天才ボーダー隊員   作:うるうるく

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遅れました、ごめんなさい。
以前コメントでも指摘がありましたが、ランク戦の相手って申し込んだ時点ではわからないのかもしれません。ですが、書いてしまったからしょうがない、という事でこの話はそのまま続けさせていただきます。
あらかじめご了承ください。


連戦する天才

正式なボーダー隊員としての二日目。学校が終わると良次は、昨日交わした約束を守るべくボーダー本部へと向かった。本部に約束の30分ほど前にたどり着き、時間的には丁度いいか、と思いながら目的の訓練ルームへと向かう。その途中、やたらと視線が向けられていることは気付いていたが、気にしていないふりをしながら歩き、訓練ルームへとたどり着いた。

 

 

なかなかに広い訓練ルームのロビーを、良次はひとしきり見回してみたが、どうやらまだ木虎と風間は来ていないようだった。とはいえ、約束の時間までそれほど間もないこともあり、良次は大人しく座って待つことにした。

 

 

ロビーの入り口近くのソファに、いつ二人が来ても大丈夫なように、入り口の方を見張ることができる向きで腰を下ろす。特にすることもないため良次は、持ち歩いていた本を取りだし読み始めた。

 

 

 

「あれ、もしかしてこの間の人?」

 

 

声を掛けられたのは、本を読み始めて二十分ほど経ったときだった。明らかに自分に向けられているその声に、良次は本から顔をあげ、相手の顔をみる。自分に声を掛けてきたのは、黒髪のショートヘアで背の高い少女だった。その後ろに、彼女の連れなのか帽子を被った小柄な少女が控えめにこちらを覗き込んでいる。

 

 

「えーと、……申し訳ありません。どちら様でしたっけ?」

 

 

 

どこかで見たような気もしたが、誰だったかはっきりとは分からなかったため、良次は正直に尋ねることにした。それに対して、長身の少女は答えを返す。

 

 

「まあ、覚えてなくても無理はないですよね、自己紹介もしてませんでしたし。ほら、この間、あなたが生身でトリオン兵と戦っていたときにあったんですが、覚えてませんか?」

 

 

 

その言葉を聞き、良次は少女がいっている出来事のことを思い出した。

 

(そうだった。たしかあの時は、もう一人別の人がいて、それで、)

 

 

 

「ああ、くまちゃんさんですか。その節はどうも」

「くまちゃんさん、って呼ばれかたには異議を唱えたいですが、こちらこそありがとうございました」

 

 

お互いに相手に対して頭を下げあう。その様子を見ていたもう一人の少女が、口を開いた。

 

 

「あの、熊谷先輩。その人は?」

「ほら、この間玲も話してた、金属バットでモールモッドと戦ってたっていう彼」

「ああ、例の危ない人がこの人なんですね」

「危ない人っていう呼ばれかたには異議を唱えたいのですが」

「いやいや、この前のことの危険性を認識してくださいね!!本当に危ないんですから!」

「むぅ。承知しました、申し訳ありません」

「分かってもらえればいいです」

 

 

自身の呼ばれかたに不満を投げ掛けた良次は、熱のこもった言葉を返されたため、素直に了承する。そのタイミングで話が一区切りしたと感じた良次は、改めて自己紹介をすることに決め、一つ咳払いをしてから口を開いた。

 

 

 

「えっと、俺は稲葉良次といいます。昨日、ボーダーに入隊した新人です。そちらは?」

「私は熊谷友子。B級12位の那須隊の攻撃手です」

「あ、私は熊谷先輩と同じ那須隊所属の狙撃手です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いしますね、先輩方」

「せ、先輩なんて言わなくていいですよー」

 

 

 

そう言って照れたように頬を掻く日浦。熊谷も、自分より年上と見える(実は違うのだが)青年から先輩と呼ばれ、少し照れ臭さを覚えたが、それを振り払うように、ふと思い付いた疑問を口にした。

 

 

