マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
海馬復活ッッッ!! 海馬復活ッッッ!!
エクゾディアパーツたち、泳がずに済む。



第13話 闇に生きる悪魔よ、敵を切り裂き力を示せ!

 

 ペガサス島内でデュエリストがスターチップを巡り鎬を削っている頃、本戦会場であるペガサス城では――

 

 闇よりその青い体躯が現れ、血を吸ったかのように赤い翼を広げ周囲に突風を巻起こし、その剛腕からは全てを引き裂く悪魔の鉤爪が獲物を求めるかのように鈍く輝く。

 

 そして産声を上げるがごとくこの世のものとは思えぬ雄叫びを上げ、主人の傍にその存在を示していた。

 

 その悪魔の主人はというと――

 

 

 

 

 

 

「見て! ペガサス! これにカードをセットして投げるとモンスターが実体化するの!」

 

「シンディア様、ソリッドビジョンでございます」

 

 ほのぼのした空気に包まれていた。

 

 今にも「ゴォオオーシュゥートォオオー!」とでも言いだしそうな程に独楽(こま)のような機械を投げ続けるシンディアとツッコミを入れつつ見守るペガサスの側近であるグラサン黒服の老人Mr.クロケッツ。

 

 

 その独楽の正体は試作型デュエルディスクであり、遊戯との決着を付ける際にと海馬が生み出し、神崎にデータ収集も兼ねていくつか作らせたものの一つである。

 

 

 恋人の元気に喜ぶ姿に笑みをこぼすペガサスに神崎は急な要請に対応してくれたことに感謝を示す。

 

「突然のご提案に了承していただきありがとうございます――Mr.ペガサス」

 

「イエ、かまいませんヨ。しかし従来のデュエルリングをこれほど小型化するトハ……病み上がりだというのに海馬ボーイはワタシを驚かせてくれマース!」

 

「ええ、そのとおりですね」

 

 

 闇のゲームによる罰ゲームを受けるたび新たなシステムを開発する海馬はまさに「転んでもただでは起きない男」であった。

 

 

 そんな中、Mr.クロケッツが申し訳なさそうに間に入る。

 

「ペガサス様、シンディア様がぜひこの試作型デュエルディスクを使ってデュエルしてみたいと仰っているのですが……」

 

「Oh! ソウデスカ……Mr.神崎! もう一つソレを用意してもらってイイデスカ? 代わりといってはナンデスガ――デュエルモンスターズの創造主たるワタシのデュエルをお見せしマース!」

 

 茶目っ気たっぷりに言うペガサスの言葉をシンディアは遮る。

 

「ダメよ。ペガサスったら私とデュエルする時、いつも手加減するじゃない」

 

「No! 無茶を言わないでクダサーイ! ワタシにシンディアを打ち倒すことなんてできマセーン!」

 

 先程言ったデュエルモンスターズの創造主たるもののデュエルとはなんだったのか――この様子ではバカップルよろしく2人だけの空間を作り出すものだろうが…。

 

「だから神崎さん、私とデュエルしてくださる?」

 

 お偉いさんの奥さんとのデュエル。だが神崎は表向きには「デュエルをしない人間」で通っているためその勝負は受けられない。ゆえに神崎は用意していた答えを使用する。

 

「申し出はありがたいのですが私はデュエルはしないので代わりの者を――牛尾君、頼めるかな?」

 

 お偉方の会合に巻き込まれないために自身を物言わぬ置物へと扮していた牛尾はその言葉に瞠目し、声を潜めて神崎に撤回を求める。

 

「冗談よしてくださいよ……俺のガラじゃねぇですって――大体なんで俺がこういうところにいるんです? こういうのはギースの旦那の領分でしょうが……」

 

 牛尾も何故自分が同行を許されたのか本気で解らなかった。頼れる先輩の存在もそれに拍車をかける。

 

 その疑問に神崎は笑顔で答えた。

 

「ギースには私が留守のKCを任せてあります。海馬社長と副社長であるモクバ様もいない今、念のためと言うヤツです」

 

「それなら別に他の奴でも問題ないでしょうに……」

 

「君の腕っ節の強さと、これを機に武藤君たちと仲直りさせておこうと思ったので――サプライズですよ」

 

 リアルファイト最強の座に必ずと言っていいほど名前の出る牛尾はボディーガードに最適である。緊急時にペガサスたちや客人の頼もしいガードとなる事実を神崎は重宝していた。

