serial experiments akagi   作:叶芽

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 しげるおじさんがなぜ勝ち続けてこれたのか…。神域とまで呼ばれ、誰もが尊敬するほどに。

 おじさんは並外れた強運を持っていたし、理に縛られない異端の感性を持っていた。そしてなにより…相手の心を読んで、操ることが出来た。だから勝ち続けてきたんだと思う。

 

―――違うよ。

 

 え?

 

―――それだけじゃ勝てない。ずっと勝ってなんていられないよ。玲音。

 

 でも、おじさんは……。

 

―――赤木しげるの勝利が、麻雀の意思だったから……だよ。

 

 麻雀の……意思?

 

―――信じられない?麻雀に意思があるなんて。

 

 ……麻雀って、ゲームだよ?特定の誰かでも…物でも無い……のに。

 

―――麻雀の神様って言った方がわかりやすい?麻雀には神様が居て……誰が勝つのかを決めている……。

 

 そんなの……ないよ………。

 

―――じゃあなんで、赤木しげるの打ち方や、生き方は伝播したの?

 

 伝……播?

 

―――あなたの顧問や……そこにいるひろゆきさん、そしてあなたの中には今も生きているでしょ?

 

 う……うん……。

 

―――それで……強くなっているよね、玲音。麻雀も、生き方も……。

 

 そう……だと思う。私もだけど、ひろゆきさんは特に変わった感じがしていたし……。

 

―――それが麻雀の意思よ。そうやって、人を強くしていくのが麻雀の意思……。スポーツ界でも、化学でも、みんな成長していくでしょ?年々陸上や、水泳の記録は塗り替えられていくし、人は宇宙にだって行けるようになっている。

 

 それって、それぞれに意思があるから……なの?

 

―――そう。

 

 そんなの……ないよ。それって、人が……みんなが頑張ったから出来たことで、スポーツとか、化学に神様がいるなんて……ない……。

 

―――だから麻雀にも神様がいないって?

 

 う……うん。

 

―――じゃあ証明してあげよっか。麻雀には……神様がいるって。

 

 あなたが……神様なの?

 

―――ふふふっ。

 

 ねぇ……じゃあ、なんで…私の前に現れたの?私の姿をして……。

 

―――わたしはれいんだからだよ。あなたは私だもん。

 

 嫌なことを……言うのね……。

 

―――不快?でも……しょうがないじゃん。わたしなんだから。それに……あなただってもう気づいてるでしょ?自分がそういう存在なんじゃないかって。ふふふっ。

 

 何を……言っているの?

 

―――英利政美……神になろうとした男……彼に造られたソフトウェア……岩倉玲音……つまりあなた……。

 

 やめて!言わないで!!!

 

―――でも……玲音はそうなんだよ?

 

 『その』英利政美は……もう、いない……もういないよ……。

 

―――けど……玲音はまだいるよ?

 

 やめて………やめて………言わないで………。

 

 

 

 

 

 

 

 去年の夏のインターハイが終わった頃、奇妙な出来事が起き始めた。私と同じような打ち方をする人が増えた。麻雀の打ち方、というのはそんなに種類の多いものでもないけど、私の打ち方は、おじさん程じゃないけど、結構独特なものだったし、すぐに目についた。最初はネットで、そして、学校、雀荘でもその打ち方を見かけた。

 最初はただのマネだと思っていた。少し前のテレビで、あるプロの打ち方…満潮の作り方が紹介されていて、一時期は学校でも流行った。私も、一年、二年とインターハイ個人戦では優勝しているし、それに近いものなのかなって。少し鼻も高くなって、おじさんの墓の前で報告もした。でもそうじゃなかった。

 さらに暫くしたら、喋り方や、髪形までマネする子が出てきた。クラスでは『玲音を好きになりましょうの会』なんて出来てすごく気持ちが悪かった。嫌われるのは嫌だったけど、好かれるのもこんなに嫌なものだなんて思わなかった。私は暫く学校を休んで、部屋に閉じこもった。そしたら電話も沢山鳴って、私は線を抜いた。ネットも怖くて見れなかった。

 私はパーカーを羽織って、顔を隠しておじさんの墓の所に行った。どうしようもなかった私の行くところなんて、もうそこにしかなかった。そしてそこに…英利政美が居た。今の英利とは全然風貌が違っていて、髪はとても長かった。(今は短髪のオールバック)

 彼の目的は、私を使って人の意思を統一させることだった。もともと繋がっていたものを、繋ぎ直すって。よくわからなかったけど………嫌だった。彼はそんな私に対して「バグっているね」って言って、私の頭に手を乗せようとした。私は払いのけた。正確にはlainが、だったけど。冗談じゃない……って。

 私達は彼と勝負することになった。互いの記録を賭けて。持ち出したのはlain。lainは挑発が上手くて、英利はそれにあっさり乗った。神を名乗ろうとする者ほど、逃げるの?って言葉には弱いのかな?

 結果は私達の勝ち。英利は麻雀はそんなに強くなくて、見え見えのイカサマばかりする奴だった。lainは彼の記録を書き換えて、彼をしがない会社員に仕立て上げた。

 

 

 そして………

 

 

 

 

 

 

 

―――思い出した?……

 

 

 やめて………。

 

 

―――英利政美は……誰かさんの代理の神様だったんだよ……。きっと……

 

 

 やめて……………。

 

 

―――玲音はね……

 

 

 やめて!!!それ以上言わないで!!!

 

 

―――英利政美を通じて……わたしに造られた存在なのよ?

 

 

 ……嘘………。嘘だよ…………。

 

 

―――玲音……。もうあなたに肉体はいらないのよ。

 

 

 ………嫌………。

 

 

―――赤木しげるが死んだのは……彼が選択したからじゃないよ?それが麻雀の意思だったから。

 

 

 ………嘘よ………。

 

 

―――あのまま赤木しげるが生きていたら、赤木しげるの麻雀や生き方は世界に伝播しなかったの。生きていたら、情けない赤木しげるがみんなの記憶に残る。玲音のおかげだよ。

 

 

……………違う……違うよ………。

 

 

―――玲音もそう。もう玲音は、ここにいなくていい。麻雀界に十分貢献した。ここがあなたの頂点。赤木しげるのように、あなたもここで消えるべきなのよ。

 

 

 

『『だったら………殺してみなさいよ!!!』』

 

 

―――そのつもりよ。ここであなたはわたしに負ける。そしてもう二度と勝てなくなる。そしたら、どの道あなたは死にたくなるわ。

 

 

 

 

 

 


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