「えーと、稲葉さんはここで何を?ランク戦はしないのでしょうか?」

「……まあ、はい。一応、今は待ち合わせしているところです」

「待ち合わせ?ランク戦のためにですか?」

「少し違いますが、その認識で問題ありません。そろそろ来ると思いますけど、」

「遅くなりました、ってあれ?」

 

 

熊谷に対して返答していた途中で、こちらに向かって声が掛けられる。3人がそちらへ振り向くと木虎が立っており、さらにその向こうからこちらに風間がやって来るのが見えた。

 

 

 

「すまん、遅くなった。ん、熊谷たちも稲葉と戦る気なのか?」

「ええ!?待ち合わせって、木虎ちゃんと風間さんとですか?!」

「はい。私も風間さんも、稲葉さんと戦う約束をしてましたので。熊谷さんたちはどういった?」

 

 

良次が待ち合わせをしていた相手が木虎たちだと知り、熊谷と日浦は驚く。それもそのはず、木虎と風間はどちらもA級の5位と3位の隊に所属する正隊員である。A級だからと言って必ずしも自分たちB級の隊員より強いとは限らないのだが、少なくとも目の前の二人の実力は折り紙つきである。対する良次は正に新人。そもそも接点があることもそうだが、今から戦うというのなら尚更驚いて当然である。

 

 

「私は、前にたまたま会ったことがあって。というか、問題は風間さんたちですよ!知り合いってだけならともかく、戦う約束までしてるなんて」

「ん?熊谷と日浦は、まだ稲葉の噂を聞いてなかったのか」

「噂、ですか?」

 

 

熊谷と日浦は、昨日は防衛任務に当たっており、かつ今日に関しても先程本部に到着したばかりであった。そのため、まだ良次が昨日起こした一連の騒動(?)についてなにも聞き及んでいなかったのである。その様子に気付いた風間は、それを伝えようと口を開いた。

 

 

「昨日のことだが、この稲葉が太刀川と戦ってな。6-4で勝ち越したんだよ」

「はい?」

「しかも初回の対近界民戦闘訓練で、過去最速の記録を出してな。俺らは丁度そこに居合わせて興味をもったから、今日戦う約束をしてたんだ」

「……えーと、冗談ですか?」

「いえ、信じられないかもしれませんが、冗談ではないです」

 

 

風間たちからその事実を告げられ、熊谷と日浦は固まったように黙りこむ。

 

 

「意外に驚かないんですね」

「いやー、……驚きすぎて声も出ない感じです」

「うん、そうだね。……あ、そういえば、」

 

 

木虎が尋ね、日浦が応える。一方の熊谷はというと、先日のモールモッドの件を思い返し、やはりただ者ではなかったか、という妙な納得を感じていた。 それから、そういえば伝わっていないのでは、という考えに至りその件について木虎たちに伝える。すると、木虎は驚いたような表情を浮かべたかと思うと、すぐに呆れたような顔になり、良次に言葉をかけた。

 

 

「なんでそんな危険なことしたんですか?」

「いや、その、逃げ遅れてる人がいたもので、時間稼ぎをと」

「あなた自身も危険なことを分かってるんですか?」

「いや、一応鍛えてるので、」

「分かってるんですか?」

「や、その」

「分かってるんですか?」

「……すみません、反省します」

「ならよろしいです」

 

 

有無を言わせぬ圧力をもった木虎に窘められ、良次は子どものように小さくなって反省する。それを見て、木虎は満足したように息を吐いた。

 

 

実は木虎は昨日のうちに遥から、「よし君は少し危ないところがあるから、藍ちゃんも気にかけてあげて!」と頼まれていた。しかしそうはいっても年上だし、大丈夫だろうと思っていた矢先にこれである。遥の言っていた意味を少し理解した木虎は、考えを改めようと考えていた。

 

 

「この件については、遥先輩にも伝えておきますので」

「ええ!そんな、何とか内密にお願いできませんか?」

「駄目です。しっかりと叱られてください」

「うぅ。…承知しました。しっかり反省します」

 

 

 

その様子を見て、木虎は昨日も思っていたことを改めて思い直す。身体も大きく年齢も上なのに、なんとなく、年上っぽくないな、と。

 