 

 さらに牛尾は遊戯たちと一度衝突しているため、遊戯たちと敵対したくない神崎は牛尾が真っ当に過ごしている姿を見せ和解を目論んだのである。

 

「アンタに護衛がいるとは思えねぇですけど……ってぇ! マジですかい?」

 

 牛尾の目は神崎との出会いの際に顔面を殴りつけたにも関わらずノーダメージであったことを思い出し、果たして護衛が必要あるのかという疑問を持ちつつ後に続いた言葉に驚きをあらわにする――当人は今すぐにでも逃げ出しそうな状態だ。

 

 

 そんな2人のやり取りがある中、勢いよく扉が開かれる――月行だった。

 

「ペガサス様! 最初の予選突破者が現れました!! 出迎えの準備を!」

 

 

 月行の言うとおり予選突破者はペガサスが出迎える手筈となっている。だがこれほど早く突破者が出るとは思っていなかったため準備がまだ出来ていない。

 

 

「Wow! 早いデスネ! 今出迎えに行きマース! シンディア――」

 

「ええ、わかっているわ。デュエルはまたの機会に……」

 

 そう言って2人は最初の予選突破者の出迎えに向かった。

 

 

「あぁ~。助かったぜまったく、ホントに勘弁してくださいよ……」

 

 2人を見送った牛尾は大きく安堵の息をもらす。

 

 だが待ち人がいる静香は兄が来たのではないのかと神崎に確認を取る。

 

「お兄ちゃんでしたか?」

 

 

 その言葉に黒服たちに連絡を取る神崎を横目にまだ見ぬ兄を想う。

 

「はい、そうですか。どうやら違うようですね。君のお兄さんは対戦相手を探すのに苦労していると宿泊施設でお友達と相談していたようですよ」

 

「そうですか……」

 

 そこには早く会いたいと思う気持ちと兄に会った際にどうすればいいのかわからない不安が入り混じっていた。

 

 だが牛尾は神崎の連絡一つで情報が届くさまを見て思わず呟く。

 

「しっかし、プライバシーもへったくれもねぇですね」

 

「こういった自然に囲まれた島ですから、はぐれる参加者がでないように色々と手を回しましたよ。それに城之内君の一件は彼らにも大方は伝えていますので」

 

 その話を聞いた黒服たちが感動の家族の再会を演出するために張り切って動いているのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 予選突破者を出迎えたペガサスは不思議な縁を感じ取っていた。

 

 最初に予選を突破したものは国旗が描かれたバンダナに赤いシャツ、そして黒いベストを着こんだ男――バンデット・キース。

 

「久しぶりだなぁペガサス! テメェと戦うために遠路遥々来てやったぜ」

 

「Oh! トムとのデュエル以来デスネ……そう言えば彼もこの大会に参加していたはずデスガ?」

 

「あのガキか? さっさと倒させてもらったよ! テメェのアドバイスがなきゃ大したことはねぇ」

 

 きっちりとリベンジを果たしたようだ。

 

 その上でキースはペガサスに言い放つ。

 

「テメェを倒すのは俺様だ!! 覚えときな!!」

 

 立ち去るキースに自然な形でMr.クロケッツが本戦参加者の個室へと案内する。

 

 これにより颯爽と立ち去ったにもかかわらず右往左往することは避けられた――Mr.クロケッツ、できる男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、次々に予選突破者が現れる。

 

「おっしゃぁ! これで予選突破だぜ!」

 

 そう意気揚々と声を上げる城之内に遊戯も共に喜ぶ。

 

「やったね城之内君!」

 

「おう! もうすぐだぜ……静香、必ず優勝してやるからな!」

 

 妹のために大会に参加した城之内は遊戯と共に優勝を誓う。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてペガサスの歓迎を受けた後、Mr.クロケッツの案内のもと一室へと招待された。

 

 そこには――

 

「お兄ちゃん?」

 

 目に包帯を巻いた城之内の妹、川井静香が不安そうに立って居た。

 

「静香! お、お前何でここに……それにその目――クソッ! 一体どうなってやがるんだ!」

 

 現状を理解できず頭をガシガシとかく城之内に静香は目の包帯を取り兄の傍へよる。

 

「やっぱりお兄ちゃんだ……やっと――」

 

