除するべき、か」
だが今回の一件で失った「勝利の象徴」――大きすぎる損失だ。その補填も難しい。
「デュエリスト」――それは世界の破壊から創造まで関わる常識では計れぬ理外の存在。
彼らのカードゲームのプレイヤーとしての強さと「デュエリスト」としての強さは大きく違う。
神崎には後者を「心」を強くすることだと一応考えてはいるがそれが正しいのかはまだ分からない。
そして世界のタイムリミットは大邪神ゾークことバクラの闇のゲームまで――それ以外の事件は解決する糸口がなくはないが、大邪神ゾークに関しては「武藤遊戯」と「アテム」の両名でなければならない。
――いくつか手を回す必要があるが、それよりも現段階での一番の問題は「イリアステル」か……
今回の一件で本来の
シンディアの生存で既に逸れてはいたがここまで大きく逸れた以上、イリアステルも黙ってはいない。
イリアステル――それは「遊戯王5D's」にて登場した破滅した未来から「破滅の未来を変える」ため過去へと渡り様々な手段を講じるものたち。
彼らイリアステルから神崎がどう映っているのかは分からないが、十中八九自身が排除されると神崎は考えている――彼らにとって余計なことを知りすぎてしまっている故に……
だが今現在こうしていられる以上今すぐにどうこうされることはないことがチャンスだと神崎は思うしかない。
――まずは今の私がどこまでやれるか試してみるとしますか。
神崎はただで死ぬつもりはさらさらない。
そんな覚悟を決めた神崎の電話が鳴る。
『こちらギースです。至急お伝えしたいことが』
「どうかしましたか?」
ギースからの緊急の案件――今のKC内で緊急を要する案件は決して多くない。
『ツバインシュタイン博士が「準備は完了。後はエネルギーの問題のみ」とのことです』
「そうですか……わかりました。ああ、そうだ――至急用意してもらいたいモノがあるのですが――」
神崎が電話越しにギースに伝えた「必要なモノ」。だがギースにはそんなものが何故必要になるのかわからない。
『何故そんなものを? ……いえ、了解しました。すぐに手配します』
だがギースはその疑問を問いかけてしまうがすぐさま撤回する――きっと今の自分には「知る必要のないこと」なのだろうと……
「では、よろしくお願いします」
通信を終えた神崎は今後のプランを組み立てる。可能な限り「障害」を排除しつつ、これからに備える為――彼を縛っていた鎖は既にない。
負けられない勝負が怖い。世界の命運どうすんだよぉ……
なら強いデュエリストを沢山作ればいいじゃない
そんな計画。
そんなこんなで
次はバトルシティ編だ!