「すみません。ツモりました……。えっと……6000・12000です………」
四回戦に引き続き、彼女は好調を維持し続けていた。彼女自身、不思議がっている様子だった。現実世界でのれいんちゃんは、やっぱりれいんちゃんだ。私に対して牙を向いている『れいん』は、私にしか視えないし、聴こえない。
『『信じられない……』』
lainは呟いた。この五回戦、南2局、待ちの数では圧倒的にlainが多かった。
東家 玲音 手牌
{2223456777999}
{3}、{6}、{1}、{4}、{7}、{2}、{5}、{8}待ち。ドラは{2}。lainはこの手でリーチをかけて、彼女にツモり負けた。彼女は辺{7}待ち。
西家 れいん 手牌
{一一一二三七八九⑦⑧⑨89} ツモ {7}
裏ドラが{一}で、リーチ一発を含めての三倍満。ラス牌の7索をあっさりツモった。
「ひろゆきさん……今のリーチはかけない方が良かったでしょうか」
れいんちゃんが訊いた。
「ダマでも十分な点数だからね。今れいんちゃんトップだし。それより、玲音ちゃん…玲音ちゃんの方こそ、リーチは不要だったんじゃないかな?親倍確定してるんだし」
『『………』』
lainが不要なリーチをするはずがない。彼女には確信があった。れいんが{3}、{6}を掴むことを。そして親の数え役満で一撃でれいんは飛ぶ。lainの予測が外れたことなんて無い。私には見えない『流れ』というものを、lainは見えている。見えているはず…。
―――流れなんてあるわけないよ……。あるのは意思だけ。
『流れ』という考え方を取り除いても、lainの良形が、れいんの悪形に負ける場面は四回戦、五回戦と何度もあった。二、三回ならともかく、五、六回となると、さすがにおかしいって思ってしまう。ひろゆきさんもそれを感じてか、れいんちゃんの動きを注視した。イカサマがないかどうか。でも、ひろゆきさんの目をもってしてもそれは見つからなかった。れいんはあくまで普通に打っている。普通にlainを超えている。
南2局終了時
ひろゆき 20300
玲音 8600
英利 16100
れいん 55000
((まいったなぁ……これが『麻雀の意思』?……))
―――もうあなたは生きていなくていいの。これがその証明よ。だってあなたの哲学が負けてしまうんですもの。あなたにはもう何もないわ。あなたが居たという記録だけここに残してくれれば、麻雀はもっと成長する。これ以上醜い姿を晒さないでほしいな。
((かもね……。これはさすがにこたえるわ……。でも……こういう言葉もあるわ……『熱い三流なら上等よ』……ってね))
―――それは、あなたに対して言われた言葉じゃないわ。所謂『まとも』に縛られて動けなかった井川ひろゆきに対しての言葉。あなたには関係ないわ。
((何言っているの?これはあんたに対しての言葉よ…れいん……。あんたは『まとも』に縛られているわ))
―――何を言っているの?
((わからないの?神様なのに))
―――くだらないことを言っても結果は変わらないわ。悪あがきでもするつもり?それこそ醜いわ。
((結果ね……。ねえ玲音。赤木しげるならこの状況……どう捉える?仮にあなたが苦しんでるとしたら、赤木しげるはなんて言ってくれるかしら?))
きっとおじさんはこう言うかな。「『麻雀の意思』といっても、所詮は『麻雀の理』の域を出ない……。奴は『理』に縛られている」って感じかな。
―――まさかあなた……イカサマでもする気?わたしの前で……。成功するわけないじゃん。わたしなんだから。
そんなことしないよ……。それにれいん……。やっぱりれいんは間違っている。おじさんが強かったのは、麻雀の意思なんかじゃない。おじさんは麻雀の理を踏まえた上で、あえてそれを裏切ってきた。だからおじさんは強かったんだよ。
―――違う……そんなはず……ないよ………。
たぶん、今からそれ……証明できるよ………。
南3局 親 英利
8巡目
北家 玲音 手牌
{②②③③④④6778999} ツモ {①}
((あたしここから{④}切るけど良い?))
打{7}あたりが正解のように思えるけど、lainは手を高くするために、{④}を切った。次巡、もう一枚の{①}を持ってきて、打{④}。さらに次巡、4枚目の{9}をツモって聴牌。{8}ツモで純チャン二盃口。lainのセンスは相変わらず凄い。
北家 玲音 手牌
{①①②②③③7789999}
―――だから……なんだというの?次に何をツモるかあなた達は知らないでしょ?次にツモるのは{7}……。安目よ。それがあなたの限界。
北家 玲音 手牌
{①①②②③③7789999} ツモ {7}
れいんの言った通り、ツモって来たのは{7}。純チャンも二盃口もつかない安目。でも……。
(ねぇlain……ここからたぶん3巡くらい……無茶していいかな?)
((好きにすれば?))
私は{9}を暗槓した。
北家 玲音 手牌
{①①②②③③7778} 暗カン {■99■}
―――え……?そんなことをして何に……。
(ねぇれいん……麻雀って何人でする競技かな?四人?三人?それとも二人?……五人とか……六人とかでする競技じゃ……ないよね。普通は……。でも今は『六人』で打っているよ?)
―――六……人?
(lainとれいん含めて六人……。普通じゃあり得ないけど、でもそれが真実。あなたの踏み込めなかった領域……)
嶺上牌で私は{②}をツモり{8}を切って聴牌。
北家 玲音 手牌
{①①②②②③③777} 暗カン {■99■}
―――あ……。
(ここまでくれば……れいんもわかるよね?次に私が何をツモるか知っているなら尚更)
ツモったのは{7}。
「もう一個カン!……なんて」
北家 玲音
{①①②②②③③} 暗カン {■77■} 暗カン {■99■} ツモ {③}
―――ああっ………
ひろゆき 12300(-8000)
玲音 40600(+32000)
英利 100(-16000)
れいん 47000(-8000)
東西戦……。しげるおじさんと天おじさんが作り上げた四暗刻……。こんな形で巡り合うなんて。でも…これで証明されたね……。れいん……あなたはたぶん、神様なんかじゃない。あなたも……きっともう一人の私なのよ……。