serial experiments akagi   作:叶芽

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level2収録パート

Cou002

Lda006~Lda007

Cou003

Lda008~Lda0018

Cou004

Lda019~Lda021

 



level2

【Cou002】

 

 

[mahjong]

 

   [machine]

 

      [real]

 

 

「おじさん、私、麻雀覚えたよ」

 

「ほう?」

 

「友達が教えてくれたの。パソコンで」

 

「よかったじゃねえか」

 

「私、今度は本物の牌使いたい。前、あった」

 

「すっかりハマっているみたいだな。面白かったのか?」

 

「うん!簡単だし、アガれるとうれしい。この前はたくさんアガれた」

 

「そうか…。だが、それはゲームだからだな」

 

「ゲーム…だから?」

 

「たいてい機械のゲームってのは、プレイヤーに都合のいいように出来てるんだ。配牌がよかったり、ツモがよかったり」

 

「よく…わからない…」

 

「まぁ…実際やってみればわかる。おじさんな、お前に麻雀、教えることにしたよ」

 

「え?」

 

「おじさんも玲音くらいの頃に初めて麻雀を知ったんだ。

それに、お前のお父さん。娘がそれを知りたいってのに教えないで、自分はのうのうとそれでギャンブルに浸ってる。それが、どうも…な。

まぁ、娘をそっちの世界に入れたくないってのもあるだろう。それでも、自分がギャンブルから足を洗わないのは駄目だ。

つまり玲音…。お前が麻雀を覚えて、お父さんにぎゃふんと言わせて、ギャンブルから足を洗わせるんだ。そうすれば、お父さんはもっと玲音と遊んでくれるようになるんじゃないか?」

 

「…お父さん、悪くないよ。お父さんを悪く言わないで」

 

「あー、悪い悪い。そんな顔するなって。じゃあこうしよう。お父さんの遊び相手になるために、覚えるんだ。誰に教わった?って聞かれたら俺から教わったって答えればいい。そしたら向こうも黙るさ」

 

「どうして」

 

「おじさんがえらいからさ」

 

「えらいの?どんなお仕事?社長さん?」

 

「仕事はもってねぇが、たぶん社長よりえらいな」

 

「そんな人、いるの?」

 

「ああ」

 

「どうして?」

 

「あー、いろいろあるんだよ世の中には。嘘だと思うなら、お父さんに聞いてみな」

 

「……うん」

 

「じゃあそろそろ、本物の牌使って麻雀のお勉強といくか。早くしねぇと、お父さん帰ってきちゃうからな」

 

「うん!」

 

 

【Lda006】

 

 

 

[mahjong]

 

   [machine]

 

      [real]

 

 

 

 

今日、しげるおじさんに本物の牌を使った麻雀を教えてもらった。

ゲームと違って、牌をまぜたり、山を作ったりを自分たちがしなきゃいけない。

結構面倒。

今では自動卓っていうのもあるみたいだけど、それはおじさんの家には無かった。

二人だけだったけど、おじさんと打った。

おじさんの言った通り、ゲームと現実は違った。

配牌も、ツモも、全然うまくいかない。

全然アガれなかった。

こういうものなのかなぁ。

現実って。

 

 

【Lda007】

 

 

 

[akagi]

 

   [Man of god precincts]

 

      [amazing]

 

 

 

お父さんにしげるおじさんのこと聞いてみた。

昔、裏社会の頂点にたったとか、神域の男と呼ばれていたとか。

いろいろおじさんのことすごいすごいって言っていた。

やっぱりおじさんはすごいんだ。

 

 

 

 

 

【Cou003】

 

 

 

 

[mahjong]

 

   [fraud]

 

      [control]

 

「どうした?もう他の山はできちまったぞ?」

 

「自分の積む山、覚えているの」

 

「ん?」

 

「麻雀って、ポンやチーが無ければ、決まった所をツモるんでしょ?だったら、自分の作る山くらい覚えていた方がいいと思うの。それにサイコロ振る時、その目を自分がコントロール出来れば、いい配牌にすることだって出来る」

 

「ククク…。その通りだ。いいセンスしてるな。だがそれはイカサマって言うんだ。反則だ」

 

「いけないの?」

 

「ああ。バレたら腕一本だ。玲音の場合は、もっと酷いかも」

 

「どうして?」

 

「勝負、ってのは、勝つか負けるかわからない、ってルールの下で行われないと意味がないんだ。玲音のそれをルールが認めたら、勝負にならない」

 

「そうなんだ…」

 