「静香……」

 

 感動の家族の再会に遊戯たちは涙ぐむ。

 

 

 

 

 

 妹の目が治り嬉しく思う城之内だが払いきれないほどの多額の費用がかかる手術をどうやって受けたのかが疑問でならない。

 

「静香、お前の目が見えるようになったのは嬉しいけどよ――金はどうしたんだ? そのために俺はこの大会で優勝目指してんだけど」

 

「実は新しい術式のテスターになってほしいって話が来たの……テスターになる代わりに費用の方は何とかしてもらえるって、最初は怖かったけどお兄ちゃんも戦ってるって話を聞いて勇気を出してみたの!」

 

「てすたぁ? よく分からねえが、親切な人がいたもんだな! 出来れば俺の方からも礼が言いたいぜ!」

 

 

 その言葉に今まで沈黙を通し気配を紛らせていたMr.クロケッツが城之内に提案する。

 

「でしたらお呼びしましょうか?」

 

「うぉっ! お、おう……それじゃあ頼むぜ」

 

「かしこまりました。しばしお待ちを」

 

 驚きを隠せない城之内をよそにMr.クロケッツは電話を掛け、神崎からの頼みを遊戯たちに伝える。

 

「城之内様。もうじき来られるそうです。それと相手方から皆様に会って欲しい方がいるとのことでしたが――どういたしますか?」

 

「俺は別にかまわねぇけど……みんなはどうだ?」

 

 城之内に問われ、遊戯、杏子、本田、獏良の4名は

 

「ボクは構わないよ」

 

「私も」

 

「俺もかまわねぇぜ」

 

「僕もいいけど……誰だろうね?」

 

と、一同肯定を示した。

 

 

 

 

 

 そして部屋に訪れた神崎に城之内は既視感を覚える。

 

「あれ? あんたどっかであったことねえか?」

 

 そんな城之内に忘れたかのような発言は失礼だと杏子は声を上げる。

 

「ちょっと城之内忘れたの? 遊戯と海馬君とのデュエルの時に遊戯のお爺さんを介抱してくれた人じゃない!」

 

「あの時はありがとうございます。あれからじいちゃん体調が良くなったって喜んでました」

 

「いえ、こちらこそ海馬社長がとんだご迷惑を……」

 

 感謝を述べる遊戯に神崎が返した言葉に城之内が反応する。

 

「えっ! おっさん、海馬のヤロウの部下なのか!!」

 

「見えねぇな……人は見かけによらねえなぁ城之内」

 

 そう言葉を零す本田の言う通り、人当たりが良さそうな神崎は我が道を行く海馬のイメージから遠く感じる遊戯たち、そこに獏良がポツリとこぼす。

 

「城之内君……お礼を言うために来てもらったんじゃあ?」

 

「そうだった! わりいわりい。改めて静香のこといろいろ面倒見てもらってありがとな! なんかあったら呼んでくれ力になるからよ!」

 

 頭を下げ、協力を約束する城之内に神崎はではさっそくと呼び出しをかける。

 

「では早速で悪いのですが――会ってもらいたい人がいるのでお呼びしますね」

 

 

 

 神崎と入れ違いに入ってきた人物を目にした城之内と本田はその人物に噛み付くように叫ぶ。

 

「! テメェ! 牛尾! 何でこんなとこに居やがるんだ!!」

 

「そうだぜ! なにしにきやがった!」

 

「落ち着きなさいよ! 城之内! 本田!」

 

「そうだよ2人とも落ち着いて! でもどうして?」

 

 そう言いながら城之内と本田を抑える遊戯と対面した牛尾は申し訳なさそうに語る。

 

「いや、なに……話すと長くなるんだが――遊戯、お前にシメられた後、さっきの人に拾われてな。そこで真っ当に生きていたんだが、その人がこの場を用意してくれたわけよ。俺はお前らに会う気はなかったんだが、まあ俺の顔なんて見たくもねぇだろうからな……」

 

 そこで言葉を区切り、牛尾は真摯に頭を下げる

 

「お前ら――すまなかった。許してくれとは言わねぇが……本当にスマン!」

 

 頭を下げ続ける牛尾に一同は言葉が出ない。そんな中遊戯が口火を切る。

 

「ボクは許すよ。仕返しみたいなことも一応やっちゃったしボクは何も言えないよ」

 