 

そのタイミングで、こほんと風間が咳払いをしこちらに視線をおくってくる。それを受けて、話が脱線しすぎていたことに気付いた木虎が、気を取り直して良次に声を掛けた。

 

 

 

「まあ、あまり立ち話で時間を潰すのもあれですし、そろそろ戦いましょう、稲葉さん」

「はい。昨日のように10本勝負で構わないですか?」

「大丈夫です。それではあちらで」

「承知しました。あ、木虎さんはいつも使ってる武器で構いませんよ?」

 

ブースを指定し、その方向に向かおうとしているところで、木虎は良次から言葉を掛けられた。その言葉の意味を考えて、木虎は訝しげな表情を良次に向ける。

 

 

「なんですか?もしかして舐めてます?」

「いや、そういう訳じゃなくてですね。恐らく俺の方が長い間、剣を握ってきていると思いますので、そちらは使いやすいものを、と。あ、飛び道具は控えめにしていただきたいですけど」

「……わかりました。というか、昨日の戦いを見てて、訓練用トリガーじゃ相手にならないとは感じてましたし」

 

 

 

そう会話を交わしたあと、二人は木虎が提案した対戦ブースに入っていった。それを風間と熊谷、日浦の3人が見送る。

 

 

 

「お前らも見学していったほうがいい。すぐにB級に上がってくるだろうし、特に攻撃手の熊谷は勉強になることも多いだろうからな」

「そんなに強いんですか、あの人。確かになんかでかいし筋肉質っぽいので、弱いようには見えませんけど」

「ああ。俺も少ししか見てないが、強いだろうな。想像しがたいかもしれんが、なにより、速い」

「へぇー、風間さんがそんなに言うって凄いですね。それじゃあ、ちょっと見ていこうと思います」

 

 

そう会話をしながら、対戦ブースが見やすい位置に移動し、中の二人を眺める。良次は昨日同様に訓練用トリガーを、木虎は愛用している改造スコーピオンを片手に、もう片方の手には通常時とは違い普通の形のスコーピオンを持って対峙する。一戦目開始のアナウンスがなり、対戦が始まった。

 

 

 

 

 

「くっ、思っていたより強かったです」

「ああ、確かにこれなら太刀川に勝ったというのも頷けるか」

 

 

木虎との対戦を終え、その後すぐに風間とも戦いを始め、それもすでに終えていた。結果としては、木虎とは9-1、風間とは7-3で良次が勝利をおさめたのだった。

 

 

「ありがとうございます。お二人もいい動きでしたよ」

「とはいえ、負けは負けです」

「そんな悲観的にならないでください。木虎さんの戦い方は見事でしたよ。特に8戦目はよかったです」

 

 

悔しそうにしながら落ち込む木虎に、良次は出来るだけ優しく声を掛ける。それに対して、木虎は不思議そうに良次に尋ね返す。

 

 

 

「8戦目、ですか?私が唯一勝ち取ったのは7戦目でしたけど」

「もちろん、7戦目もよかったですよ。あの足から刃を出しての攻撃は、有効だと思いますし、動きも相当な訓練のあとが見てとれました。ですが、それよりもやはり8戦目ですね。まず、あの足による攻撃を俺が意識していることを、利用しながら戦えていたことが一つ。それと、一勝した後も勇み過ぎず冷静でいたのは素晴らしかったです」

「そ、そうですか」

「はい。もちろん、全体としてみても、攻撃一つ一つが鍛練の積み重ねを感じられるもので、本当によかったです」

「……ありがとうございます」

 

 

自分に対する褒め言葉を、真正面からつらつらと並べられ、かなりの照れ臭さを覚えた木虎は、目をそらしながら良次に対して礼を言う。それを見ていた風間が、唐突に口を開いた。

 

 