「だが、いいとこに気がついたな。今俺が言ったことは実は建前なんだ。現実では、玲音のやろうとしたことをする奴らがごまんといる。イカサマは覚えておいて損は無い。だが、使うためじゃなく、使われてもいいために覚えるんだ」

 

「よく、わからない」

 

「イカサマってのは大抵は証拠が残らねえものだから、使われちまった後、あーだこーだ言っても意味がねえんだ。

だから、その場で止めなきゃならない。そのためには、まず自分がそのイカサマがどういうものかってのを知らなきゃ駄目だろ?そのために覚える」

 

「なんで、自分は使わないの?」

 

「全員が全員イカサマを使えるわけじゃないんだ。そういう場で、自分だけイカサマを使ったら、ずるいだろ?」

 

「ずるい……そっか…うん…うん。わかった」

 

「だが、相手が先に使ってきたら、そいつにぶちかましてやるってのはいいかもな…ククク…」

 

 

【Lda008】

 

 

 

[mahjong]

 

   [fraud]

 

      [scared]

 

 

今日、しげるおじさんにイカサマを教えてもらった。

ツミコミ、ツバメ返し、握りこみ、キャタピラ。

何回も練習しないと、本番で失敗しそうなものばかり。

バレたら腕一本……。

怖い。

イカサマはしないようにしよう。

 

 

 

【Lda009】

 

 

[computer]

 

   [wired]

 

      [loneliness] 

 

 

 

今日、お父さんがパソコンを買ってくれた。

学校を休む時はこれで通信教育を受けなさいって。

玲音はちゃんと勉強してるのに。

テストだって受けてるのに。

通信教育ってなんか一人ぼっちな感じがして、さびしい。

そうだ、ネットにつながっているんだから、こっそりネット麻雀をしよう。

 

 

 

 

【Lda010】

 

 

 

 

 

[kyoko]

 

   [ignore]

 

      [jealousy] 

 

 

 

このごろ、今日子ちゃんが口を聞いてくれない。

私の気のせい?

でも、買い物とかもまゆちゃんとかと行ってるみたいだし、私嫌われちゃった?

けど、麻雀の勉強をしてること、今日子ちゃんには言ってないよ?

どうして?

 

 

 

【Lda011】

 

 

 

 

[sick]

 

   [loneliness]

 

      [duvet]

 

 

 

 

風邪で熱が出て今日も休み。

もう三日も休んでいる。

きっと学校のみんな、私がズルしてるって思ってる。

だから、今日子ちゃんも、誰も見舞いには来ない。

私、みんなから嫌われている。

 

 

 

【Lda012】

 

 

 

 

[sick]

 

   [father]

 

      [love]

 

 

 

お父さんがつきっきりで看病してくれる。

やっぱりお父さんは優しい。

でも、シゴトにも行けてない。

私のせいだよね?

ごめんなさい

 

 

 

【Lda013】

 

 

 

 

[tomo]

 

   [joyful]

 

      [join] 

 

 

うれしい。

友君がお見舞いに来てくれた。

お父さんは気を利かせてくれて二人っきりにしてくれた。

友君とは麻雀の話をたくさんしたし、ネット麻雀で一緒に打ったりもした。

友君は速攻派?

早くて安いアガリを連発した。

けど、オーラスで振り込んじゃってまくられちゃった。

友君、麻雀の基本は門前だよ。

 

 

【Lda014】

 

 

 

 

 

 

[tomo]

 

   [join]

 

      [eternal] 

 

 

 

 

このまま、友君とずっと一緒にいたい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Lda015】

 

 

 

[tomo]

 

   [parting]

 

      [far]

 

 

 

 

そんな。

友君が転校しちゃう。

友君が、今日で会うのは最後かもって。

親の仕事の関係で、岩手県に行っちゃう。

遠い。

けど、ネットならいつでも会えるよね?

電話や、手紙もいっぱいしよ?

ね?

 

 

【Lda016】

 

 

 

[school]

 

   [kyoko]

 

      [ignore] 

 

 

 

久しぶりの学校…。

けど、やっぱり今日子ちゃんには嫌われてる。

朝、通学路で会っても、全然口を聞いてくれない。

私を無視する。

どうして?

私、何か悪いことしたの?

 

 

 

 

【Lda017】

 

 

[bullying]

 

   [kyoko]

 

      [jealousy]

 

 

 

ひどい。

私の机に落書き。

そこには、友君の名前もあった。

私と友君が付き合ってる?

