マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
超大手企業に就職! やったね!――おい馬鹿やめろ




第2話 運命って残酷

 

 

 KCの入社が決定した神崎は泣く泣く出社し仕事に励もうとするも剛三郎に呼び出しを受ける。

 

「貴様には新たな部署を立ち上げてもらう。あるのだろう?今の軍事産業を超える代物が――期待しているぞ。結果が出なければ……わかっているだろうな」

 

 そう葉巻を吸いながら問いかける剛三郎――その眼光は鋭い。

 

 入社早々無理難題を突き付けられる神崎――自業自得ではあるが。

 

 社長である剛三郎の直々の命令に逆らえるはずもなく普段から浮かべている営業スマイルを維持しつつ「もちろんです。ご期待に沿えるよう全力で頑張らせていただきます」と答えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 神崎は頭を抱えつつも思案する。絶望的状況であるが希望の種はあるのだと自身に言い聞かせ、自身の持ち札を確認する。

 

 資金と人材はある程度は好きにして構わないとのことだが、普通の医療技術を発展させていくだけでは剛三郎が満足する結果は望めないと考え賭けに出る。

 

 それは「オカルトに頼る」である。

 

 遊戯王5D'sに登場する十六夜アキはサイコパワーというモンスターを実体化させる能力を持っていた。そしてこれがのちに癒しの力へと昇華するという現象がある。

 

 それと同じように、闇のゲームでリアルダメージを与える現象を利用できないかという考えである。

 

 

 しかし、当然ながら神崎には闇のゲームを扱える友人などいない。

 

 仮にいたとしても闇のゲームを扱うものはその闇にのまれる故か過激な思考を持つものが多く、手元に置くには危険すぎる現状があった。

 

 それ故に神崎は別のアプローチ手段として同じオカルトに分類されるデュエルモンスターズの精霊の摩訶不思議な力を医療分野で活用することにしたのである。

 

 しかし、神崎には精霊が見える友人などいない。

 

 友達が少ないなどとは言ってはいけない。

 

 だがアテはあった。

 

 遊戯王GXに登場するギース・ハントとツバインシュタイン博士の存在である。

 

 ギース・ハント――デュエルモンスターズの精霊を捕まえ売っていた裏世界のデュエリスト。

 

 原作では少年トムからジェリービーンズマンの精霊を奪っていくなどの悪行を行い最後は精霊たちにフルボッコにされる男である。

 

 つまり、精霊が見える男。

 

 

 そして、アルベルト・ツバインシュタインことツバインシュタイン博士――量子力学などを基に異世界の研究をしている研究者。

 

 ようは異世界=精霊世界を研究している人。

 

 つまり、精霊関係の研究している人。

 

 

 彼らの力がオカルトを科学的に解明し活用するうえで必要であり神崎の首が物理的に飛ぶのを防いでくれるかもしれないためKCの情報網をつかい彼はスカウトに出向く。

 

 

 結果的にスカウトは問題なく行えたようだ。

 

 

 ギースの方はまだ精霊狩りなどはしておらず、人に見えないものが見えることで悩み周囲から孤立し、疑心暗鬼になっていた。

 

 そのため精霊の存在を教えつつ神崎の「私は君の味方になれる」「一緒に頑張っていこう」などと聞こえの良い言葉でKC入社を促しスカウトに成功。

 

 まるで詐欺師である。

 

 

 一方、ツバインシュタイン博士の方はまだペガサスがデュエルモンスターズを作っていないためか研究に理解が得られず研究資金集めに対して四苦八苦していた。

 

 ゆえにKCの資金力を前面に押し出し「ある程度のこちらの要望に沿ってくれれば望むままに研究してくださって構いません」という神崎の提案にすさまじい勢いで食いつきそのままKC専属の研究者としてスカウトに成功。

 

 

 そして、オカルトの研究が始まる。

 

 

 しかし、今後の方針を説明した神崎に対してKCの技術者・研究者たちは懐疑的であった。

 

 だがそれも当然である。いきなりオカルト現象を解明するなどといっても頭がおかしくなったと思われるだけだ。

 

 神崎自身も前世の知識がなく逆の立場なら「何言ってんだコイツ」となることは理解していたが自身の命がかかっているため研究するように明言するしかない。

 

 

 だが懐疑的であったKCの技術者・研究者たちは精霊の観測が成功した段階で喝采が上がった。

 

 ツバインシュタイン博士やギースに握手を求め褒め称える。

 

 このプロジェクトを計画した神崎に対する態度も「ストレスで頭がやられた男」から「先見の明がある男」にランクアップ ! エクシーズチェンジ !! ――熱い掌返しである。

 

 

 新しいおもちゃを手に入れた子供の様になった彼らは次々と新しい治療法や薬を開発していく、ここから剛三郎が満足するであろう水準まで利益を上げねばならない。神崎の出番である。

 

 

 

 

 

 彼は実用化に足る治療法・技術をもって全国の富豪達と商談にあたる。

 

 富を持つものが最も危惧するであろう「死」を遠ざけるものを富豪達が欲しないわけがなかった。

 

 中には疑う者もいたが実際に病魔を退けた実績とKCの名も相まって商談は順調に進んだのである。

 

 

 そうこうしているうちに、噂を聞きつけた資産家の男性が鬼気迫る様子で神崎に詰め寄る。「娘を治してくれ」そう言って男は頭を下げる。

 

 

 神崎が詳しく話を聞くと

 

 

 その資産家の娘は医者が匙を投げる病気に苛まれ、後は死を待つだけであり、そんな娘のために世界中を回り治療法を探している時、KCの新たな医療の話を聞き藁にもすがる思いで駆け付けたとのこと。

 

 娘の命が助かるなら悪魔にでも魂を売るという男の覚悟である。

 

 さらりと悪魔扱いされた神崎だがこの資産家の覚悟を好機と捉える。

 

 

 前々から新たなスポンサーの存在を探していた神崎だが、生半可な富豪にはツバインシュタイン博士ら研究員たちが湯水のように使う研究費を補えない。

 

 ゆえに彼らが十全に研究しても潰れないスポンサーになりうるこの資産家の男はまさに鴨がネギを背負ってきたものであった。

 

 

 そして神崎は資産家の娘をVIP待遇で迎え入れ、治療法について話し合いを進めていく。

 

 

 患者である少女に不信感を待たれないように、警戒されないように、神崎にとって彼女の治療は決して失敗してはならない案件である。

 

 失敗すれば世界有数の資産家の男に神崎は潰される。

 

 そうなればKCも彼を助けずトカゲの尻尾切りとするであろう。

 

 

 そうした努力のためか世間話に花を咲かせられるまでに少女の信頼を勝ち得た神崎。

 

 その世間話の中で出た恋人の存在を知る。

 

 画家である少年は外に出れない少女に世界の景色を届けてくれるのだと、神崎は砂糖を吐きそうになる少女の惚気を嫌な顔一つせず笑顔で聞き続ける。

 

 友人のほとんどいない非リアな神崎にとって「こうかはばつぐんだ」であった。

 

 だが恋人が見舞いに来ないことに不審に思い神崎が問いかけると。

 

 恋人には今回の治療の話は伏せておくとのこと。ぬか喜びさせたくなく、さらにこっそり元気な姿を見せて驚かせたいのだと少女は笑って答えた。

 

 強い子だと神崎は思う。死の淵にいるであろうとは思えない輝きであった。

 

 こうして資産家の娘シンディアの治療が始まる。

 

 

 

 






遊戯王小説なのに全然デュエルしねぇなぁ……


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