「褒めてばかりじゃ木虎のためにならないだろう。稲葉らお前なら反省点も把握してるんじゃないか?」

「あ、私からもお願いします」

「あー、9戦目と10戦目は少し考えすぎでしたね。確かに木虎さんは考えながら戦うのが得意なようですし、その練度も高いです。ですが戦う時は、多少なりとも自分の鍛練を信じて、身体の動くままに戦うのも一つの手段ですよ。それと、近い間合いでの動きの起こりが少し大きいこともです。近いときの足の運びは、えっと、こうですかね」

 

 

そういって、その場で良次は手本として動きを示す。それを真剣な表情で見つめていた木虎は、顔を上げると、良次に対して言葉を掛ける。

 

 

「なるほど、ありがとうございます。勉強になりました」

「いえ、こちらも木虎さんの戦い方からは学べることが多かったです。ありがとうございました、また戦っていただけますか?」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 

そうお互いに言葉を掛け、握手を交わす。それを見ていた、風間が再び口を開いた。

 

 

「俺にはなにかあるか?褒め言葉はいいから、反省点で」

「ええと、風間さんは全体的にバランスの整った印象でしたが、木虎と一緒で考えすぎのきらいがあります。俺の視線を観察しているのがよくわかったのですが、それを逆に利用される可能性があります」

「なるほど、それが最後の1戦の敗因か」

「はい。それと小太刀、えーと、スコーピオンでしたっけ?それの二刀流が風間さんの戦闘スタイルのようでしたが、連続攻撃の場合はもう少しリズムを活かしたほうが相手の防御を崩せると思います」

「ふむ、検討してみよう」

 

 

 

良次の言葉を聞き、少し考え込んだようすの風間は、そう口にした。それから、先ほどの木虎のように握手をしようと、良次に手を差し出した。それを良次は握り返す。

 

 

「ありがとう。また、よろしく頼む」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

 

 

 

一方、それらのやり取りを見ていた熊谷と日浦は小さな声で言葉を交わしていた。

 

 

「あの人凄かったですね!熊谷先輩!」

「ええ。強いとは思ってたけど、予想以上というか」

「先輩も戦ってみたらどうです?アドバイスもしてくれるみたいですし!」

「いや、でももう2連戦してるみたいだし」

 

 

そのように二人が会話をしていると、風間がそれに気づき、声を掛ける。

 

 

「熊谷も戦ってみたらどうだ?」

「いや、稲葉さんはすでに2連戦してますし」

「遠慮することない。稲葉はどうだ?」

「はい、自分も大丈夫ですよ?」

「そ、そうですか?それなら」

 

 

流れで良次は、熊谷とも戦うことになった。熊谷の遠慮したような様子を見て、良次は熊谷に対して言葉を掛けた。

 

 

「あの、遠慮なさらなくても大丈夫ですよ?恐らく熊谷さんのほうが年上だと思いますし、敬語を無理に使わなくてもいいですし」

「え、いや。稲葉さんのほうが、明らかに」

「いえ、私の記憶が確かなら、熊谷さんのほうが年上です。信じられないかもしれませんが、稲葉さんは今年高校一年生だそうです」

「えっ!」

「あはは。……もう年上に見られるのは馴れてきました」

 

その言葉を聞き、熊谷と日浦は驚いたような表情をして良次をみる。良次はそれに対して、微妙な笑いを浮かべながら答えた。驚いたことに対して、少し申し訳なさを覚えた熊谷は、改めて真面目な表情をして良次に向き直った。

 

 

「えっと、それじゃあ稲葉くん、でいいかな?」

「はい、構いませんよ。それでは、戦いましょうか」

「うん、よろしくね。………やっぱり、この見た目の人に『くん』付けは違和感あるなぁ」

 

 

そう呟いた熊谷の声は良次の耳には届かなかった。いや、良次が届いてないように振る舞っていた、のほうが正確だが。

 

 

かくして、いきなり3連戦をすることとなった良次の、3戦目が始まった。




木虎ちゃんと風間さんの戦いは飛ばしました。申し訳ないです。

くまちゃんに関しては、年上ですが事前に良次くんの弟子候補と考えていたので、次回で少し戦いを書くつもりです。

今回も読了感謝します。次回は出来るだけ遅くならないように頑張ります!

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