誰?これを書いたの。

今日子ちゃん、もしかして…。

 

 

 

 

【Lda018】

 

 

 

 

[school]

 

   [loneliness]

 

      [lain] 

 

 

 

もう、今日子ちゃんとは話せない。

学校に、友達、友達と呼べる子がいなくなった。

休み時間も給食も一人。

もう、学校に行きたくない。

またアレが視えた。

最近は視なくなっていたのに。

 

 

 

【Cou004】

 

 

 

[nomally]

 

   [suffer]

 

      [advantage] 

 

 

 

「お父さんから聞いたぞ。最近学校に行ってないんだってな」

 

「…もう…行きたくないの」

 

「…。どうして?」

 

「…」

 

「まあ無理に話すことはないし、学校に行きたくなけりゃ、行かなくったっていい。俺がお前の頃は、学校なんて殆ど行ってなかったしな」

 

「おじさんが?どうして?」

 

「学校での教育ってのが好きになれなかったからさ」

 

「なんで?」

 

「人と人を比べて、所謂普通、という価値観を押し付けてってのがどうもな」

 

「普通って良くないの?」

 

「良いか悪いかは人次第だが、その普通ってのは、一種の集団催眠、洗脳みたいなもんさ。

俺はあくまで俺であって、他の誰でもない。普通ってのは他の誰かに合わせるってことだろ?それが、俺は嫌いだってことさ」

 

「玲音は…普通がいい」

 

「…」

 

「私は、普通じゃないの。昨日も…アレを視た。私、普通になりたい…」

 

「アレって?」

 

「お医者さんは、幻覚だって言ってた。けど、アレはそんなんじゃない。もっと、現実的なもの」

 

「それがどういうものか、言えるか?」

 

「アレは…私…私が視えるの…」

 

「…それが…嫌なのか?」

 

「うん…」

 

「……。…だとしたら、たぶんその私、ってのが玲音を苦しめている訳じゃないな」

 

「え?」

 

「玲音が普通でありたいって気持ちが、玲音を苦しめているってこと」

 

「よく…わからない。玲音、普通がいい」

 

「どうして?」

 

「普通じゃないと…みんな離れていく。一人になる。一人は、嫌」

 

「一人って…そんなに悪いものなのか?」

 

「私、みんなと一緒がいい」

 

「……。

俺にはトモダチなんてものはいなかった…。どいつもこいつもカッコつけてるだけの嫌な奴らで、そいつらと喧嘩ばかりしていた。

だから…一人が好きだった」

 

「さみしく…無かったの?」

 

「…そういうもんだ、って思ってたな。ずーっとそういうのと付き合ってたからか、いつの間にか好きになっていた」

 

「一人でいること…に?」

 

「ああ。それに、そういうのが俺の強みでもあった。俺が今こう生きていられるのは、そういう強みがあったからかもな」

 

「強み…。玲音も…おじさんみたいに強くなるのかな?」

 

「……。……。…さぁな。玲音は俺じゃないからな」

 

 

 

 

 

【Lda019】

 

 

 

[special]

 

   [advantage]

 

      [change] 

 

 

 

一人でいることが強み…。

普通じゃなかったから、おじさんは強かった。

友君も、私が普通じゃなかったから近づいてきてくれた?

普通じゃないって、もしかしてそんなに悪くないこと?

けど、今日子ちゃんには嫌われちゃったし、悪くないなんて…ない。

アレだって、私にとっては嫌でしかない。

けど…友君は…近づいてきてくれた。

 

 

 

 

【Lda020】

 

 

[school]

 

   [bullying]

 

      [wired] 

 

 

 

電話で先生が、もう卒業して中学には行けるから無理してこなくてもいいよって言ってきた。

きっと、いじめられっこが学校に来るといろいろ面倒だから、私を追い払いたいんだ。

誰が行くもんか。

あんな所。

おじさんとは理由が違うけど、私も学校が嫌いになった。

今日もネット麻雀で暴れよう。

 

 

 

 

 

【Lda021】

 

 

 

 

[school]

 

   [father]

 

      [fight] 

 

 

でも、中学になったら、やっぱりちゃんと学校に行こう。

学費も、制服代も、給食費も、全部お父さんが払ってくれてるんだ。

お父さんのために、学校に行って一生懸命勉強しよう。

いつか、お父さんに恩返しをするために。

いじめられても、友達が出来なくても、お父さんのためなら頑張れる気がする。

ファイト、玲音。

強くなるんだ、しげるおじさんみたいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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