マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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今回は――悩みました

前回のあらすじ
遊戯と城之内の友・情(意味深)パワーが
キースを打ち砕く……(意訳)





第32話 その一撃は重く

 武藤遊戯のデュエルは常に「誰かのため」のデュエルだった。

 

 祖父、武藤双六の想いを海馬に届ける為に

 

 親友、城之内克也の妹の治療費のため

 

 ライバル、海馬瀬人の想いを受け止めるため

 

 だが今の遊戯にある想いは「このデュエリストに勝ちたい」――そんな自分自身のためのデュエルだった。

 

 そんな自分だけの想いにも親友(とも)のカードが力を貸してくれ、《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》の攻撃が《リボルバー・ドラゴン》を突き抜けキースに直撃。

 

 だが会場の誰もが声を発することが出来ない――遊戯もまだ実感がわかなかった。

 

 

 静寂が場を支配する。

 

 そしてMr.クロケッツが高らに宣言した。

 

「そ、そこまで! 勝者! 武藤遊戯!」

 

 その宣言により己の勝利を実感し思わず自身の拳を握り、片手を掲げた遊戯と共に会場全体の喝采により震えた――新たな伝説の到来に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キースの周囲を覆っていた煙が晴れていく中、キースに歩み寄ろうとした遊戯。

 

 だが不意にその足は止まる。

 

 そして遊戯の目に映ったのはキースの背後に佇む多くのデュエリストの姿。

 

 

 少年デュエリスト、トム

 

 カードプロフェッサーを含めた数々の挑戦者たち

 

 遊戯の仲間である、孔雀舞

 

 遊戯の親友、城之内

 

 そして2()人の遊戯の姿

 

 だがその姿はすぐに煙のように消えていった。

 

 

 錯覚だったのかもしれない――だが遊戯は錯覚だとは思えなかった。

 

 

 数多のデュエリストすべての想いを背負ってキースはこの場に立っている――ペガサスとの再戦などかなぐり捨てて、遊戯に挑んでいたことを知った。

 

 

――これが「世界」か……

 

 遊戯はそう思いながらこのデュエルを戦い抜けたことに思いをはせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キースLP:100

 

 だが視界に入ったその情報に遊戯の目は驚愕に見開かれた。

 

「……なに……が……」

 

 《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》の攻撃は《リボルバー・ドラゴン》を確かに貫いた――その証拠として《強化支援メカ・ヘビーウェポン》は代わりに破壊されている。

 

 そしてキースの手札0、フィールドには《リボルバー・ドラゴン》のみ、墓地で発動するダメージを0にするようなカードもない――《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》の攻撃を防ぐ手立ては何一つない筈である。

 

 その遊戯の見立ては間違っていない――キースは攻撃を防いだわけではないのだから。

 

 

「俺様が発動した《魂のリレー》のもう一つの効果、この効果で呼び出したモンスターが俺様のフィールドにいる限り俺様の受けるすべてのダメージは0になる」

 

「……《魂のリレー》?」

 

「ああそうだ。説明が遅れちまって悪い、こっちも余裕がなくてな」

 

 遊戯の攻撃の際にキースの手札の《リボルバー・ドラゴン》を呼び出したのは《ヒーロー見参》ではなく《魂のリレー》の効果――キースは《ヒーロー見参》を発動したとは言っていない。

 

 その効果を知らせる前に遊戯の《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》が攻撃を続行したため、その段階で《ゲットライド!》の効果を発動せねばならず、知らせるタイミングを逃してしまった故に起こった認識の相違――キースはプロとして己を恥じた。

 

 

「そして《リボルバー・ドラゴン(コイツ)》がフィールドから離れちまった時は俺様の敗北になっちまう……まさに運命共同体ってワケだ」

 

 

 まだデュエルは終わってはいない――だが既に遊戯は打てる手を打ち尽くした。

 

 

「……俺はバトルを終了するぜ。そして《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》の攻撃力は元に戻る……」

 

 《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》を覆っていたオーラが消えていく。

 

《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》

攻5400 → 攻2800

 

「そしてこのカードはバトルを行ったエンドフェイズ時に、ゲームから除外されるが、永続罠《王宮の鉄壁》により除外されずフィールドに残る――ターンエンドだ」

 

 

 遊戯は静かにターンを終える。

 

 

「俺様のターン! ドロー!」

 

 遊戯にはキースのドローする姿がやけに遅く感じる。

 

「《リボルバー・ドラゴン》の効果を《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》を対象に発動!  ロシアン・ルーレット!!」

 

 《リボルバー・ドラゴン》の頭と両手の回転式拳銃のリボルバーが回転を始めた。

 

 

 その効果の結果を遊戯は心のどこかで確信している。

 

 

 銃弾を受け身体に大穴を開けられ膝をつく《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》。

 