 もう一人の遊戯が闇のゲームによる制裁を与えていたこともあり、遊戯は許す姿勢を見せた。

 

 城之内と本田も自分たちが遊戯を苛めていた過去も相まってそれにならう。

 

「遊戯がそう言うんだったら俺も何もいわねぇぜ!」

 

「俺も同じくだ!」

 

 彼らは牛尾の前に手を出す。彼らの手を牛尾は力強く握った。

 

「すまねぇ……」

 

 

 

 

 

 神崎は部屋が静かになったことで話が終わったのかと顔を出す。

 

「終わりましたか? おや、牛尾君泣いているんですか?」

 

「茶化さないで下さいよ! 鼻水ですよ! 鼻水!」

 

 そんな2人のやり取りを見た城之内は「牛尾も変わったなぁ」と感慨深く思うのであった。

 

 そこにMr.クロケッツが現れ――

 

「皆様、本戦で戦う8名のデュエリストが揃いました。これよりトーナメントの抽選を行いますのでフロアの方にお集まりください」

 

「行こうかみんな!」

 

 遊戯の号令と共にフロアへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 抽選会場内で海馬を見つけた遊戯はもう一人の遊戯へと姿を変え、そんな遊戯の存在を確認した海馬は己の生涯のライバルと語らう。

 

「ふぅん、やはり勝ち上がってきたか……姿を現さない貴様に、俺がいない間に腑抜けでもしたかと思っていたところだ」

 

 そして遊戯と共にいた城之内を視界の端に捉え思案し言い放つ。

 

「……なるほどな――お友達のお守りで忙しかったようだな」

 

「! なんだとぉ海馬ァ! これでもベスト8に残った腕前だぜ!!」

 

「町内大会だけど……ね」

 

 当然のごとくその言葉に噛み付く城之内に杏子はポツリと補足を入れる。

 

 それらの会話を聞いていた竜崎と羽蛾も遊戯と海馬、2人の強敵の様子を探るべくその中へと交ざる。

 

 

「なんやお前、その程度の実力でここまで勝ち残ってこれたんかぁ? ごっつい強運の持ち主やな!」

 

 口火を切り挑発を投げかける竜崎。それに続く羽蛾。

 

「でも運だけで勝ち上がれるのもここまでだよ……見てみなよ周りのデュエリストを――孔雀舞に梶木漁太、さらには全米チャンプのキース・ハワードまでいるんだから」

 

「っ! だが俺だってこの大会で強くなってんだ! 以前の俺とは別物だぜ!!」

 

 名立たるデュエリストの存在に城之内は言葉を失いかけるも妹が見ているという事実が兄としての威厳を奮い立たせた。遊戯もそれに同調する。

 

「その意気だぜ! 城之内君!」

 

「ふぅん、まあトーナメントで当たることになればその実力見せてもらうとしよう……だが俺の本来の目的は――遊戯! 貴様との決着だ! 俺にとってはペガサスとの戦いなどついでに過ぎん! せいぜい首を洗って待っているがいい!」

 

 そういって海馬は高笑いと共に抽選カードを引きに行った。

 

 

 

 

 

 そして抽選会場にて8名がカードを引き、トーナメントの対戦相手が決まる。

抽選の結果、以下の組み合わせとなった。

 

Aブロック

第1試合 城之内克也VSダイナソー竜崎

 

第2試合 孔雀舞VSキース・ハワード

 

Bブロック

第3試合 梶木漁太VS武藤遊戯

 

第4試合 海馬瀬人VSインセクター羽蛾

 

 

 その組み合わせを見る参加者に対し、Mr.クロケッツが試作型デュエルディスクを手に持ち、参加者に告げる。

 

「本戦の舞台ではKCが用意したこの『試作型デュエルディスク』を用いてデュエルを行ってもらいます。使い方は――」

 

 

 使い方を説明し、ルールに変更はないことを告げ、Mr.クロケッツは手を挙げ宣言する。

 

「これより第1試合、城之内克也VSダイナソー竜崎の試合を執り行います。両者、速やかに準備を」

 

 デュエルの時間の始まりである。

 

 




諸事情で予選はカットします
すまねぇ! 本当にすまねぇ!


ペガサス島での大会は全世界に放送されています。
よって
トムの敗北は全世界に知れ渡りました――(p`・ω・´q) ドンマイ☆

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