 その姿は幻影のように消えていった。

 

 

「バトルだ! いいデュエルだったぜ――《リボルバー・ドラゴン》でダイレクトアタック! ガン・キャノン・ショットッ!!」

 

 キースの宣言と共に《リボルバー・ドラゴン》から放たれた弾丸を 遊戯は満足気に受け入れた。

 

遊戯LP:1700 → 0

 

 

 

 

 

 

 今度こそデュエルは決着を見せる。

 

 だが会場の誰もが声を発することが出来ない――このデュエルの終わりを自覚できない。

 

 そしてMr.クロケッツが頷くペガサスを一度視界に入れ、今大会の優勝者の名を今度こそ宣言する。

 

「勝者、キース・ハワード!!」

 

 

 その声と共に再び会場が喝采に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 勝負を終え、脱力する2人のデュエリスト。

 

 だが敗北したはずの遊戯の心は晴れやかだった。

 

 そんな満足げな遊戯にキースがそっと手を差し伸べる。

 

「テメェのデュエルに込めた仲間との友情――響いたぜ」

 

 デュエルを通じて感じた想いを込めたキースの握手に応じながら遊戯も自身の想いを伝える。

 

「俺も全米チャンプの何もかも背負い突き進むデュエル――熱くなれた」

 

 2人のデュエリストはデュエルを通じて互いの心の内を通わせていた。

 

「これで次はペガサスとの戦い――俺も戦ってみたかったぜ」

 

 その遊戯の言葉にキースは一瞬の疑問を見せ、すこし時間を置いて思い出す――

 

「……ん? ああ! そういやそうだったな……忘れちまってたぜ――ペガサスとの再戦」

 

――キースがこの大会に参加していた目的を。

 

 そして遊戯にニヒルに笑いながら続ける。

 

「だがまあ――それだけこのデュエルが最高だったってことさ」

 

 その一つ一つのデュエルに全てを燃やし闘うキースの姿に遊戯の口から言葉が零れた。

 

「アンタと――いや貴方と戦えたことを俺は誇りに思う……」

 

 その「貴方」という言葉にキースはどこかむず痒そうだ。

 

「よせよ。これだけのデュエルをした仲じゃねぇか――もっと普通で構わねぇさ」

 

「……そうか、なら――次に闘うときはアンタを超えて見せるぜ!」

 

 キースの手を強く握る遊戯。

 

「そうかい――だったら、俺様も次のデュエルの機会までに腕を磨いておかねぇとなぁ!」

 

 キースの手を強く握り返した遊戯を見てキースは思う――紙一重だったと……

 

 

 キースは今回のデュエルで勝てたのは相手がどこか「大会」慣れしていなかった故であり、次に戦えば勝てないかもしれないと思っている自分がどこかにいるのを感じていた。

 

――本当に俺様もうかうかしちゃいられねぇな……

 

 新たな世代の芽は着々と育っている。

 

 

 

 そしてMr.クロケッツが大会の進行を始めようとする姿を視界に収め、それを促す。

 

 そのキースの姿にMr.クロケッツは軽く会釈し大会を進行し始めた。

 

「今大会の優勝者には2つの栄誉が授与されます。その1つは賞金ですが、もう1つの栄誉こそがデュエリストにとってのなによりの栄誉となるでしょう!」

 

 Mr.クロケッツは少しの溜めと共にその栄誉を指し示す。

 

「そう! 『デュエルモンスターズの創造主――ペガサス・J・クロフォード氏へのデュエルの挑戦権』です!」

 

 そのMr.クロケッツの言葉と共に観客席の一角にスポットライトが当たり、ペガサスがゆっくりとキースと遊戯に歩み寄る。

 

「ブラボーなデュエルでしたキース、そして遊戯ボーイ。アナタたちのようなデュエリストの存在はデュエルモンスターズを生み出したものとして大変喜ばしいものデース。そしてキース、アナタにはワタシへの挑戦権がありマース」

 

 ペガサスは人差し指を立てキースに提案する。

 

「But……デスガ少し時間を置いてからにしてもらいたいデース……」

 

「……構わねぇぜ」

 

「Oh! なら好きにさせてもらいマース! ……ですがアナタも分かっているはずデース。アナタは数々のデュエリストたちとの激闘でヘロヘロのハズ……ワタシは今回のデュエルはお互いに悔いの残らないように最高のコンディションで行いたいのデース!」

 

 ペガサスは会場の観客を視界に収めて自身の手を耳にあて、茶目っ気タップリに問いかけた。

 

「みなさん! それでヨロシイデスカ~?」

 

 返答は大歓声であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………ありえない」

 

 そんな大歓声の中で呟かれた言葉を聞いたものはいない。

 

 




今度こそ決着です

…………色んな意味で大丈夫かな



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